賃金上昇率の動向

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2001年2月

国立統計庁の賃金アンケートによると、2000年第2四半期の労働者の平均賃金は22万ペセタ(1ペセタ=65.5円)をやや上回るレベルまで上昇している。前年同期に対する上昇率は2.5%で、第1四半期の2.1%から上昇傾向にある。賃金上昇率は、1998年第4四半期に2%と過去最低を記録して以来、再び上昇傾向をたどっているが、政府・雇用者団体ともに賃金抑制への呼びかけを行っている。

賃金上昇率が低く抑えられているのに対し、インフレ率は明らかに上昇しており、そのためここ1年間で労働者の購買力は著しく低下している。賃金労働者は、景気後退期に失われた購買力の一部を現在の好況局面の初期に取り戻したものの、1999年第2四半期以降は、インフレ率の上昇に賃金がついていけなくなっている。ただし、賃金上昇の傾向も始まっており、今後はインフレとの格差が縮まる方向で推移するものと見られる。

1999年第4四半期の賃金上昇率は2.5%に達し、その後のインフレ傾向にもかかわらず、2000年第2四半期も同じレベルを維持している。一方、労働時間との比較で見ると、賃金上昇率は一定ではない。労働時間1時間当たりの賃金上昇率は、1998年には2.8%であったが、現在では2.2%になっている。絶対値では、2000年第2四半期の1時間当たりの賃金は平均で1550ペセタ強である。

スペインにおける賃金格差の最大の要因は性である。女性の賃金は、平均で男性よりも27%ほど低い。これは、女性の労働市場進出がより遅く、熟練度も男性より低いというだけでは説明しきれない格差である。アルヘンタリア財団が最近行った調査によると、労働者個々人の能力にかかわるあらゆる要因を勘案しても、男女間の賃金格差の4分の1は説明不可能なものであるとされる。また、より高い地位の労働者ほど男女間の賃金格差は大きくなっている。

部門別では、過去数年間で最も賃金が大きく上昇したのは建設部門である。建設部門では雇用の伸びも他の部門を大きく上回ったが、平均年間賃金上昇率は3.9%と、他部門をあわせた平均賃金上昇率より60%近く高い。ただし、建設部門の平均賃金は常に他の部門より低く、その差は縮小傾向にあるものの、いまだに12%ほどの格差が存在する。また、ここ数年で労災件数も増加していることを考慮すべきであろう。第2四半期におけるサービス部門の賃金上昇率は3.4%で平均を上回り、一方、工業部門では2.3%で平均以下にとどまった。

1995年以降、スペインではホワイトカラー層とブルーカラー層の賃金格差が拡大する傾向が見られたが、第2四半期には逆の傾向が現れ始めたようである。これは、ブルーカラー労働者の需要に対し供給が少ないことによると見られる。ホワイトカラーの賃金上昇率2.5%に対し、ブルーカラーの賃金上昇率は3%となっている。1995年にはホワイトカラーの賃金は、ブルーカラーの賃金を54.7%上回っていたが、99年にはその差はほとんど60%に達した。しかし、2000年第2四半期には58%まで戻っている。

ホワイトカラー層とブルーカラー層の賃金格差は、工業・建設両部門ではそれほどでなく、サービス部門で最も大きい。過去5年で見ると、工業・建設部門における格差はほとんど変化なく、建設部門ではわずかながら縮小している。これに対し、サービス部門の格差は65%から80%近くまで拡大している。このことからも、サービス部門における新規創出雇用の質がいかに低く、その賃金が国際的に非常に競争力の高いものであることがわかる。サービス部門のブルーカラーの賃金上昇率は、工業・建設部門のブルーカラーでは2~3%に達するのに対し、わずか0.2%にとどまっている。

インフレの傾向が強まる中、その反映が労働協約上の賃金合意にも見られそうなものであるが、実際にはそうでもない。2000年9月までに結ばれた労働協約を見ると、賃金上昇率は2000年1月と同じレベルで、今後もごく緩やかな上昇傾向が予想されるだけである。

農業を除く部門で9月までに結ばれた協定による賃金上昇率は2.9%となっているので、賃金アンケートの結果とのずれは0.4ポイント近くになる。わずか4年前には、アンケートによる上昇率の方が0.5ポイント高かったが、その後はこの関係が逆転している。1999年には、アンケート結果が協定による賃金上昇率より0.8ポイントも低かった。近年のスペインにおける雇用成長は、未熟練・低賃金労働者の大量参入、パートタイム労働の増加が基本となっており、そのため協約にはあらわれない部分で平均賃金の低下が進んでいるものと考えられる。

ただし、協定による賃金上昇率とアンケートによる上昇率のずれは、部門によっても異なる。サービス部門では1999年にはアンケートによる上昇率の方が1ポイントも低く、現在でも0.5ポイント低くなっている。工業部門では1999年にはほとんど差がなく、その後2000年第2四半期になって0.4%まで広がった。建設部門は協定による賃金上昇率が最も高い部門だが、実際の賃金はこれをさらに1ポイント上回って上昇している。建設部門における熟練労働者不足が賃金を押し上げているのである。

一方、第2四半期の分析からは、賃金配分における基準として「生産性・企業業績」を重視する傾向が強まったといえる。通常の賃金が2.3%上昇したのに対し、特別報酬は5.7%上昇している。特別報酬は、1997年第2四半期には賃金全体の7.7%を占めていたが、現在では8.3%以上を占めるにいたっている。特別報酬の重要度は、1990年代なかばまでは低下する傾向だったが、以後は逆に増大傾向に転じている。

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