各国のインド人IT技術者求人状況

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2001年1月

ドイツが2000年8月1日「IT技術者臨時移民制度」を施行し、米国では、H-1Bビザの制限枠拡大を求めた議案を上院で圧倒的多数で可決した。世界の多くの国が、インドのソフトウェアの作成技術者を中心としたIT関連の技術者の雇用を重要視し始めている。代表的な3カ国の動きを概説したい。

英国、インドのIT技術者に熱い視線

英国は、IT技術者の人材不足に直面し、インドとのIT部門における協力関係を強化し始めた。

パトリシア・ヒューイット中小企業・電子取引担当国務大臣は、2000年9月8日、バーミンガムの英印ITセミナーで、英国は技術者不足に直面しており、インドのような国からの優秀な技術者の移入と同時に、イギリスの教育と訓練システムの強化が必要であると述べた。この共同セミナーは、英国政府とインド連邦産業高級委員会によって組織され、両国の企業の代表者が参加した。

ヒューイット国務大臣は、両国の貿易・経済関係の強化について言及し、2000年の予想では貿易総額が40億ポンドに達する見込みで、今後2年間に20%増加すると予想し、IT関連企業双方が相手国に進出することにより一層の利益を得るに相違ないと強調した。ヒューイット国務大臣は11月にインドを訪問し、IT部門の急速な発展ぶりを視察する予定で、両国のIT企業の取引の振興策を模索する。

ヒューイット国務大臣は、Eコマースの専門的技術と競争力をつけるために、1999年11月に始まった両国間の「IT同盟」関係が密接なものになるよう全力を尽くしてきたが、英国政府の目標は、2002年までに、Eコマースにおいて英国企業が世界的地位を確保することであると再度断言した。またこの分野において、英国の企業がインドの企業に対し、競争上恐怖心を抱くより、両国の企業の協力関係を重要視することが、経営的に有利な地位を築くことになると訴えた。

一方、インドのナレシワル・ダヤル委員長は、開会の辞で、インドのIT部門の発展とそれを可能にした政策の内容と経緯を概説した。

ダヤル委員長は、英国のIT企業と専門家に対し、両国間の投資、調査と開発、合弁または商取引に巨大な可能性があることを力説し、加えて英国の中小企業にも有利であるインドのIT技術者の就労規制の緩和に関して、両国間の調整・協力の重要さを指摘した。

また、クリブ・マーチン・ロンドン市長は2000年9月11日、バンガロールを視察し、インドの企業にロンドンに進出するよう要請し、ロンドンへの進出は、インドのIT企業にとっても企業経営に非常に有利だと強調した。加えて、英国ではIT技術者が不足しているので、英国の就労許可制度は一層緩和されつつあり、ロンドンは、インドの企業にとってヨーロッパ大陸に進出する入口となりうる、と強調した。

フランス、インドのIT技術者1万人の雇用を計画か

インド、フランス両政府は、2000年9月29日、両国間の経済協力促進を目指し、覚書協定に署名した。覚書協定により、両国においてIT技術者を開発・養成する計画を実行・促進するための作業班が設立される。

インド政府関係者の発表によると、覚書協定は、インドのプラモド・マハジャン情報技術大臣とフランスのフランシス・フワート通商大臣とによって署名され、今後3年間に、ハイテク産業育成の共同研究を促進し、IT部門を急速に発展させるための情報交換を行うとしている。

インド側の国家ソフトウェア・サービス企業協会(NASSCOM)の関係者が明らかにしたところでは、マハジャン情報技術大臣は、パリでの2日間の日程の中で、フランスでは1万人のソフトウェア技術者、5万人のハイテク技術者の需要があることを認識した。また、インド側も、ニューデリーが、フランスのソフトウェア産業にとっていかに魅力的か強調した。

しかし、フランス政府関係者は、インドのIT技術者を即座に移入することについては否定した。フランスは、自国のハイテク技術の水準に対して自負があり、現在世界的に急速に発展しているITを中心としたハイテク産業の人材が不足していることを認めてはいない。

オーストラリアとインドがIT覚書に調印

オーストラリアとインドは、2000年10月19日、ニューデリーでIT産業での投資と協力を目指した覚書に署名した。

覚書は、オーストラリアのマーク・バイレ通産大臣とインドのプラモド・マハジャン情報技術大臣との間で署名され、ソフトウェア、マルチメデア、電子商取引、インターネット通信技術の協力を構想している。

覚書の重要点の一つは、「オーストラリア-インド・ビジネス・ネットワーク」を組織し、両国間のIT関連企業の協力を促進することにある。バイレ通産大臣は、ビジネス・ネットワーク構想は、2000年12月のリチャード・アルストン通信情報技術大臣の訪印により具体化される、と記者会見で発表した。

アジア・パシフィックのIT市場の中で、オーストラリアのIT市場は急速に発達している。このため、IT関連の技術者が不足している。一方インドは、この方面で豊富な人材を抱えており、利害関係が一致した。オーストラリアには、インドのIT産業が急速に発展していることについて、これまで十分な認識がなかった。

オーストラリアの中小企業が直面していた外国人の就労ビザ問題は、オーストラリア情報産業協会と移民局で調整され、近く政府に調整案が提出される見込みである。関係者によると、オーストラリアの外国人管理は、優れた外国人ビジネスマンには他国に比べ寛大だと見られている。

両国の今後のIT分野での交流見通しについて、オーストラリア-インド経済協議会(AIBC)の会長、インド人のネビラ・ロッチ氏は、2000年10月24日、インドのBusiness Line社との独占インタヴューの中で、オーストラリアがインドのIT産業、IT技術者を非常に重要視していると述べた。ロッチ会長は、両国の企業が参加する合弁事業の重要性を述べ、オーストラリアは、IT技術者の不足を解決するために、インドの優秀なIT技術者に注目していると語り、具体的には、オーストラリアではIT関連の職業で3万5000人の技術者が不足し、その需要は、毎年3万人ずつ増加する見込みであると述べた。また、オーストラリアは移民法を改正し、4年間の就労ビザを与えること、彼らの配偶者に就労許可を与えること、もし熱望すれば永住ビザに切り替えることが、インドの技術者にとって容易になることも説明した。

ロッチ会長は、インドが優良な技術者と信頼できる企業を持ったアジアの最も重要な国の一つであるという認識が受け入れられ始めていると語った。

ロッチ会長は、インド側も同様に、オーストラリアが高い技術と世界的な企業を持った国であることを認識し、多くの商品とサービスをオーストラリアより購入すべきだと強調した。

ロッチ会長は、インドのIT企業の12のオーストラリア現地法人が、NASSCOMと連携し始めていると述べ、オーストラリアには金融・商業部門におけるプログラム作成、サービスと通信の配信システム・プログラム作成に関し巨大な市場があると強調し、インドの技術者をオーストラリアに迎えようという要望は活発になりつつあると述べた。彼は、オーストラリア-インド間の情報産業におけるビジネス・ネットワークの創設はすでに着手されていることを明らかにし、同様な組織がインドでも設立されることを希望している。

また、ロッチ会長は、2000年12月8日から11日の3日間のリチャード・アルストン通信情報技術大臣の訪印には、オーストラリア経営者視察団が同行し、これにより両国間の通商関係が一層促進されると付け加えた。

インド側の反応

海外からの求人状況に関するインド側の反応としては、マハジャン情報技術大臣は、インドは現在、IT技術者を毎年10万人育成しており、2005年までに30万人にする予定だと強調した。

他方、インドのハイテク産業界は、IT技術者の海外への流出がインド経済にどのような影響を与えるかについて検討しはじめた。

企業経営者は、インドのハイテク技術者の海外への流出は短期的に歳入を増加させたが、長期的には、企業経営に影響がでると予想している。特に、中小企業は、人材流出により大きな影響を受けており、短期間で、企業力を再構築するのは難しく、頭脳労働者を中心に、今後さらなる大規模な労働者の流出がおきると予測している。また、2年から5年の経験をもつ技術者の流出については、最も無警戒だったと説明した。今後の見通しについては、海外の企業はインド人技術者採用によりコストを削減できるため、現在の状態は今後数年間は続くと予想している。また、頭脳流出の他に付随的な結果として、インドの企業は、賃上げに迫られ、技術者を確保するために技術訓練に多額の投資をしなければならないと訴えている。

しかし、別の見方をする経営者もいる。ある経営者は、次のように主張した。頭脳流出は、過去も長期的に存在し、今の状況で企業は、自社の技術者を長期に海外に派遣できるとも考えることができる。今後必要な政策は、海外に滞在している労働者に帰国することを考えさせる政策である。

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