新予算に向けた新しい多産業間協定の可能性

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2001年1月

2001年度予算は10月に作成された。10月17日議会で行われた首相による連邦政策に関する宣言同様、同予算は当議会期間以降にも政府が採用できる選択肢を決定している。

多産業間労使交渉(注1)が始まったが、これらの交渉は、2001年から2002年にかけての新しい産業協定締結のための労働組合団体と使用者団体の交渉である。産業協定が全国レベルで締結されると、次に部門別交渉、その後には企業レベル交渉に持ち込まれる。これまでの交渉で勝ちとった内容が示すように、産業協定では、民間部門労働者全員の利益となる最大限の約束を取りつけることを目標としている。同様の協定が中小企業や零細企業労働者向けにも存在するので、この産業協定は、労働者全員の連帯感を強化するまたとない機会である。この全国協定締結後、部門別、企業別でも交渉が始まるが、それらの締結内容は、産業協定での成果よりもっと良い内容となる必要がある。

労使双方は、政府予算決定に多大な関心を抱き、それを待ち望んでいた。所得税減税、雇用の再分配に関する合意における社会保障負担金の減額などが実施されれば、全国レベルの多産業間協定締結を容易にするだろう。

ベルギー経済・財政状況は現在非常に良好なので、期待は大きい。

政府の雇用計画

政府は、労働の質、キャリアアップ、職業活動と私生活のバランス、ストレス解消を目的とした雇用計画を関係者に提案している。

一番の懸念事項である週38時間労働については、労使双方が労働時間短縮を選択した場合、この選択には、支援が必要となる。週4日労働、キャリア中断、1年間の休職割当という方法も考えられる。労働と家庭生活の調和のため、これ以外の方法も開発していく予定である。

キャリアの好ましい終了に向けて、高齢者が望めば継続して働けるように、政府は、ポジティブな奨励対策を労使に提案している。奨励策では、労働条件の改善や労働時間短縮を伴った最大限の雇用機会の提供を目標としている。“時間貯蓄口座”という考えを導入すれば、退職間際の労働生活に幅広い可能性が生まれてくる。どのようなものであれ、高齢労働者の社会保障分担金も年齢に従い減額していく。

政府は、中高年失業者が、失業手当追加分を受け取りながら、失業保険の中で閉ざされた生活を送るのを望んでいない。

経験のない若者や長期失業者に対しても、失業手当支給方法の活性化、社会保障負担金の減額を通じて、現状の失業状態を改善していく。研修機会を増やせば、労働者の可能性が広がり、レベルアップした職に就くことができる。政府は、教育休暇を新しい形に変え、パートタイム労働やパートタイム訓練を促進し、新テクノロジー教育用の追加施設を造る予定である。

全国レベルと産業レベル協定交渉

1996年7月26日付法(雇用推進と競争力保護に関する法律)可決以来、多産業間協定交渉(2年に1度実施)は、中央経済委員会(CCE、労使関係者が経済問題について意見を述べる労使同数協議組織)が作成した給与に関する技術報告の審議から始まる。

上述の法律によると、ベルギーの賃金(フルタイムの1時間当たりで表す)は、近接3国(オランダ、ドイツ、フランス)の平均より速く上げることができない。

ベルギーの賃金がこれらの3国より速い速度で上昇した場合、超過分は、次の新しい給与超過分から差し引かれる。これを実施しないと、政府が給与決定に介入できる。

1999年から2000年の中央経済委員会報告書では、ベルギー賃金は近隣3国の平均額に相当する(1国だけがベルギーより0.3%早く上昇している)。報告書では、2001年から2002年には、これらの3国では6.4%上昇するとしている。インフレを3.4%と推定すると、ベルギーの実質賃金は同期間中3%上昇がが可能となる。

政府は、また、労働者の購買力を上昇させる税制改革を進めようとしている。こうした各種調整後の賃金引き上げは受け入れられやすいであろうと政府は語っている。

(1)労働組合の対応

労働組合は、1996年法に反対し、交渉の自由の復活を要求し、自由で責任のある交渉を望んでいる。

労働組合は、以下のように交渉枠拡大を唱えている。

  • 今後2年間、企業は、社会保障使用者負担金の追加減額という恩恵を受ける。これにより、給与コスト約0.7%が減額され、雇用再分配の財源としての交渉枠が広がる。
  • エネルギー価格高騰により、1999年1月以降消費者物価指数と健康指数1%3)の間の開きが大きくなった。したがって、経済成長率(4%)と企業の収益性並びに競争力は伸びたが、購買力は1%低下した。
  • 賃金コストが上がらないのに労働者の実質賃金が上がっている国もあるので、賃金を国際的に比較する時には,税制改革の影響を考慮すべきである。政府は、一定の税制措置の日程と内容を明確にしたが、2001年・2002年度の購買力に対する効果は思ったより小さく、それほどの効果が期待できないことははっきりしている。
  • 労働時間短縮と労働再分配により、バランスのとれた労働と家庭生活の組合わせを可能にすることが必要であるが、給与基準という融通のきかない状況のもとでは不可能である。
  • 労働者参加と年金に関する新しい法律が、このような状態で可決された場合、好景気から恩恵を受ける人とそうでない人という2つの階層に分かれた社会が生まれる危険性がある。

ベルギーでは、消費者物価指数に給与と社会保障が自動的にスライドしている。しかし、1993年以降、給与は消費者物価指数ではなく、健康指数に連動している。健康指数は、エネルギー価格(家庭用燃料を除く)も、たばことアルコール価格も含んでいない。

(2) 少なすぎる所得税減税

政府と使用者は、減税は労働者の購買力を高めると言っている。労働組合は、税制改革の主な効果は、2001年と2002年以降に現れるので、購買力アップのためには、そんなに待てないと指摘している。

(3) 新しい全国レベル・産業レベル協定締結の参考例

労働組合は、今後2年間の減税により、賃金抑制ができないとしているが、無秩序で無責任な賃金増加を擁護しているわけではない。労働組合は、近接諸国にならって、自由な交渉を望んでいるが、それはあくまでも、競争力と雇用に賃金増加が影響を与えないとしている。

さらに、労働組合は、交渉が購買力だけにターゲットを絞るのではなく、労働時間短縮や時間貯蓄口座を利用した労働と家庭生活のバランスの改善、退職前労働者を活用する方法、労働者研修の充実による労働力移動の改善、ストレス対策、労働組合自由保護など、質の高い課題を扱うことを望んでいる。

雇用大臣は、労働と家庭生活の調和という労働組合の考えに賛同している。同大臣は、労働時間短縮と雇用再分配に対する提案を含んだ雇用計画を承認した。

労使交渉中に、雇用計画の一部また全部の実施に関して、労使が話合いの場を持つことが期待されている。この計画の実施を促し、企業負担を軽減するため、政府は、使用者側の社会保障負担分減額を提案している。

しかし、雇用計画のための予算はわずかで、その上ばらまき財政の趣きがある。さらに、労働時間短縮に関する予算は2002年以降にしか組み込まれていないし、使用者側の社会保障負担分減額も大部分は2002年に繰り越される。また、使用者も、政府が給与基準を厳守していない点を強調している。また、使用者は、38時間労働制を規定する政府の雇用計画の承認にも躊躇し、労使双方は協定を結ぶに至っていない。

しかし、労使双方が困難な問題に立ち向かうのはこれが初めてではない。好景気が協定締結に有利となるのは間違いない。どのような場合でも、交渉は11月中旬には終了する。

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