外国人労働者の実態と雇用許可制導入の動き

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2000年11月

2000年に入っての急速な景気回復とともに、外国人不法就労者が急増する一方で、不法就労者のみでなく外国人産業研修生(合法就労者)に対する人権侵害の実態が国内外の人権擁護団体によって相次いで明らかにされ、金大中政権の外国人労働者をめぐる人権政策が厳しく問われることとなった。

そのため政府与党は、4月から外国人労働者の人権侵害防止策の検討に入り、まず主管省庁の法務部は5月24日、次のような内容を盛り込んだ「外国人労働者人権対策」を発表した。第1に、産業資源部や労働部などの関係省庁のほかに、外国人労働者の相談役(利益代弁)になっている市民団体をも入れた「外国人労働者人権対策機構」を設置し、外国人労働者の人権侵害などに関する実態調査と対策づくりに取り組む。第2に、外国人労働者の人権を侵害した事業所に対しては、まず重点管理対象に指定したうえで、刑事告発とともに、産業研修生の割り当てにおいて不利益を与えるなど、外国人労働者雇用事業所に対する管理・監督を強化する。第3に、産業研修生の研修(2年間)および就業(1年間)の期間を各々1年ずつ延長し、滞在期間を延べ5年間とすることなどである。

その後、8月24日には政府与党間の協議を経て現行の「外国人産業研修生制度」を廃止し、新たに「外国人労働者雇用許可制」を導入する方針を確定し、「外国人労働者の雇用および管理に関する法律案」を議員立法で今国会に上程することを明らかにした。

では、外国人労働者をめぐっては具体的にどのような問題が浮上しており、その対策として打ち出されている「雇用許可制」にはどのような特徴がみられるのか探ってみよう。

外国人労働者の実態

法務部によると、2000年7月末現在の外国人労働者数は25万8866人に上っている。その内訳をみると、合法滞在者は専門技術人材1万4669人(5.6%)、海外投資企業研修生1万9882人(7.7%)、産業研修生5万7645人(22.3%)など合わせて9万2968人(35.9%)にとどまっている反面、不法滞在者は16万5898人(64.1%)に達している。このように合法滞在者の中でも産業研修生がその6割以上を占めるほど多いことや、さらには不法滞在者が全体の6割以上を占めるほど急速に膨らんだことなどが、人権侵害の温床を作り上げてしまったところが大きいようである。

韓国では原則的に、外国人単純技能労働者の国内就業は禁止されているが、1993年11月から深刻な人手不足状況に陥っていた3K 業種の中小企業に限って「外国人産業研修生制度」を通して外国人労働者を受け入れることが初めて容認された。外国人産業研修生の受け入れ上限枠は、1993年11月の2万人から96年7月の8万人で凍結するまで毎年1万~2万ずつ増えてきた。1998年には「外国人産業研修就業制度」に拡張され、2年間の研修を終えた産業研修生を対象に、研修先企業の推薦と資格試験の合格などを条件に、1年間の就業を認めるようになった(制度的には日本の外国人技能実習制度に近いものの、その実態においては大きな違いがみられるようである)。

その一方で、不法就労者数は1993年末の約5万5000人規模から98年に約9万9000人、99年には約13万5000人、2000年7月末現在約16万6000人へと急増している。特に7月末現在、合法的な滞在資格で入国した産業研修生7万8994人のうち、3万5016人(44%)が研修先企業を離脱し、進んで不法就労者になっているのが実情である。その数は不法就労者全体の約21%を占めており、「外国人産業研修生制度」が不法就労者の量産を助長するような構造的な問題をはらんでいることを如実に物語っている。

そして産業研修生の賃金推移をみると96年6月の労働部の実態調査では57万4000ウオン(総額人件費71万600ウオン)で国内労働者の78.5%にとどまっていたが2000年6月の中小企業研究院の調査では62万4000ウオン(総額人件費76万7000ウオン)で国内労働者の(男性高卒生産職の初任給)90%水準に達しているようである。つまり、産業研修生の賃金は上昇傾向にありその生産性水準を勘案した場合、人件費節減の効果は次第に薄れているということである。

では、その名目はともあれ、実質的には外国人単純労働力を合法的に受け入れるための制度として機能している「外国人産業研修生制度」はどのような問題や限界をはらんでいるのかみてみよう。

まず、3K 業種のほか、建設現場や飲食業部門などでは、国内労働者の就業忌避傾向が強まって、人手不足状態が慢性化しており、外国人労働者に対する需要は、経済危機直後を除いて年々高まっている。それに対して「産業研修生制度」を通して合法的に受け入れられる外国人労働者の数は限られている。それに産業研修生の供給は、中小企業協同組合中央会などの使用者団体によって独占されているうえ、労働者ではなく、研修生であることを理由に手当(賃金に当たる)などが低く抑えられ、実質的には低賃金で長時間労働を強いられることが多いのが実情である。その一方で、産業研修生を受け入れている企業にとっては人手の確保が最優先課題であるため、後述のような理由で無断転職しようとする研修生を引き止めるために手当の引き上げなど労働条件の改善に努める動きもみられる。いずれにせよ、産業研修生制度のような変則的な手段による供給では容易に解消できないほど深刻な人手不足状態に陥っている業種の企業が依然として多いというのがその根底にある。

第2に、このような外国人単純労働力に対する需要と合法的な供給のギャップを埋めるのが不法就労者である。不法就労者は悪徳事業主に身分上の弱みにつけ込まれて、労働搾取や人権侵害に遭うリスクが高いうえ、そのような被害を受けても強制出国させられるのを恐れて公にすることもできないなど、かなり高いリスクを負っている。その反面、最高裁の判例や政府の政策的配慮などにより、国内労働者と同等に労働基準法の適用を受けているうえ、賃金など労働条件が相対的によいところに移動することでより高い賃金を手に入れることができるチャンスもある。それに対して産業研修生は、最高裁の判例で事実上の雇用関係が重視され、労働者と認められるようになったとはいえ、依然として労働基準法の一部条項しか適用されないうえ、配置された研修先企業から他企業への移動は認められず、いかなる労働条件でもそのまま受け入れざるをえない立場に置かれている。そのため、産業研修生のうちより高い賃金を求める者は、前述のようなリスクを冒してでも研修先企業を飛び出して不法就労者になるしかない構図になっているのである。

第3に、このような構図に拍車をかけているのが、産業研修生の送り出しの際にかけられる法外な手数料がそのまま研修生負担の費用に跳ね返ってしまうという制度運用上の問題である。つまり、産業研修生の送り出し業者と国内で産業研修生の受け入れおよび管理を請け負う業者との間でリベートなどがからむため、実際に産業研修生の送り出しにかかる費用よりはるかに高い手数料が産業研修生にかけられてしまうが、海外への出稼ぎのチャンスを狙っている現地人にとっては、産業研修生に選ばれさえすれば、その費用はいくら高くても支払うしかほかに方法がなく、出稼ぎで挽回できると楽観的に捉えてしまう傾向が強いようである。このように高い手数料を支払って入国した産業研修生の場合、配置された研修先企業の手当などの労働条件に不満を感じたり、本国での借金の返済を迫られることになれば、既存の不法就労者から集めた情報をあてに研修先企業から賃金のより高いところへの無断転職、つまり不法就労者の道を選んでしまうのが多いということである。

産業研修生に対する人権侵害に発展しやすいのは、前述のような研修先企業からの無断離脱を防ぐために監視・監督(パスポートの押収や外出禁止など)を強化してしまう点である。さらに、不法就労者に対しては、身分上の弱みにつけ込んで、賃金未払い、長時間労働、労災申告忌避などの労働搾取や人権侵害に走りやすい構図になっているのが現状である。

「雇用許可制」導入の動き

以上のような「外国人産業研修生制度」の構造的問題や不法就労者の急増に伴う労働搾取・人権侵害問題は、1995年頃すでに表面化したため、当時有効な対策として「雇用許可制」の導入案が浮上したが、産業資源部(中小企業庁)や経済団体(中小企業協同組合中央会)などが中小企業の人件費負担増加や労使紛争多発の恐れなどを理由に時期尚早であると反対したため、先送りされてしまった。

今回政府与党が雇用許可制の導入を決めたことに対しても、依然として反対を唱えており、その行方を左右しかねない重要な変数であるのは間違いない。

既存の「外国人産業研修生制度」と新たな「雇用許可制」の比較

  産業研修生制度 雇用許可制
準拠法律 出入国管理法 外国人労働者の雇用および管理に関する法律
出入国管理法
身分 研修生(2年)、労働者(1年) 労働者(1年、2回延長可能)
受け入れ手続き 中小企業協同組合(中企協)中央会が研修先企業選定
法務部が入国・滞在・許可
労働部(職業安定機関)が雇用許可
法務部が入国・滞在許可
募集・選抜 外国の送り出し機関が募集・選抜した研修生を業種別使用者団体が一括して割り当てる 職業安定機関が一括して管理する外国人求職者名簿から、雇用許可をもらった事業主が必要な労働力を最終的に選抜
権利保障 研修生:外国人産業技術研修生の保護および管理に関する指針
研修就業者:労働関係法
労働関係法
企業負担の人件費 研修生:研修手当、研修管理費、宿泊および食事代、出国費用 基本給、法定手当(退職金など)
受け入れ後の管理責任 中企協中央会中央会が指定した委託管理会社 労働部

出所:労働部「外国人労働者の雇用および管理の効率化案」2000年9月

では今回の政府与党が打ち出している「雇用許可制」にはどのような特徴がみられるのかみてみよう。

まず、国内労働市場の状況(年間労働力需給の見込みや経済情勢など)に基づいて、国内労働者の確保が難しいことを前提に、外国人単純労働力の受け入れ業種と規模(国内就業者の1%以内で総量調節)を決める。また、外国人労働者の雇用許可(上限枠設定)を受けようとする事業主に対しては国内労働者に対する求人努力を義務づけるとともに、外国人労働者の選抜権を与えることにより、ミクロ・レベルでの国内外労働力の需給調節を誘導するところに大きな特徴がある。

第2に、外国人労働者の求職票(外国の送り出し機関からの送付)管理と国内事業主による求人申請受付および雇用許可などの関連業務は,職業安定機関が一括して担当するとともに、国内の受け入れ業務代行機関と外国の送り出し機関を公的機関に指定することにより、公共性と信頼性を高めようとするところも注目される。

第3に、雇用許可期間は1年とし、2回まで延長できるようにする(延べ3年間)とともに、国内就業の資格を取得した外国人単純技能労働者に対しては、労働者としての身分を保障し、国内労働者と同等に労働関係法を適用することにより、労働者としての権利を法的に保障する。

その他に、「外国人労働者雇用委員会」を設置し、労使代表や専門家なども交えて外国人労働者の受け入れ業種、規模などの主要政策案件を審議・決定することにしている。

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