民主労総主導のゼネストと労働時間の短縮をめぐる政労使の動き

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2000年8月

民主労総主導のゼネストの経緯と特徴

民主労総は2000年5月31日、政府に対して労働時間の短縮(週休2日制)に対する具体的な政策発表、農水畜産協同組合の統合案及び自動車メーカーの売却案(構造調整)に対する再検討、非正規労働者に対する差別撤廃など、3つの要求案を一括して解決するよう求めて、ソウルをはじめ全国17カ所で集会を開くと同時に、138カ所の事業所別労組で7万615人がゼネストに参加したと発表した。

民主労総は、今回のゼネストに備えて、5月初め頃から賃金交渉に入る傘下事業所別労組に対して合法的な手続きを踏むよう誘導するなど、創立以来初めて合法的な争議を試みた。各事業所別労組はこのような方針に従って争議調停申請を出し、調停がうまくいかない場合は争議行為に対する組合員投票を済ませるなど、合法的な争議行為を行ったのである。ただし、病院労組や畜産協同組合労組など一部の労組のストは不法争議行為に当たるとして、検察側は各労組の執行部を司法処理することにしている。つまり病院労組に対しては、「公益事業に対する争議制限条項である15日間の冷却期間」を経ずにストに入ったこと、また、畜産協同組合労組に対しては、争議の対象ではない「農水畜産協同組合の統廃合反対」を掲げてストに入ったことが主な理由として指摘されているのである。

民主労総は、当初少なくとも150カ所の事業所別労組で10万人余がゼネストに一斉に参加するなど、1996年末の労働法改正反対闘争以来最も大きい規模になるだろうと予想していたが、実際にゼネストに参加したのは上記の人数にとどまったことを明らかにした。その反面労働部の集計によると、ゼネストへの参加者数は延べ106カ所の事業所別労組における3万6000人余で民主労総が発表した人数の約半分にすぎない。ただし、「創立以来初めて合法的な手続きを経てゼネストに入るよう努めた」点は労働部の関係者からも評価されているようである。

ゼネスト2日目の6月1日には、賃金交渉が妥結し、ストを中断する事業所別労組が相次いだため、労働部の集計によると、ゼネストへの参加者数は43カ所の事業所別労組における1万5215人に急減したとされているのに対して、民主労総は、106カ所の事業所別労組から4万3493人が参加したと発表した。

その後、LG化学やソウル大学病院などで賃金交渉が相次いで妥結したのを機に、民主労総主導のゼネストは、6日目の6月5日には事実上終結を迎えたといわれる。労働部の集計によると、6月5日午前9時現在、ゼネストへの参加者数は、25カ所の事業所別労組における4800人に急減した。にもかかわらず、民主労総がゼネストの終結宣言を10日まで見送ったのは、依然として賃金交渉が難航し、ストが続いている個別事業所労組の事情を無視して、中央レベルでゼネストの終結を公式に宣言するのが難しい立場にあったからといわれる。これには、今回民主労総がゼネストの方針として、個別事業所労組に対して賃金交渉の日程に合わせて、合法的な手続きを踏んで争議行為に一斉に入るよう誘導した戦術が尾を引いているようである。つまり個別事業所労組はその方針に沿って、一斉にストに入ったものの、それぞれの事情により、賃金交渉の推進状況やストの日程にばらつきが生じてしまうため、民主労総の執行部として個別事業所労組の立場に配慮せざるをえなくなったということである。

このようなゼネスト方針をめぐっては、「大手事業所労組の参加が得られず、社会的な影響力が小さかったうえ、個別事業所の団体交渉の行方に左右されてしまい、ゼネストの性格がはっきりみえなかったことや、個別事業所における団体交渉でも労働者階層の連帯利益よりは、個別事業所レベルでの成果(独占利益)に固執してしまう傾向がますます強まったことなど」がその限界として指摘されている。

労働時間の短縮をめぐる政労使の対応

民主労総が今回のゼネストを通して勝ち取ったものがあるとすれば、それは、「労働時間の短縮を前向きに検討し、労使政委員会の労働時間特別委員会での協議を経て年内に法改正案を国会に提出する」という方針を政府から引き出したことであろう。

労働時間の短縮をめぐっての労使間の話し合いは平行線のままであるため、民主労総は、今回のゼネストで労働時間の短縮に向けての具体案を引き出すことを最優先課題として位置づけ、「政府主導で労働時間短縮のための法改正を断行するよう」強く求めていた。

これに応える形で、崔ソンジョン労働大臣は2000年5月26日、「労働時間の短縮に向けて政府は確固たる意志をもっており、賃金と休日・休暇との絡み合いを含めて包括的に議論する。ただし、法律施行の時期については労使間の合意に委ねるが、日本のように業種別・企業規模別・分野別に段階的に施行することも考えられる」と述べた。さらに、金大中大統領は、5月30日の閣僚会議で「労働界が要求している週休2日制を前向きに検討する用意がある」ことを明らかにし、政府の方針を再確認した。つまり、政府は、対政府闘争の一環としてゼネスト計画を打ち出していた民主労総に対して、「労働時間の短縮を前向きに検討するには、ゼネストよりは労使政委員会に復帰し、話し合いに臨むのが得策である」との見解を示したのである。

言い替えれば政府は、民主労総の要求に応えるのみでなく、企業の競争力への影響や財界の立場に対する配慮も兼ねて、「労使政委員会傘下の労働時間特別委員会での合意や賃金及び休日・休暇との絡み合いを含めての包括的な論議を踏まえて、年内に労働基準法の改正案を国会に提出する」方針を打ち出したのである。前者の前提条件は、財界への配慮の表れであり、後者の法改正日程の表明は、労働界の要求に応えるものであるといえる。

これに対して、労使は、法改正の主体のみでなく、労働時間短縮の方法をもめぐって激しく対立しており、政府の思惑通りに、労使双方の歩み寄りで妥協案を見出すことができるかどうかはいまのところ未知数である。

2000年6月中旬現在までの労使の見解は次のようである。まず労働時間短縮のための法改正の主体をめぐって、労働界、特に民主労総は、労使間の話し合いは並行線のままで全く進展がみられず、労使政委員会での合意は期待できないだけに、大統領の決断と政府の主導で推進するしかないとの立場を貫いている。これに対して、財界は、「政府が『年内に法改正』という意見を公式に表明したのは適切ではない」としたうえで、「法制化された労使政委員会の労働時間特別委員会での合意を待つべきである」と主張し、政府主導の動きをけん制している。この点で韓国労総は、どちらかというと財界に近い立場をとっており、労働時間特別委員会への参加を拒否している民主労総の姿勢に疑問を呈している。ただし、財界は依然として時期尚早論の立場を崩していない。

そして労使政委員会に対する民主労総の不信を少しでも払拭するために大統領の「前向きに検討する」との発言に続いて、労使政委員会も政労使の代表が参加した本会議で「年内に法改正」という方針に合意したことを明かにした。

次に労働時間短縮の方法をめぐっては、労働界は基本的にワーク・シェアリングによる雇用の拡大やQWLの向上のために、「賃金の削減や休日・休暇制度の改正などを伴わない」法定労働時間の短縮(週40時間、週休2日制)を求めている。

これに対し財界は、QWLの向上策の一つとしてその必要性は認めながらも、「労働時間の短縮に見合った賃金の削減や年・月次休暇の廃止などを伴わないと、人件費負担(14.7%の賃金上昇効果)の増加で企業の競争力が低下する」との立場から「法定労働時間(44時間)よりはむしろ実質労働時間(47.9時間)の短縮が先決課題である」と反論している。

そのうえ、実質労働時間を短縮するために、年・月次休暇の完全利用を誘導し、現行の5割増しの残業手当を削減するほか、変形労働時間制を拡大することなど(現行の労働基準法の改正)を提案している。

これを受けて民主労総は、「むしろ現行の超過労働時間12時間を7時間に減らし、残業手当の割増率を引き上げることにより、労働者のQWL向上を図るとともに、使用者に対しては、超過労働より新たな雇用を選択するよう誘導するのが望ましい」と反論している。

このように労使ともに建前では労働者のQWL向上を目指すという点で異論はないように見えるものの、実際には労働界はどちらかというと雇用の拡大に、財界は(価格)競争力への影響排除にそれぞれ重きをおいているだけに、労使双方が労働時間短縮の方法論をめぐって歩みよるのは決して容易ではない。政府や労使政委員会の舵取りが注目されるゆえんである。

賃金及び労働協約改訂交渉の妥結状況

労働部によると、5月末現在、従業員100人以上の事業所5116カ所のうち、賃金交渉が妥結したところは1686カ所(33.0%)で、1999年同期(30.6%)より順調に進んでいる。ただし、5000人以上の大手事業所40カ所のうち賃金交渉が妥結したのは9カ所(22.5%)にとどまっており、1999年同期(28%)より多少遅れている。特に構造改革の対象である公企業の場合、賃金交渉が妥結したのは88カ所のうち14カ所(15.9%)にすぎず、最も遅れている。

平均賃上げ率は7.4%で、1999年同期より1.0%上昇した。企業規模別にみると、300~499人の事業所で最も高い賃上げ率(8.3%)を記録したのに対して、5000人以上の大手事業所では最も低い水準(6.6%)にとどまった。

業種別には、製造業(8.5%)で最も高く、電気・ガス・水道事業で最も低い水準を記録した。

ここ3年間の妥結状況の推移をみると、賃下げに合意した事業所は、1998年末の980カ所(19.0%)から1999年末には176カ所(3.7%)、2000年5月末には3カ所(0.2%)に激減した。その反面、賃上げを決めたのは1998年末の799カ所(15.5%)から1999年末には2400カ所(50.6%)、2000年5月末には1439カ所(85.3%)に急増した。

その一方、個別事業所における賃金及び労働協約改訂交渉の妥結案のうち、民主労総の方針が大幅に受け入れられたケースとして注目されるのはソウル大病院と現代自動車のそれである。まずソウル大病院労組は2000年5月31日、民主労総主導のゼネストに参加する形でストに入ったが、6月4日、次のような賃上げ及び労働協約案に使用者側と合意し業務への復帰を決めた。

第1に、基本給を5%(定額3万7000ウオン(100ウオン=9.88円))引き上げるなど総額基準で10.8%の賃上げを実施する。第2に、非正規労働者の待遇改善を図る。第3に、医薬分業の実施に伴う構造調整に備えて、雇用の安定を保障する。第4に、ストへの参加者に対して、ノーワーク・ノーペイの原則を適用する。

次に、現代自動車労組の場合、民主労総主導のゼネストには参加せず、一時、時限つきのストに入るなど独自路線をとっていたが、2000年6月6日に「一方的な整理解雇と希望退職は実施しない」ことなど雇用保証の3原則を盛り込んだ「完全雇用保証」で使用者側と合意したと発表した。

具体的には第1に、雇用維持のために、余剰人員が発生した際には、人員の再配置、時間外労働の調整、勤務制度の改善、ローテーション休暇などの解雇回避努力を優先し、派遣勤務も合理的な範囲内で労使間の合意の下で実施するほか、正規労働者が職を離れる際には下請や派遣労働者で代替することを認める。

第2に、会社は事業の引き受け・譲渡、売却、合併、分割・統廃合などを含めた構造調整や、労働力需給計画など雇用問題を引き起す経営計画を立てた場合、すぐに労組に通知し協議する。

第3に、情報提供の原則に基づいて、事業と新車開発に関しては会社の意見を優先するものの、余剰人員向けの仕事を確保する案件などは労使共同で決定する。  この他に、全教組(民主労総系教員労組)及び韓教組(韓国労総系)と教育部との初めての団体交渉は2000年6月9日、開始以来9カ月ぶりにようやく妥結した。主な合意内容は、職場内での制限つき組合活動の客認や報酬体系及び休暇制度の改善などである。

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