派遣労働者の所得安定化

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2000年5月

月給の85%を保障されたホワイトカラー派遣

新たに締結した労働協約により、人材派遣会社から派遣されるホワイトカラー労働者は、今後、派遣企業の外部の派遣先で就業していない場合でも月給の85%が保障される。また、これまで余暇(労働時間外)に行われていた教育訓練が有給の労働時間内に行われるであろう。

労働協約の当事者は、商業部門の使用者団体連盟に属する人材派遣企業使用者団体SPURとホワイトカラー労働組合である商業俸給労働者組合(HTF)である。派遣企業で働く従業員数は現在2万人にのぼる。人材派遣業界は急速に拡大しており、5年前、従業員数は2100人にすぎなかったが、1998年には1万2900人に達した。最大規模の派遣企業はマンパワー社とProffice社である。1997年のマンパワー社の総売上高は、6億4700万クローネ(1クローネ=11.97円)にのぼった。新協約は2001年8月31日まで有効である。

新協約により、労働者は今までより平準化された月収を得るようになる。すなわち、雇用開始後10カ月間は、月125時間分の給与または月給の75%が保障される。10カ月を過ぎた時点からは、月給の85%に相当する月143時間分の給与が保障される。旧協約では、派遣企業が予約を入れうる労働時間の75%分の給与を保障すると定められていた。したがって、休日の多い月では、新協約の方がかなり高い所得をもたらす。

組合が当初要求したのは、使用者すなわち派遣企業が自由裁量で利用できる労働時間数に対する100%の保障であった。しかしSPURは、派遣業界がかろうじて利益を出している状況にあるのでそのように急激な改善はできないとし、何とか組合を説得した。

人材派遣業界における交渉と合意は、約10万人のホワイトカラー労働者を雇用する商業・民間サービス部門使用者の業界全体が行う主要交渉の中の小さな一部分である。他の商業・民間サービス部門については交渉はまだ完了していない。同部門には一般産業部門のものと同様な、交渉に関する協約が適用されており、2月末までに合意に達しない場合には、その協約に従って両当事者が予め指定した調停審議会に助けを求めることになる。調停審議会は最終調停案を提出する権限を持つが、その案は受理または拒否されることになる。なお現行の協約は2000年3月31日で失効する。

HTFは、各組合員全員に対する保障された実質賃上げと、職場における交渉で分配される積立金を要求している。この積立金の分配についてHTFは、男女間賃金格差を縮小する方策が考慮されなければならないという立場をとる。またHTFは、女性組合員の賃金向上の観点から、人事方針についての影響力を強めようとしている。HTFによれば、女性はしばしば次の4時点で差別を受ける。すなわち、(1)雇用された時、(2)責任が増した時、(3)昇進時または企業内での配置転換時、(4)育児休暇を取る時である。HTFはさらに、労働時間設定について労使が実質的に共同決定することも求めている。

一方、使用者は全国的な賃金交渉制度から離脱することを望み、全国組織から賃金水準や賃金格差について指図を受けずに、職場の組合との交渉により賃金水準を決定したいと考えている。しかしHTFは、使用者のこうした意向を受け入れられないとしている。

製造業の労使双方は、商業部門における給与引き上げの最終水準に注目している。現行の3カ年協約が切れる2001年3月末よりも前での合意を目指し、製造業の労使交渉が今秋開始される予定である。

ホワイトカラー派遣にならうブルーカラー

派遣企業に所属するホワイトカラー労働者は、全員がHTFという一つのホワイトカラー労働組合に組織されている。一方、派遣企業のブルーカラー労働者には派遣先企業における協約が適用される。人材派遣業の2万人の従業員のうち、組立工、溶接工、交代勤務などのブルーカラー労働者は約5000人である。しかし、派遣ブルーカラー労働者は急増しており、2000年1年間だけでも倍増すると予測されている。

これまでのところ派遣労働者は組立ラインその他の生産部門に従事しているが、エンジニアなどの専門家に対する短期雇用の需要が増えている。派遺ブルーカラー労働者の増加を阻害すると考えられる要因はただ一つで、ブルーカラー労働者にはホワイトカラー労働者に適用されるような単一の労働協約が存在しないことである。現在、政府の職業紹介所は、派遣企業が就業困難な移民に仕事を提供することを期待している。この事情からも、ブルーカラー労働組合が派遣企業における労使関係システムを新たな角度から検討する必要が生まれている。

スウェーデン労働組合総同盟(LO)は現在、派遣業界での中央労働協約を検討し始めている。ブルーカラー労働者は現在、臨時に職を得ている職場の労働協約が適用されることになっているが、職務の性質上、ある期間化学産業で働き、翌月にはエンジニアリング産業にいるなど、頻繁に産業部門を変える傾向にある。そこで、産業部門、商業部門、介護部門に分けた別個の3協約が必要ではないかとする意見が出ている。ただし、その場合でも各労働者は一つの産業別労働組合に組合員として留まることになる。

LOは、ブルーカラー労働者を派遺する人材派遣企業が給与を100%支払うこと、および給与水準を働いている業界の給与水準と同等にすることは当然であるとしている。派遣されたか

どうかにかかわらず給与を100%支払う企業はすでに存在する。国有のNu Personaluthyrning社である。しかし、派遣業界の民間企業やその使用者団体であるSPURは、このシステムでは経費がかかりすぎると考えている。もし、このシステムを適用すれば、雇用に望ましい柔軟性を確保するため、企業は派遣労働者の代わりにパートタイム労働者をさらに雇うようになるだろう。そのような展開は労働組合も使用者側も歓迎していない。

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