1999年版「欧州の雇用」発表

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2000年1月

欧州委員会は1999年10月、本年度版「欧州の雇用」を発表した。今回の年次報告は、雇用をめぐる特定の問題に対する詳細な分析だけではなく、最新の傾向と進展を提示する。その目的は、雇用協定に関する政治的論議、ひいては閣僚理事会(1999年12月開催予定)での雇用政策に関する議論の前提となる予備知識を提供することである。年次報告の主なメッセージは、通貨同盟の船出と雇用創出プロセスの強化に基づく信頼と、グローバル・レベルにおける不確実性である。

欧州連合の雇用トレンド

現在のトレンドの示すところによると、欧州の雇用創出プロセスは、GDPの成長水準の維持および構造改革プロセスの継続に依存しているけれども、堅調である。雇用は1998年180万人増加し、雇用総数は1億5100万人に達し、雇用率は61%となった。男性の雇用は現在の景気回復過程ではじめて大幅に増加した。雇用に占める女性の割合は42%にまで増加し、就業率の男女格差は20%未満となった。

1998年、失業者は100万人以上減少し、失業率は平均10%にまで低下した。若年者失業はそれ以外の者の失業よりも約3倍程度減少した。長期失業はわずか0.3%程度しか減少しなかった。

雇用問題

年次報告では、欧州連合における将来の雇用開発にとって重要な諸問題の検討が行われている。

そのうち、特に注目されるのは、(1)単一通貨下での金融政策の実施にとって特に重要である、雇用パフォーマンスの地域間格差の問題、(2)雇用の創出されている職種および産業分野の欧米の相違、(3)欧州連合内で起こっている仕事の移動、仕事の質にとってのその意味合い、および賃金との関連、(4)雇用政策にとっての人口高齢化の意味合い、および早期退職への趨勢に歯止めをかけた場合の諸問題である。

雇用の地域間格差

欧州通貨同盟は、多数の雇用を創出させる、よりダイナミックな経済の可能性をもたらすが、他方、雇用パフォーマンスにおける地域間格差が、この可能性の実現にとって大きな障害となっている。失業率が低く雇用が急速に成長している地域にとって適切である政策が、仕事が不足し失業率の高い地域に適しているとはいえない。

年次報告の分析によれば、雇用率(ないしは失業率)について相当の地域間格差があるばかりではなく、その格差は過去15年にわたり広がる傾向にある。この傾向は欧州連合全体としてだけではなく、各加盟国についてもあてはまる(オランダだけが例外)。とりわけイタリアでは、南北間の格差は同期間著しく広がっている。このことは、過去15年間にわたる一人あたりのGDPの格差縮小と対照をなす。したがって、欧州連合における所得水準の収束には、雇用創出可能性に関する同様の収束が随伴しなかった。

雇用創出に関するEUと米国のパフォーマンス

米国は過去20年間、雇用創出について欧州連合よりも成功してきた。雇用率は、1970年代中頃、欧州と米国はほぼ同水準であったが、現在、米国は欧州よりもかなり高い水準である。

年次報告によると、まず、米国では、その雇用者総数から欧州のそれを引いた残りの人々は、小売業や配膳業だけではなくサービス業、とりわけヘルスケアや教育などの公共サービスで働いている。第2に、サービス業での雇用は、欧州よりも米国で急増する傾向にあるけれども、欧州の雇用創出率が低いのは、工業と農業で起きている、より大きな雇用喪失が原因である。これにより、熟練・未熟練双方の肉体労働者が大幅に減少している。第3に、米国と欧州との主要な相違は、高い技能を要する既存の仕事の数ではなく、とりわけ小売業やサービス業などにみられる、技能をあまり要さない仕事の数にある。第4に、これらの仕事の多くは女性によって行われており、このことは欧州よりも米国の女性の雇用率がかなり高いことに対応している。

雇用成長と仕事の質

近年欧州連合で雇用が成長しているのは、主に高水準の学識・技能を要する仕事についてである。ほぼ欧州の全域でマネージャ、プロフェッショナル、テクニシャンの数は継続的に増加しているが、他方、肉体労働者の仕事、特に男性が伝統的に従事してきた仕事は減少している。同時に、販売助手やサービス・スタッフなど非肉体的労働者の仕事の数は増加しており、その大半は女性が占めている。これらの傾向は、全体の雇用成長率にかかわりなく、大半の活動分野に共通する。加盟国は、高水準の雇用成長の維持に成功してはじめて、肉体労働者の雇用喪失を何とか回避できる。

労働市場への人口高齢化の影響

人口統計学上のトレンドにより、年金受給資格年齢以上の者の人数は将来20年間にわたり、かなり増加しそうであり、社会保護システムにますます過大な要求を突きつけることになる。

確かに、年次報告が示すように、より高い雇用成長を達成し、現役世代の雇用を確保することが、将来の人口高齢化に対処する唯一の方法であるかもしれない。大部分の加盟国では、政策目標が、早期退職の促進から高齢者就労の促進にシフトしてきているが、今までのところ、トレンドが反転したとの兆候はほとんどない。

とはいえ、先の政策が成功することになれば、多くの問題に取り組まなければならない。たとえば、次のような問題である。(1)高齢労働者は若年労働者に比べて、教育水準の低い者が相当多い。(2)仕事を失った高齢労働者は一般的に、若年労働者よりも新たな仕事を見つけるためにより深刻な困難に直面している。(3)働き続けている高齢者の相当数は、自営業または無給の家内補助労働に就いており、彼らの雇用の継続は、農業や中小企業に関する政策に左右されている。(4)相当数の高齢者が今なお、低成長の産業部門または斜陽産業部門で雇用されている。

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