1998年の労働市場

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:1999年6月

1980年代半ば以降、スペインは欧州で最も失業率が高く、特に若年者の失業率は欧州平均のほぼ2倍にのぼっている。一方就業者数は1976年からわずか6%増えたにすぎない。それでも1998年は1996年~1997年の傾向を持続し、雇用面で大きな改善が見られた。1992年以来初めて第4四半期には失業者数は300万人を割り、また就業者数も平均で1300万人以上を維持した。

こうした雇用の動向を支えているのは、好況局面にある経済である。一般にスペインでは景気が上向いても雇用がそれほど伸びないという傾向が見られるが、1995年に始まった現在の好況は、かつてない雇用創出力を見せている。

実際、経済成長率が5%以上に達した時期でも雇用はなかなか伸びず、現在のような雇用創出は昨今のスペイン史を振り返ってもほとんどなかったことである。経済成長率1%に対する雇用の伸びは1995年以来1%前後を保っており、1998年も0.9%と大いに好調である。雇用が経済成長によりすばやく反応するようになったのは、過去10年間の労働市場の柔軟化政策によるところが大きい。しかし、これは逆に言うと経済成長の後退がすぐに雇用の激減となることも意味している。

労働力率

1998年の労働力率は、スペインの民主化移行期以来初めて50%台を記録している。これは1994年に始まった経済成長局面により、就職の期待をあまり持っていなかった人々が積極的に労働市場に参入するようになったためと考えられる。欧州全体と比較するといまだに非常に低いものの、労働力率の上昇は女性の労働市場参入によるところが大きい。

いずれにせよ、スペインでは近年、性別・年齢・地域によって労働市場への参入の状況が大きく異なっている。まず16歳以上の男性の労働力率は63%前後に達するが、女性では38%にすぎない。しかしながら、男性の労働力率がゆっくりとした低下傾向にあり、一方女性の労働力率が過去15年の間年々上昇しているので、全体としては収斂傾向にあると言える。男性の労働力率はどの年齢層でも女性を上回っているが、若年層ではその差はより小さい。25歳~54歳で見ると労働力率は男性で92.5%、女性で55.8%であるが、24歳以下では男女の差は10%以下になる。ただし20歳~24歳の労働力率は59.2%、それよりさらに若くなると24.3%と低くなる。

地域別でも労働力率の差は目立っており、また最近その差が拡大する傾向が見られる。バレアレス諸島やカナリアス諸島のように観光が主要な経済活動である地方、および域内GDPの成長率がより高い地方は、労働力率が全国平均を2%上回っている。逆にカスティーリャ・ラ・マンチャ、カスティーリャ・イ・レオン、エストレマドゥラのような農業を主体とする地方や、人口の高齢化の激しい北部カンタブリア海沿岸諸地方は、労働力率がもっとも低い地方である。

就業率、部門別就業者数

1998年の労働市場で最も注目されるのは、第2四半期に就業人口が1300万人を超えたことである。これは前回の好況局面中の1991年に達して以来初めての水準である。しかし、スペインの失業率は相変わらず高く、就業率、すなわち16歳以上の人口に占める就業者の割合は40.93%にとどまり、1976年にはほぼ50%近くに達していたことを考えると非常に低い数値である。性別では就業率の伸び率は、景気局面にかかわらず女性の方が男性より大きくなっている。1998年には男性就業者数は0.3%伸びたのに対し、女性では1.8%伸びている。

近年、特に1998年に見られた雇用の回復傾向は、年齢・性別などによって異なっている。長年にわたって続いていた若年層(16歳~24歳)の就業率低下傾向は、性別を問わずここ10年でわずかながら上昇に転じている。この傾向が定着するかどうかは、あと数年を待ってみなければわからないというものの、新しい雇用契約モデルの導入が効果をあげていることに間違いないだろう。一方、ベビーブーム世代が一定年齢以上に達したことも影響している。いずれにしても、就業人口構造の中心は25歳~54歳の男性であり、この層における就業率は、直前の景気後退局面の1994年に過去最低水準まで落ち込んだ後、1998年には82%となっている。

地方別では、就業率が全国平均を上回る地方と下回る地方に、国がほぼ2分されている。バレアレス・カナリアスの両諸島、およびイベリア半島の北から東にかけて(バスク、ナバラ、アラゴン、ラ・リオハ、カタルーニャ、バレンシア、ムルシアの各地方)は就業率が平均を上回っており、逆に南部から西部にかけて就業率の低い地方が集中している。これは各地方間のさまざまな歴史的・構造的多様性に基づくものであり、その中では首都のマドリッドだけが特殊な動向を示している。

景気変動の影響を受けやすい部門、特に建設部門では、就業人口の増大が著しい。1998年を通じて建設部門の就業者数は5%以上増加し、過去5年間では25%増加したことになる。しかし、建設部門での雇用創出は男性労働者に大きく傾いており、同部門で働く労働者の96.4%は男性である。したがって、就業率における男女差の縮小という点から見ると、ネガティブに影響する。

工業部門における就業者数の伸びは4.9%で、平均を上回っている。これは同部門での就業人口伸び率が常に平均を下回っていたことを考えれば、注目すべき現象である。ただし、現在の極めて好ましい国際経済環境が変化し、また前回の不況時に下落して以来低く保たれている労働費用が再び上昇し始めれば、数年内にも工業部門の雇用創出が伸び悩むのは明らかである。

一方、サービス部門では就業人口増が3.2%と平均以下にとどまったが、これは過去数十年を振り返っても見られない現象である。農業部門では高齢化の影響もあり、就業者数が0.6%減っている。しかし、EUの共通農業政策(CAP)の補助金政策によって農業所得はかなり改善されており、これを反映して近年は農業人口の減少にも歯止がかかりつつある。

全体として見ると、部門別に見た1998年の就業人口構造は、61.65%がサービス業、20.51%が工業、9.90%が建設業、8.03%が農業となっている。建設業における就業者の増大で、建設と農業の就業者数の逆転現象が起きている。

最後に、1998年は、初めて公行政部門での賃金労働者数に低下(マイナス1.5%)が見られた年であった。国・自治州・市町村などあらゆる行政部門で働く労働者数は、222万5000人となっている。しかし、逆に公部門の女性労働者数は1.3%増加しており、数にして104万人、全体の46.67%に達している。一般に公部門は女性を多く雇用するが、賃金スケールごとに分析すると男性・女性のばらつきはかなり大きい。

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