旧・JIL国際講演会
世界の社会保障年金 -現状と改革-
(2000年5月19日)

目次

講師略歴

コーリン・ギリオン氏(Mr. Colin Gillion) 国際労働事務局(ILO)社会保障局長

 ニュージーランド生まれ。英国、ニュージーランド国籍。基礎・応用数学で修士号、応用計量経済学で博士号を取得。ニュージーランドと英国の大学、研究機関に勤務。1979年にOECDに入り、1983年~1990年OECD社会労働教育局の社会労使関係部長を経て、1990年より現職。62歳。2000年4月28日に発表された"Social Security Pensions-Development and Reform" ILO (『公的年金制度の現状と改革(仮題)』)の編者である。

はじめに

 本日は、ILO出版物である『公的年金制度の現状と改革(仮題)』についてお話します。ILO加盟国の186カ国の年金制度に関する背景的な情報、そしてアドバイスを目的とした例を記したものです。
 多くの国が、年金制度を作ろうとしており、初めて年金制度を導入するところもあります。しかし各国とも経験がなく、また改定があったとしても一世代に一回しかないので、新たに作るとなればどうしても経験の足りない分野です。そこで、様々な国でどんな経緯で年金制度が確立したか、どんな問題があるのか、どういう体制がどういう仕組みにおいてふさわしいか、などを学ぶことが、非常に有効であると考えました。それによって各国が各国にふさわしい枠組みを作っていけると考えました。もちろん、そのほかILOとしても独自の見解を持っています。どういう形で年金改革を進めていくべきか、さらに年金を運用するうえでの基準も考え、標準的な目標が書かれています。組織化の望ましいかたちや根拠にもふれてあります。

1.諸課題

資料1

 年金は社会政策の一部ですが、いろいろな分野をカバーしています。そこで一番大事な点として、この報告書で採り上げたものを挙げていきます。
 まず最初に、適用範囲です。多くの国は充分な年金制度を持っておらず、およそ85%の国々がしっかりとした仕組みを持っていません。世界人口の大多数が年金制度の恩恵を享受していないことになります。さらにまた、多くの国では、年金制度がうまく運用されていないことが問題になっています。年金として徴収する金額が十分でないこともあります。もうひとつの課題がリスクです。いろいろな形で年金制度に欠陥があり、給付が確実に行われるか、最終的に意味のある年金制度になるかを常に考えておかなければなりません。
 これ以外に人口の高齢化があります。これは日本のみならず世界全体で起きている現象です。高齢化が進むと退職者が増え、拠出金の割合も上げていかねばなりません。どんな対策をとるか、高齢化社会に即した方式を考えていかねばなりません。
 特にアメリカやその他のOECD諸国でも経済性の問題が出てきます。先進諸国においては社会保障制度が不充分であると考え、また充分すぎると考えている国もあります。そしてどのように現役被用者と相対していけばよいのか、年金運用の仕組みの中での経済的効果も考えていかねばなりません。そしてさらに、個人の問題として考えるか、集団的な保護政策に依存すべきかも問題になってきます。

2.OECD諸国の高齢者に関わる公的経費

資料2

 OECD諸国の過去30~40年間の動きを示したグラフです。公共社会保障年金制度の拠出金の支出の割合が増えていることを示しています。GDPに占める割合を見ると老齢年金は1960年には5%でしたが、1995年には10%になっていて、今はもっとこの数字が伸びている可能性があります。このように30年間に徐々に年金が増えてきました。その間OECD諸国では年金制度が充実してきました。このような拡大が見られたのは50年代、60年代に福祉国家を強化しようという仕組みが考えられたからです。そのような考え方から全体で見ると10%以上になってきています。

3.標準的な基盤

資料3

 最初に年金制度の目的を明確にするため、いくつかの点を検討しなければなりません。
 まず第一に、皆年金制度、強制加入にするかを考えねばなりません。国民全般が適用範囲に入り国民皆年金制度にするためには強制加入にしなければなりません。給付金の恩恵を被るためには、各個人が加入し、給付金を受ける資格が必要です。あまりにも近視眼的に考えてしまい強制加入にしないことがあると、若い頃にお金を使ってしまい、年とった時にお金がないことになります。その他に、ユニバーサルプロテクションがあります。高齢者になった時に貧困にならないようにするための保護が必要であるということです。一般的にそのような保護は必要です。ユニバーサルですから、どんな地位でも、どんな事業場に属していても、最低限の年金制度を導入し、高齢化した時に貧困に陥らないようにせねばなりません。それから平均的な労働者の場合の代替率を設定して、全般的に妥当な範囲内での代替率を確保できるようにしなければなりません。そして、年金は、できれば賃金、もしくは物価に対して指数化されることが必要です。それによって年金基金が侵食されないようにしておくことができます。必要な時には、どんどん貯蓄し、年金を最終的には増やす仕組みがあっていいわけです。任意加入がこれを可能にします。
 このほか給付金に関しては保証レベルが予想可能でなければなりません。また、国家の責任と民主的な運営方法も考えていかねばなりません。労使双方が年金制度に拠出するならば、双方とも発言権を持って運用の仕方を決める必要があります。

4.普及率が低い原因

資料4

 いろいろな社会保障制度のなかで問題になるのはどの程度、普及しているか、加入率があるかという点です。フォーマルセクターでの労働者、通常の仕事に就いている人たちが拠出している年金制度がある場合は、所得がどれくらいであるか、どのぐらいの給付になるかわかりますが、インフォーマルセクターに関してはモニタリングが非常に困難です。所得金額も分かりませんし、物々交換、あるいは物資で得ている収入もあるかもしれません。その規模を確認するのは非常に困難です。そうなるとインフォーマルセクターの規模が非常に大きな問題となり、その規模を把握できないとなると皆年金制度の設定に大きな支障となります。インフォーマルセクターが全体の三分の二を占めるようになると、皆を加入させることが難しくなります。そして加入方法、その年金制度の期間、あるいは社会保障制度の運営方法も問題になりますし、汚職、腐敗などがあると、その運用がうまくいかず加入率も低くなってしまいます。アフリカでは例えば5%位ですし、ラテンアメリカでは20%位です。また旧ソビエト連邦ではもっと低い加入率になってしまいます。適用範囲、対象が少ない上に運用管理が悪く、手の打ちようがありません。

5.適用範囲を拡大するための方策

資料5

 できるだけ強制適用の範囲を拡大していくしかないと思います。対象になっていないグループをカバーしていき、できるだけ拡大してすべて所得をモニターでき給付を払える対象にまで拡大することが必要でしょう。可能性としてはインフォーマルセクターの機構を利用して自助方式での適用の対象拡大もできるかもしれません。インフォーマルワーカーが多いアフリカやアジアの一部などは、インフォーマルセクター向きの制度があるかもしれません。例えば貯蓄クラブや共済組合などを使うことができます。こういったものをベースとして使い老齢年金の貯蓄をしていくことができるでしょう。しかし、保障もなかなか出来ず、どういった形にするか選択肢を強いられてしまい難しいです。適用範囲が狭いことへの方策は、フォーマルセクターの対象をできるだけインフォーマルセクターまで拡大して、インフォーマルセクターのなかで役に立つような制度作りをする方法があります。

6.悪い管理運営

資料6

 もうひとつ重要な問題はガバナンスが悪いということです。その場合、いくつかの特徴が現れます。その一つは拠出回避です。もしかしたら、労使共々に社会保障の拠出金を払わないというインセンティブがあるのかもしれません。それからもうひとつは、管理運営費が高いということです。給付の支払いが遅れる、資金の管理がうまくいってない、積立金の投資運用がうまくいってないこともあります。また地域組織に依存していますと、地域組織がうまくいってない場合もありますし、社会保障機構が自立していないという場合もあるかもしれません。つまり、政府とその機関との間に対立があるかもしれません。いろいろな国を検討してどれが悪い運用管理なのか言い切れないのですが、運営管理が悪いのは慢性的で、表面化することがあります。

7.運用管理改善のための方策

資料7

 ではどう対処するか。 基本的には政府の効率性を立証することです。そのためには教育訓練を行い、定期的な会計検査を行うことになります。そして実際に拠出回避している人を逮捕、また指摘する方法、また三者構成機構を設けて問題に対応する方法があるかと思います。

8.社会保障給付費用に占める運営コストの割合

資料8

 OECD諸国が右側に、ラテンアメリカ・カリブ諸国の一部が左側に書いてあります。ラテンアメリカ・カリブ諸国では運営コストは平均で27.78%になっています。OECD諸国では3.12%になっています。27%となりますと、制度の運営だけにお金を費やし、給付金が減ってしまいます。ペルーのように100%以上になっている国もあり、給付そのものが無くなってしまいます。

9.個人のリスク

資料9

 基準のひとつは、労働者そして個人が年金に何を期待するかという知識をもつべきだということです。つまり、適用期間、どういう給付が退職後得られるかだいたいの見当をつけられるようになっていなければなりません。
 リスクの一つは政治的なリスクです。政府は実際に出来る以上の約束をする可能性があります。政治家の任期は短いですが、年金は40年など息が長く、その間に年金の受給権を作っていかなければなりません。政治家は短期的な約束、政治公約をし、例えば、確定給付で退職後これだけもらえると言います。しかし拠出も確定給付については人口動態的な影響を受けます。高齢化が進んでいれば、ある程度のリスクが残ります。こういったリスクが確定給付制度にあります。
 もうひとつのリスクは確定拠出制度にあります。これは拠出率は決まっていて給付はそれに基づいて決まっていきます。この方式では拠出金が一般市場に投資されて、そこからの収益で給付が払われます。これは市場変動の影響を受け、かなりのリスクがあるかもしれません。所得代替率が60パーセントの予想にもかかわらず実際には40%になってしまうリスクもあります。確定拠出に移行することによって、こういったリスクが回避できるのではないかという議論がかなり活発に展開されていました。

10.日米英の比較

資料10

 どの程度の給付が日本、英国、アメリカの3カ国で支払われるか、例えば1953年から1974年まで投資した場合、賃金の伸び率8.5%、金利4.5%、拠出は54%だったらどうか、です。このようなパラーメータを基にして、退職時における所得の代替率50%を得るようにします。
 2つ注目したいことがあります。賃金が伸びると、拠出率も高くなります。しかし金利が賃金の伸び率よりも大きくなると拠出率は落ちてしまいます。ここでの数字の重要な点は、50%の所得代替率を獲得するために貯蓄が過剰か不足かを示しています。金利を固定しますと代替率は30%余計にできてしまいます。逆の場合は、30%不足になってしまいます。50%の代替率を得るためには拠出率は非常に高いかもしれませんが、しかし不確実であるということです。実際に見てみますと余分に貯まっています。
 そして逆の場合は20%拠出率が不足していたということを示しています。これがマーケットリスクです。また政治的な状況によってもリスクが伴ってきます。政府が過剰な約束をした、あるいは年金を十分にスライド化していなかったなどの可能性があります。ですからリスク2つのバランスをとらなければなりません。どうやってバランスをとるかについては後でお話します。

11.人口の高齢化

資料11

 寿命が延び出生率が下がることで、世界は高齢化が進んでいます。日本でも急速に高齢化が進んでいますが、OECD諸国でも全般的にそのような傾向がみられます。この50年間にどんどん状況が変わっており、このまま何もしないと賦課型確定給付方式の年金制度がどうなるか心配です。確定給付型を確定拠出型に変えても、高齢化のプロセスの影響を受けて拠出率を倍層させるリスクから逃れることは出来ません。民営化するか、個人勘定にしていくか、いろいろな考えがありますが、公的年金でも民間の年金でもそれは変わりません。

12.高齢者の依存率

資料12

 日本、北米、ヨーロッパの場合の高齢者の依存率を示すグラフを見ると、日本では他の地域に比べてかなりの伸び率が見られます。このような問題にどう対応するかが問題になってきます。ひとつの考え方として、拠出率はその国の高齢者の依存率によって決めていくこともできます。全体的な拠出率が、社会で活動していない人たちに対してどれくらい負担すればいいかを考えていかなければなりません。それが大きければ拠出率も大きくなってくるわけです。しかし人口構成によっては、必ずしも望ましい方向にいかないこともあります。

13.逆経済効果

資料13

 もうひとつの点として考えなければならないのは、退職年齢の問題です。退職年齢を日本と同じような年齢に上げたらどうなるか。全世界的に見てもOECD諸国と比べても、日本の退職年齢は高くなっています。OECD諸国を日本のレベルまで上げますと、拠出率に関して節約することができます。そして拠出金を貯蓄できます。それから女性の労働市場への参加が増大すれば、その賦課割合を上げることもできます。
 ただ単に公的年金から民間の年金に変えたり、積立型から非積立型に変えることで問題は解決できません。しかし退職年齢を上げ、女性の労働市場参加を高め、全体的な賦課割合を1995年以下のレベルに下げていくこともできます。
 では最後の問題に移りたいと思います。今までいろいろ議論されてきたなかにおいて、確定給付型から確定拠出型に変えることで貯蓄を増やすことができるかという熱い議論が戦わされていますが、非常に不確定な議論になっています。

14.高齢男性の労働市場参加率(アメリカとフランスの比較)

資料14

 早期退職による労働市場への影響について触れたいと思います。フランスは積極的に早期退職を勧告する仕組みをもっています。これは高齢者の失業率を下げようというもので、フランスの労働市場では男性は61才時点で10%しか残ってない状況です。これに対してアメリカの場合はほぼ60%の男性が労働市場に残っていることがわかります。すると、この違いは全体的な経済にロスになるのではないかと言えます。

15.OECD諸国平均の高齢男性の労働市場参加率

資料15

 高齢者の労働市場への参加率は年々減ってきており、50歳以上の全ての年齢グループにおいて、労働市場の参加率が下がってきています。つまり、人口の高齢化に対応するために参加率を上げることが非常に難しくなってきます。とくに、失業率の解消への効果という意味で、労働市場にその逆の影響を与えてしまう可能性もあります。男性の退職年齢を上げることが政治的に可能か、わからない状態です。

16.ILOの方針

資料16

 ILOの方針は三つの柱からなっています。一番下の年金制度は、基本的に貧困を避けることが出来るようにするための所得保証的な意味を持つ年金制度であるべきということで、自営であろうとサラリーマンであろうと、どんな種類の雇用形態であっても、それが普及しなければなりません。ただこれは最低限度必要なもので、貧困線を超えることが出来るレベルのものということです。それから第二番目の柱としては、基本的には確定給付型のもので、40パーセント位の代替率の制度となります。とくに、平均賃金のレベルにある人たちに対して提供されるものです。それから第三番目の柱は確定拠出型のもので、代替率を60パーセントまで押し上げる効果がある仕組にするものです。一番上の部分は、市場の金利に敏感に反映し、変動の可能性があるということを十分に織込んだものになっていなければなりません。第四番目は、民間の任意拠出型などを含んだものと考えられます。いずれにしても、いろんな形で人間はリスクにさらされ、二番目に関しては、政治的リスク、三番目についてはマーケットリスクがあるわけです。しかし失敗が発生したとしても、この年金制度全体が大きな打撃を受けることにはなりません。それから第四番目の柱は、一般の人たちが、色々な選択肢が与えられるような形で、年金をもっと増やしたいという時に参加、加入できるような仕組となります。
 普及率、バッドガバナンス、そして仕組みの三つの分野で問題がありますが、仕組みをどうするかがOECDの国にとって一番問題になります。普及率とバッドガバナンスは、開発途上の国々にとって問題がある点で、この2つが一番手のつけにくい問題です。最終的にここが一番大事な点になると思います。

○質疑応答

質問 : ILOの考える年金制度のあるべき方向性について、

1) これからの年金制度は国による公的なもの、民間によるもののどちらが良いのか。
2) 国がやる場合、強制保険であった方がいいのか、任意保険であった方がいいのか。
3) 強制保険である場合、それは税または社会保険料のどちらで賄ったほうがいいのか。
4) 国の強制の制度である場合、確定拠出型がいいのか確定給付型がいいのか。

回答 :

1) 少なくとも一部、しかも大部分は政府所管であると思います。しかし、一部は民間で運営管理すると言うオープンさも必要だと思います。ただ、100%積み立て資金で、少なくとも、ある程度まで民間で管理しないと言う形はちょっと考えられません。
2) 強制であるべきです。年金の一部については、任意加入といってもいいでしょうけれど、人間は近視眼的です。任意加入の制度はうまく行っておりません。任意制度ですと、どうしても低所得の人たちを補完するということについては合意が得られません。
3) 私は、公的でも私的でも、ほとんどすべてを拠出金ベースにするべきだと思いますが、一部税の補助があってもいいと思います。特に税金を使って皆年金をミニマムにするためには、やはりある程度の税金を使わないと難しいと思います。最低年金につきましては、税収から資金を運用する必要があると思いますが、それ以外については拠出金から賄うべきだと思います。
4) 確定拠出型と確定給付型のミックスがいいと考えております。政治的なリスクと、マーケットリスクを分散するために、賦課方式で一部が確定給付で、そしてもうひとつが、確定拠出ということです。

質問 : 税金と社会保障制度について

1) 拠出金は税引き前所得からとるべきか、それとも、税引き後所得からとるべきか。
2) 給付金は課税の対象になるべきか、ならないべきか。

回答 :

1) 私の個人的な意見では、年金をスライド方式にし、税引き後の実質賃金にスライドしていくべきではないかと思います。たとえば、どんどん税金が上がっているような状況において、年金がどんどん増えるということがあります。そうなると、実際払っている年金額よりも増えるということがあるわけです。ですから、均等性、平等性という問題から見れば、その方がいいのではということになります。
2) 世界には二つの仕組があると思いす。その一つの仕組はTTE(Tax Tax Exempt)で非課税になる。まず最初に拠出金に課税し、投資分にも課税する、しかし実際に寄付金に関しては非課税にするわけです。ニュージーランドがその例ですが、あまり多くありません。一番普及しているのは、EETという仕組です。拠出金と資金運用に関しては非課税とし、寄付した時に課税するというEETの方式です。政治的には、この後半の方が認められていると言うことだと思います。TTEの方は、非常に高度に洗練されたエコノミストとしてのテクノロジーを理解しないと、一般的にどれぐらいのものであるかわからないということがあります。こうした意味で、ニュ−ジーランドは高度に洗練された国であると言ってもいいと思います。

質問 :
 日本は改革を終えたところですが、むしろ、改革を完了する過程と言えます。そして、改革案が国会で、先月承認されました。その中の課題の一つで、物議を醸したのは世代間の平等です。そういった観点にたって多くの経済学者は公的年金の役割は基礎年金に限定するべき、非拠出型の基礎年金にして、そして二層目が民営化されるべきだという考えでした。この案については、日本の調査では選ばれませんでした。それでもまだ議論が活発に行われております。私はILO、世銀とIMFの間の意見の対立があると聞いております。資料にミックスドスキ−ムとあり、二層目が賦課方式の確定給付と書いてありますが、これは、世銀の考え方と違うと言うことになります。先生がおっしゃった、二層目と言うものの理論的な背景をご説明頂けますでしょうか。

回答 :
 世銀の三層という案は、私どもと同じように、確定給付型で、貧困救済です。これは比較的小さな層ですね、これは両者間で合意している点です。世銀の言う第二層目というのは、確定拠出型で、強制加入ということです、私どもは確定給付で、強制です。そして三つ目の層は世銀の場合は確定拠出です。ILOは確定拠出ですけれども、任意か強制かについては何も言っていません。その理由はリスクが分散されるということです。日本のような社会では、政治的なリスクは比較的小さいと言えます。法案が通れば、通常法案通りに進められます。しかし、世界のまだ多くの国では政治的リスクが非常に重大なものもあります。測定は難しいですけども、マーケットリスクと同じぐらい大きな政治的リスクを抱えている国もあります。ですから、ILOとしては、こういった二つのバランスをうまくとることが大切だと思っています。世銀の案は全ての資金を確定拠出に向けてしまいます。しかし、積み立て型の確定拠出はマーケットリスクがあります。日本でのマーケットリスクはそれほど表面的に大きいととられません。金融市場の不安など、近年では重要なことですが、それでも、例えばロシアや小国と比べると、日本のマーケットリスクは小さいわけです。世銀はどちらかというと、確定拠出の方にお金を入れていくという方法を選んでいますが、我々は確定拠出、確定給付を分散するべきだと思っております。ほかにも理由があります。確定給付型の賦課方式をとりますと、色々な年金の方式を全部導入しやすくなります。例えば、障害年金や遺族年金などが導入しやすいわけです。このように賦課形式の方がなんらかの形での団結を導入することが出来ます。団結がなくなりますと、これを貧困救済の税金から賄なければならない、それは政治的に難しいと言うことになります。第二柱の賦課型確定給付が制度の基盤となるというところがILOの考えで、世銀と異なるところです。

質問 :
 特に税金年金問題についてジェンダー視点から様々な低減活動をしており、それで質問ですが、日本の場合女性の収入基盤が低いと言うことがあり、それが年金制度にも反映して、大変低い年金水準になると、将来は多分非常に貧乏な女性が沢山出現するのではないかと危惧しております。その点について何か良いアドバイスがございましたらお願いします。

回答 :
 簡潔にお答えすると、男女、同じ労働に対しては同じ支払いが必要です。今の質問はつまり、年金制度を使って、実際に労働市場にある不平等を是正することができるかと言うことではないかと思います。しかし、それがいいかどうか、必ずしも言えません。議論として言えることは女性の寿命は男性と比べて、非常に長いです。そのために、同じ拠出に関してはその年金の支給率が低くなってしまうことになるのではと言われるわけですが、これは、それほどセンシブルな表現ではないと思いますし、又、実施の面においても、平等ではないと思います。

質問 :
 確かに先進国は年金問題で色々苦しんでいますけれども、開発途上国は今後、年金問題で苦しむのではないか。経済状態が非常に悪い。しかも、加えて高齢化が進む、年金制度はないか、あるいはあってもカバレージが狭いか、あるいは年金額が非常に少ない。そこでこれから開発途上国で年金制度を重視する必要があると思いますが、その時に、先進国の経験に学ぶ点を3~4点説明して頂けませんか。

回答 :
 開発途上国が学ばなければいけないことは運営管理、そして効率だと思います。ILOシステムにするか世銀システムにするかというような高度な選択肢はまず、一次的ではなく、二次的だと思います。汚職の問題とか、効率が悪いなど。ですからまずは、運営を上手くすることが一点、まずそれがベースであります。そして先進国から学ぶべきことの第二点は、適応範囲を広くすることが大切です。この二点の切り口から考えるべきだと思います。これが一部の途上国においては、所得配分と絡んできます。所得の格差が非常に大きい諸国、例えばブラジルではガバナンスが非常に悪く、そして同時に適応範囲が非常に少なくなってしまい、決して上手く行きません。高齢化の問題、確定拠出か確定給付か、積み立てか非積み立てかなどは、まず、これは金持ちの国になってから考えるべきことですから、それ以前に考えることが途上国にはあります。

質問 :
 世界的に年金改革や多様な形態の年金制度が進展していく中で、ILOは新しい社会保障に関する国際基準などを設定する方向にあるのでしょうか。102号条約できて、50年ぐらいたつと思いますが、新しい展開にどう対応していかれるのか教えて頂きたいと思います。

回答 :
 ILO条約102号は1952年に通過したものです。その後、色々な条約、勧告が出ており、必要条件を段々アップグレードしてきています。例えばこの代替率に関して、又は加入率に関してなど、いろいろと修正してきているわけです。その中で、現在、私共は、条約そのものを修正しょうと考えていません。まず、第一に世界はどんどん変わってきて、ILOが条約としてOECD型の国々、そして開発途上国を同じようなベースで扱っていいかどうか、まだ意見が定まっていない状態にあるからです。実際に社会保障制度を発展させていく上で、国によって、社会保障制度を維持するには、あまりに高価になってきていると心配するところもでてきています。医療があまりにも大きな負担になってきているとか、あるいは、福祉国家があんまりにも大きな負担になっていると考えて、心配しているところもあるわけです。また、一方、別の世界では、社会保障制度が足りないということで心配しているところがありますし、貧困層も非常に多い、そして、失業救済制度が何も無いところがあり、世界は二つに分かれてしまうわけです。すると、その二つの種類の問題を一つの条約で全部カバーしていいかが問題になります。第二にILOとしてこの102号条約を修正する上で躊躇しているのは、例えば2000年において、その当時と同じような意見が労使間で得られるかが問題であることです。1952年の時点では、ILOの加盟国数は非常に少なく、開発途上国でも加盟してないところが多くありました。そして、当時は戦後の時代で、意見をまとめていこうという動きがあったわけです。しかし、そのような動きが、今の時点において高まるかどうかは疑問だと思います。今、ある労使のグループを一緒にして、意見を戦わせようとすると、簡単には合意が得られない状況にあるのではないかと思います。ですから、答えとしては、「NO」になります。ただ、私共は現在、色々な社会保障関連の条約を見直して理事会に送り、検討してもらうということを考えております。こういうような条約についてそれぞれの加盟国が同じように協力の支持を示しているかどうかをみたい、と思っております。過去と支持率が変わってきているか、そしてまた新しいコンセンサス、新しい意見が出てきているかを考えてみたいと思います。非常に悲観的ではありますが、試金石としてたたき台に載せることが大事だと思います。

質問 :
 賦課方式の給付建ての第二層について、もう少し教えて頂きたいのですが、高齢化が進んだ時に、この層の見直しがある程度必要になると思うのですが、その場合に、給付を引き下げるか、負担を上げるということが強いられることが考えられます。どちらも評判が悪く、日本でも、今回もそうですし、過去もそうでありますけれども、段階的に給付を引き下げて、段階的に、負担を引き上げるという方法がだいたいとられます。その場合、一見傷み分けのように思われるわけですが、将来の世代にとって、給付はどんどん下がるのに、負担はどんどん上がる。日本で今回問題になりましたのは、こういう世代間の不公平性が進んでいき、次に高齢化が又進んでいくということになりますと、制度としても、 長期的な安定性の面で、こういうやり方では、もう対応できないのでは、という話がでて参りました。特に高齢人口が増加してまいりますと、先生が先ほど、日本では政治的リスクが大きくないというお話がありましたが、逆に高齢者が増えて、高齢者の発言力が大きくなりますと、さらにそういうものを切りかえるのが難しいということも考えられますが、例えばあのスウェーデンのように観念的な一部、掛け金建てを入れるのも、一つの方策かと思いますが、ご提案がありましたらお願いしたいと思います。

回答 :
 第二層については、おっしゃる通りです。高齢化が進むにつれての調整方法としては、三つしかないと思います。拠出を上げるか、あるいは給付を下げるか、それとも、退職年齢を引き上げるかという方法、他の方法としては、その女性の加入者を増やすという方法もあるかもしれません。しかし、こういった、三つか四つしかない選択肢の中から選ばなければなりません。私の描いている印象では、OECD諸国のほとんどがデファクトとして、コストをこの三つ全部に分散しようとしております。つまり、退職年齢を上げ、拠出を上げて、給付も少し下げてと、少しずつやっていく方法です。もう一つはスウェーデンの、観念的確定拠出になると思います。これは拠出して、そしてそれが投資され、運用されるものです。しかし収益率は政府が決めます。政府の方で、ある特定の水準のお金を払うわけですね、賃金の伸び率かもしれませんし、GDPの伸び率かもしれません。ですから、一見は確定給付制度のように見えますが、ただ例外が一つあります。それは、寿命が伸びていることに対しては、反応しておりません。寿命が伸びれば、伸びるほど、この制度は適応されていくと思います。スウェーデンでは、年金制度のほんのわずかな部分に提供しようと考えております。確かに、16~17パーセントの中の3~4パーセントがこの、新しい観念的確定拠出型を適応しようと思っています。まだテストの段階です。

質問 :
 一つはいわゆるILOの構造のスキームにおける第一層と言われた、基礎年金の問題で、その基礎年金は基本的には、税を財源にして行うべきだというお話だと思いますが、その場合に問題となるのは、いわゆる「ミーンズテスト」、収入資産調査を導入すべきなのか、それとも、所得資産にかかわらず、普遍的に給付されるべきなのかについてです。私どもは、後者であるべきだと思います。日本政府は、この税による、基礎年金方式に、非常に強く反対していて、生活保護と同じように、「ミーンズテスト」が必ずくっついてくるだろうと、私どもはそうではないやり方が可能ではないか、と考えております。それから、二つ目の問題は、積立金の問題です。我が国の公的年金は、日本円で考えて、政府の手元にあるもので、約130兆円ぐらい、それから、一部企業年金側に保留されているものを含めますと、170兆円ぐらい、大変巨額のものがあります。そして政府はこれを、将来積み上げていく、そして、高齢化がピークになった時でも、かなりの部分の積立金を未来永劫維持して、その運用収益を、将来の給付の財源の一部にしようという財政計画を立てていますが、私どもは、こういう考え方は多分無理だろう、そしてスウェーデンを除けば、世界でこれをやっている国はないのではないか、スウェーデンの場合に、合理性があるとすれば、スウェーデンの場合は国民的な貯蓄率が低いなかで、全体の経済運営では合理的かもしれない。我が国の場合には、個人金融資産だけで、1,200兆円、GDPの数倍の規模のものが既にあるわけで、それに、公的年金がまた巨額の積立金を持つことは、マクロ経済バランスからいっても不合理ではないかと考えておりますが、その点についてのお考えを承ればありがたいと思います。

回答 :
 おっしゃる通りです。この「ボトム層」は、貧困救済、あるいは貧困を払拭するために必要な柱です。実際に拠出しているかいないかは別にして、これは資格審査が必要です。資格審査の中にその資産テストも含んで、資質審査をするということに関しては、やはり何らかの手段でこの一般的な税制ベースの拠出金、支払分が所得審査なしに行ってしまってはいけないと思います。第2番目の点ですが、時間がなかったので、これについて触れてありましたスライドはとばしてしまいました。賦課型、そして確定拠出型の制度になっています。質問として、例えば、拠出型年金制度に支払われたお金はどうなるのか、と。あるいは、民間の年金でも集まったお金はどうなるのか、ということが問題とされたことがあると思います。いろいろな形で運用されるわけですが、結局最終的には同じです。結局は、確定給付型と同じような形になると言えます。ですから、仮に積立型というものが、拠出者からそれを収集して、それを資本市場に入れ、どのように運用されるか、ということになりますと、2つのうちの1つだと思います。まず最初に、投資をする、ということになります。相当支出が増え、GDPも上がっていきます。けれども、結局その中から年金を払わなければならないという仕組みは変わりません。あるいは、その実質総投資額には全然関係ないかもしれませんが、ただ市場にはどんどんお金を投入していることになります。そうすると、株式市場が上がって、そして資産価格が上がって、資産価格がどんどん上がっていくということが考えられます。そういう中で例を考えてみますと、2つ考えられます。日本の1990年代のプロセスを見てみると、逆転の現象がありました。それから、アメリカの株式市場においても、こういう現象が1990年代に見られているわけです。今、アメリカの株式市場は、非常にブームの醸成になっていますが、これは、ベビーブーマーが高齢化しているから、そして年金を効率的に運用したいからやっている、ということが考えられます。どんどん高齢者がお金を市場に入れているので、市場の株価がどんどん上がっているけれども、だからといって、それが個人年金に反映されているかというと、そうでもないという状況があります。ですから、結局結果は同じなのではないか、と言えます。そこで、いろいろと考えていくときには、ただお金を貯めて市場に入れることによって、国民の総貯蓄率が高まるということで捉えてはならないと思うのです。そういう考え方はどちらかというと神話に近いのではないか、と思います。

質問 :
 これまでの質問のうち、second tier defined benefit pay-as-you-goという、2階部分の賦課方式に関連して、さらにお知恵を拝借したいと思います。先程お答えの中で、どの政府も、この確定拠出、defined benefitpay-as-you-goの年金を高齢化の中で維持していくためには、給付の抑制、保険料の引き上げ、またその組み合わせといった、かなり狭い選択肢、狭い幅の方策を組み合わせながらやってきているということでしたが、この賦課方式の確定給付の年金を維持していくための調整の方法というのは、いずれも政治的にとても不人気になっておりますが、給付を抑制することについては、受給世代あるいはそれに近い方々は不満に思う。そして、負担を上げることについては、若い方々が不満に思うし、さらに言えば、給付を将来的に段階的に減らすだけだということで、若い方々はさらに不満に思うということで、なかなかその年金制度自体を好きにならなくなる、というか、嫌いになってしまう方向の調整が必要になってきている。こういう状況ではないか。しかし、そうは言っても、ギリオンさんがおっしゃったように、マーケットリスクと政治リスクの分散という理論的基礎から見ても、確定給付の、defined benefit pay-as-you-goは合理的な制度だ、とも考えますが、それを受給層あるいは若い層が不満に思っても、なおこの方がいいのだと、その説得の論理あるいは戦略について、いろいろな先進国の例などを見ていて、こういうふうにやったら年金制度自体に対する信頼が損なわない形で現実的な改革が出来るという例など、あるいはアイディアなどがあったら参考にさせていただきたいと思います。

回答 :
 私は、ヨーロッパにしろ、アメリカにしろ、直接こういった対策をとっている所はないと思います。フランスは、もしかしたらやろうとしたかもしれないのですけれども、うまくいったか、いかなかったか、その辺は定かではありません。それほどはっきりと「こうだ」というものが打ち出されていないと思います。努力としてはたくさんありました。新聞を読みますと、ヨーロッパ全土、どこでもそうです。特にアメリカについて言えます。極端な意見が報道されています。しかし、こういった報道の内容が直接大々的な改革にはつながっておりません。例えば、スウェーデンの観念的確定拠出型というのは、高齢化の問題を回避する方法として打ち出されましたが、実際はどうでしょうか。ですから、レトリックはたくさんある。極端なものはたくさんある。注目をずいぶん、金融プレスで取り上げられたものもあります。ただ、私は疑念を抱いております。それは、既得権益を持っている人、ラディカルだったり、既得権益に関しては注目を得ましたけれども、実際の政策、また絡めた自身の実践という意味では大して前進は見られておりません。私が言っておりますのは、フランスの労働組合が給付を切り下げたり、あるいは長期間労働をしないと、年金がもらえないといったことに対して非常に強い反発を示しております。そういった状況を描くんですけれども、おっしゃるように、これだけ、どれだけ支払うのか、ということ、じゃあ誰に支払われるのか、ということを明らかにしますと、非常に強い反応がどこからでも生まれます。

質問 :
 貧困救済のための制度について、日本では、社会扶助の制度があり、この制度は貧困者、あるいは高齢の貧困者のみならず、若年者で全然所得のない人たちなども対象にしているものです。この他にも、年金制度として、基礎年金制度があります。この年金は国民全般に広く行き渡り、国民全体をカバーするものです。ご説明のあった最後の柱は、一種の社会扶助の制度と理解してよろしいのでしょうか。それとも、日本の基礎年金制度みたいものなのでしょうか。日本の基礎年金制度は、第2層に入るのでしょうか。というのも、これは拠出金によって賄われているからです。

回答 :
 社会的扶助の事業があり、すべての年齢層を含む貧困救済の仕組みがあります。それから、もう一つは皆年金制度があります。これは、どれだけ拠出したかは別として、国民全般がその恩恵を受けることができます。その給付率について、私がちょっと読んでみますと、その給付率はあまりよくないと思います。しかしそれは、おそらく、社会扶助制度での給付よりいいのではないかと理解しています。この社会的な矛盾に関しては、その扶助率が変わってきます。しかし国民年金の給付率は全国民一律同じという仕組みになっております。ただレベル的にいきますと、場合によっては社会保護制度での給付率の方が高いということもあります。いずれにしても、結局その二つを合わせて考えてみて、そして一つのものとして考えるべきだと思います。貧困救済としても、その年齢にかかわらず、どのようになっているか、そしてまた年金制度は特に高齢者向けの手当になるわけですので、それを一緒に考えていかなければならないと思います。両方とも一般財源からでてくるというよりも、相当の一般財源からの扶助を受けている仕組みになっているからです。これは一つの分類の問題ではないかと思います。両方の仕組みが確立されているということが非常に大切だと思います。

質問 :
 日本の年金でいいますと、基礎年金の部分、1階部分の年金の財源の問題ですが、私共は、その財源は全て税にして、間接税で目的税を財源にすべきだと考えております。ILOでは一般財源の方が適切であると考えているように伺ったのですが、なぜ一般財源の方がよいのかについて教えていただきたいと思います。もう一点は私共は、間接税の方がよいと考えておりますが、間接税と直接税のどちらがよいと考えておられるのか教えていただければと思います。

回答 :
 わたくしは、一般財源の中には、間接も直接も両方網羅しているつもりで話しておりました。すなわち拠出金、保険料は入っていないということです。所得税、あるいは法人税等、具体的なことを考えておりませんでした。これは用語の問題だと思います。社会保障の保険料、一方その他の財源としての税収ということを申し上げたつもりでした。

質問 :
 今日本で問題となっていますのは、雇用の形態が変わってきているということがあります。予想されますのは、どんどんパートが増えるのではないのか、そしてフレックスな形の雇用形態を求めるようになってくるのではないかと言われています。OECDその他の先進諸国の動きはわかりませんけれども、労働者と雇用者との関係が社会保障制度に影響を及ぼすのかについてコメントを伺いたいと思います。

回答 :
 パートの所得に従って拠出金ができればよいということで、労働時間に応じてその拠出額を決めるということです。ですから、定期的に働いている人たちは、定期的に働いている分から出す。働いていない時には、何も払わないということになります。パートで働いている人たちがフルタイムで働いている人たちと同じように完全に保障されることはできないと思います。やはり、その働きぶりに応じての給付になるということだと思います。日本の雇用の形態が変わってきたということですが、それは制度的な変革を迫るものになると思われます。特に企業において終身雇用のような制度がなくなってしまうことになると、全体的な年金制度にどう影響を与え、運用のルールがどのようになるのかについて理解を深めていくことが必要になると思います。例えば、その給付金が一時金として支払われる仕組みがありました。終身雇用の場合には、60歳まで働ければ、その企業から退職年金を一時金としてもらえるというものもある。しかし、40歳までは、終身雇用形態で働いていたけれども、別の会社に移って60歳まで働いたことになりますと、その一時金の支払いは2回になるのか、それとも半分になるのかなど、非常に複雑な問題になってきます。そこでやはり調整が必要だと思います。どういうかたちで変更をしていけばよいのか、どういうものが必要なのかもわかりません。しかし、何かが変わっていくと思います。

質問 :
 日本では、定年制度が一般的で、ある年齢に達すると企業を退職するということが、何の疑いもなく行われている感じがしているわけですが、アメリカでは、年齢差別ということで年齢をもとにした強制的退職はない制度になっており、ヨーロッパの国についても同様なことがあるのではないかと思います。基本的な人権として考えますと、人種差別とか、男女差別とかと同じように年齢の差別は非常に問題があるのではないかと、年金制度の健全性、年金財源の健全性を考えても言えると思うのですけれども、日本にはそのような議論が一部にはありますけれども、その点について先生の見解を教えていただければと思います。

回答 :
 ヨーロッパそしてアメリカもそうだったと思いますが、ほとんど、定年の年齢になる前に退職します。数少ない人で、定年よりも長く働く人達が定年制度ではあまり問題となってはおりません。要するにいずれは、ヨーロッパかアメリカみたいなかたちになるのだろうと思います。いずれにいたしましても、日本は他の国に比べまして、高年齢まで働いておられるということは事実であります。

会場 :
 最後の問題は半分くらいは、ランゲージ・バリアだと思います。つまり定年という言葉を通訳の方はリタイアメントと訳されている、しかし日本の企業の定年制度というのは雇用契約の上限年齢であって、それは、労働者の方からすれば、労働生活からリタイアする年齢ではない。英語でいう、リタイアメントというのは、そこから後は年金生活に入って労働生活から引退するという意味ですね。そこの間の混乱ではないかと思います。

質問 :
 今わが国のみならず他の国におきましても、経済的に、国にとっても企業にとっても社会保障制度は大きな負担であるという議論があります。経済の国際競争力を維持し、または強化するために社会保障制度など無い方がよい、特に公的年金制度は無い方がよい、つまり公的年金の企業負担等は無い方がよいという議論が、わが国のみならず他の先進諸国にもありますが、それに対するILOのご見解をお願いいたします。

回答 :
 社会保険の負担は、労働しない所得であり、国の競争力を削ぐものだという考え方があります。こういった議論に対して反対議論があります。それは、もし一国の全ての企業が、社会保険の負担を持ったらどうなるかといいますと、その国の通貨が高くなると、そして切り下げが行われて出発点に戻ってしまう、しかし社会保障は、そこにあるということになるわけです。つまり社会保障の負担は、国家の競争力には影響しない、という議論です。このことは、社会保障の負担がドイツのように徴収されているか、企業が企業年金あるいは医療保険に負担をするかという場合もあります。これはアメリカです。こういった2種類の形態がありますけれども、しかし負担が上がったとしても結局同じだと、労務費が上がると為替が上がって、そして元の目闇になるという議論です。端的に言ってそうなります。為替は今や労務費だけで決まるわけではありません。少なくとも短期的には金利によって左右されます。しかも金利は国によって異なっています。はっきりと円とドルの為替でもわかりますし、他の国との為替の間にも見られていることであります。しかし、もう一つの極端な仮説ですけれども、金利が影響しているとすると、社会保険の負担は関係ありません。金利によって左右され、そして競争力には影響がない。確かに国の利益率は変わってまいります。競争力には関係ありません。