開催報告:第21回日韓ワークショップ(2023年7月18日開催)
雇用形態が多様化する社会における若年雇用政策

概要

労働政策研究・研修機構(JILPT)は、韓国労働研究院(KLI)と共催で、日韓両国に共通する労働政策課題を取り上げて議論し、相互の研究の深化を図ることを目的に「日韓ワークショップ」を開催しています。第21回目となる2023年のワークショップは、JILPTがホストとなり、「雇用形態が多様化する社会における若年雇用政策」をテーマに、7月18日にオンライン形式で開催しました。

日本と韓国はいずれも高等教育への進学率が高く、若年者の失業率はOECD諸国の中では比較的低いものの、労働市場における若年者の就職難は続いています。韓国では大企業と中小企業の二重労働市場が問題となっており、大企業を目指し就職活動のために大学の卒業を遅らせたり、卒業後も就職活動を続けたりする者は少なくありません。日本では、変わりつつあるものの新規学卒一括採用システムが基盤にあるため、大学卒業後に正規雇用に就くことができなかった若者が非正規雇用としてキャリアを開始した場合に職務経験やスキル形成の機会が乏しく、安定的な雇用に就くことやキャリア形成ができないことが課題となっています。

本ワークショップでは、JILPTから日本における新規学卒一括採用の現状や課題、特にそこから外れた既卒者の抱える問題、既卒者の正社員就職や離職の要因についての分析結果等を報告するとともに、KLIからは韓国における若年労働市場の動向、最近の若年者支援政策の課題や変化などについての研究報告があり、その後、両国の共通点や相違点、効果的な対策についての議論を行いました。

ワークショップの様子

ディスカッションでは、まず、学卒者がどのように最初の仕事に就き、キャリアをスタートさせるのかについて両国の事情と課題を話し合いました。

JILPTの藤村理事長から、日本の企業は職業経験のない新卒者を採用し、社内で様々な業務を通じて訓練することを前提としているため、学生が大学のキャリア教育などで培った「やりたい仕事」とミスマッチが生じ離職してしまうという問題があり、こうした若者は離職後、なかなか正社員に就けないことが多いのが課題であるとの指摘がありました。KLIのアン・ジュヨップシニア・リサーチフェローは、韓国では大企業と中小企業の間の賃金格差が大きく、「労働市場の二重構造」が問題となっており、大企業に就職できるのは10%程度で、中小企業に入社してから大企業に転職することも難しいため、学卒者の約5割が大手に挑戦するものの、4割は希望する初職に就けない現状が問題であるとの説明がありました。KLIのホ院長からは、MZ世代(ミレニアル世代とジェネレーションZの総称。1981年から2010年生まれを指す)の中には、大手企業に就職しても職場の文化や価値観が違えば辞める者や、余暇生活や勤務中の自己啓発の機会を重視して仕事を選ぶ若者が以前よりは増えているとの補足がありました。

次に、長期失業から引きこもりとなる層への支援策についての議論がありました。
クァクKLIアソシエイト・リサーチフェローからは、韓国では長い期間就職活動をしても希望する職に就けずNEETになる若者に対して、地方自治体が中心となって引きこもりや孤立した若者の発見・支援を行っているが、そうした若者を発見するのが難しいとして、経験の長い日本の引きこもり対策について質問がありました。岩脇主任研究員は、日本ではバブル崩壊後の2000年代頃にNEETの問題が取り上げられ、それ以降若者地域サポートステーションを中心に様々な対策がとられてきたこと、最近ではその当時は若者であった層が40代、50代となっており、そうした年齢層への支援が課題となっていること、そうした困難層へのアプローチが難しい点は日韓共通であると述べました。

また、韓国における中小企業の新卒採用支援策についても意見交換を行いました。
キムKLIシニア・リサーチフェローは、韓国では採用時に学生が最も重視しているのは賃金といわれており、韓国政府による若者支援政策の中では、労働者への直接支援となる奨励金制度や、同じ職場で働き続けることを条件に積み立ての一部を政府が補助する貯蓄支援策(青年ネイルチェウム共済)(注)が効率的だと評価されているとの説明がありました。

藤村理事長は、日本にも大企業と中小企業の間に賃金格差はあるものの、転勤をしたくないことや地元での親との生活を優先するために大企業への就職を希望しない若者が存在すること、新卒を採用できない中小企業が大企業を離職した若者の受け皿となっていることなどを指摘したうえで、批判もあるが日本における新規学卒一括採用は今後もおそらく変化しないだろうとの見通しを示しました。また、JILPTの呉特任研究員からは、日本と異なり韓国の卒業後の就業率は6割台にとどまっているが、それはなぜなのか、大企業に入りたいという若者の問題なのか、それとも絶対的に労働需要、つまり就職先が不足しているのかの分析も必要だろうし、大企業と中小企業の格差解消のためには格差解消税など抜本的な対策が必要だと個人的には思っているとのコメントがありました。

(注)「青年ネイルチェウム共済」とは、中小企業に就職した青年(15~34歳)が同じ企業で働きながら2年間で400万ウォン積み立てをした場合、満期時に事業主負担金(400万ウォン)と政府の補助金(400万ウォン)を合わせた合計1,200万ウォンを受け取れる制度である(2023年度時点)。ネイルチェウムは直訳で「明日を満たす」等の意味であり、本ワークショップ韓国側の資料では「青年明日充当共済」と表記している。


日時:
2023年7月18日(火曜)14時30分~17時00分
開催方法:
オンライン形式
主催:
労働政策研究・研修機構(JILPT)
韓国労働研究院(KLI)

プログラム

開会あいさつ

14時30分~14時35分
藤村 博之 JILPT理事長
14時35分~14時40分
ホ・ジェジュン KLI院長

セッション1(座長:ホ・ジェジュン KLI院長)

14時40分~15時00分
「新規学卒一括採用のゆらぎと大学卒のキャリア」
岩脇 千裕 JILPT主任研究員
15時00分~15時15分
質疑応答
15時15分~15時35分
「韓国の青年雇用の現状及び政策の方向性」
キム・ユビン KLIシニア・リサーチフェロー
15時35分~15時50分
質疑応答

セッション2(座長:藤村 博之 JILPT理事長)

16時00分~16時50分
ディスカッション
参加者全員

閉会あいさつ

16時50分~16時55分
ホ・ジェジュン KLI院長
16時55分~17時00分
藤村 博之 JILPT理事長

報告資料

2022年8月3日掲載

関連情報