開催報告(ベトナム、要約):第1回海外委託調査員連絡会議・国別報告会
雇用流動化時代における労使の課題
(2003年11月19日)

報告者

クアン・ザン・ハー(Quang Xuan Ha)
ハノイ工科大学 研究・国際関係部長 (Head of Research and International Relation Department, Vice Rector of Hanoi Industrial College

要約

労働市場の特徴

過去15年間に、ベトナムは国内の経済統合、工業化、近代化プロセスにおいて著しい進歩を遂げている。とはいえ、経済の安定した発展は果たせていない。ベトナム経済の効率性と競争力はかなり低い。労働力人口に比べて十分な雇用を創出してはいない。失業率は高い(2002年で6%)。雇用不足は農村地域でよくみられる。失業率は若者において最も高い。

表1. 失業率、1996~2002年
1996 98 99 2000 01 02
失業率(%) 5.9 6.9 7.4 6.4 6.3 6.0

ベトナムの人口は2010年までに8800万~8900万人に達すると予測されている。労働力人口の年間成長率は2.4%~2.5%。労働力人口は2005年に5110万人、2010年に5680万人に達する。毎年新たに100万人の若者が労働市場に参入し、新たに140万の職を創出する必要がある。

雇用構造はゆっくりとシフトしてきた。2000年には、農林水産業における労働力人口率は62.56%、工業および建設業は13.15%、サービス業は24.29%を占めている。2010年に農林水産業を50%に減らし、工業および建設業を23%、サービス業を27%に増やすためには、ベトナムは労働割当に革命が必要となる。

現在、農林水産業部門における労働力人口の比率は60%に減っており、サービスで急増している。工業および建設業における労働力人口はわずかに増加している。

表2. 部門別労働力人口比
1991 92 93 94 95 96 97 98 99 2000 01 02
農林水産業 73.3 73.2 72.0 70.8 69.7 69.2 68.8 63.8 63.6 62.6 60.5 60.9
工業および建設業 12.4 12.3 12.4 12.8 13.3 12.5 12.5 12.5 13.5 13.2 14.4 15.1
サービス業 14.3 14.5 15.6 16.4 17.0 18.2 18.7 18.7 23.9 24.2 25.1 24.0

2002年の国内の労働者数は4071万7000人で、うち970万4000人(23.8%)は都市部に、3101万3000人(76.2%)は農村地域に住んでいる。国営分野における労働力人口は236万2000人(10%)で、外国投資分野は43万7000人(1.1%)となっていた。

2002年12月における計画投資省の統計によると、外国投資企業には47万2400人の労働者が働いていた。

労働力人口の構造は明確にシフトしてきているが、国は経済の発展需要を満たせるようにこのシフトのスピードを加速するよう努めなければならない。

経済の生産性、効率性、競争力の向上は差し迫った要求であると同時に、21世紀における巨大な挑戦でもある。実際、ベトナムにおける生産性はかなり低い。労働力の質が低いために、ベトナム製品は低品質、高価格で、技術のレベルも低い。1991~2000年における生産性の成長率は高くなかった(年間1人当たり743米ドル)。労働者1人当たりの平均利益は減少傾向にある。熟練労働者の比率は低い(2000年における総労働力人口の20%)。職業訓練システムは実際の需要を満たしていない。給与が低いために、労働者はしっかり働こうとしなくなる。ベトナムの人的資源の技能と知性はきわめて大きな潜在力をもっている。問題は、これをどのように開発し、上手く利用するかということである。

このために、以下の対策を実施すべきである。

人的資源の開発

第1に、人的資源の質を高め、労働市場の必要に応じて職業訓練の構造を変える。国際および地域経済統合の状況において、経済および労働力人口の競争力を高める唯一の道は、健康、知性、技能、産業マナー、規律への服従、遵法に関して人的資源の質を向上させることである。

職業訓練の訓練カリキュラム、教育方法、教師陣、教育システム、施設について、定期的な改善が行われるべきである。職業訓練システムは実際の生産の必要にしたがって展開するよう導かれるのが望ましい。職業訓練計画は、だれもが仕事を学ぶ機会を持てるように十分に練られたものとする。

才能ある人材はたたえ、大いに活用する。

雇用の創出

第2に、社会全体の労働者のためにより多くの仕事を創出する。
国の社会政策の中で、雇用政策は不可欠である。雇用政策は人的資源の知性と技能、経済および社会の安定性と発展を強化する。さらに、人びとの差し迫った労働ニーズを満たす。農閑期の農民にパートタイムおよび臨時雇用を提供するために、国は村やコミューンに対し中小企業の開発を奨励し、農村および郊外地域における生産を強化するための法的・資金的サポートを提供する。

国内労働市場のための雇用創出に加え、国は外国労働市場の開拓、労働力輸出の推進、労働力の自由化と企業に対する魅力的な投資環境を生み出すための雇用法および政策の遂行を行うべきである。

現在ベトナムは、農業農村開発プログラム(Agricultural and Rural Development Program: ARDP)、産業・サービス開発プログラム(Industrial and Service Development Program: ISDP)、労働力輸出プログラム(Labor Export Program: LEP)など、多くの労働者を引き寄せるための経済プログラムに力を注いでいる。

今から2005年までに、ARDPは2500万人に職を提供し、ISDPは450万人の労働者を集めるべく努め、LEPは10万人の労働者を輸出することになる。

表3. 労働者の輸出人数、1991~2005年
1991-99 2000- 01 2002 2003 2005 (予想)
LEP(労働者輸出人数) 90000 54000 46000 50000 100000

国は、労働市場に多くの職を創出する活動を補助するべきである。例えば、中小プロジェクトにローンを提供し、雇用相談センターを近代化し、調査を行った上で労働市場情報システムを確立し、雇用管理の専門家を養成する。

賃金政策の改革

第3に、賃金政策を改革して労働者にやる気を起こさせる。政策は公正であり、才能ある労働者をたたえるものでなければならない。労働者の所得は、彼らが仕事に心おきなく打ち込めるように――このことによって生産性と効率性が高まる――彼らおよびその家族の基本的ニーズを十分満たすものでなくてはならない。所得水準は、経済発展および社会の平均所得水準の増加と並行して動く必要がある。企業は従業員に対し、彼らの生産性および効率性に基づいて給与水準を課す権利を有する。

社会福祉の確立

第4に、雇用および社会福祉保障制度を確立・発展させることにより、企業が自らを再編するのをサポートし、労働者が自分のための職を創り出すかまたは失業中の場合は労働市場にすぐに戻ってくるのを補助する。

実際、国は雇用状況を改善させるための政策を打ち出してきた。労働市場情報システムを設置する大型プロジェクトを実施し、労働者および労働利用者を助けて、彼らの訓練の指導および訓練機関の開発に力を貸している。また、労働市場構造をコントロールする政策も打ち出し、それによって農林水産業の労働力人口の比率を減らし、サービス、工業、建設業における比率を増やしている。これらの政策は、過去20年間のベトナムの経済発展にプラスの影響を与えてきた。

結論として、ベトナムは過去15年で人的資源開発に著しい成果をあげたものの、開発プロセスにはまだやらなければならないことが多く残っている。労働力の産業別構成のシフトをスピードアップする必要がある。政府は、人的資源開発戦略が他の戦略と並行して進み総合的な結果を得られるような、経済開発戦略を構築する必要がある。