開催報告(韓国、要約):第1回海外委託調査員連絡会議・国別報告会
雇用流動化時代における労使の課題
(2003年11月19日)

報告者

金榮培 (Dr. Kim Young-Vae)
韓国使用者総協会 (Korea Employers' Federation)

要約

労働市場の特徴

IMF経済危機以降、韓国の労働市場の変化の主な特徴は「柔軟性」と言い表わされる。製造業に働く男性中心であった労働市場に女性が参加するようになり、就業形態が多様化し、サービス業従事者が増加している。主な指標をみていくと、まず失業率は3.1%(2002年)である。これに関連して、韓国では教育水準が高いが高学歴者は失業すると職探しに消極的であること、若者に兵役の義務があることを勘案すれば実際の失業率はもっと高い可能性もあることを指摘したい。産業別雇用者数をみると製造業が減少しているのに対し社会福祉・サービス業は大幅に伸びている。学歴別にみると大卒以上の者が伸びている。就業形態別にみると非正規労働者(定義はあいまいだが)が増加している。また自営業や家業手伝いのような非賃金労働者は多くの先進諸国では10%以下だが、韓国では4割近くを占めている。これは地域経済の特徴からくるものである。企業規模別にみると中小・零細企業が増え大企業が減る傾向にある。規模別平均賃金をみると規模間格差は拡大傾向にある。例えば零細企業(9人以下)の平均賃金を100とした場合、大企業(500人以上)は185.4(2002年)と2倍近くになっており1999年の169.4から格差が拡大している。これには大手企業では労働運動が盛んであることも影響している。

最後に若年者の失業率(15~29才)をみると全体平均の約2倍の高水準である。若年労働者と高齢労働者との入れ替わりが遅れれば経済競争力が損われることとなり、若年失業は大きな問題である。

労働市場の問題

韓国の労働運動は一段と好戦的になっている。大企業は労働組合に譲歩した形で賃上げを行い、コストを下げることでそれを相殺しようとする。中小零細企業の多くは大企業の下請けであり、大企業の賃上げのつけが中小零細企業に回ってくる。その結果規模間の賃金格差が拡大し求職者の大企業への偏好が深まる。しかし経済危機以降大手企業は新規採用を控える傾向にある。一方中小零細企業には人材が集まらない。

また、韓国では海外直接投資が進み、中国に近い仁川地区ではこれまでに700社以上が生産拠点を海外に移転させている。大手企業では生産の海外移転を行うには労使の合意が必要である旨労働協約で規定される場合が多いが、労働運動が弱い中小零細企業では歯止めがないためより雇用が不安定である。このため大企業との労働条件格差、肉体的にきつい仕事を求められることと相まって中小零細企業は人手不足である。しかし一方では高い若年失業率が続くというミスマッチの状況にある。

非正規雇用者の問題と対応

非正規労働者の割合に関して確定した数字はなく、組合は労働力全体の5割を超えていると主張するが政府の統計では27%程度である。労働組合は非正規労働者の不当な使用を防ぐため、雇用の一定の制限、正規労働者への転換、労働条件の差別をなくすことなどの措置を講じるべきだと主張している。非正規労働者の労働組合が政府に承認を求めるという動きもあった。

こうした動きに対する使用者側の主な主張は次のとおりである:

  1. 非正規労働者は失業問題の解決の手段である。正規・非正規労働者は相互に補完的な関係であり、代替関係にはない。
  2. 非正規労働者の雇用は企業のトップが関与している。正規労働者は解雇が難しいため企業が敬遠する非正規雇用は自ずと増える。
  3. 好んで非正規労働者になる者の割合が増えている(例えば女性)。

また、使用者側は労働市場をより安定させるために必要な努力として

  1. 競争社会における雇用の柔軟性、
  2. 労働基準法の改正、
  3. 賃金システムの年功ベースから業績ベースへの転換

等をあげている。

さらに総括的には、労使協調路線のもとでのマイルドな労働運動と規制緩和も今後は必要であろう。

補足

報告者:イテンミョン (Mr. Lee Tack-myun)
韓国労働組合総連盟主任研究員 (Senior Researcher, Research Center, Federation of Korean Trade Unions)

労働市場の柔軟性をいかに求めるか。それを政府が検討しているとはいえない。中小企業、若年労働者が最も犠牲になっている。失業は慢性化し非正規労働者に対する差別が行われている。使用者側のコスト削減、労働組合側の雇用保障という双方のニーズのバランスをとることが必要である。政府は労働市場改革に関する青写真を発表したが、それは健全な論理的基盤に基づいているものとは思えない。むしろ市場メカニズムがあらゆる種類の経済的問題を解決するという迷信に基づいているようにみえる。市場の可能性と限界とを知ることこそが実りある効率的な政策立案の第一歩である。政策立案プロセスが科学的に正しい基盤をもつことによってのみ、労働市場の柔軟性と平和で健全な労使共存が確立され得るのである。