基礎情報:台湾(2005年)

基礎データ

  • 国名:台湾 (Taiwan)
  • 人口:2,277万人 (2005年)
  • 実質GDP成長率:4.09% (2005年)
  • GDP:3,459億米ドル (2005年)
  • 一人あたりGDP:15,806米ドル (2005年)
  • 労働力人口:1,032.6万人 (2005年上半期)
  • 就業者数:989.8万人 (2005年上半期)
  • 失業率:4.13%(2005年) 

資料出所:行政院主計処、「国情統計通報」、「重要経社指標速報」より引用。

労働関係の主な動き

1. 2005年の主要動向

2005年は、国際原油価格の高騰により、景気動向は全世界的に縮小傾向にあった。特に台湾においては製造業の海外移転等の影響を受けたため、経済成長率は2004年上半期の8.32%という高い成長に対し、2005年上半期は2.73%と大きな落ち込みを示した。しかし、下期にかけては、中国経済の拡大傾向の影響や国際的な電子製品の需要の伸び、民間消費の安定的増加等をうけ、台湾経済も堅調に回復し、7月―9月以降の経済成長率は上昇傾向に転じ、最終的には4.09%という数字となった。

2. 労働市場の動向

2005年の雇用情勢は、一貫して前年比で良好な数字を示した。経済の低迷にかかわらず、2005年上期における労働力人口は1032万6000人で、そのうち就業者数は989万8000人であり、2004年と比較して16万7000人の増加となる。これは、政府による職業訓練、雇用創出プログラム、産業政策などの諸施策が効果を発揮した結果とみることができる。失業者数も継続的に減少が続いており、失業率は2005年末時点で4.13%と、昨年との比較で0.13ポイントの改善が見られた。

台湾における近年の就業者構成比の推移は、表1のとおりである。2005年の業種別構成比では、農業が6.09%、サービス業が58.23%、工業部門が35.68%となっている。

表1 就業者の構成比の推移 (単位:%)
  1989年 1994年 1999年 2003年 2004年 2005年
総数 100.00 100.00 100.00 100.00 100.00 100.00
男性 62.45 61.65 59.51 58.29 58.07 58.00
女性 37.55 38.35 40.49 41.71 41.93 42.00
年齢 100.00 100.00 100.00 100.00 100.00 100.00
15歳~24歳 17.02 13.94 12.40 10.52 10.04 9.42
25歳~44歳 57.78 61.90 60.46 59.45 58.97 58.67
45歳~64歳 23.68 22.63 25.59 28.37 29.37 30.28
65歳以上 1.52 1.53 1.55 1.66 1.61 1.63
教育程度 100.00 100.00 100.00 100.00 100.00 100.00
初等中学以下 56.32 49.00 38.83 32.21 30.85 29.34
高等中学 28.65 32.31 35.16 36.42 36.67 36.32
大学・専門学校以上 15.03 18.69 26.01 31.37 32.47 34.34
業種別 100.00 100.00 100.00 100.00 100.00 100.00
農業 12.50 10.95 8.38 7.30 6.64 6.09
工業 42.65 39.70 37.28 34.84 35.16 35.68
サービス業 44.85 49.35 54.34 57.86 58.20 58.23
職業別 100.00 100.00 100.00 100.00 100.00 100.00
ホワイトカラー 22.46 28.77 34.40 38.06 41.13 42.13
ブルーカラー 43.99 42.19 38.77 36.11 33.44 33.08
その他
(サービス業含む)
33.56 29.04 26.84 25.83 25.43 24.79
職業地位
雇用主 4.64 5.28 5.44 5.19 5.26 5.06
自営業者 18.99 17.37 16.31 15.62 14.87 14.57
無報酬家族従業員 8.64 8.60 7.85 7.21 7.01 6.74
被用者 67.73 68.75 70.41 71.98 72.86 73.63
政府 11.27 11.12 10.27 10.18 10.27 9.62
民間 56.46 57.63 60.13 61.81 62.59 64.01

台湾における労働市場の特徴としては、女性の労働力率が47.91%と比較的高く、その多くは高等中学卒以上の高学歴の女性が占めている。2005年5月時点では、就業者数991万8000人に対して、男性が575万3000人(58.0%)、女性が416万5000人(42.0%)であった。過去20年間の女性の就業者数の伸び率は2.21%で、男性(同1.03%)に対し高い伸びを示している。

就業者人口に占めるホワイトカラーの割合も継続的に上昇を続けている。2005年5月のホワイトカラー就業者数は417万9000人で、前年同時期より16万3000人、4.06%の増加を示している。1989年と2005年を比較した場合に、ブルーカラー就業者が43.99%から33.08%に減少しているのに対して、ホワイトカラー就業者は、22.46%から42.13%へと飛躍的な伸びを示している。同様の比較では、農業従事者の比率が12.50%から6.09%、工業が42.65%から35.68%に下降しているのに対して、サービス業は44.85%から58.23%と伸びており、就業構造のサービス化が進行しているといえる。

労働市場における問題としては、若年者失業の深刻化が指摘される。台湾では、24歳以下の労働力率が31.96%と非常に低く、さらに失業率は10%を超える高水準にあり、大きな社会問題となっている。若年者の雇用問題は10年来の課題であるが、ここ2、3年は特に失業率の上昇が著しく、政府は、その改善に向け、若年就業促進プログラム「展翼」を展開している。これは「若年青年が興味を持てる仕事をみつけることができ、自分の力強いエネルギーと賢明さで大空を飛ぶ鳥のように能力や潜在力を鍛える」ことを目指すプログラムである。その内容は職業訓練局(BEVT)が企業と協力し2年間で、理論、実技訓練、実習科目の300時間の訓練を実践するものである。これまで訓練生の70%は雇用機会を得ており、その主な就職先はレクリエーション産業となっている。

政府は、2005年6月7日非常設議会国民大会において、憲法改革法の包括案を可決したが、2008年までに改革草案を立法院と国民投票により作成すること、今後はボトムアップによる国民参加による政策策定を重視していく方針を発表した。その施策の一つとして、労工委員会職業訓練局による職業訓練中期戦略プロジェクトがある。これは、「2006-2010年国家職業訓練プロスペクティブワークショップ」という特別訓練政策策定メカニズムの開発計画である。2005年10月にワークショップを開催し、実業界、訓練期間、一般大衆、専門家、学者の代表がワークショップへの参加し、連携することを通じて全国の労働者と求職者のための職業訓練計画を議論し、目標を策定し提案するというものである。会議の結論に法的拘束力はないが、政府が訓練政策を立案する際の重要な指針となるものである。

以上が労働市場における2005年の主な動きであるが、労働分野におけるその他の動きでは、2005年は2004年同様グローバル化の進展を背景に、さらに国際競争力を高めていくための方策が検討された年であった。

国際競争力を高めるため、労働者は長時間労働を強いられているという現実も政府統計からみることができる。台湾においては、近年、長時間労働は家庭と仕事の両立を阻害する原因として指摘されるほか、残業代支払いの問題とあわせ労働問題として再認識されている。2005年4月の統計によると、平均週当たり労働時間は45.28時間であった。女性よりも男性、初等中学卒よりも高等中学卒以上、ブルーカラーよりもホワイトカラーの労働時間が長い傾向がうかがわれる。

3. 政府による組織構造改革

対中国関係については、中国政府が2005年3月の全国人民代表者大会において「反国家統一法」を採択したことから、中台の「両岸関係」への影響、台湾国内の社会経済に及ぼす影響が各方面から注目を集めている。そういった中、陳水偏総統の指示のもと行政院は、グローバル化に対応した国際競争力のある国家建設を目標に「行政院組織法」「機能と組織の調整に関する暫定法」「中央行政機関統制基本法」の3つの法案を採択し、2006年の行政組織再編に向け動き出した。

2005年には、まず行政院組織構造改革に関する一括法案が採択され、13の部会と閣僚レベルの4委員会をふくむ部会の合理化とあらたな管理体制の確立に取り組むことが決定された。今回の調整対象の部会は、内政部、教育部、外交部、経済部、財政部、防衛部、交通部、法務部の従来の8部会と、労働・人的資源部、保健・社会保障部、農業部、環境・資源部、文化・慣行部の5つの新設部会がともに検討され、それらの統合再編により、現在の中央政府職員は20万500人から18万3000人へと1万5千500人が削減されることとなった。構造再編の目的は、行政本部の意思決定・計画レベルを強化することにあり、その基本方針として、(1)政務委員会の政策調整・統合機能を強化する、(2)行政院の職務負担が過大となっていることに対処するため、副委員長1名、議長1名を設けるほか、政務顧問も7名から9名に増員する、(3)予算、決算、公務員・組織管理、法務・情報管理に関する政府の重要な業務に対処するため、非常勤会計士、労務担当者、法務担当者、情報担当者の各役職を設けること、などが決められた。

構造改革の対象は、内閣の組織改革にとどまらず、国有企業、銀行の民営化にまで拡大している。台湾政府は国際競争力の確保を目的として国内構造改革の断行を決め、国有企業の合併・民営化、金融部門の合併等を重点政策として掲げた。これに対しては、台湾石油公社、台湾郵便公社、台湾水道公社、台湾煙草酒専売公社、中華電信公社などの労働者、関係者たちは反発し、激しい抗議行動を展開した。また金融部門においても、全国銀行従業員連合会の代表らは、財政部管轄の金融監督委員会(FSC)が発表した銀行合併の促進のための政府改革案に対し、台湾銀行、台湾合作金庫銀行、土地銀行、台湾中央信託局など国営4行による現地金融持ち株会社の設立を要求した。これは外国銀行による銀行部門への侵入を防止する目的によるものである。こうした労働者側の動きに対しても、政府は2005年までに国営銀行を12行から6行に減らし、2006年までに金融持ち株会社を14社から7社に減らす、さらに外国株式市場に参入している金融機関1社以上の協力を取り付けるという目標を後退させてはいない。

4. 労働者退職年金法の施行

2005年の重要な動きとして、2004年6月30日に陳水偏総統が公布した「労働者退職年金法」の2005年7月1日からの施行がある。この新法は労働基準法の一部改正により実現したもので、旧来の労働者退職金制度が確定給付型年金であったのに対して、新法は拠出給付型の年金制度である。旧制度では労働者の勤続年数は転職の際に継続扱いで計上されない(年金のポータビリティがない)のに対して、新制度では転職した場合でも勤続年数が継続扱いで累計されるという点がメリットして強調されている。また、新制度では、中央監督官庁が労働者年金基金に関するあらゆる事項を検討、監督、監査し、法に基づき年金保険制度を実施するため、労働者年金監督委員会を設置することを義務付けている。この労働者年金監督委員会の設置後は、旧来の労働年金基金監督および管理運営についても新設の監督委員会が行うことになる。

労働者年金基金の徴収・支払い及び管理監督を担う労工保険局によると、7月1日の施行以降、被用者の60%が新制度に移行し、残り40%は旧制度にとどまっているということである。その理由は、新制度では個人口座と年金保険制度のいずれかを選択することができるが、(1)新年金保険制度の申請には多くの制限が設けられていること、(2)適用を受けることのできる企業のうち規模に対応して適応資格のある企業はわずか22%しかないこと、などが指摘されている。一方、個人労働者年金口座基金は毎年150億新台湾ドルを徴収していくこととなるが、労働者の退職後の生活はその運用如何にかかってくる。このため政府は、「個人労働者年金口座基金管理、運用、損益分配規則」を設け、良好な管理のもとでの収益率、利益の向上を目指す方針を強調している。この規則は旧来の労働基準法に基づく「労働者退職基金の徴収、支払い、監督管理規則」と比較すると、運用範囲がより柔軟でより多くの権限を有し、制限が少ないものとなっている。

新労働者退職年金制度は、2005年7月1日からすでに実施されているが、現状ではまだ旧来の制度との調整の必要が多数あり、細則の制定や労働者の加入資格要件の調整など更なる体制整備の必要があることが指摘されている。

5. 外国人労働者の受け入れに伴う課題

外国人労働者問題に関しては、台湾は送出国であると同時に受入国でもあることから、受入れ国としての国内制度の運用整備に力が注がれた。1978年以来、タイ、フィリピン、インドネシア、マレーシア、ベトナムと協定を結び人材仲介機構を通じて外国人労働者の受け入れを行ってきたが、2004年には新たにモンゴルを加え、6カ国から外国人労働者を受け入れている。6カ国のうち、ベトナムとインドネシアからの労働者の失踪が多く、社会問題となっている。このため、政府はインドネシアからの受け入れについて、2年4ヶ月に渡り凍結してきた経緯があるが、その間インドネシア側の改善努力があり、2004年12月に凍結の解除を発表した。一方、ベトナムに関しては、失踪が後を絶たないことから2004年末をもって状況が改善されない場合、台湾政府は凍結の方針であることをベトナム側に伝えている。

こうした状況の中で、2005年8月に、高雄市近郊において地下鉄プロジェクトに従事する1728人のタイ人労働者による暴動が発生した。その原因は、政府から管理権限をあたえられた仲介業者の不当な搾取による劣悪な労働条件と生活条件であった。この暴動の発生を政府は深刻に受け止め、労働者受入れ仲介組織の管理強化に乗り出している。特に外国人労働者を100人以上雇用する700社を対象に監督を強化したほか、専門家、研究者、外国公館、人権擁護団体の代表者により構成される特別委員会を組織して、暴動の原因究明にむけた徹底した調査を実施した。

台湾では、90年代から合法移民、外国人労働者、不法滞在者が存在している。台湾内務省の統計によると、台湾の移民人口は2002年末で総人口の約6%を占めるが、その数は年々増加している。その8割近くは女性が占めている。また、外国人配偶者のうち6割が中国大陸、4割が東南アジアからの移民である。政府はこういった外国人配偶者が社会的な不適応、対人関係の欠如、社会支援ネットワークからの隔絶、家庭内暴力、育児問題、生計の困難などの問題に直面している者が少なくないという事実を捉え、民間団体とも協力の上、各種の支援措置に取り組んでいる。

外国労働者は、家事サービスに従事する者が多く、その数は年々増加傾向にある。しかしながら、現行法すなわち労働基準法ではこうした家事サービス従事者の権益を保護することが難しいことから、政府は、将来的に増加が予想される介護サービス従事者を含め対象とする「家事サービス法」の制定を検討している。

さらに、外国人"花嫁"を対象に国家技能検定・免許テストの語学試験等で優遇措置を講じるなどの配慮を行い、資格(特に「料理」「補助看護師」免許)を取り易くすることで労働市場に参加しやすい環境条件を整えるよう支援策を講じている。

6. 派遣労働者をめぐる課題

台湾全国独立総工会が2005年に発表した事例調査報告によれば、台湾では2000年以降派遣労働者の雇用が増加していることが明らかになった。大企業が正社員を解雇により削減し、その代替として派遣労働者を導入しているケースが多いことを報告している。その割合は正社員4人に対し派遣社員1人という比率である。近年の派遣労働者数の増加については、2005年7月から導入された新労働者退職年金制度の導入が関係していると見られる。すなわち、労働者退職年金法では労働基準法第7条を根拠に「すべての国内被用者」を対象とするが、被用者とは基準法第2条によると「賃金が支払われる目的で使用者に雇われる人」であり、派遣労働者は使用者が賃金を間接的に支払うことからこの対象から外れることになる。したがって、現行法の下では、そういった派遣労働者のために使用者は毎月個人年金を支払う必要はないということになる。

台湾における派遣労働は、一般に、(1)正社員より平均賃金レベルが3分の1程度、(2)労働保険、健康保険、超過勤務手当てなどの給付を受ける資格がない、(3)使用者は食事代として派遣労働者には正社員より低い金額を支給する、(4)無保険の状態で職場の安全確保のための予防措置の対象外として扱っている、などの問題が指摘される。

こういった状況を踏まえ、政府労工委員会は、日本、韓国およびドイツを含む先進主要国の派遣労働法を参考にして、「労働者派遣法」の制定準備を進めている。

出所:

  1. 行政院予算会計統計委員会「人力運用調査報告(2005年)」
  2. 行政院労工委員会ホームページ「労働に関する法律と規定」
  3. 行政院主計処ホームページ
  4. 労働政策研究機構ホームページ「海外労働情報(台湾)」2005年4月から12月等。

参考:

  1. 1米ドル=114.87円(※みずほ銀行ホームページ2006年6月22日現在のレート参考)

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例) 出典:労働政策研究・研修機構「基礎情報:台湾」