基礎情報:EU(2004年)

基礎データ

  • 国名:欧州連合 (European Union)
  • 人口:4億5,686万3千人 (2004年1月1日)
  • 経済成長率:2.4% (2004年)
  • GDP:10兆2,184億8,790ユーロ (2004年)
  • 一人あたりGDP:2万2300ユーロ (2004年)
  • 労働力人口:2億1,260万7,500人 (2003年)
  • 失業率:9.0% (2004年)
  • 就業者数:1億9,952万5,900人 (2003年)

注:

データは、EU加盟25カ国平均
1ユーロ=1.2484ドル=136.28円(2004年5月1日)

資料出所:欧州統計局(Eurostat)ホームページ

I.2004年の動向

1.リスボン戦略の中間見直し

1997年に開始された欧州雇用戦略(EES)と連携する形で、2000年のリスボン欧州理事会において向こう10年間のEUの戦略目標を掲げた「リスボン戦略」が採択された。これは、良好な雇用環境と強固な社会的結束により、2010年までにEUを世界で最もダイナミックで競争力のある知識経済にすることを目指すものである。リスボン戦略は、全体、女性、高齢者の就業率などを含む、いくつかの分野における具体的な達成目標を掲げている。中間点にあたる2005年には中間見直しが行われる予定となっており、2004年度には、リスボン戦略の進捗状況を検証したいくつかの報告書とそれに基づく新政策が発表された。

(1)高級専門家グループの報告書(コック報告書)

コック元オランダ首相を座長とする高級専門家グループは、2004年11月3日、リスボン戦略の進捗状況を検証した「挑戦に向かって」("Facing Challenge")と題する報告書(コック報告書)を発表した。

報告書は、確固たる政治的行動の欠如と優先課題設定の誤りにより、過去4年間のリスボン戦略の進捗状況は落胆すべきものとなったと結論づけた。高級専門家グループは、リスボン戦略が掲げる経済、社会、環境の3分野の目標は現在も有効であり、世界的競争の激化と高齢化が進展する中、とりわけ経済成長率を高め、雇用を増大させることが重要であるとした。そのためには、1)知識社会:研究開発、情報技術活用の促進、2)域内市場統合:金融サービス等の域内市場の整備と貿易障壁の除去、3)ビジネス環境:行政コストの軽減、法制度の質の改善、新会社設立の簡易化とビジネス支援環境の整備、4)労働市場:欧州雇用タスクフォースの勧告を速やかに実施し、生涯学習、活力ある高齢化及び経済成長と雇用促進のパートナーシップのための戦略を発展させること、5)環境持続性:環境の持続性を前提とし技術革新、生産活動の推進――など、5つの重要分野において確固たる政策を緊急に講じなければならないと提言している。報告書は、欧州理事会、加盟国、欧州委員会、欧州議会、欧州労使それぞれにリスボン戦略を前進させるための行動を勧告している。また、各国レベルでも政府、議会、労使が協調して2005年末までに行動計画を策定するよう呼びかけている。

(2)合同雇用報告

2005年に入り、欧州委員会は、1月27日、合同雇用報告案(2004~2005年)を採択した。この報告は、欧州雇用ガイドラインに基づきEU加盟国が作成する国別雇用行動計画(NAPs)を欧州委員会と欧州理事会が分析し毎年取りまとめるものである。今年の報告は、初めて拡大EU25カ国の国別報告に基づいて作成され、欧州委員会が2005年春の欧州理事会に提出するリスボン戦略の中間見直しに関する報告書に添付される。

報告は、過去の労働市場改革は経済不況に対する雇用の回復力を強化したが、欧州雇用戦略に掲げる3つの目標(フル就業、仕事の質と生産性の向上、社会的結束と統合の強化)に関してはわずかな進展しか見られないと結論づけている。

2003年のEU全体の就業率()は63%で停滞しており、リスボン戦略目標の2010年までに70%を達成するのはしだいに難しくなってきている。2003年にようやく40%を超えた高齢者の就業率は、2010年の目標である50%の達成が最も危ぶまれている。他方、女性の就業率は55%であり、目標60%の達成は比較的容易であると見られている。

加盟国は、税制や助成金による政策を通じて、働くことが経済的に引き合うようにすること、公共職業安定事業の再編、企業家精神の育成、生涯学習戦略の導入に努力を傾注している。しかし、それらは経済再建、闇就労対策、教育投資の拡大、活力ある高齢化の推進に関し、わずかな貢献しかしていない。男女の賃金格差は16%の水準で停滞し、職業訓練を必要としている人々の訓練参加率は依然として低く、労働災害発生率も依然高い。

報告は、1)労働者と企業の適応能力の向上、2)より多くの人々の労働市場への参加、3)人的資源及び生涯学習への効果的な投資の拡大、4)より良い統治に基づく効果的な改革の断行――の4つの分野に焦点を当てた行動が重要であるとする雇用タスクフォース報告の結論を再確認している。

報告は、EUレベルの雇用戦略の優先事項と加盟国の実施状況との格差を是正していくため、各国政府が国家や地方レベルの行動にEUの政策を導入することについて国民の理解を促進していくことが重要であると指摘する。そのためには国別雇用行動計画により大きな政治的正当性を与え、意思決定過程の不可欠な一部にしていく必要があるとしている。

欧州雇用戦略は、リスボン戦略に掲げる就業率目標を達成するための主導的役割を担っており、この重要性がより明確に認識されなければならない。リスボン戦略の中間見直しは、調整過程を簡素化し、実行への断固とした意志を明確にすることにより、目標達成のためにすべてのレベルの注意を喚起する機会を提供するとしている。

(3)成長と雇用のための新戦略

欧州委員会は、2005年2月2日、「リスボン戦略」を再活性化し、成長と雇用創出を実現するための新戦略を発表した。新戦略は、2004年11月に発足したバローゾ新欧州委員会の2010年までの施政方針となるものである。

リスボン戦略は開始から5年が経過したが、期待された成果を上げていないと総括された。その原因は、リスボン戦略が28の主要目標、120の補助目標、117の異なる指標からなり、評価の手続きがあまりに複雑すぎる点に起因する。

欧州委員会は、EUの競争力を強化し、持続的経済成長と雇用創出を達成するために、より焦点を絞ったEUと加盟国の具体的な行動計画を策定した。計画には、1)規制緩和と官僚主義の脱却、2)EU社会資本の整備と拡張、3)研究開発のための投資拡大と税制改革、4)研究開発、技術革新促進のためのEU補助金制度の改革、5)地域の技術革新拠点とEU技術研究所の創設、6)環境技術開発の促進、7)欧州技術イニシアティブの設定、8)EU若者イニシアティブを通じた若年失業との闘い、9)技術革新、職業訓練、社会資本整備のためのEUの結束基金、構造基金の活用促進――などの欧州単一市場を拡大・深化させるための政策を盛り込んでいる。

評価の過程は単一の国別行動計画と単一の国別報告書に基づき大幅に簡素化されることとなった。加盟国はリスボン戦略の実行に係る調整を担当する政府レベルの責任者(Mr or Mrs Lisbon)を任命することとされた。

欧州委員会は、リスボン戦略の新行動計画が実行されると、1)教育水準の向上、2)研究開発投資の拡大、3)情報通信技術、電力市場の自由化――などの影響により、2010年までにEUのGDPは3%上昇し、600万人の雇用が創出されるとしている。

(4)新社会政策アジェンダ(2005~2010)

欧州委員会は、2005年2月9日、2005年から2010年までの「新社会政策アジェンダ」を発表した。新アジェンダは、2000年策定され今年期限切れとなる現行アジェンダを維持・発展させ、リスボン戦略を再活性化する「成長と雇用のための新戦略」の社会的側面に対応するものである。

新社会政策アジェンダは、新戦略に基づき、1)フル就業及び、2)貧困との闘いと機会均等の促進――という2つの重要な優先課題を設定した。これらの優先課題は、欧州委員会の向う5年間の戦略目標「繁栄と連帯」を支援するものである。新アジェンダは、地方・地域・国レベルの公共機関と使用者、労働者代表及びNGOのパートナーシップを呼びかけている。

雇用に関して、新アジェンダは、1)労働者が異なる加盟国で働く場合にも、年金と社会保障の受給権を保証し、国境を越えた団体交渉の選択的な枠組みを設定することを通じた欧州労働市場の創造、2)欧州若者イニシアティブ及び女性の労働市場への再参加を通じて、より多くの人々により良い仕事を提供、3)短期契約、新しい医療・社会保障戦略など、新しい労働組織の必要性に適応した労働法の改正、4)労使対話を通じたリストラクチャリング過程の管理――などの分野に焦点を当てている。

貧困、機会均等に関しては、1)人口統計学に関するグリーン・ペーパーの策定及び高齢化の影響と異なる世代間の将来の関係に関する分析、2)加盟国の年金・医療制度改革支援を通じた貧困との闘い、3)差別、不平等に対する取り組み(最低賃金制度の検証、マイノリティーに対する差別との闘い)、4)ジェンダー研究所の設立などを通じた男女機会均等の促進、5)社会的に関心のある社会サービスの役割、性質の明確化――などを挙げている。

2.EU労働法制の進展

(1)職場のストレスに関する枠組み協約

2004年10月、欧州労連(ETUC)、欧州産業経営者連盟(UNICE)、欧州公共企業センター(CEEP)など、EUレベルのソーシャルパートナーは、職場のストレスに関する枠組み協約に調印した。EU指令によるよりも、加盟国特有の手続きや慣行に従って、履行される枠組み協約は、使用者と労働者代表が共同で職場のストレスの防止、原因究明、削減に取り組むことを目的としている。

協約は、職場のストレスの定義、検証されるべき原因を列挙し、職場のストレスの防止や管理に関する使用者と労働者の責任を明示し、ストレスの防止・除去・削減のために対策を講じるよう規定している。

(2)財・サービスへのアクセスや供給に関する男女均等待遇指令

2004年12月、EUは、雇用関係を超えるすべての生活領域への均等待遇原則の拡張を目的とした財・サービスへのアクセスや供給に関する男女均等待遇指令を採択した。

指令は、特定の条件下での数多くの例外規定を含んでいるものの、均等待遇を保険や金融サービス業者等が配慮すべき基本原則であると規定した。例えば、加盟国は、性別がリスク算定の決定要因の一つである場合に、個人の保険料や利益における合理的な格差を許容してもよいが、いかなる異なった取り扱いも関連する正確な統計データに基づくものでなくてはならない。またそれらのデータは公開され定期的に更新されなければならないとしている。

指令案は、一般に提供されている物やサービスで個人や家族生活の領域外のものに限定され、メディアや広告の内容、公的・私的教育には適用されない。指令案は、3年間の移行期間を設け、加盟国がより高度で広範な保護水準を追求できるよう、最低条件のみを規定している。

(3)労働時間指令改正案

欧州委員会は、2004年9月22日、1)週48時間労働制の適用除外要件の厳格化、2)待機時間に関する新定義の導入、3)代償休息期間の付与期限の設定――の3点を主な内容とする労働時間指令(1993年採択)の改正案を発表した。

改正案は、平均週労働時間の上限を、時間外労働を含め48時間とする規定を維持した。また、平均週労働時間の算定基礎期間を最長4カ月とする現行規定を据え置いたが、加盟国は国内法によりこの最長期間を1年まで延長できることとした。ただし、最長期間の延長には事前のソーシャル・パートナーとの協議が必要。

労働時間の上限規制については、加盟国が国家レベルで週48時間労働制の適用を除外する方法を採用できるが、使用者と労働者間の合意において尊重されるべき条件をより明確に国内法に規定する必要があるとした。具体的には、現行指令の特例で労働者個人の同意があれば可能とされている適用除外を、中央、地方、産業別等労使の団体協約等による合意が必要とした。ただし、労働組合や従業員代表組織がなく団体交渉が行われていない事業所については、労働者個人の同意のみで可能とされた。また、労働者個人の同意については、1)書面によること、2)労働契約締結時や試用期間中の同意は無効、3)適用除外の有効期間は1年以内(更新可能)、4)団体協約で規定されていない限り、いかなる場合も週65時間を超えて労働させてはならないこと、5)使用者は労働者の勤務時間を記録し、監督当局の要請により開示する義務があること――等のより厳格な条件が課せられた。

欧州委員会はまた、労働時間と休憩時間の間に位置する「待機時間(On-call time)」という新たな概念を導入した。待機時間は「労働者が職場において、使用者の要請があった場合に職務を遂行できる状態で待機している義務を負っている時間」と定義され、待機時間のうち実際に仕事をしていない「不活性待機時間」は、労働時間に含めなくとも良いとされた。ただし、加盟国は国内法や団体協約において規定した場合には、不活性時間を労働時間に算入することができる。

代償休息期間について、現行指令は、24時間ごとに11時間または7日ごとに24時間と1日分の11時間を合計した35時間の休息期間を与えなければならないとしているが、特定の職種における特定の条件の下で、この規定の適用除外を認めている。ただし、国内法又は労使協定で同等の期間の代償休息を与えなければならないとしている。今回の改正案は、新たにこの代償休息期間を72時間以内に与えなければならないと規定した。

改正案の発表後、雇用社会問題相理事会において数度に渡りこの問題に関する討議が行われたが、加盟国間で大きな意見の相違があり、未だ合意をみるに至っていない。

(4)男女均等待遇に関する指令の統合

2004年11月、雇用社会問題相理事会は、雇用及び職業の分野における男女均等待遇の実施に関する7つの指令を1つにまとめた新たな指令を作成することについて合意した。統合される指令は、1)男女同一賃金指令(75/117/EEC)、2)男女均等待遇指令(76/207/EEC、改正後2002/73/EC)、3)職域社会保障制度における男女均等待遇指令(86/378/EEC、改正後96/97/EC)、4)性に基づく差別事件における挙証責任に関する指令(98/80/EC、改正後98/52/EC)――である。本件は、今後欧州議会の承認を受けて実施されることとなる。

3.欧州の労使関係

(1)欧州委員会、ソーシャル・ダイアログに関する報告書を発表

2004年8月12日、欧州委員会は、「拡大欧州における変化のためのパートナーシップ~ソーシャル・ダイアログの強化に向けて」と題する報告書を発表した。報告書は、欧州レベルのソーシャル・ダイアログの進展について分析し、さらなる改善に向けた欧州労使と欧州委員会の取り組みを挙げている。これは1998年の報告書に続くもので、リスボン戦略の中間地点において、欧州のソーシャル・ダイアログの資産を検証するためのものである。

報告書は、労使自治の拡大や欧州レベルの労使が共同文書に調印して加盟組織に勧告を出すとともに、各国の状況についてフォーローする方法の導入など、いつくかの面でソーシャル・ダイアログの進展が見られたとしている。欧州労使は、今日までに、非常に多岐に渡る問題に関して300以上の共同文書を採択している。欧州委員会は、欧州労使に対して、加盟組織の共同文書に関する理解促進に努め、共同文書の効果をより高める活動を行っていくよう奨励している。

リスボン戦略が掲げる目標を日程どおり達成するためにも、ソーシャル・ダイアログの進展が非常に重要である。そのためには欧州労使協議会(E.W.C)を通じ、労使関係の異なるレベル間における相乗効果を高めていかなければならない。報告書は、欧州労使が自らソーシャル・ダイアログの枠組みをより発展させるとともに、国境を越えた団体交渉の問題にも取り組むよう促している。

(2)欧州委員会、「欧州の労使関係(2004年)」を発表

欧州委員会は、2005年1月、「欧州の労使関係(2004年)」と題する報告書を発表した。報告書によると、グローバル化による大規模な変化は、欧州における労使関係を、より重要なものとしつつあるという。また企業レベルの交渉における労働者の基本的関心は、短期の経済的利益よりも雇用保障に向かっているとしている。

グローバル化は、労働組合と使用者を取り巻く環境を変化させている。仕事と家庭生活の調和、仕事におけるストレスへの対応、パート労働者や臨時雇用などの新たな雇用形態に対する保証の確保などの新たな挑戦が生じている。

2001年のEU平均の労働組合組織率は26%であり、デンマーク、フィンランド、オランダ、ポルトガル、スペイン及びスウェーデンなど、いくつかの国では労働協約適用率が上昇した。これは、使用者団体の高い組織率及び団体協約の未組織労働者への拡張適用によるものである。その他の諸国のほとんどは、適用率が労働者の3分の2の水準で安定している。

報告書は、労使関係における最近の重要な傾向は、団体交渉の分権化、つまり産業や中央レベルよりも企業レベルで行われる交渉が増えていることを示している。

一般的な傾向にもかかわらず、各国の労使関係制度は、非常に多様であり続けている。すべてに適用できる処方箋はない。共通理解と相互信頼に基づく協力と協調と程度が、交渉を成功させる秘訣である。

分権化が進むと、より協調が必要となってくる。他方、ベルギー、ギリシャ、アイルランド、イタリアなど、いくつかの国では、この協調がより中央集権化している。一つの例としては、政府が関与して賃金交渉の制限を設定する社会的合意が挙げられる。中央集権化された協調は、とりわけユーロ圏諸国で、インフレを管理する方法として、一般的となっている。

協調の進展は、欧州レベルでも見られる。欧州労使による欧州レベルの交渉は、最良の事例を取り入れる価値ある基盤となっている。それらは、EU諸国が直面している技術変化、高齢化などの共通の挑戦に注意を促す助けとなる。

欧州レベルの交渉は、両親休暇、仕事のストレスやテレワークなどの新しい課題に関し労働組合と使用者が合意した協約に加えて、基本的権利に関する法制度を通じて、最低の枠組み条件を設定するのに貢献している。

注:

参考:

  1. 欧州委員会ホームページ
  2. 欧州労使関係観測所オンライン(EIRO)

バックナンバー

関連情報

お問合せ先

内容について

調査部 海外情報担当

お問合せページ(事業全般に対するお問合せ)

※内容を著作物に引用(転載)する場合は,必ず出典の明記をお願いします。

例) 出典:労働政策研究・研修機構「基礎情報:EU」