基礎情報:タイ(1999年)・続き
※このページは、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。
6.労働時間
1.労働時間に関する法律の概要
労働時間に関する規定は労働保護法B.E.2541(1998年)に定められている。同法の概要は以下のとおりである。
1日、週当たり労働時間
労働保護法は、1日の就業時間は8時間を超えてはならず、 1週間の総労働時間は48時間を超えてはならない(ただし、政府規則に規定された労働者の健康と安全を脅かす可能性のある作業の場合は、1日の就業時間は7時間を超えてはならず、1週間の総労働時間は42時間を超えてはならない)、と定めている。
休憩
法律で定める休憩時間は以下のとおりである。
- 毎日の休憩:1日に最低1時間。2時間以上の時間外労働の前に20分(残業休憩)
- 週ごとの休息:最長6日間の勤務後に最低1日
- 年間の休暇:1年間の勤務後に最低6日
時間外労働
法律は以下のとおり定めている。
- 1日または1週間当たりの最大時間外労働時間数の規定はない。
- 従業員の同意を必要とする。
- 妊婦または18歳未満の従業員に時間外労働をさせてはならない。妊娠中の時期に関してはまだ規定がない。
2.有給休暇の概要
有給休暇に関しては、労働保護法B.E.2541(1998年)によりつぎのように規定している。
- 1年間継続して勤務した従業員は1年当たり6日以上の年次有給休暇を取ることができる(第30条、56条)
- 勤務期間が1年未満の従業員の場合は、使用者は当該従業員の勤務日数に基づく案分比例計算により年次有給休暇を決定することができる(第30条)
- 従業員は疾病の状況に応じた医療休暇(有給)を取ることができる(第32条、57条)。医療休暇の年間日数は30日以内(第57条)
- 避妊手術および類似処置(第33条、第57条)のための有給休暇
- 雇用契約で認められた自己都合のための(第34条)休暇
- 規定による教育および能力開発のための休暇
- 軍事訓練召集:有給休暇60日間
- 産休は90日間。うち45日間は有給
7.労使関係
1.労使関係概況
タイにおける労使関係は、長い間、3者構成主義であった。しかしながら、職場では政府が介入しない2者構成の労使関係が奨励されている。
労使関係の基本的枠組みについては、労働関係法B.E.2518(1975年)で定めている。同法では労働者が「企業別組合」もしくは「産業別組合」を組織することを認めている。労働組合数は増加しているが、実質的に活動する組合は少ない。だが、労働組合運動の規模は小さく、脆弱である。
政府は使用者と労働者間が理解を深めることにより、労使間の平和を促進する努力を続けている。
- 労働組合数
- 1008(1999年1月)
- 労働組合員数
- 26万5000人(1999年1月)
- 組織率
- 6%(1997年推計)
- 労働争議件数
- 403件、うちストライキは4件のみ(1998年)
- 争議参加労働者数
- 8万1920人、うちスト参加者はは2224人(1998年)
注:組織率はYearbook of Labour Statistics, 1998 に基づき計算
出所:A Report on Social Welfare Administration and Labour Protection, 1998/1999, Ministry of Labour and Social Welfare
2.労働組合および労使関係関連の法律
現在の労働関係法B.E.2518(1975年)は、内務省の労働関係B.E.2515(1972年)に関する通達を改正したものである。同通達は、国家最高議会のNo.103 B.E.2515に基づいている。
タイの1975年労働関係法では、企業別組合と産業別組合のみの登録が認められている。企業別組合の組合員は、同一使用者に雇用される従業員でなければならない。産業別組合の組合員は、同一産業で働く労働者でなければならない。複数の組合への加盟は、法律で禁止されている。
同法では、民間企業従業員のための自主的仲裁を規定しており、企業レベルでの団体交渉を奨励している。団体交渉が決裂した場合は、労働関係委員会(LRC)による調停および仲裁を求めることができ、それでも解決しない場合は労働裁判所への上訴が認められている。
3.労働組合
1975年労使関係法では労働者が組合を組織することを認めている。
1999年現在、1008の組合に26万5000人の組合員が加盟しており、これは、同法規定の民間企業労働者数464万人の約6%に当たる。労働者が組合に加盟した場合、同法に定めるいくつかの権利は組合員個人でも行使できるが、大部分は労働組合の一員として同法に定める権利を行使することになる。
労働組合のナショナルセンターは1999年5月現在で以下の8組織がある。
- Labour Congress of Thailand (LCT)(タイ労働会議)、139労組、12万3000人、ICFTU(国際自由労連)加盟
- Thai Trade Union Congress (TTUC)(タイ労組会議)、190労組、6万5000人、ICFTU(国際自由労連)加盟
- National Congress of Thai Labour (NCTL)、218労組、3万人
- Confederation of Thai Labour (CTL)、62労組、3万人
- National Labour Congress (NCL)、55労組、2万人
- The National Congress of Private Employees of Thailand (NPET)、30労組、2万人
- National Free Labour Union Congress (NFLUC)、54労組、1万人
- Thailand Council of Industrial Labour (TCIL)、30労組、5000人
出所:ICFTU-APRO(国際自由労連アジア太平洋地域組織)資料
4.使用者団体
1975年労使関係法では、民間企業の使用者が団結する権利を認めている。
1999年現在、全国で、使用者協会(大半は業種別団体)が154団体、使用者連合(Fedelation)が3団体、使用者連盟(Confedelation)が9団体ある。団結する権利のほか、使用者は、職場で争議が発生した場合に、ロックアウトの権利が認められている。
8.労働行政
1.労働政策の概況
国家経済社会発展第8次計画B.E.2540-2544(1997年~2001年)では労働政策に関して以下のとおり記載している。
- 人的資源開発の強化が可能な社会環境の整備、労働者保護制度の改善
- タイ全国民の潜在能力の開発、とくに困窮層、若年層について
同計画では下記手段による労働者保護制度の改善強化を計画している。
- 民間企業の労働福利に関する条項に関係した法律の改正
- 職場における労働者保護および安全策の改善
- 農業と非農業の両方の分野における安全策とよりよい労働条件の導入
- 使用者と従業員、双方のための労使関係制度の促進
- タイ国民の社会公正制度および人権の行使において効率を高める
労働社会福祉省は、第8次国家計画の他にも「2000年への展望」の中で以下の各点を発表している。
- タイ人労働者は「東南アジア地域最高の熟練者」となるべきである。このためには人的資源開発、すなわち管理、技能の訓練が不可欠である。
- 全労働者に対して正規雇用による職と適切な所得の確保が望まれる。
- 労働者と他フ困窮層のための社会福利条項についての目標を達成する。
- 全国民がよりよい生活水準に置かれるべきである。
- 労働社会福祉省は「人民の、人民のための省」を目指して努力をする。
- タイの、そして世界水準の優れた人的資源の創出を目指し、人的資源開発計画を定める。
2.労働関連行政機関
労働社会福祉省の組織は以下のとおりである。
- 労働社会福祉省
- 大臣官房
- 次官室
- 職業斡旋サービス部
- 社会福祉部
- 技能開発部
- 福祉・労働者保護部
- 社会補償室
9.労働法制
雇用、労働関係はすべて、労使双方の利益、権利、責任を保護する法律の枠組みおよび労使関係制度の秩序ある実施を目的とした法律に明記されている。
労働者保護法では雇用条件、つまり労働時間、労働日数、休憩時間、長期・短期の休暇、時間外労働、安全および適切な労働環境、賃金の支払い、退職金の支払い、女子および若年者の雇用制限について定めている。
労働関係については法律では労働組合、使用者団体、団体交渉の手続き、和解および仲裁、ストライキ、不当労働行為などについて定めている。
タイの労働法は、その短い歴史の中で、以下のように発展してきた。
(1)労働法B.E.2499(1956年)
この法律は、労働者保護および労働関係の双方を網羅し、完全な独立した法律として制定された。その中で、労働者の組織化の権利、交渉権、ストライキ権を法的に承認した。しかし、同法は1958年のクーデターにより短命に終わった。
(2)民法・商法(575項~586項)
この法律は、現存し、雇用契約に関する条項が盛り込まれている。
(3)国家最高議会No.103 B.E.2515(1972年)
この法律がもととなり、下記の法律が制定されている。
- 労働者保護に関する内務省通達B.E.2515(1972年)。これが後の労働保護法B.E.2541(1998年)である。同法は、1998年8月19日に発効した。
- 労働関係に関する内務省通達B.E.2515(1972年)。同通達が、現行の労働関係法B.E.2518(1975年)へと推移した。
- 労働災害補償基金に関する内務省の通達2515(1972年)。同通達は労働災害補償基金法B.E.2537(1994年)へと改正された。同法では、職場で発生した労働災害、事故および死亡に関係する労働者に対する補償金について定めている。
上記の労働保護法B.E.2541(1998年)は下記のとおり13章、166条からなっている。
労働保護法の目次
- 第1章 総則
- 第2章 一般的労働使用
- 第3章 女子労働の使用
- 第4章 年少者労働の使用
- 第5章 賃金、超過勤務手当、休日賃金、休日超過勤務手当
- 第6章 賃金委員会
- 第7章 福祉
- 第8章 労働安全、労働衛生およぴ環境条件
- 第9章 管理
- 第10章 停職
- 第11章 退職金
- 第12章 請願書の提出および審査
- 第13章 従業員援助基金
- 第14章 労働監督官
- 第15章 文書の送達
- 第16章 罰則
- 補則
(4)社会保障法B.E.2533(1990年)
この法律では、労働者の医療手当ならびに障害を負った労働者のためのその他の福利について定めている。この社会保障計画では、特定の葬儀費用、出産手当などを規定している。10人以上の従業員を雇用する企業は、いずれも社会保障基金に加入し、各従業員の月給の1.5%を拠出しなければならない。従業員ならびに政府も、同率を拠出しなければならない。1999年に、社会保障法の適用範囲が高齢者年金および障害者支給金にまで拡大された。また、従業員および使用者の負担率がともに3%~4.5%引き上げられた。失業給付金についてはまだ議論されていない。
(5)積立基金法B.E.2530(1987年)
この法律では、従業員および使用者の従業員積立基金への加入を任意としている。同基金は、従業員および使用者が、従業員の月額賃金の3%以上を平等に負担しなければならないと定めている年金制度である。この負担金に対しては所得税が控除される。年金所得についても課税されない。
この他にも次のような雇用および労使関係に関する法律がある。
- 労働裁判法2522(1975年)
- 見習労働者2537(1994年)
10.労働災害
1.労働災害の概況
1998年度労働者補償基金報告書によると、労働災害、疾病障害者18万6498人に対して補償金が支払われたが、その内訳は死亡790人、疾病19人、障害3714人であった。交通事故による労働者の死亡が最大件数(402件)を占めた。業務に起因する疾病と診断されたのははわずか35人のみである
- 労働災害に遭った労働者数
- 21万1850人(1997年報告)、18万6498人(1998年)
- 労働災害による死亡
- 790件
注:労働災害労働損失日数に関する公式データはない。
出所:The Workmen Compensation Fund Report,1998
2.労働災害補償制度の概要
労働者補償金制度は、労働者補償金法により定められている。労働者補償金は、労働社会福祉省により管理されている。業務に関係する補償は、使用者が負担する従業員補償金基金に規定されている。業務に関係のない補償については、社会保障基金が、業務関係以外の補償を扱う。同基金は、使用者、従業員ならびに政府が負担する。
11.その他の関連情報
1.社会保障制度の概要
タイでは各種の長期および特別社会福祉プログラムが計画されている。退職年金、児童福祉、高齢者福祉、障害者福祉に関する条項がある程度施行された。
(1)退職年金制度
民間企業従業員のための退職年金制度、公的部門労働者のための年金制度がある。民間企業向け制度は、積立基金に基づいており、希望者が対象となっている。各種の民間企業が、年金資金として自社独自の積立基金、信用組合を設置している。
公務員の年金制度では公務員は、公務員年金基金への参加、あるいは60歳から国の年金給付を受けるかのいずれかを選択できる。年金給付額は、労働者の勤務年数および退職時の賃金額に基づいて決定される。
(2)医療補償制度
公共保健省は、低所得者を対象として公共健康保険制度を導入した。この他にも低所得者には、公共医療機関で無料またはわずかな費用で治療が受けられる制度がある。しかし民間の医療機関では、患者は医療費の全額を支払わなければならない。多くの民間企業は、従業員の医療費を一部負担している。
(3)社会福祉制度
タイの社会福祉制度は以下を目的としている。
- 社会の困窮層にあたる国民の請求に対して支援、援助を提供する。
- 自立していない国民の自立促進を図り支援する。
- タイ国民の間に調和のとれた社会を形成する。
社会福祉制度は、児童、若年層、高齢者、身体障害者、女性、世帯、地域などへの福利支援のほか、ボランティア活動も含む。政府は、家族に見捨てられた高齢者や自立生活を希望する高齢者に住居を提供している。身体障害児のためには特別の教育機関がある。児童福祉保護計画は、労働社会福祉省社会福祉部により実施されている。
2.人的資源開発、教育訓練
職業教育および訓練は、普通教育制度(学校制度)の中に大部分組み込まれているが、一部は公立、私立の職業訓練機関で実施されている。現在、100以上の公立の技術および職業訓練機関がある。国の経済発展を支援するための国家経済社会発展政策に基づく制度として、政府は、タイ全体で熟練技能労働者を増やすための包括的プログラムを導入した。
労働社会福祉省技能訓練開発部は、労働者の技術水準を高めることを目的とし、各種の技能訓練コース、プログラムを提供している。また、技能訓練センターが、全国に設立されている。
3.一般学校教育制度
タイの学校教育は、ラマ5世時代(19世紀後半)以降、長年にわたり手を加えられ、改善されてきた。
現在の普通学校教育制度は、以下のとおりである。
- 幼稚園2年間
- 小学校6年間(P1 - P6)
- 中学校3年間(M1 - M3)
- 高等学校3年間(M4 - M6)
- 第三次レベル4年間(大学)
職業教育については、普通学校教育の終了後に進むべきオプションとして、以下の2制度がある。
- 初等職業訓練レベル(3年間)
- 高等職業訓練レベル(2年間)
- 第三次レベル(2年間)
参考資料:
- Yearbook of Labour Statistics, 1998,Ministry of Labour and Social Welfare
- A news letter of National Economic and Social Development Board, Indicators of Well-Being and Policy Analysis, Volume 2, Number 4,October 1998
- Labour Protection Act B.E.2541(1998)
- A Report on Labour Welfare and Labour Protection Administration 1998/1999, Ministry of Labour and Social Welfare,1999
基礎情報:タイ(1999年)
- 1.一般項目、2.経済概況、3.対日経済関係、4.労働市場、5.賃金
- 続き(6.労働時間、7.労使関係、8.労働行政、9.労働法制、10.労働災害、11.その他の関連情報)
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