基礎情報:ハンガリー(1999年)・続き

※このページは、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

  1. 労働時間
  2. 労使関係
  3. 労働行政
  4. 労働法制
  5. 労働災害

現行の労働時間規制の原則は1980年代に導入された。週当たり労働時間は、1981から82年に、週5日労働制と併せて、44時間から42時間に短縮した。有給の基本休日は、2週間から3週間に増加した。これらの社会政策によって政府が意図した目的は、1980年代の実質賃金の減少と均衡を保つことであった。政府のこの構想は、賃金労働者の一部には歓迎されなかった。週5日制で、42時間労働という制度は、1日当たりの労働時間増によって実現されたからである。たとえば1982年以降、昼食時間は労働時間の一部とされなくなった。これは、労働時間の増加を意味する。この欠陥を克服するため、1984年に、別の労働時間削減が打ち出された結果、週40時間労働制が導入された。

労働時間の短縮は、最初に工業、建設および公共部門で実施された。労働時間削減は、つぎのような「皮肉」を生んだ。ハンガリー全体の労働時間は減少しなかったのである。実質賃金の減少のため、1980年代末まで、労働者の多くは、所定労働時間終了後、自由な時間を利用して別の労働活動に参加していたのである。

1992年の新労働法は、週40時間労働制を強化したが、間接的方法を用いた。この法律によれば、毎日の労働時間は8時間であり、使用者は、従業員に毎週2日の休暇を与えることが義務づけられている(公共部門は、週40時間労働となっている)。目立った議論もなく、ハンガリーでは年間労働時間が減少したことを指摘する必要がある。

たとえば、基本休暇は、3週間から4週間に増加した。有給休暇もまた、年8日から9日に増加した。最後に、相当な失業率にもかかわらず、社会的パートナーの側における現在の労働時間配分を改変しようという構想は、非常に弱かったことを指摘するのは意味があろう。このことは、ごくわずかな従業員だけが、様々な型の「フレックス」労働時間配分に従って働いていることを意味する。この点について、外国の企業、とりわけ多国籍企業が、労働時間配分の多様化を実施する先頭に立っていることを指摘する必要があろう。

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1.労使関係概況

ハンガリー労使関係における主体と制度は、1988年以降の集中的立法を通じて、市場経済、多元主義的議会制民主主義および公有財産の民営化への転換という、非常に複雑な過程を経て創出された。以下の法律が、市場経済に適合する制度の創出に、決定的役割を演じた。「公有企業転換法:1988年、ストライキ法:1989年、雇用法:1991年、新労働法:1992年、破産法:1992年、民営化法:1992年、社会法:1993年」。

新しい社会的パートナーおよび彼らの戦略は、転換の初期から、顕著な変化を経験してきた。国家は、その使用者として並びに政治的役割によって、労使関係領域において最も重要な主体であり続けた。このことにより、以下の役割を国家は果たす責務がある。

  • 労働立法とその実施の監督
  • 雇用サービスの創出と維持
  • 労働組合連合と使用者協会との、3者交渉への参加

3者構成団体(利益調整国家評議会、NCRI)は、政治的転換以前にすでに創られていたが、社会的対話を発展させ、1980年代の悪化する経済状況下における政策決定責任を分かち合う目的を有していた。NCRIにおける3者構成の全国レベルでの交渉は、後にハンガリー労使関係に関する基本的規則、原則および標準的規制を作成し、安定化させるのに役立った。近い将来、ハンガリー政府は、NCRIの活動を再構成し改善する計画であることを指摘する必要があろう。国の経済的および社会的文脈において、10年以上の経験と変化を経たからには、こういった変化は実際に必要であろう。変化の方向に関しては、つぎの3つの核心的側面が区別されるべきである。

  1. 国の経済政策に関連する問題
  2. 労働界の課題に関連する問題
  3. 国のEUへの統合に関連する事項

現時点では、計画された変化の帰結について、これ以上を語ることはできない。使用者並びに従業員組織(労働組合)の過半数は、計画された変化に対して、強い留保を示している。変化自体の方向や必要性に疑問が呈されているのでなく、上に述べた変化の準備に際して、それぞれの社会的パートナーとの対話が欠けていることに、疑問が投げかけられているのである。

2.労働組合

主な労組の全国組織はつぎのとおりである。

  1. MSZOSZ(全ハンガリー労働組合協会)は、従来の統一された労働組合の後継団体であるが、現在の組織形態で、1988年以来、下部組合の連合体として存続している。
  2. ASZOK(自主労働組合連合)は、化学、薬品および鉄道部門の一部における、幾つかの有力な従来の下部組合の後継組織である。
  3. LIGA(独立労働組合民主連盟)は、1980年代の終わりに、党国家に政治的に反対する運動の一部として生まれた、最初の真に独立した労働組合連合である。
  4. MOSZ(全国労働者評議会同盟)は、別の新しい独立労働組合センターであり、産業組織の自己統治体に対して強い郷愁をもつ、熟練労働者によって一部の工場に創られたものである。
  5. SZEF(労働組合協同フォーラム)は、公行政とサービス部門における、もっとも影響力のある組織である。
  6. ESZT(知的労働者労働組合協会)は、教育と研究部門における幾つかの組織から成る比較的小さな労組センターである。

3.使用者団体

主な使用者団体はつぎのとおりである。

  1. MGYOSZ—Magyar Gyáriparosok Országos Szövetsége(ハンガリー製造業者全国協会):ハンガリーの大企業の所有者や、一部の外国資本の会社が集まっている。
  2. MMSZ—Magyar Munkaadói Szövetség(ハンガリー雇用者協会):公共および混合(公共プラス民間)企業の使用者団体である。
  3. VOSZ—Vállalkozók Országos Szövetsége(全国実業家協会):中小企業の団体である。
  4. OKISZ—Magyar Iparszövetség(ハンガリー工業者連合)
  5. IPOSZ—Ipartestületek Országos Szövetsége(工業技能工協会):OKISZとIPOSZは、ともに職人を代表している。
  6. AMSZ—Agrár Munkaadöi Szövetség(農業使用者協会)
  7. MOSZ—Mezögazdasági Szövetkezök és Termelök Országos Szövetsége(全国農業生産者・協同組合連合)
  8. ÁFEOSZ—Általános Fogyasztási Szövetkezetek Országos Szövetsége(一般消費者協同組合全国連合)
  9. KISOSZ—Kereskedök és Vendéglátók Országos Érdekképviseleti Szövetsége(全国小売商復興連合)

社会的パートナーの中で、使用者は最も多様性を持っている。使用者の利益は、その政治的影響力と同様、個々の企業の属する部門や大きさによって相当に異なっている。最近の民営化過程の終了と、ハンガリー経済に対するグローバル化の強い影響(たとえば、工業輸出の75%は、外国系企業によって生産され、多国籍企業はGNPの25~30%を生産している)によって、使用者側は、依然として流動的な状態に置かれている。使用者のバラバラの連合体は、労働組合側に比べて、基盤や伝統を欠いている。調整機能や共通の利益意識を欠いているので、使用者は、全国レベルでの3者交渉における最も弱い社会的パートナーとみなされている。

ようやく最近になって、1999年の初め、さまざまな使用者団体間の協力を強めようとする努力を労働問題の専門家が支援するようになった。たとえば、全国実業家協会(VOSZ)と工業技能工協会(IPOSZ)との共同戦略を開発しようという努力がなされている。同様に、2つの大きな雇用者団体、すなわち、MGYOSZとMMSZとの間で、協力を深めようとする動きがみられる。両者は、全国レベルの交渉における使用者団体の力を強めるため、さらに密接に協力することで合意した。

労使関係領域における、異なる使用者団体の戦略についてみれば、それらは全く均質性を欠いている。中小規模の企業(SMS)所有者は、どちらかというと保守的で、反労働組合政策を代表している。彼らは、労使関係への国家の介入に反対している。多くの中小規模企業においては、全国レベルの3者間交渉において定められた最低賃金水準でさえ実施されていない。法的規制と保護のない「もぐり労働」の大部分は中小企業で雇用されている。

大企業の使用者や管理者は以前から、労働組合との社会的対話と、従業員との直接交渉の伝統をもっていた。こういった企業では、(完全に民営化されたか、あるいは部分的民営化、もしくは依然として国有の何れかの)管理者側は、労働組合との合意と協力を保つことに心を砕いている。残っている国有企業のうちのある場合については、管理者側と労働組合は、より多くの補助金、融資、投資を政府から獲得することに、共通の利益をもっている。たとえば、国有鉄道会社における、どちらかというと強力な例年のストライキは、3つの異なる労組によって共同で組織されているが、賃金引き上げと同時に、技術開発への補助について政府に圧力をかけている。

多国籍企業は、国有企業を全部もしくは一部買い取るか、あるいは、「グリーンフィールド」投資によって、ハンガリーに進出してきたのであるが、彼ら自身の労使関係モデルを導入している。これは、ある場合には反労働組合的であり、ほかの場合には、企業レベルでの労使の意思疎通と交渉を良好に運用している。多国籍企業のハンガリー工場での労使関係慣行は、労働組合によって挑戦とみなされている。たとえば、化学工業部門の労組は、使用者との団体交渉に関する共通基盤を確立するため、多国籍企業の本国の労組との協力をすでに開始している。

衣料産業の企業レベルの労使関係において、最近実施された調査結果を引用することには興味深いものがある。この調査によれば、労働組合の組織率は、ハンガリー資本が所有し、規模が大い企業ほど高くなっている。一方、調査対象の多国籍企業の「グリーンフィールド」企業7社のうち、1社しか組合が組織されていない。これは、ほかの調査統計とも整合的で、労使関係のいかなる遺産ももたない、新たに設立された企業で労働組合が組織化を進めることのは直面している基盤を築くことの困難さだけでなく、「グリーンフィールド」部門での雇用の急速な成長を物語っている。

表:衣料産業における企業内労組の数
労組数 ハンガリー企業 外国企業 中小企業 大企業 GF企業
労組なし 39.3% 42.9% 50.0% 26.7% 85.7%
1労組 53.6% 57.1% 50.0% 60.0% 14.3%
2労組 7.1% 13.3%

注:GF企業とは「グリーンフィールド企業」のこと。

出所:Munkaügyi politika és munkaügyi folyamatok, 1994-1998, Munkaügyi Minisztérium (Labour Related Policy and Process:1994-1998), Ministry of Labour

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1. 労働政策の概況

過去4年間の労働政策の中心目標は、1994~1998年ハンガリー政府計画に定められていた。政府は、変化する社会経済的環境からの課題に、絶えず取り組まなければならない。以下、雇用、職業訓練および労使関係に関する労働政策を概観したい。

雇用政策

1990年から1994年の間に、ハンガリーでは100万人以上の職が失われ、1994年の初めには、57万1000人の失業者が登録されていた。雇用の減少は依然として続いているが、雇用の減少速度は低下している。雇用法(1994年)の第一修正として、政府は、年間予算に関連して、「雇用原則」を用意しなければならないことになっている。

これらの原則および関連する年間行動計画は、政府の雇用政策の主要な推進力であった。つぎに掲げた原則は、政府の雇用政策を実行するに際して、顕著な役割を演じたものである。

  1. 教育システムと労働市場の要求との同調
  2. 職歴、職業選択システムのさらなる開発
  3. 失業率が特に高い地域に対する様々な便宜
  4. 不利な立場にある少数者(たとえば、ジブシー)集団のために考案された、特定対象向けの計画
  5. 失業率が15%以上の地域で運営される、雇用支援(相談)サービスは、大幅な課税免除の優遇措置を受ける。

1996年の雇用原則は、地方政府、地域開発評議会および各省によって始められた、様々な形態の投資に際して、公共部門の雇用を促進するための「公共労働評議会」の、従来の慣行を改めることをねらいとしていた。雇用政策における前政府の最も重要な決定の1つは、雇用の増大を促進する目的をもった、多様な基金(たとえば、受動的労働市場政策としての、失業者連帯基金や積極的労働市場政策の手段としての雇用基金は、「労働市場基金」と呼ばれる1つの基金に統合された)の統合であった。この「労働市場基金」は、労働関係の社会的パートナーによって統制されている。最も重要な決定は、「労働市場基金運営委員会」の18人の委員によってなされる。この委員会の委員は、政府、使用者、および労働組合からそれぞれ等しく選出されている。

職業訓練システムの確立

この点に関して、最も重要な変化は以下の通りである。第1に、ハンガリーの職業訓練は、従来の14歳からではなく、10年間の義務教育終了後の、16歳時から始まることとなった。第2に、伝統的職業訓練の比率は減少し、中・高段階での専門的(技術的)訓練の重要性が高まっている。このような変化は、世界銀行、貸付とEUによって支援されている。

労使関係システム

最も重要な制度的変更の1つは、この制度を利用したいという労使がほとんどいなかったにもかかわらず、労働仲裁・調停サービス(1996年)が創出されたことである。

その他の目に付く構想は、利益調整国家評議会(NCRI)の活動の再編成ないし構造改革計画であったが、いずれも失敗に終わった。この再編成は、使用者側、労働者側双方から強い抗議を受けたが、1998年の国政選挙に勝った新しい中道右派政権によって改めて実施されることになろう。

2. 労働関連行政機関

経済省(Ministry of Economy)と家族・社会問題省(Ministry of Family and Social Affairs)が労使関係、労働政策を協力して管轄している。しかし、現在まで、明確な役割の分担は行われていない。

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1999年初頭においては、労働法制分野に関して重要な変化について述べることは出来ない。今日、政府は、労働法の一部を改正しようと計画している(たとえば、従業員は、病気休職中に解雇できる)。しかし、計画されている変更の影響を記述するには、今はまだ早すぎる。

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1. 労働災害の概況

安全に関する政府報告は、法律第92号17条第3項の定めに基づき、全国労働安全監督・調整局によって準備される。

最新の報告書は、1998年11月に発表された。同報告書によれば、労働災害関連事故および労働災害関連死亡は次表にまとめた。

表:労働災害件数(1994-98年)
  1995年 1996年 1997年 1998年
災害件数 22,088 21,191 19,832 19,487
死亡件数 127 110 96 111

出所:Tajekoztato A munkabalesetek alakulasarol Tájékoztató a munkabalesetek alakulásáról1998 National Labour Sefety Supervisory Agency, (in Hungarian)

参考資料:

  • A munka vilaga 1998(The World of Work 1998), Budapest: Labour Research Institute and Association of Labour Relations, 1998 (in Hungarian Language)を表したもの

基礎情報:ハンガリー(1999年)

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例) 出典:労働政策研究・研修機構「基礎情報:中欧・東欧」

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