資料シリーズ No.171
若年者のキャリアと企業による雇用管理の現状
:『平成25年若年者雇用実態調査』より

平成28年5月31日

概要

研究の目的

本研究は、より多くの企業を多様な若年者が健全かつ安定的にキャリアを形成できる場として発展させるため、若年者のキャリア形成過程の現状と、企業の若年者に対する人材需要および雇用管理等の現状を把握し、キャリア形成に困難を抱える若年者層や、若年者の育成・職場定着等に課題を抱える企業層を抽出する。さらに若年者の職場定着や能力開発状況、職業生活に対する満足度と、勤務先による雇用管理や労働条件等との関連を明らかにする。

研究の方法

厚生労働省の「平成25年若年者雇用実態調査」の二次分析を実施。調査時期は平成25年10月。調査対象は以下のとおり。

  • 事業所調査:日本標準産業分類(平成19年11月改定)に基づく16大産業に属する全国の常用労働者5人以上の事業所(有効回答:10,283事業所)
  • 個人調査:上記の事業所で就業する15~34歳の若年労働者(有効回答:15,957人)

本研究では事業所調査のデータと、事業所データと個人調査のデータを紐つけした「統合データ」を分析に用いた。統合データを用いる際には、在学者390人を除いた15,567人を分析対象とした。

主な事実発見

  1. 若年労働者がいる事業所を「労働者に占める若年者の比率が平均を超えるか否か」×「若年者を全て正社員として雇用しているか否か」によって4つの「若年人材需要類型」に分けたところ、「A:無職・非正規の若年者に正規雇用の機会を広く提供している」事業所層と、「B:若年者が健全かつ安定的にキャリアを形成できる雇用管理を実施している」事業所層とは重ならない傾向がみられた。A: 若年労働者比率が平均を超え非正社員も雇用している「若年中心使い分け型」の事業所は、多くの無職・非正規の若年者を正規雇用しているが、若年正社員に必ずしも長期勤続を期待するとは限らず短期促成する傾向が高く、自己都合退職者が発生しやすい。B: 若年労働者比率が平均を超え全員を正社員として雇用している「若年活躍型」の事業所は、若年正社員を長期雇用・長期育成する傾向が高く、法定労働時間内で働く若年正社員が多い一方で、新卒者中心の採用活動を行う傾向や、フリーター経験をマイナス評価する傾向が強い。
  2. 若年正社員の転職希望に影響を持つ要因は、若年者の性別や、勤務する事業所の「若年人材需要類型」によって異なる。職場定着対策の実施は「若年活躍型」と「若年中心使い分け型」の事業所でのみ有意な影響がみられた。若年労働者比率が平均以下で全員を正社員として雇用している「若年少数精鋭型」の事業所や、若年労働者比率が平均以下で非正社員も雇用している「若年正社員希少型」の事業所では影響がみられなかった。
  3. 最初の正社員の職を1年未満で離職した場合、現職の正社員比率は男性で59.5%、女性で29.0%であった。3年以上勤続後の離職のほうがその比率はやや高いが、女性の大学・大学院卒では逆に早期に離職したほうが高い。初職が非正社員の場合、不本意に同職についた男性では早期に離職したほうが現職の正社員比率は高い。
  4. 若年正社員の職業満足度は、企業規模が5~29人・1000人以上の事業所で高い。また職場定着対策として「仕事の成果に見合った賃金」「職場環境・福利厚生の充実」を実施することや、賃上げ、法定労働時間の遵守、長期的な育成方針、OJTだけに頼らない多様な育成方法、などの雇用管理によって向上する可能性がある。

図表1 企業規模別・産業別「若年人材需要類型」の分布

図表1画像

図表2 「若年人材需要類型」別男性若年正社員の転職希望の規定要因に関するロジスティック回帰分析
(従属変数:定年前に転職したいと「思っている」=1、『思っていない・分からない』=0)

図表2画像

図表3 「若年人材需要類型」別女性若年正社員の転職希望の規定要因に関するロジスティック回帰分析
(従属変数:定年前に転職したいと「思っている」=1、『思っていない・分からない』=0)

図表3画像

政策的インプリケーション

  1. 若年正社員の職場定着向上にむけて事業主向けの雇用管理改善支援を行う際には、若年者の性別や、事業所の「若年人材需要類型」によって効果のある対策が異なる点を考慮するべき。「若年中心使い分け型」の事業所では、勤務先事業所による「職場環境の充実・福利厚生の充実」の実施が男性の転職希望を、「仕事と家庭の両立支援」「職場環境の充実・福利厚生の充実」の実施が女性の転職希望を抑制する可能性がある一方で、「昇格・昇任基準の明確化」の実施が女性の転職希望を促進する可能性がある。「若年活躍型」の事業所では、「職場環境の充実・福利厚生の充実」「成果に見合った賃金」の実施が男性の転職希望を抑制する可能性がある。
  2. 不本意に非正規になった若者では、早期に正規雇用に向けての求職活動をすることは正社員就職率を高める可能性が高いことから、非正規雇用在職中でも就職活動がしやすいよう、利用しやすい相談体制や能力開発機会の充実が望まれる。

本文

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研究の区分

プロジェクト研究「経済・社会の変化に応じた職業能力開発システムのあり方についての調査研究」
サブテーマ「若年者の職業への円滑な移行に関する調査研究」

研究期間

平成26年度~平成27年度

執筆担当者

岩脇 千裕
労働政策研究・研修機構 副主任研究員
小杉 礼子
労働政策研究・研修機構 特任フェロー
金崎 幸子
労働政策研究・研修機構 所長
岡崎 佑大
労働政策研究・研修機構 臨時研究協力員

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