調査シリーズ No.131
若年者雇用支援施策の現状と更なる発展に向けての課題
ハローワーク求人企業「若年者雇用支援施策の利用状況に関する調査」より

平成 26年 11月21日

概要

研究の目的

本調査は、ハローワーク求人企業に対して実施した、若年者雇用支援施策の利用状況およびそれら施策を用いて採用した若年者の雇用管理実態に関するアンケート調査である。本調査の結果のうち、回答企業における施策活用状況についてはJILPT調査シリーズNo.117にて報告済みである。これに対して本報告は、施策を利用して採用された若年者の雇用管理実態を中心に取りまとめている。本報告の目的は、以下の二点である。調査結果は今後の若年者雇用支援施策の改善に向けての参考資料とする。

  1. 若年者雇用の改善に向けて政府が取り組んできた様々な若年者雇用支援施策について、企業による若年者の採用・育成等にもたらした影響を明らかにする。
  2. 多様な状況にある若年者を雇用・育成する場として期待される中小企業の若年者雇用の実態を分析し、若年者の採用、育成、定着に関する企業側の課題を抽出する。

研究の方法

調査対象
2011年4月1日~7日、9月1日~7日、2012年2月1日~7日の3期間のいずれかにおいて、ハローワークへ若年者を募集対象とする常勤の求人票を提出した全国の企業から10,000社を抽出した。回答は採用担当者に依頼した。
調査期間
平成25年1月~2月(原則として1月1日時点の状況を調査)
調査方法
質問紙調査(郵送式)
有効回収数
3,787社(有効回収率 37.9%)

主な事実発見

第Ⅰ部 若年者雇用支援施策の影響・効果の検討

(1)雇用支援施策が若年者の雇用機会拡大に及ぼした影響

  1. 「新卒採用中心」の企業が出す求人や、「情報処理」「その他の技術職」「福祉以外の専門職」を募集する求人は「長期的な人材確保・育成」を目的としている場合が多い。
  2. 「長期的な人材の確保・育成」を目的とする求人であっても、採用選考時に「実務経験」を重視しないとは限らない。
  3. 「3年以内既卒者(新卒扱い)採用拡大奨励金」「3年以内既卒者トライアル雇用奨励金」は、通常は実務経験を重視する「中途採用中心」企業が、「経験不問」で若年者を採用することを促進した。同時にそれらの企業は3年以内既卒者を「長期的な人材の確保・育成」を予定せず採用した可能性も示唆された(図表1)。

図表1 実務経験の重視傾向を規定する要因についてのロジスティック回帰分析
(従属変数:重視する=1,重視しない=0)

図表1画像

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(2)雇用支援施策が若年者の能力開発に及ぼした影響

  1. 雇用支援施策を利用して採用・教育された若年者の行動特性は「課題解決に向けて自律的に実行する行動(自律的行動)」と「他者と関わり合いながら課題に取り組む行動(他者との協働)」に分類された。
  2. 雇用支援施策を利用して採用された若年者の入社3ヶ月後の行動特性の水準は、採用時に利用した雇用支援施策の種別とは全く関連をもたなかった。
  3. 利用した雇用支援施策の種別にかかわらず、若年者の2種類の行動特性の水準はいずれも、入社3ヶ月後から調査時点までにかけて伸長した(図表2)。ただし「卒業後の経過期間が3年以内」の新卒者または既卒者が「試行雇用奨励金(若年者等トライアル雇用奨励金)」を利用して採用された場合「他者との協働」の伸び具合がやや鈍る傾向がある。
  4. 企業が若年者を採用後に実施した取組のうち、若年者の行動特性の伸長にどんな場合でも有効であった取組は「気軽に相談できる環境作りを心がけた」ことである。

図表2 雇用支援施策を利用した採用された若年者の行動特性得点の変化

図表2画像

(3)施策利用企業の施策に対する評価を規定する要因

企業が利用した施策について、総論として有益だったかどうかという評価と、特定の若年者(Aさん)の採用について有益だったかという評価の2つの面から、企業が雇用支援施策に対して感じる有益感を左右する要因を探った。

個々の施策に対する評価(有益感)は各種採用奨励金で特に高かった。また、多変量解析の結果、施策に対する総合的な評価は「応募の増加」「採用の成立」、採用された若年者の「職場への定着」「能力の伸長」によって決まることが明らかになった。特に「応募の増加」「採用の成立」が重要である。

第Ⅱ部 ハローワーク求人企業における雇用管理の実態

(1)採用方針(新卒採用と中途採用)と若年者の戦力化

新卒採用を重視する企業と中途採用を重視する企業の特徴と、若年者の戦力化の状況を分析した。その結果、「新卒採用重視」の企業の方が人材確保の成果が高く、定着向上策の実施率や支援施策の利用率も高いが、新卒採用をしなくても、採用時の見極めや教育訓練の充実、勤続の促進により若年層を戦力化できることが明らかになった。

(2)若年者の採用・育成におけるジェンダー差

企業の女性活用状況を、「従業員に占める女性割合」と「女性従業員に占める正社員割合」により4タイプに類型化し、雇用管理面の特徴を分析した。その結果、「女性積極活用タイプ」(従業員に占める女性比率が高く女性従業員に占める正社員比率も高い)の企業では、正社員の定着に向けたさまざまな取組みが行われる傾向があり、若年者の育成方法に男女差が少ないことが明らかになった。

(3)非正社員の業務高度化

従業員規模と非正社員比率によって企業を類型化し、非正社員の採用や、非正社員に任せる業務内容の高度化に関する方向性を分析した。その結果、非正社員が現在いない企業では、今後も非正社員を増やしたり業務を高度化させたりする意向が見られなかった。また、非正社員に任せる業務を高度化している企業と高度化していない企業とでは、正社員に対する雇用管理のあり方に違いがみられた。

政策的インプリケーション

今回の調査の分析からは、応募者の増加や採用の成立といった入り口段階での成果が施策への企業の満足感を高めると同時に、どのような施策を利用するにせよ、採用後の初期段階で、若年者の状況に応じた職場での育成指導や相談しやすい環境づくりが若年者の能力伸長に重要であるということが確認できた。

雇用支援施策においても、就職活動の段階別の支援だけではなく、募集・採用段階から定着、育成まで、長期的なプロセスを見通した施策の組み立て(例えば、企業や業界内における継続的な若者育成の取組みへの支援など)が求められると言えよう。

また、ハローワーク求人企業の多くを占める比較的規模の小さい企業においても、採用における方針、女性の活用状況、非正規雇用に関する考え方等は多様である。企業のタイプ別の分析等をさらに進め、中小企業において、若年者が働きやすく職業能力を伸ばせる職場を増やしていくための雇用管理のあり方について検討していくことが必要である。

政策への貢献

本調査シリーズは既存の若年者雇用支援施策の活用状況と企業の雇用管理への影響を把握・評価し、今後の雇用管理改善施策やその他若年者雇用支援施策の検討に貢献するものと思われる。

本文

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研究の区分

プロジェクト研究「経済・社会の変化に応じた職業能力開発システムのあり方についての調査研究」

サブテーマ「若年者の職業への円滑な移行に関する調査研究」

研究期間

平成24年~平成26年

担当者

岩脇 千裕
労働政策研究・研修機構副主任研究員
堤 孝晃
東京大学社会科学研究所 助教
永野 仁
明治大学 教授
眞鍋 倫子
中央大学 教授
新谷 康浩
横浜国立大学 准教授

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