週休2日制関連法案の成立と政労使の反応

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  • 国別労働トピック:2003年11月

週休2日制を柱とする労働基準法改正案が7月29日にようやく国会を通過し、週休2日制は2004年7月から段階的に施行されることになった。今回の労基法改正はその中身もさることながら、労使政委員会を舞台とする「社会的合意に基づく政策決定プロセス(法制化)」の制度化の成否を占う試金石としての意味合いも大きかった。

では、政労使は法制化にどのようにかかわってきたのか、そして改正労基法にどのような反応を示しているのかを追ってみよう。

法制化の経緯

まず、週休2日制は1998年に発足した労使政委員会(通貨危機克服に向けての社会協約づくりが目的)において最初に取り上げられた。労働界が厳しい雇用情勢や整理解雇条項の繰り上げ施行を前にして雇用安定を確保するためのワークシェアリングの有効な手立てとして要求したのがその始まりである。その後、雇用情勢が急速に改善され、整理解雇にも歯止めがかかるようになってからは、労働生活の質向上を目指す道として週休2日制の有効性が議論されるようになり、2000年10月23日に「週休2日制の導入に関する基本合意」がようやく成立した。

しかし、政労使間の話し合いが「休暇制度の調整や労働時間短縮に伴う賃金減少分の補填、施行時期など」の具体的な施行方法に及ぶと、労働条件の既得権を守ろうとする労働側とそれにメスを入れる絶好のチャンスととらえる経営側との間で、利害対立や駆け引きが目立ち、話し合いは難航を極めた。労使の対立構図は概ね次のようにまとめられる。つまり、労働側は労働者全体の権益を代弁する立場から、「労働条件の削減のない週休2日制の早期施行」を要求したのに対して、経営側は企業の競争力、とりわけ中小企業への影響を懸念し、「国際基準に基づく労働条件の調整を伴う週休2日制の段階的施行」を建前にできるだけ先延ばしする立場をとったのである。

労使政委員会の公益委員側は妥協の糸口を探るべく、2001年12月13日にそれまでの話し合いで浮き彫りになった争点を踏まえて試案をまとめ、発表した。その後も政労使間の話し合いは一時中断、再開を繰り返しながら続けられたが、大詰めの段階に入ってからは労働界のみでなく、経済界でも内部で意見の食い違いが表面化し、労使の交渉代表は足元をすくわれてしまう場面も見られた。結局、労使政委員会での話し合いは2002年7月22日に打ち切られ、最終判断は政府にゆだねられることになった(公益委員側の最終試案や労使の内部事情の詳細については『海外労働時報』2002年8月号参照)。

これを受けて、政府は独自の法改正案をまとめ、立法予告や閣議決定、規制改革委員会の勧告に沿っての一部修正(施行時期)などを経て10月16日に同法改正案を国会に提出した。政府案に反対する労使は国会での審議を阻止するために反対闘争やロビー活動に回った。国会の環境労働委員会は、大統領選挙を控えていたこともあって、労使の反対を理由に同法案の審議を2003年に先送りせざるをえなかった。

その一方で、中央レベルでもたつくのをしり目に事業所レベルでは労組側が法改正を待たずに労働協約改訂交渉で「週休2日制の導入」を要求し、勝ち取る動きが広がり、中央(法制化)と企業現場(労使自治)の間でねじれ現象が見られるようになった。

まず、週休2日制の導入が比較的に容易な金融部門で産別交渉により2002年7月から週休2日制を実施することが合意されたのを皮切りに、2003年に入ってからは製造業部門でも民主労総傘下の金属労組や現代自動車労組、起亜自動車労組などが労働協約改訂交渉で「労働条件の削減のない週休2日制の導入」を要求し、勝ち取る動きが目立った。特に、大企業労組の間では、従来より強い団結力を誇示して労働協約改訂交渉で労働時間の短縮(週44時間から42時間へ)を勝ち取ってきたこともあって、「労働条件の削減につながるような法改正」よりは、「労働協約改訂交渉で労働条件の削減のない週休2日制を勝ち取る道」を好む傾向が強まった。それに上部団体が「労働条件の削減のない週休2日制の早期導入」を最重要課題として掲げ、連帯闘争態勢を強めるなど、事業所レベルでの試みを後押ししたことも大きい(民主労総傘下の金属労組や現代自動車労組による労働協約改訂交渉の詳細については『海外労働時報』2003年9月号、海外労働情報HP 10月号参照)。

このように事業所レベルで「労働条件の削減のない週休2日制」を勝ち取る動きが急速な広がりを見せることに危機感を覚えたのか、経営側はそれよりはましな政府案の受け入れを表明し、国会の環境労働委員会の呼びかけにも応じて再び政労使間の話し合いに加わることを決めた。経済界のにわかの方針転換により、政府案がほぼそのまま成立する可能性が一気に高まったため、今度は労働界が急きょ韓国労総と民主労総の統一案(事業所レベルで合意された週休2日制に沿う案)をまとめ、政府案よりは少しでも労働側に有利な条件を引き出す構えで国会での話し合いに臨んだ。

しかしながら、経営側がその受け入れを表明した政府案と労働界の統一案との間には、主に施行時期、休暇日数の調整、賃金の補填などをめぐって依然として大きな隔たりがあったため、8月8日から再開された政労使間の話し合いはさしたる成果もなく、8月14日には幕を閉じた。これを受けて、国会の環境労働委員会は労働界の反対を押し切って、政府案を軸に法改正案の処理を急いだ。結局、「政府案より施行時期を1年ずつ延期する」という一部修正を経て、週休2日制関連法案は8月29日に国会の本会議を通過したのである(政府の法改正案と労働側の対案の詳細については『海外労働時報』2002年11月号12月号参照)。

政労使の反応

週休2日制関連法案が成立して間もなく、付則に盛り込まれた賃金補填条項をめぐって関係者の間で解釈の食い違いが表面化し、早くも事業所レベルでの労働協約改訂交渉に混乱を招く恐れがあるとの声が上がっている。法制化の過程でも賃金の補填方法をめぐっては「どのように明記すべきか」が争点になっていた。つまり労働側は「労働時間の短縮に伴う賃金減少分について補填すべき賃金項目を具体的に明記する」ことを求めたのに対して、経営側は「労働時間の短縮分(4時間)についてのみ(基本給ではなく)調整手当で補填する」という立場をとるなど、労使間の利害対立は激しかった。これを受けて、政府は「労働時間の短縮に伴い、既存の賃金水準(賃金総額)が下がることはないように」という、より包括的な条項を盛り込むことにした。これは、「賃金補填の具体的な中身は法律で定めるより、労使交渉にゆだねたほうが望ましい」という判断によるものである。

しかし、早くもこの政府案どおりの付則条項は「単なるガイドライン」にすぎないのか、それとも「法的拘束力」を持つものなのかが新たな争点として浮上したのである。それは与党民主党の議員の問題提起から始まった。つまり同議員は法制処から提出された「労基法改正案に関する審議経過報告」という文書を公開し、それには「以前より低い水準の賃金を支払う場合、賃金を全額支給するよう定めている労基法第42条1項に違反することになり、賃金未払いで罰せられる可能性があり、民事上の効力があるものと認められるので、単なるガイドラインにすぎないと断定することはできない」という法制処側の解釈が示されている点に注目し、「これは事実上賃金補填条項が法的拘束力を持つことを指している」と主張したのである。

これに対して、法制処は「この文書は法制処の有権解釈ではなく(関連法の施行前にはありえないこと)、法案を審議する過程で予想される問題点を例示し、参考用に作成したものである」と反駁した。労働部も「賃金補填条項は、罰則条項を伴う本文ではなく、付則に盛り込まれており、包括的なガイドラインとして、“法改正に伴い賃金が下がることはないように”との旨を明記したものにすぎない。もし賃金が下がるところがあれば、罰則ではなく、行政指導で対処していくしかない」との立場をとっている。

労働部は基本的に「法改正後の賃金水準は労使交渉にゆだねる」という原則を貫く方針をとっているだけに、賃金補填の具体的な中身は労使の交渉力に大きく左右されることになる。そのため、労働部は週休2日制の早期定着を図るために、次のような対策を講じることにしている。第1に、その影響をもろに受ける中小零細企業を対象に雇用環境の改善に向けて税制・金融面での支援策を講じる。第2に、賃金補填の指針を作り、賃金水準が以前より下がらないように行政指導に力を入れるほか、労働協約の改訂や就業規則の変更に伴う労使紛争を未然に防ぐために事業所別監督態勢を強化し、週休2日制の導入に合わせて「作業組織改革および生産性向上プログラム」を実施する事業所に対して「労使協力プログラム」の財政支援を優先する。そのほかに、労働者の能力開発事業向けに財政支援を拡充することなども検討されている。

今回の改正労基法の付則には前述の賃金補填条項のほかに、「法改正の趣旨は労働協約および就業規則に反映されなければならない」という条項も盛り込まれているが、経済界は早くも同条項を持ち出して、「(法改正の前に既存の労働条件のまま週休2日制の導入を決めた)現代自動車や起亜自動車なども改正法の趣旨に沿って再交渉で労働協約を改訂しなければならない」と注文をつけている。

そして韓国経総は9月19日、事業所レベルでの労使交渉で改正労基法の旨を徹底させるために「労働時間の短縮に関する指針」を会員企業に配布した。その主な内容は次のとおりである。1.改正労基法に沿って月次休暇の廃止、年次休暇の調整、超過勤務の上限および割増率の調整、生理休暇の無給化などを新たに盛り込むための労働協約改訂に労組側が応じない場合は、労働時間の短縮に伴う賃金減少分を補填しなくてもよい。2.廃止・調整される月次・年次有給休暇の手当分(未取得時の買い取り分)は補填する必要がない。労働時間の短縮に伴う賃金減少分については時間当り通常賃金ではなく、新しい調整手当で補填する。3.企業の経営状況に合わせて休暇取得の促進策や選択的休暇補償制度(休日勤務に対して手当の代わりに休暇を与える制度)などを実施することにより、労働時間の管理を強化し、人件費を節減する。4.冠婚葬祭休暇や特別休暇など、労働協約に別途に定められている休暇を縮小する。

これに対して、労働界は「週休2日制関連法案は女性・中小零細企業労働者・非正規労働者を差別する“労使紛争促進法”である」と非難し、「同法案成立とは関係なく、引き続き労働協約を通して労働条件の削減のない週休2日制を勝ち取っていく」方針を明らかにするなど、これからは改正労基法の形骸化に闘争の軸足を移す構えを見せている。そして、韓国経総が会員企業に配布した前述の指針に対しても、労働界は「労使自治による労働協約を否定する措置である。特に労組のない事業所では経営側が一方的に労働条件を引き下げる手段として悪用される恐れがある」と主張している。

以上のように、週休2日制をめぐっては、争点が労働時間の短縮にとどまらず、労働側の幅広い既得権(労働条件)の調整にまで及んだため、法制化の過程でも政労使は話し合いを重ねるほど、妥協を模索するよりは利害対立の構図をより鮮明にしてしまうという異常な展開が顕著に見られた。結局、「社会的合意に基づく政策決定(法制化)」の試みは実を結ぶことができず、妥協の糸口は労使政委員会の公益委員側が出した試案をたたき台に政府が見いだすしかなかったのである。

そして、労使間の利害対立の構図を引きずったまま、週休2日制関連法案が成立したこともあって、主な争点はそのまま企業現場の労使交渉に持ち込まれ、その行方は市場状況や企業の経営状況、労使間の力関係などに大きく左右されることになる。2004年の労働協約改訂交渉でその一端が明らかになるだろうが、早くも主な争点は労使紛争の新たな火種に発展しかねない点や、企業別・雇用形態別に賃金および労働条件の格差がさらに広がってしまう点などを懸念する向きが多い。

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