2003年の賃上げおよび労働協約改訂交渉の進捗状況

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

カテゴリー:労働法・働くルール労使関係労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2003年9月

2003年の賃上げおよび労働協約改訂交渉では、7月中旬現在のところ景気低迷の影響もあって賃金の凍結や引き下げに合意する企業が増えている。と共に、企業内労組が実利優先の独自路線をとるか、それとも上部団体の方針に沿って連帯闘争路線をとるかによって交渉の行方が大きく分かれる傾向がより顕著になっている。後者では、上部団体の闘争方針に沿って、賃金のほかに週休二日制の導入や非正規労働者の処遇改善、経営参加などを主な案件として取り上げているため、労使交渉が難航しているのに対して、前者では、上部団体の闘争方針とは一線を画し、賃上げを中心に実利優先の道を選び、労使交渉の早期妥結を図っている。その他に、初めて産別交渉に漕ぎ着けて話題を呼んだ民主労総傘下の金属労組が今度は週休二日制の導入をめぐって経営側と合意に達したため、経済界に衝撃が走っている。

以下、2003年上半期の賃上げ交渉における主な争点を中心にその動きを追ってみよう。

賃上げおよび労働協約改訂交渉の妥結状況

まず、労働部のまとめによると、常用労働者100人以上の事業所5751ヵ所のうち、2003年6月末現在賃上げ交渉が妥結したのは1856ヵ所(32.3%)で前年同期(38.9%)より少ないが、平均賃上げ率は6.7%で前年同期と同じ水準を推移している。妥結状況の中身をみると、賃金の凍結や引き下げに合意した事業所は258ヵ所(13.9%)で、前年同期(10.9%)より増えている。事業所規模別にみると、300-499人の中堅企業が7.3%、500-4999人が6.9%のように平均値を上回っているのに対して、300人未満の中小企業は6.4%にとどまっている。

7月中旬現在賃上げ交渉が妥結した事業所のうち、実利優先の独自路線で早期妥結を図ったケースとして注目されるのは現代重工業と大宇エレクトロニクスである。

まず、現代重工業の労使は5月27日から8回にわたって賃上げ交渉を続け、7月3日に暫定合意案を見出した。同合意案は7月6日に組合員投票(全組合員1万9580人の94.4%参加)にかけられ、64%の賛成で可決された。これで、1995年以来の「ノーストライキ」の方針は守られた。今回の早期妥結の決め手になったのは、労組側が民主労総の共同要求案に盛り込まれている「週休二日制の導入や非正規労働者の差別撤廃など」を交渉の案件から外したことであるといわれる。労使合意の主な内容は次の通りである。第一に、金銭的報酬関連案件として、1.賃金9万7000ウオン(基本給基準で7.8%)の引き上げ、2.ノーストライキを条件に成果給2ヶ月分、3.生産性向上激励金名目で1ヶ月分、4.産業平和維持激励金名目で100万ウオンなど。第二に、雇用保障や福利厚生関連案件として、2004年5月末を期限とする雇用保障協約の締結、診療費の支援枠拡大、社内福祉基金への10億ウオン供与、社員向け分譲マンション240戸の建設など。

次に、大宇エレクトロニクスは、経営破綻した大宇グループの系列企業である大宇電子と大宇モーター工業との合併で生まれたが、その過程で既存の労組体制をそのまま引き継いだため、同社内に韓国労総系の電子部門労組と民主労総系のモーター部門労組が併存する複数労組体制となった。経営側はこのような複数労組体制が労組間の闘争性競争に火をつけ、労使紛争を引き起こす恐れがあるとみて、経営説明会や労使協議会などを通して経営情報を公開し、経営再建に協力するよう組合員の説得に努めた。これに応える形で、労組側は賃上げ交渉にあたって経営側に白紙委任の意思を伝え、経営側は7.5%の賃上げ(総額基準)のほかに2003年の経常利益目標1000億ウオンを達成すれば成果給の支給を検討することを約束した。民主労総系のモーター部門労組が上部団体の連帯闘争に参加するより経営再建に協力する道を選んだのが協調的労使関係の糸口になったといわれる。

その他に、民主労総傘下金属労組の最大支部組織である斗山重工業労組も5月21日から始まった賃上げ交渉が平行線を辿っているが、上部団体の連帯闘争には参加せず、経営側との交渉を続けている。その背景には労使紛争の慢性化の影響で現代重工業との受注競争にも敗れるなど受注実績が急減しているため、労使の間で危機意識が急速に高まっていることが影響しているようである。

もう一つ注目されるのは、金属労組が初めて産別交渉に臨み、労使合意案を見出したことである。金属労組は5月6日から産別交渉に入ったものの、あまり進展がみられなかったため、6月18日に争議行為の賛否を問う組合員投票を実施し、6月25日から散発的に時限付きストを繰り返しながら、交渉を続けた。結局、7月15日の13回目の交渉で経営側が労組側の要求を受け入れることで、2ヶ月以上に及んだ産別交渉は幕を閉じた。

主な合意内容は次の通りである。第一に、週休二日制を導入する。その時期については1.2003年に労働協約を更新する事業所は10月から、2.2004年に労働協約を更新する事業所は2004年7月から、3.法定管理(会社更生法適用)中の事業所や50人未満の事業所など全ての事業所は遅くても2005年までにはそれぞれ実施する。そして労使合意を経ずに労働時間の短縮を理由とする賃金削減は行わない。第二に、社内下請け(製造ライン請負)労働者の処遇を改善し、筋骨格系疾患予防対策を講じることなど。

今回の労使合意案のうち、とりわけ目を引くのは「週休二日制の早期実施案」である。それをめぐっては労使間の利害対立が激しく、特に大企業より中小企業への影響(経営側にとっては人件費上昇、労組側にとっては労働条件の格差是正)がはるかに大きいこともあって、いまだに法制化の見通しが立たないうえ、2003年の賃上げおよび労働協約改訂交渉でも最大の争点になっているのが現状である。そういうなかで、中小企業がその大半を占める金属労組が産別交渉で「週休二日制の早期実施案」を勝ち取っただけに、その影響は当該中小企業の経営にとどまらず、大企業の労使交渉や法制化などにも広がるなど、その波及効果は大きい。

しかし、今回の産別交渉にあたって経営側代表に交渉権および協約締結権を委任した100社(組合員2万人余)のうち、38社は早くも「前述の労使合意に反対し、委任を撤回したため、労使合意案は無効である」と主張している。これに対して、金属労組側は再びストライキに突入することを明らかにしており、週休二日制をめぐる労使間の駆け引きはしばらく続きそうである。

現代自動車における労使交渉

前述のような労使合意のケースとは対照的に、2003年の賃上げおよび労働協約改訂交渉にあたって、上部団体との連帯闘争態勢を強めているのは現代自動車労組である。同社労組は1.賃金12万4989ウオン(基本給基準で11%)の引き上げや賞与7ヶ月分から8ヶ月分への引き上げ、2.週休二日制の導入、3.非正規労働者の処遇改善、4.海外進出(工場建設)に関する労使の共同決定、5.取締役会への労組代表の参加および発言権の保証などを要求し、4月18日から経営側との交渉に入ったが、あまり進展が見られなかったため、6月16日に臨時代議員大会を開いて争議発生を決議した。6月24日と27日には争議行為と産別労組への転換の賛否を問う組合員投票をそれぞれ実施し、民主労総の連帯闘争日程に合わせて闘争態勢を強めている。

しかし、6月24日に行われた組合員投票では賛成過半数で争議行為案は可決されたものの、6月27日に行われた組合員投票(全組合員3万9100人のうち、3万4846人参加)で、賛成62.1%で可決の条件である3分の2に満たなかったため、産別労組への転換の試みは頓挫した。労組執行部は産別労組への転換を実現するために、「産別労組推進委員会」を設置し、2003年の賃上げ及び労働協約改訂交渉の日程に合わせて組合員に対する広報活動に力を入れ、「企業内労組体制では非正規労働者の差別撤廃や労働条件の削減のない週休二日制の導入などを勝ち取るのには自ずと限界がある。産別労組に転換し、労組の団結力を強化しなければならない」と訴えるなど、万全の態勢で臨んだ。にもかかわらず、労働者全体の権益を優先する上部団体との連帯闘争(政治闘争といわれる)よりは賃上げなどの実利により高い関心を寄せる多くの組合員をひきつけることはできなかったようである。

その後も、労組側は時限付きストや全面ストを繰り返しながら、上部団体との連帯闘争の道を突き進んでいる。ただし、ストの長期化に伴い、その被害額、が急速に膨らむにつれ(7月18日現在6万6239台の生産ロスで8801億9700万ウオン)、現場組合員の間では早期終結を求める声が日増しに高まっていることもあって、労組側は民主労総との連帯闘争態勢強化と現場組合員の実利志向の狭間で厳しい選択を迫られている。

この現代自動車労組と同様な路線をとっているのは起亜自動車(現代自動車グループの一員)の労組である。同社労組は6月14日に1.賃金(基本給基準)11.1%引き上げおよび成果給2ヶ月分+α、2.週休二日制の導入、3.非正規労働者の処遇改善、4.雇用安定のために現代自動車と起亜自動車の間で新車種の適正な配分などを要求し、経営側に再三交渉に臨むよう求めたが、経営側は「賃金以外の案件を削除しない限り、交渉には応じられない」との立場を貫いているため、正式な交渉の場さえ開かれない状態が続いている。そのため、労組側は「賃金と直接関連が無くても補充協約の形で十分話し合うことはできる。『労使はどちらかの一方が要求案を発送した場合、17日以内に交渉に臨まなければならないとする』労働協約を経営側が破っている」としてストに突入するための手続きに入っている。

7月3日に中央労働委員会に争議調停を申請した後、7月11日には最大の争点として急浮上した「週休二日制の早期実施案」を勝ち取るために現代自動車労組と共同闘争態勢を組むことを明らかにし、7月22日には争議行為の賛否を問う組合員投票を実施するなど、上部団体との連帯闘争に向けて動き出している。折しも金属労組が産別交渉で「週休二日制の早期実施案」を勝ち取ったのを機に、国会を舞台に法制化に向けた政労使の動きが再び活発になっていることもあって、今度は大企業労組も加わった形で民主労総主導の連帯闘争に勢いがついている。

以上のように2003年の賃上げおよび労働協約改訂交渉では、民主労総系企業内労組の間でも交渉方針の違いがより鮮明に現れ、交渉の行方を大きく左右する傾向が顕著にみられる。すなわち、主な争点が賃上げなど金銭的報酬に絞り込まれるか、それとも週休二日制や非正規労働者の処遇改善、経営参加などにまで広がりを見せるか、また労組がそれを勝ち取る手段として独自路線をとるのか、それとも上部団体との連帯闘争への依存度を高めるかによって、早期妥結の道と労使紛争の長期化の道に大きく分かれるということである。

2003年9月から2004年8月までの最低賃金確定

最低賃金委員会は6月27日、2003年9月から2004年8月にかけて適用される最低賃金を現行の月51万4150ウオンから月56万7260ウオン(時間給2510ウオン、日給2万80ウオン)へと10.3%引き上げることを議決した。この最低賃金は約103万人に適用される。

今回は労働側が要求した70万600ウオン(36.3%増)より、経営側が提示した55万3700ウオンにほぼ近い水準に決められた。最低賃金委員会は「労使の間で大きな開きがあったが、最近の景気低迷による中小企業の経営悪化にもかかわらず、二桁台の引き上げ率を決めた」と述べた。これに対して、今回の決定に強く反発する労働側は「労働者の生計保障と賃金格差の是正という本来の趣旨に反して低賃金構造を固着させる道具に転落しているため、大統領に辞表を出す」ことを明らかにした。公益委員9人のうち、2人も辞表を出した。

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