看護職員の賃上げは他産業に遠く及ばない状況/日本看護協会緊急調査
2026年11月6日 調査部
病院と訪問看護事業所で働く看護職員の賃上げは、他産業に遠く及ばない状況にある――。日本看護協会(秋山智弥会長)は10月27日に記者会見を開き、「看護職員の賃上げに関する緊急調査」の結果を報告した。調査結果によると、今年度に看護職員の「賃金を引き上げた」病院と訪問看護事業所はどちらも約7割。賃上げ率は両者とも「1~2%未満」が最多だった。看護職員を対象にした調査では、8割近くの看護職員が自身の賃金に不満を抱いており、不満の強い人ほど、現勤務先で働き続ける意思や看護職員としての就業継続意向が低い傾向もみられる。秋山会長は、「看護職員が他産業に流れていくことは非常に大きな損失」だと危惧して、原資の確保に向けたさらなる支援策を講じる必要性を訴えている。
病院、訪問看護事業所ともに約7割が賃上げを実施
病院と訪問看護事業所の調査結果によると、診療報酬・介護報酬等の評価や国の「賃上げ支援事業」補助金の受給により、2026年度に「賃金を引き上げた」と回答した病院は68.7%(前年度58.6%)、訪問看護事業所は73.2%(前年度56.6%)。病院、訪問看護事業所ともに約7割が何らかの賃上げを実施した一方、「変更なし」の回答もそれぞれ約2割あった。
賃上げ率は、病院、訪問看護事業所のいずれも「1~2%未満」が最多
賃上げした病院・訪問看護事業所の賃上げ率は、病院では「1~2%未満」が20.3%で最も多く、次いで「3~4%未満」(19.1%)、「2~3%未満」(18.6%)、「1%未満」(16.6%)、「5%以上」(13.0%)、「4~5%未満」(12.5%)の順。訪問看護事業所の賃上げ率も「1~2%未満」が25.9%で最も多く、以下は「2~3%未満」(19.3%)、「5%以上」(18.4%)、「3~4%未満」(13.4%)、「1%未満」(13.1%)、「4~5%未満」(9.9%)となった。
他方、東京商工リサーチが民間企業を対象に調べた「2026年度賃上げに関するアンケート」では、2026年度の賃上げ実施率は大企業が93.8%(前年度92.6%)、中小企業でも82.3%(同80.9%)。賃上げ率「5%以上」は大企業(41.4%)、中小企業(42.6%)ともに4割を超えていた。こうした調査結果を踏まえ、日本看護協会は、「多くの病院・訪問看護事業所が賃上げに取り組んでいるものの、賃上げ実施率・賃上げ率ともに、他産業には遠く及ばない」と指摘している。
フルタイム看護職員の今年8月の基本給は約7割が「増加」
看護職員を対象とした調査結果をみると、正規雇用(フルタイム)看護職員の2026年8月の基本給額の平均は、病院勤務者が前年同月比7,261円増の27万4,754円、訪問看護事業所勤務者が25万8,237円(同2,913円増)、介護保険施設・事業所勤務者が25万1,707円(同1,279円増)。2026年8月支給分の給与が、前年同月比で「増加した」と答えた人は全体で68.1%、反対に「減少した」と回答した人は6.1%だった。
就業先別にみると、「増加した」は病院で68.9%、訪問看護事業所で62.7%、介護保険施設・事業所では60.8%。訪問看護事業所と介護保険施設・事業所勤務者の平均給与月額は、すべての年齢層で病院勤務者を下回っており、その差は年齢層が上がるにつれて拡大する。
横ばい状態の看護師の賃金カーブ
参考までに、厚生労働省の「賃金構造基本統計調査(2025年)」で、一般労働者(大卒・産業計)と看護師の月額賃金(決まって支給する現金給与額)を比べると、看護職員の給与は20歳代では一般労働者を上回るものの伸び率が低く、30歳代で逆転し、その後は年齢とともに差が開く傾向にある。「25~29歳」では、一般労働者が33万2,700円で、看護師は35万1,900円。それが「35~39歳」では、一般労働者は41万9,400円に上がっているのに対し、看護師は35万9,300円とほぼ横ばい。「45〜49歳」になると、一般労働者が48万6,700円なのに対し、看護師は38万7,000円と、その差は約10万円になっている。そして、その後も看護師の賃金カーブはほとんど上がっていない。
賃金の増加理由は約半数が「ベースアップ」
看護職員の賃金が増加した理由(複数回答)については、「ベースアップ」をあげた回答者がどの就業場所でも最も多く、病院で55.2%、訪問看護事業所で50.2%、介護保険施設・事業所で50.6%だった。2番目に多かった理由は、病院と訪問看護事業所が「時間外勤務や夜勤回数・オンコール対応回数の増加」で、それぞれ31.7%、29.4%。介護保険施設・事業所は「年齢や勤続年数に伴う定期昇給」が24.3%に上り、2番手だった。
看護職員の8割弱が「賃金に不満」
さらに、賃金への満足度を尋ねると、病院、訪問看護事業所、介護保険施設・事業所のいずれの職場でも、賃金に「不満」を感じる看護職員の割合が5割強に上り、「不満」と「やや不満」の回答を合計すると8割弱に達していた。日本看護協会は、「一部の看護職員では時間外勤務や夜勤などの労働負荷も増加している状況で、ベースアップや諸手当の増額などの就業先の取り組みが自身の賃金に反映されているという実感は薄く、不満が高まっている」と推察している。また、調査結果からは、賃金への不満が強い人ほど現在の勤務先での就業継続意向や、看護職員を続ける意向が低い傾向もみられており、賃金満足度が今後の働き方の意向に関連している様子もうかがえる。
「他産業に負けない賃上げが行われることが一つの目標」(秋山会長)
秋山会長は会見で、「看護職員が他産業に流れていくことは非常に大きな損失」だと懸念を示したうえで、「看護師をめざしてきた人たちが、本来どおりの仕事を続けていけるよう、他産業に負けない形での賃上げが行われることが一つの目標だ」と説明。他産業と比べても劣らない賃上げの実現をめざし、原資の確保に向けた支援策を国に要請していく考えを表明した。
また、看護職員の横ばいの賃金カーブについても、「それぞれの管理者・施設管理者に向け、賃金モデルの提案などを通じて、施設への対応も進めていきたい」などと訴えた。
調査は2026年9月1~14日にWebアンケートで実施。病院や訪問看護事業所、介護保険施設・事業所で働く看護職員3万8,736人のほか、病院3,908施設と訪問看護1,925事業所から得た回答をまとめた。


