新データベースの活用で賃上げの基盤となるデータ収集を強化/JEC連合定期大会

2026年7月17日 調査部

化学・エネルギー関連産業の組合でつくるJEC連合(堀谷俊志会長、12万9,000人)は7月9、10の両日、広島県広島市で定期大会を開き、昨年の大会で決めた「2026~2027年度運動方針」の補強内容を確認した。補強方針は、新たに設計・構築するデータベースシステムを加盟組合へのデータ提供や交渉サポートに活用していくことを提起。組織拡大では、これまで取り組めていなかったターゲット組合や再雇用者の組合員化に焦点を当て、組織化の期限を設定して情報共有や目標・進捗状況の確認を行う方針を打ち出した。堀谷会長は「賃上げにおいては、基盤となるデータ収集をはじめとする調査・分析力に課題がある」として、新データベースを積極的に活用していく考えを強調。組織拡大についても、「『JEC連合に加盟して良かった』と思ってもらえれば防ぐことはできるはずだ」などと述べ、脱退組合を出さない取り組みに総力をあげる姿勢を示した。

JEC連合は昨年の定期大会で、「JEC連合に集う仲間の連帯と実行力で更なる飛躍!」をスローガンに掲げ、① すべての働く仲間の立場に立った能動的運動 ② 思いを共にする仲間と共に行動し仲間を増やし、減らさない運動 ③ それぞれの主体性を尊重した多様性のある組織 ④ 国内外の働く仲間と手を結び、社会から信頼される組織 ⑤ 社会と共存し持続可能で健全な産業の発展――の5項目を基本理念とする向こう2年間の運動方針を確認した。今年の大会では、この方針に今後1年間の取り組みの具体的な補強内容を盛り込んだ。

春闘未実施組合や方針水準に満たない要求を掲げる組合に必要なサポートを

「働く仲間の立場に立った能動的運動」について方針は、「労働組合の社会的役割と責任を常に考え、すべての働く仲間の立場に立った運動を能動的に展開し、自由、平等、公正、包摂的な社会の実現をはかる」として、安全衛生活動や雇用確保、労働条件・処遇の維持向上、60歳以降の雇用の安定と働きの価値にふさわしい処遇、ジェンダー平等社会の実現の取り組みを列記している。

補強方針は、労働条件・処遇の維加盟組合のニーズに応じた情報交換を実施持・向上に向けて、新たに設計・構築しているデータベースシステムを最大限に活用することで「加盟組合へ有用なデータの提供や交渉サポートにつなげていく」考え。さらに、春闘調査の開始前には「調査実務者に向けた説明会を開催し、より正確なデータの抽出に努める」とした。格差是正に関しても、春闘未実施組合やJEC連合方針の水準に満たない要求を掲げる組合に対し、何故そうなっているのかの「背景や理由の深掘りを行うとともに、必要なサポートを実施」するなどの取り組みを強化することで全体の底上げを図る方向性を示している。

堀谷会長はあいさつで「賃上げにおいては、要求から交渉・妥結に至るまでの加盟組合へのサポートについて、取り組みの領域や質は年々良くなってきていると感じているものの、基盤となるデータ収集をはじめとする調査・分析力に課題がある」などと述べ、新データベースを活用して加盟組合に有益な情報を提供していく意向を示した。

一方、60歳以降の雇用は、2022年1月の中央委員会で「60歳以降の雇用に関する基本方針」を策定し、「定年延長の必要性を改めて周知するとともに、その実現を強化」するなどの取り組みを進めている。JEC連合の説明では、現在、21組合から定年延長を実施しているとの報告が上がってきているほか、検討を進めている組合も増えてきているという。補強方針は、「定年延長の導入単組を増加させるため、65歳定年延長に関する導入事例集を作成するとともに、導入に向けた支援を実施する」としている。

「ジェンダー平等推進計画NEXT」の周知や理解促進を

ジェンダー平等社会の実現に向けては、2022年7月~2025年6月までの3カ年計画の「ジェンダー平等推進計画」が期限を迎えたことから、「検証と見直しを行い、誰もが活動に参加し組合役員を担える、また多様な仲間による労働組合を目指す」構え。具体的には、連合のジェンダー平等推進計画フェーズ2を踏まえ、新たに「ジェンダー平等推進計画NEXT(取り組み期間:2026年7月~2031年6月)」を策定した。今後は加盟組合に対し、新計画の周知徹底や理解促進に効果的な「促進ツール」の検討・提供を実施。あわせて、「全加盟組合のリーダー層のマインドの醸成が必要」だとして、マインドの醸成につながる新たな取り組みも検討する。

ターゲット組合や再雇用者の組合員化に力点

「仲間を増やし、減らさない運動」については、組織拡大を「最重要課題の1つ」と位置付け、「業種別部会・地方連絡会・加盟組合の取り組みをJEC連合全体で支援しながら推進する」。連合が2021年度から展開している組織拡大2030プランに沿った形で策定した「JEC連合組織拡大2030」プロジェクトの前半5年間の活動が「組織人員数だけを見ると目標を上回る結果になっているほか、全体の組織拡大に対する取り組みや意義が浸透し始めている」ことを評価。その一方で、作成した「ターゲットリストを実行していれば、もっと成果が上がっていたことも事実」だとして、今後は「取り組みが出来ていなかったターゲット組合や再雇用者の組合員化に力を入れていく」姿勢を示している。さらに、補強方針では「新たに組織化の期限を設定した上で、組織内、関連企業、未組織の各ターゲットリストを更新・整理し、情報共有ならびに目標および進捗状況の確認を行う」などとしている。

「『加盟して良かった』と思ってもらえていれば脱退は防げる」(堀谷会長)

堀谷会長はあいさつで、組織拡大について「方法は3つ。1つ目は、それぞれの加盟組合のなかで再雇用者など組合員化できる人を組織化する取り組み、2つ目は、産別に未加盟の新たな組合にJEC連合へ加盟してもらう取り組みや、グループ会社等に組合を作って加盟してもらう取り組み、そして3つ目が一番大事な取り組みとして、脱退組合を出さない取り組みだ」と説明。「脱退される組合には様々な理由があるが、『JEC連合に加盟して良かった』と思ってもらえていれば防ぐことはできるはずだ」と述べたうえで、「今一度、この3つの取り組みを全ての加盟組合の総力をあげて取り組んでいこう」と呼び掛けた。

加盟組合のニーズに応じた情報交換を実施

JEC連合はネットワーク型組織として、「石油」「化学」「セメント」「医薬化粧品」「塗料」「一般」の6つの業種別部会を中心に活動を展開している。「主体性を尊重した多様性のある組織」について、方針は「JEC連合全体の活動を補完するという観点から、業種別部会の活動は重要」だとして、各産業の特徴を網羅した労働条件や産業政策、加盟組合との連携・支援、組織拡大などの取り組みを進めていくことを明記した。その一方で、「ネットワーク型の組織において、活動の充実と一体感を醸成するためには組織の目標やビジョンを強く共有することが必要不可欠」とも記述して、各業種別部会が部会の垣根を越えて協力し合う必要性を強調している。

この点について補強方針では、部会の枠を超えて試行開催してきた「グローバル企業労組情報交換会」を「人事制度を中心とした組織課題について事例発表や意見交換を行い、知見を深める場として、正式な会議体に位置づける」。さらに、「交替勤務者交流会」も正式な会議体として、2027年度から名称を「交替勤務情報交換会」に変えて開催。これらのほかにも、ニーズに応じた情報交換の開催を逐次検討していく考えだ。

化学・医薬化粧品産業の課題解決や発展に向けた取り組みを継続

「社会から信頼される組織」では、「化学ならびに医薬化粧品産業の発展に向けた取り組み」を引き続き推進する。化学産業の課題解決や発展には、「より多くの働く者の声を社会に発信していかなければならない」として、UAゼンセン製造産業部門化学部会との連携を継続していくことに加え、化学総連を交えた三者の連携も「引き続き、信頼関係の構築に向け協議を進める」。医薬化粧品産業に関しては、「ヘルスケア産業の課題解決と発展に向け、産別横断的な組織であるヘルスケア産業プラットフォームに参画」し、「ヘルスケア産業の発展とそこに働く労働者の雇用と生活の安定に寄与していく」としている。

エネルギー政策の実現に向け連携できる議員との協力体制を強化

このほか、「健全な産業の発展」では、JEC連合としてのエネルギー政策方針も確認した。補強方針では今後、エネルギー政策方針に基づき、「政策フォーラム議員の在り方を再検討するとともに、JEC連合の政策とより連携できる議員との協力体制の構築を進めていく」ことで政策実現に向けた政治的な取り組みの強化を図る考えを示した。

エネルギー政策について堀谷会長は、「JEC連合は、エネルギー産業をはじめ、化学、塗料、セメントなど、多くのエネルギーを必要とする産業で働く仲間の産別。だからこそ、エネルギー政策についてはイデオロギーではなく、産業の持続的な発展と雇用の安定、そして現実的に何が望ましいのか、という視点で議論を進めてきた」などと説明。今後は「さらに議論を深め、JEC連合としての考え方を整理するとともに、政策実現に向けた政治活動のあり方についても見直しを進め、JEC連合の政策と連携できる議員との協力体制を強化していきたい」などと展望を語った。

回答額は定昇込みの加重平均が1万9,340円(5.39%)に

大会では、「2026春季生活闘争まとめ」も確認した。今春の賃上げ交渉の回答結果(5月末集計)をみると、回答を引き出したのは、昨年同時期より34組合多い196組合。そのうち、賃上げを獲得したのは、前年同時期より33組合も増えて181組合となった。回答額は、定期昇給相当分を含めた加重平均で1万9,340円(5.39%)、ベースアップ額は同1万3,259円(3.69%)で、それぞれ前年を1,722円、2,395円下回った。単純平均では1万5,580円(4.79%)、ベースアップ額は同1万955円(3.38%)で、こちらも前年を1,411円、1,045円下回っている。

回答額は石油部会が加重・単純平均とも2万円台をキープ

部会ごとに定昇込みの回答状況(加重平均)をみると、石油部会が2万613円(5.19%)、化学部会が1万9,758円(5.53%)、セメント部会が1万6,581円(5.24%)、医薬化粧品部会が1万8,955円(5.49%)、塗料部会が1万7,797円(4.65%)、一般部会が1万5,686円(4.86%)。単純平均では、石油部会が2万709円(5.86%)、化学部会が1万7,244円(5.18%)、セメント部会が1万5,471円(5.38%)、医薬化粧品部会が1万8,558円(5.16%)、塗料部会が1万2,680円(3.84%)、一般部会が1万2,037円(3.92%)だった。

塗料部会は大手と中小の格差が広がる結果に

こうした状況について、「まとめ」は「石油部会は大手組合を中心とした大幅なベースアップにより最も高く、化学・セメント・医薬化粧品・塗料部会は大手組合を中心に満額回答ならびに高い水準で妥結している組合もあるが、65%以上の組合が満額回答を得られなかった。特に塗料部会は大手組合と中小組合の妥結金額に差が生じ格差が広がる結果となっている。一般部会では業種が多岐にわたることから一概には言えないが、全体と比べると低い水準」などと解説している。なお、今回、要求超えの回答となった組合は8組合あるという。

年間一時金は加重平均で200万円超え

一方、規模別では、300人以上の大手組合の加重平均が1万9,753円(5.44%)だったのに対し、299人以下の中小組合は1万5,166円(4.89%)。単純平均では、300人以上の1万8,596円(5.29%)に対し、299人以下は1万3,643円(4.41%)となった。大手組合と中小組合の妥結金額については、ベア分では昨年同時期には加重平均で約5,500円、単純平均でも約5,000 円の差があったが、今年は加重平均で約3,500円、単純平均も約3,400 円に縮小しているという。

年間一時金は、加重平均で208万1,315円・5.57カ月(単純平均:170万541円・5.12カ月)。加重平均は額で昨年を17万7,865円、月数も昨年を0.01カ月上回った。単純平均では、昨年に比べ9万5,812円・0.10カ月増となっている。

このほか、初任給については、報告があった110組合中39組合で前進回答を獲得。引き上げ幅(単純平均)は、高卒1万3,190円、大卒1万3,169円、大学院卒1万3,366円だった。企業内最低賃金でも、報告があった92組合中17組合で前進回答があり、引き上げ幅は87円。特定最低賃金を持つ業界の組合では、大幅に引き上げられた地域別最低賃金に伴い引き上げを行ったケースもあったという。

交替勤務者の働き方・処遇見直しに向けた取り組みが前進

また、今春闘では、諸手当に関する前進回答も46組合でみられた。内容は、役職手当の増額(9組合)や、家族手当の増額(5組合)、交替勤務手当の増額(14組合)など。昨今の宿泊費の高騰による旅費や宿泊手当の増額も、2組合あった。なお、JEC連合は今春闘から新たな方針として交替勤務者の働き方および処遇の見直しに向けた取り組みを展開した。その結果、「交替勤務者の働き方および処遇の見直し」については102 組合のうち25組合、「維持体制・安全確保」については38組合のうち6組合、「キャリア形成・評価制度の整備」については38組合のうち5組合で前進した。「まとめ」は、「特に交替勤務手当は11組合で増額となった。また、交替勤務者の特別休暇や休日の増加、土日手当の増額など多岐に渡り労働条件の改善が図られている」ことも指摘している。

大手と中小のベア妥結額差が単純・加重平均ともに縮小

こうした結果について、「まとめ」は「ベースアップおよび回答合計額の平均値こそ極めて高い水準であった前年を下回る結果となったものの、これまでに積み上げてきた賃金水準をベースとして、底堅い引き上げを維持することができた」などと評価。とりわけ、大手組合と中小組合のベア妥結額の差が、単純・加重平均ともに前年から大きく縮小した点に着目して、「昨春闘で世間相場を大きく超える賃上げを実施した大手労組の揺り戻しがあったとはいえ、中小組合の賃上げ水準が相対的に堅持したことも寄与した」と分析した。その一方で、「中小組合においては労務費を含めた価格転嫁に関する課題が昨年以上に深刻化しているなど、企業間・業種間の先行きには厳しい状況も残されている」として、サプライチェーン全体での取引の適正化と適切な価格転嫁の取り組みのさらなる強化を訴えている。