過去最高の賃金改善獲得も規模間格差はさらに拡大/JAM中央委員会
2026年6月5日 調査部
金属、機械関連の中小労組を多く抱える産業別労働組合のJAM(安河内賢弘会長、36万9,000人)は5月26日、都内で中央委員会を開催し、2026年春季生活闘争の中間総括を確認した。賃金改善額、平均賃上げ額ともに結成(1999年)以降での最高水準となった18回集計(5月14日)までの闘争結果について中間総括は、「2023年を起点とした高い水準の賃上げを継続し、全体では前年に続き過年度物価上昇率を上回る賃上げを獲得した」と評価。一方、規模間格差については「課題を残した」と総括した。
すべての組合員が生活向上を実感できるよう賃上げに取り組んだ
JAMは今次春闘で、要求基準を前年より2,000円引き上げ、「1万7,000円以上」の賃金改善を目指すことを方針に掲げて取り組んだ。
中間総括をみると、2026年春季生活闘争の概要・特徴点について、「すべての組合員が生活向上を実感でき、『格差拡大に歯止めをかける』賃上げに粘り強い取り組みを展開した。誰一人取り残すことのないよう実態を分析し、交渉状況の共有を進め共闘体制を強化することに取り組んだ」とし、「結果として、賃金改善額、平均賃上げ額ともに過去最高となり、2023年を起点とした高い水準の賃上げを継続し、全体では前年に続き過年度物価上昇率を上回る賃上げを獲得した」と振り返った。
一方で、「『格差拡大に歯止めをかける』取り組みについては課題を残した」と指摘した。
賃金改善分の平均要求額は過去最高
今回の闘争の経過と結果について、具体的にみていくと、要求状況では、賃金構造維持分を把握できる単組の5割弱が要求基準に則った賃金改善を要求。賃金改善分の平均要求額は1万5,297円となった(5月14日集計、以降同様)。今次方針での賃金改善分の要求基準である1万7,000円以上を2,000円弱下回ったが、JAM結成以降での最高の要求額となった。
賃金改善分の平均要求額を規模別にみると、300人未満が昨年の最終集計(1万3,791円)を約1,200円上回る1万4,997円となっており、1万5,000円に迫る勢い。300人以上は、昨年の最終集計(1万4,539円)を約1,600円上回る1万6,218円となった。
改善分の平均回答額と獲得単組数も過去最高
回答状況をみると、賃金改善額を獲得した単組数は、賃金構造維持分を明示した798組合のうち780組合。改善分の平均額は1万37円と1万円台に達し、賃金改善額、賃金改善獲得単組数とも過去最高となっている。
規模別にみると、300人未満は9,063円で、平均要求額に比べ約5,900円以上低く、高い要求額に回答額が引っ張られなかった。300人以上は1万2,861円で要求額との差は3,300円程度だった。
個別賃金の取り組みでは、水準開示件数は、30歳、35歳の確定水準が、前年を上回っているものの、30歳、35歳の現行水準と要求水準はいずれも下回っていた。回答・確定水準の開示件数は、30歳が221、35歳は217、現行水準の開示件数は同順で415、409、要求水準の開示件数は同順で303、296となっている。
中間総括は、現行水準は2019年まで、要求水準、回答・確定水準は2020年まで開示件数を増やしてきたが、それ以降「伸び悩んでいる」としている。
回答水準については、30歳は水準が27万465円で、改善額が1万372円、35歳水準が29万6,801円で、改善額が1万546円となり、改善額が「平均賃上げの賃金改善額を上回っており」、個別賃金方式の優位性がみられる。
平均賃上げでの回答額・妥結額は5年連続で過去最高に
平均賃上げでの要求・回答・妥結の状況をみると、賃金構造維持分を含む要求額は1万9,194円(6.80%)、回答額が1万3,782円(4.88%)、妥結額が1万3,963円(4.92%)となり、要求額については4年連続、回答額、妥結額については5年連続で過去最高となった。
過年度物価上昇分に対する賃上げの状況についての記述をみると、4月中旬時点では、物価上昇が「2.6%に対し4.99%と全体では前年に引き続き実質賃金を維持している。しかしながら、規模、業種にかかわらずばらつきは大きく、実質賃金が維持できなかった単組も多い」としている。
一時金の回答額は前年並み
一時金については、「要求月数及び回答月数は同時期比較では、年間、半期ともに前年並みで、規模間格差は大きい」としている。
企業内最低賃金については、回答額と未回答単組の現行額の平均額は19万4,189円で、昨年の最終結果の18万4,884円より約9,300円高くなっている。
個別企業の業績だけにこだわらない賃上げの実施が必要
こうした結果をふまえ、中間総括は、今後の課題について、「2023年を起点とする積極的な賃上げを継続することができた」としたものの、「すべての組合員が生活向上を実感できる水準には至ってない」とし、「今後は、積極的な賃上げを継続した生活向上にこだわった取り組みが必要」だと強調。
また、「実質賃金の低下は、すべての働く仲間の生活を圧迫する」として、「物価上昇局面では、個別企業の業績だけにこだわらず賃上げを実施する必要がある」と指摘。実質賃金を維持させるための賃上げの必要性について、「労使の認識をさらに深める必要がある」と明記した。
そのうえで、賃上げについて「相場形成と共闘体制の強化がこれまで以上に重要となる」とし、結集力を高め共闘効果を発揮し、相場形成とその波及につなげることや、要求構築に向けた情勢の共有と職場討議による要求決定を徹底し、「組合員を巻き込んだ参加型の取り組みをさらに推進しなければならない」とした。
「賃上げをコストから投資に変えるのも組合の役割」(安河内会長)
安河内会長はあいさつで、「賃上げを単なるコストから投資に変えるのも、労働組合の大きな役割」だと主張。労組が賃上げだけでなく、生産性の向上や職場改善、人材育成、働き方改革などの課題についても会社と協議を重ね、「持続可能な成長モデルを構築する役割があることも自覚しなければならない」と訴えた。そのうえで、「物価は上昇を続けており、生活はさらに苦しくなっていこうとしている。賃上げを我慢することは絶対にできない。賃上げを我慢しても雇用や職場、会社を守ることはできなかったというのが、この30年間の失われた時代の教訓だ」などと述べ、今後も積極的に賃上げを求めていく必要性を強調した。
労働組合が主体的に配分に関与していく
中間総括は、個別賃金要求の推進と格差是正の取り組みについては、「格差是正の核となる賃金のあるべき水準を重視し個別賃金要求を推進していく」ことや、「個別賃金への転換には一定の時間を要するため、プロット図を利用した賃上げ結果の検証と賃金実態の分析など早期に開始する」ことなどを明記した。
また、「労働組合が配分に関与することを推進する」スタンスも強調。「初任給の引き上げと若年層是正の配分が優先されているが、中高年層も含めた全体への配分を考慮する必要がある」とし、「中長期的な賃金のあり方をふまえ労働組合が主体的に配分に関与しなければならない」とした。
18歳最低賃金協定の取り組みを強化
企業内最低賃金については、近年の地域別最低賃金の上昇に対して、「特定最低賃金の引き上げが追いつかず、地域別最低賃金を下回る事態が発生している」とし、引き続き特定最低賃金の申請要件となる18歳最低賃金協定の取り組みを強化していくとした。
価格転嫁の取り組みについては、「価格転嫁を促進する社会的な環境整備に取り組まれているが実施状況は十分とはいえない」とし、政府の「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」および「取適法(製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律)」の周知・徹底、実態や阻害要因の把握、サブプライヤーへの波及などを進めるとした。
300人未満の中小労組にある「1万円の壁」を壊す
あいさつした安河内会長は2026春闘の第18回集計で結成以来、過去最高の賃金改善獲得となったことについて、「素晴らしい結果」だと評価した。一方で、昨年に引き続き企業規模間格差が広がった結果については、その要因として300人未満の中小労組に「1万円の壁が存在をしている」と説明。具体的には、「多くの中小労組の回答が1万円、9,000円、8,000円といったところに集まってきているという実態がある」とし、これを解消させない限り、「規模間の格差の是正にはつながっていかない」と訴えた。
また、1万円の壁は経済的な合理性のある数字ではなく「長年にわたって賃金を抑制されてきた心理的な壁」だと指摘し、「この壁を壊していく運動を取り組まなければ、再び賃上げの流れは細り、物価高だけが人々の生活を圧迫するような状況に逆戻りしかねない」と述べ、そのためにも26春闘をきちんと総括し、27春闘につなげていきたいと話した。
中央委員会ではこのほか、2027年度JAM活動方針の骨子案や、第51回衆議院議員選挙に関する報告などを確認した。


