賃金改善の要求基準は昨年度同様1万5,000円に設定/基幹労連の中央委員会

2026年2月18日 調査部

鉄鋼、造船重機、非鉄などの業界の労働組合でつくる基幹労連(津村正男委員長、27万2,000人)は4日、都内で中央委員会を開催し、AP26春季取り組み方針を決定した。AP26は基幹労連にとって、賃金のほか退職金、労働時間など労働条件全般の改善に取り組む年であり、2年サイクルの前半年度の「総合改善年度」にあたる。方針は、物価上昇局面が継続していることなどをふまえて、賃金改善については2026年度・27年度それぞれ単年度要求で取り組むことにし、AP26での要求額はAP25と同額の1万5,000円に設定した。

AP26は2年サイクルの「総合改善年度」だが賃金改善は単年度の取り組みに

基幹労連では、春の労使交渉について、「AP(アクティブプラン)春季取り組み」と呼んでおり、2年間を1サイクルとして考える「2年サイクル」方式をとっている。1年目は「総合改善年度」と位置づけ、労働条件全般の改善に取り組み、賃上げについては基本的に2年分の賃上げを交渉・協議する。2年目は「個別改善年度」と位置づけ、「年間一時金」や、総合組合とグループ・関連組合間の「格差改善」などを主なテーマとして取り組む。

AP26は「総合改善年度」にあたる。方針は、取り組みの基本的な考え方の中で、「魅力ある労働条件づくりと産業・企業の競争力強化の好循環(内なる好循環)」と「日本経済の好循環(外なる好循環)」の2つの好循環を回すという基本理念に基づき、「賃金」「一時金」「退職金」「諸割増率関連(休日・時間外労働)」「労働時間・休日」「年休付与」「労災・通災付加補償」「ワーク・ライフ・バランス」「65歳現役社会の実現に向けた労働環境の構築」「働く者全てに関する取り組み」などの労働条件全般の改善に取り組むとしている。

賃金改善については、物価上昇が継続していることや、先行き不透明な経済情勢をふまえて、2年分の賃上げについて取り組むのではなく、2026年度・2027年度それぞれ単年度で取り組む方針とした。基幹労連全体で賃金改善について単年度で取り組むのはこれで3年連続。

方針は賃金改善について、「全ての加盟組合が『実質賃金の維持・向上』を果たせるよう、基幹労連全体として後押しを行う」とし、「業種別部会ごとの『当面の目標』の達成をめざし、全体の底上げ・底支えにつながるよう、結果にこだわった取り組みを粘り強く進めていく」としている。

「鉄鋼」は減益だが、「船重」「非鉄」では増益の見通し

加盟組合の産業を取り巻く環境をみると、「鉄鋼」が中国の鋼材輸出の影響で2025年度通期の収益見通しが前期と比べ減益となる非常に厳しい状況である一方、「船重(船舶重機)」と「非鉄」では増益が見込まれ、各産業、企業で業績にバラツキが見られると分析している。そういったこともあり、方針は、「業績にバラツキが見られるが、全体としての相乗効果を発揮するため、基幹労連全体で一体感のある取り組みを行う」と強調。

「賃金」をはじめとする各取り組み項目については、部門・部会が産別方針のもとで「まとまりをもった取り組み方を検討し、取り巻く環境・企業の状況をふまえて成果につながる取り組みを展開する」とした。

また方針は、各企業で環境適合への対応やDXの推進によるデジタル技術の積極活用などに取り組むなかで、「組合員は、会社諸施策に対しても努力を惜しまず、生産性向上に向け懸命に取り組んでいる」として、「そこで得られた成果については、生産性三原則のもと公正に分配されるものであり、賃金をはじめとする労働諸条件に適正に配分するといった観点で取り組む」ことも掲げた。

要求額を1万5,000円に設定したうえでそれ以上の柔軟な設定も許容

項目ごとの取り組み方針について、賃金改善からみていくと、要求の考え方については基本的な考え方にあげた基本理念のほか、「生産性の向上と働きに見合った成果の配分」を前提とし、「生活の安心・安定に向けた実質賃金の維持・向上」「『働きたい』『働き続けたい』と思える労働条件の構築」を要求根拠の基礎とした。

要求水準については、「連合・金属労協の方針もふまえつつ、消費者物価や経済成長といった基本的要素に加え、継続した『人への投資』、並びに経済の好循環や人材の確保・定着を総合的に判断し、基幹労連として相乗効果を生むべく、全体が一体感を持って取り組める水準とする」と述べ、賃金改善の要求額はAP25と同様に「1万5,000円」と設定した。

一方で、方針では業種ごとに業績にばらつきがあることをふまえ、「部門・部会ごと置かれた状況の違いを相互に認識したうえで、一定の柔軟な設定を認め合うこととする。ただし、部門・部会のまとまりのもとで取り組むことを徹底する」と昨年の方針になかった文言を盛り込み、条件が整う組合は格差改善に積極的に取り組むことを容認した。

「物価を上回る賃金改善を継続させる、踏ん張りどころ」(津村委員長)

中央委員会であいさつした津村委員長は、「一定の柔軟な設定を認め合う」と追記した文言について「趣旨は、部門・部会のまとまりのもとで1万5,000円を上回る要求を認め合うということ。部門・部会ごとに見れば、事業環境・経営状況にバラつきがあり、厳しい要求水準と受け止められている加盟組合があることを承知している。しかし、実質賃金の向上、すべての働く者への波及など、労働組合として求められ、期待される役割を果たすためには、AP24・25、部門・部会によってはAP23から続く物価を上回る賃金改善を継続させる、踏ん張りどころとなるAP26だと思っている。そのために、必要な水準であり取り組みであることを理解してほしい」と話した。

企業内最賃はJC共闘の最低到達目標や到達目標の達成に向けて取り組む

企業内最低賃金については、金属労協がJC共闘の最低到達目標として設定した月額21万4,000円(時間あたり1,330円)と、最低到達目標を達成した組合が中期でめざす到達目標の月額24万3,000円(同1,500円)の達成に向けて取り組むとしている。その達成に向けた引き上げ額は「連合が掲げる地域別最低賃金(地賃)のあるべき水準等を考慮し、適用される法定最賃の金額水準もふまえて設定する」とした。

年間一時金については、基幹労連が要求基準を示し、業種別部会でのまとまりを重視した要求を行うとし、中期ビジョンの「基幹産業にふさわしい水準として5カ月(160万円程度)以上の確保」「生活を考慮した要素としての4カ月(120~130万円)確保」の考え方をふまえるとした。要求基準は、「金額」を要求する方式では、「160万円を基本」に設定するとし、「厳しい状況においても、生活を考慮した要素としての120~130万円を確保するものとする」とし、「金額+月数」方式では、「40万円+4カ月を基本とする」とした。「月数」要求方式では、「5カ月を基本とする」とした。

賃金以外では退職金、労働時間・休日・休暇などが柱

このほかでは、ワーク・ライフ・バランス、労働時間・休日・休暇、諸割増率、退職金、労災通災付加補償、格差改善・労働条件の底上げ、65歳定年制導入などの取り組みを掲げている。労働時間・休日では、年間所定労働時間1,800時間台、年間休日125日以上の実現に向け、部門・部会ごとの判断にもとづいて取り組む。退職金(60歳・勤続42年/高卒技能労働者)では、65歳以降の生計費をふまえたガイドラインとして定めている2,600万円に向けて取り組む。なお、定年延長した組合は、「退職金の意義にある賃金の後払いの観点をふまえ、勤続が延びた分に応じた増額を求める」考え。

格差改善・労働条件の底上げについては、2年サイクルの中で、賃金や退職金を含めた格差改善に向けた取り組みを進めるとした。具体的には「『トータルでみた労働条件の納得性』を追求し、『賃金』『退職金』等の業種別部会ごとの当面の目標をふまえ、部門・部会のまとまりをもって、相乗効果を発揮する取り組みを進める」としている。また、「速やかに改善すべき3項目(①年次有給休暇初年度付与日数、②時間外・休日割増率、③労災・通災追加補償)」を基本に、各種労働諸条件の具体的な改善項目の検討にあたるとし、「労使話し合いの場」を積極的に活用し、獲得成果を高め、魅力ある制度を構築するとした。

交渉体制では、中央戦術委員会のもとに必要に応じて合同業種別戦術委員会を開催するとした。また、今次取り組みでは、総合組合を対象とした合同総合戦術委員会を設置し、適切な配置により戦略・戦術の調整をはかる。

「ここ数年の春闘交渉とは潮目が変わり、より厳しい交渉になる」(神鋼連合)

方針討議では、鉄鋼総合部会の日本製鉄労連は要求水準について「基本賃金の改善にあたっては単年度の要求とし、組合員1人あたり1万5,000円を求める」とし、このほか「年間休日の増、福祉休暇制度の見直しを始めとする諸制度の見直しを求める」と述べた。そのうえで、「結果にこだわった取り組みがグループ関係各組合をはじめ、すべての働く仲間の労働条件の底上げ、格差改善につながるという認識のもと、総合組合としての責任と役割を果たして取り組む」などと発言した。

神鋼連合は「鉄鋼各社の先行き不透明な事業環境をふまえると、ここ数年の春闘交渉とは潮目が変わり、より厳しい交渉になることが予測される」としたうえで、「最大限の成果を得るために統一要求を1万5,000円の賃金改善に絞り込むという判断をした。神鋼連合としても掲げた目標を勝ち取るために、全身全霊で取り組む所存であり、この取り組みによってグループ関連組合を後押しし、全体の底上げにつなげていきたい」と話した。

JFEスチール労連も、鉄鋼業界の厳しい状況をふまえ、「AP26では退職金要求を見送るという重い判断を鉄鋼総合部会で確認した」と紹介しつつ、「鉄鋼部門の総合組合として実質賃金の維持・向上に向けた賃金改善、職場の課題解決に向けて最大限取り組む」などと意気込みを語った。

「業績好調だからこそ、無形の資産である人材に光を当てるべき」(三井金属労連)

非鉄総合部会の三井金属労連は、① 非鉄産業が選ばれるための戦略的な賃金改善 ② 高度な専門性に対する処遇の向上 ③ 安全対策設備など過酷な現場を支えるインフラ整備――の3点を求めていくと表明。また、「非鉄産業を支えるのは長年の熟練の勘と技。AIとDXが進展しても鉱石の微妙な変化を見極め、品質改善を進める現場の技術力には代替できない。業績が好調な今だからこそ、目に見えない無形の資産である人材に光を当てるべき」などとコメントした。

機器部会は賃金改善に格差改善分を加えて要求

機器部会のIHI原動機労働組合は、格差改善について「AP26において機器部会では賃金改善に加えて格差改善分を要求することとしたが、昨年と同様に大手や親組合を超える要求額になり、取り組む組織によっては交渉が難航する」と見通したうえで、格差改善分に取り組むことが困難な組織に対するサポートとして、「課題解決に向けた労使検討の場を設けることで、格差改善の必要性や各組織の賃金実態を共有し、また議論していくことを方針に掲げ、月例賃金における格差改善については、機器部会の当面の目標の中に船重部門の過重平均の金額を追加した」ことを紹介した。また、「総合重工との格差があるのは当たり前というような門前払いの実態から、より多くの母数の平均としたことで自社の賃金格差が多くの組織と比べてどれだけ差があるのかといった認識を持った上で議論ができるようにした」と発言した。

総合重工大手は基幹労連の統一要求額を超える1万6,000円分を要求

集中要求提出日に設定した2月6日には、「鉄鋼総合」「総合重工」「非鉄総合」部会の各大手組合が経営側に要求書を提出した。日本製鉄、神戸鉄鋼、JFEスチール、三菱マテリアルなど鉄鋼総合と非鉄総合の組合は1万5,000円を要求。総合重工の三菱重工、川崎重工、IHIの労働組合は1万6,000円の賃金改善を要求した。