1万2,000円以上の賃上げにこだわるとする2026年闘争方針を決定/金属労協の協議委員会

2025年12月24日 調査部

自動車総連、電機連合、JAM、基幹労連、全電線の5産別でつくる金属労協(JCM、金子晃浩議長)は3日、都内で協議委員会を開き、来春の賃上げ交渉にむけた2026年闘争方針を決定した。方針は、「定期昇給などの賃金構造維持分を確保したうえで、実質賃金向上を確固たるものにするべく、すべての組合で1万2,000円以上の賃上げにこだわる」と掲げ、すべての組合員で実質賃金を上回る賃上げを獲得することを目指す。金子議長(自動車総連会長)は要求基準について、「水準の実現にもこだわっていくという強い意志をこめている」として、前年よりも積極的な方針であることを訴えた。

3年間で定着してきた賃上げの流れを持続可能なものとする

方針は、2026年闘争の要求の基本的な考え方について、「成長と分配の好循環を軌道に乗せ、日本経済の持続的発展につなげていくためには、2023年以降の3年間で定着してきた賃上げの流れを持続可能なものとし、今後も継続していく必要がある」と提示。また、闘争の環境整備として、バリューチェーンにおける「付加価値の適正循環」の推進により、「生産性向上と価格転嫁を含む適正取引の取り組みを産業全体に浸透させ、金属産業全体での賃上げにつなげていく」としている。

さらに、方針は、人材確保・定着の観点から、「積極的な賃上げの継続とともに、誰もが活躍できる職場環境整備が重要」として、休日増を含む労働時間の短縮や仕事と家庭の両立支援の整備など、「JC共闘として取り組み、産業全体の労働諸条件改善を目指す」としている。

闘争結果を日本全体に波及させる取り組みを一層推進する

そのうえで方針は、金属労協が10年以上にわたってJC共闘全体で賃上げに取り組み、春闘のけん引役を果たしてきたが、日本全体として実質賃金の向上に至らず、労働分配率低下などの中期的課題が依然として改善していないことから、「闘争の取り組みをより深化させていく必要がある」と強調。「今次闘争は、厳しさが増す生活実感を改善させるべく、実質賃金の向上にこだわり、闘争結果を日本全体に波及させる取り組みを一層推進することにより、経済の好循環実現を目指す」とした。

実質賃金の持続的な上昇を伴う「賃上げノルム」の確立を目指す

具体的な取り組みの内容をみていくと、賃金については、JC共闘全体で積極的な賃上げの流れをけん引して実質賃金の持続的な上昇を伴う「賃上げノルム」の確立を目指すことや、賃金水準を重視して格差改善分を積極的に要求することなどに言及。具体的な要求事項では、「定期昇給などの賃金構造維持分を確保したうえで、実質賃金向上を確固たるものにするべく、すべての組合で1万2,000円以上の賃上げにこだわる」としている。

また、金属労協は、方針のなかで、目指す個別賃金水準(35歳相当・技能職)を「目標基準」「到達基準」「最低基準」の3つのポイントで示しているが、これらは2025年方針から変更せず、「目標基準」を「基本賃金36万4,000円以上」(基本賃金とは所定内賃金から各種手当を除いた賃金)、「到達基準」を「基本賃金33万4,000円以上」、「最低基準」を「到達基準の80%程度(26万7,000円程度)」と据え置いた。

また、賃金制度が未整備の組合では、「産別の指導に基づき、賃金制度の確立や賃金構造維持分確保のための仕組みづくりに取り組むこと」などとしている。

前年よりも「水準の実現にこだわる積極的な方針」(金子議長)

あいさつした金子議長は、2025年闘争全体について「2023年以降の積極的な賃上げの流れを定着させ、組合員の生活の安心・安定を図ることができた」などと評価する一方、現状も残る課題として、① 足元の実質賃金の改善には至っていないこと ② 企業の規模間格差が拡大していること ③ 主要先進国で最も低い賃金水準の位置にいること――の3点をあげた。

また、「1万2,000円以上」の数字の算出にあたっては、① すべての組合員の実質賃金の改善と生産性の高さに見合った配分を要求し、労働分配率の低下に歯止めをかけること ② 賃上げの裾野を広げ、規模間格差の拡大に歯止めをかけること ③ 国際的に低い賃金水準を引き上げていくこと――の3点を踏まえていることを説明。「見た目の水準は前年と同様だが、今年は水準の実現にもこだわっていくという強い意志をこめており、より積極的な方針との認識でいてほしい」と呼びかけた。

「以上」の文言を付けた点についても「さらなる取り組みが可能な組織には積極的に取り組んでいただくという強い思いが含まれている」として、「組織内でも議論をつくしていただき、結果にこだわる春闘に臨んでいきたい」と訴えている。

なお、協議委員会開催前の11月26日に行われた記者会見で金子議長は、「平均獲得額としてこの3年間で増え続けている点は高く評価できるが、他方で、世代間や組合員一人ひとりでみると必ずしも高い物価上昇を上回るだけの賃上げを獲得できていなかったことは極めて大きな反省」などと説明したうえで、「今年はなんとしてもすべての組合員にとって実質賃金を上回るだけの賃上げを獲得したい」と、要求基準にこめた思いを語った。

企業内最低賃金は最低到達目標を月額21万4,000円に位置付ける

企業内最低賃金協定について、方針は、JC内の全組合の締結を目指し、未締結組合は協定締結に取り組むことや、非正規雇用を含めた協定の締結を目指す。具体的な水準については2025年方針から変更せず、「高卒初任給準拠」を基本としたうえで、月額21万4,000円(時間あたり1,330円)を「最低到達目標」に位置付けるとした。「最低到達目標」を達成した組合が中期で目指す企業内最低賃金の目標(到達目標)は、月額24万3,000円(時間あたり1,500円)を掲げ、その実現に取り組むとしている。

そのうえで、特定最低賃金については、「すべての特定最低賃金について金額改正に取り組むとともに、産業・地域の状況に応じて新設を検討する」などとした。

金属労協では、これ以下の賃金水準では金属産業で働かせないとする「JCミニマム(35歳)」の取り組みを展開しているが、その水準(基本賃金)については、2025年方針から1万円引き上げて、月額24万円としている。

金子議長は冒頭のあいさつで、「企業内最賃協定の引き上げ結果を踏まえ、各地方組織の最賃担当者が特定最賃の引き上げに取り組むことになる」と指摘。また、「最賃引き上げのリレーが労使交渉の手段を持たない未組織労働者へと波及し、組織労働者と未組織労働者、正社員と非正社員の間の賃金格差を是正する役割を担っている」として、取り組みを推進していく必要性を強調した。

なお、一時金については、年間5カ月分以上を基本とし、年間4カ月分以上を最低獲得水準とした。そのうえで、一時金と賃金の配分を見直す動きがあることにも触れ、「安定した収入である賃金が増えることは望ましい」とする一方で、「一時金は生活設計への影響も大きい」ことを指摘。「極端な総額年収の変動や不利益変更がないかなどに留意し、協議に臨む」考え方を打ち出している。

「付加価値の適正循環」の考え方の一層の理解促進を

このほかの取り組み項目は、労働時間の短縮、仕事と家庭の両立支援の充実、テレワーク等の新たな働き方への対応、60歳以降の雇用の安定と処遇改善、ダイバーシティへの対応強化、安全衛生体制の強化、非正規で働く労働者の雇用と賃金・労働条件改善、バリューチェーンにおける「付加価値の適正循環」構築、人権デュー・ディリジェンス、産業政策要求など。

このうち、バリューチェーンにおける「付加価値の適正循環」構築について、方針は、金属産業全体で積極的な賃上げの流れを定着させるために、「労務費、原材料費、エネルギー費についても適正な価格転嫁を進めるとともに、生産性向上や企業の体質強化による付加価値の拡大に、継続して取り組んでいく必要がある」などと指摘。「付加価値の適正循環」の考え方の一層の理解促進や、「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」などに基づき、労働組合として、納入側・購入側の双方の立場から職場レベルでのチェック活動を推進していくことなどを示している。

産業政策要求については、より幅広い分野の政策課題の解決を目指す観点から、① ものづくり産業を支える人材の確保・育成 ② ものづくり産業の基盤強化政策 ③ 将来にむけた成長力強化政策――の3つの柱をもとに考え方を整理しており、政策課題の解決にむけて強力な取り組みを推進していくとしている。

JAMは1万7,000円以上、基幹労連は1万5,000円で検討中

金属労協に加盟する産別では、JAM(安河内賢弘会長)、基幹労連(津村正男委員長)、自動車総連が、要求方針の執行部案の内容を明らかにしている。

JAMは「2026年春季生活闘争方針大綱」のなかで「賃金構造維持分を確保した上で、所定内賃金の引き上げを中心に1万7,000円以上の『人への投資』を要求する」と掲げている。方針は来年1月に正式決定するが、この内容で決まれば、要求水準は2025闘争より2,000円高い。

基幹労連が加盟単組に示した「AP26春季取り組み基本構想」は、AP26を2年サイクルの「総合改善年度」として「賃金」や「一時金」、「退職金」など労働条件全般の改善に取り組むものの、「賃金改善」については「物価上昇局面が継続していることや、先行き不透明な経済情勢をふまえて、AP26・27は単年度で取り組む」と提起したうえで、賃金改善の要求額について、1万5,000円と掲げた。2月の中央委員会でこのまま正式決定すれば、要求額はAP25方針と同じ水準となる。

自動車総連は1万2,000円以上にこだわる方針案を発表

自動車総連は12月12日に記者会見を開き、引き続き「個別ポイント賃金の取り組み」と「平均賃金の取り組み」を併せ持った「絶対額を重視した取り組み」を進める方針は変わらないとしつつも、とりわけ中小組合を念頭にした目安の金額として「自社や産業の魅力向上、全年代での実質賃金向上などにむけ1万2,000円以上の実現にこだわって取り組む」などとする2026年総合生活改善の取り組み方針案を発表した。目安の金額は2025闘争と同水準だが、「以上」の文言を加えるなど、より力強い内容を示している。方針は来年1月に正式決定する。