「賃上げ分3%以上、定昇相当分を含め5%以上」を要求目安とする2026春季生活闘争方針を決定/連合の中央委員会

2025年12月12日 調査部

連合(芳野友子会長、681万2,000人)は11月28日、千葉県浦安市で中央委員会を開き、2026春季生活闘争方針を決定した。方針は今次闘争について「実質賃金の持続的な上昇を伴う“賃上げノルム”の確立をめざすとき」だと強調。賃上げ要求の目安は「賃上げ分3%以上、定昇相当分(賃金カーブ維持相当分)を含め5%以上」と2025闘争方針から据え置いたものの、今回は「その実現をめざす」ではなく、「その実現にこだわる」と修文し、前回以上に5%以上の獲得にこだわる姿勢を強調した。

実質賃金の持続的な上昇を伴う“賃上げノルム”の確立をめざすとき

連合は2022年から、春季生活闘争について「経済成長や企業業績の後追いではなく、産業・企業、経済・社会の活力の原動力となる『人への投資』を起点としてステージを変え、経済の好循環を力強く回していくことをめざす」とする考え方を採用している(呼び名は「未来づくり春闘」)。「未来づくり春闘」の4年目に入った2026闘争について方針は、「いまこそ、“新しいステージ”の転換・定着の段階から、実質賃金の持続的な上昇を伴う“賃上げノルム”の確立をめざすとき」だと強調。「物価高やいわゆるトランプ関税の影響など現下の課題も踏まえつつ、中長期的視点から賃上げの大きな流れを継続・拡大し、すべての働く人の生活向上を実現する」と掲げた。

方針はまた、「直近3年間で賃上げの動きは加速し、2年連続で5%台の賃上げが実現したものの、生活が向上したと実感している人は少数にとどまり、個人消費は依然として低迷している」と指摘。「日本の実質賃金を1%上昇軌道に乗せ、これからの“賃上げノルム”としていくことが、国民経済の安定と経済の好循環を実現するカギとなる。そのためには、賃上げのすそ野を中小企業や労働組合のない企業などに広げ、格差是正を進めることが不可欠」だと主張するとともに、「自国優先主義など外的マイナス要因を乗り越えるためにも国内の消費マインドを喚起できる賃上げが必要不可欠」だと訴えた。

「基盤整備」に向けて取適法の周知徹底などに全力

中小組合も含めた賃上げなどの取り組みを効果的に進めるための「基盤整備」に向けては、「持続的な賃上げと格差是正が実現できる環境をつくっていくために、適切な価格転嫁・適正取引の取り組みを強化する」とし、サプライチェーン全体で生み出した付加価値の適正分配、働き方も含めた「取引の適正化」とともに、2026年1月1日施行の下請法に代わる「中小受託取引適正化法」(取適法)の周知徹底や、「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」の周知強化と浸透などを中心に「全力で取り組む」と書き込んだ。

2026年は日本の実質賃金を少なくとも1%程度改善させる必要

賃金要求の内容を具体的にみると、まず、賃上げについての考え方では、「『未来づくり春闘』のもと、国際的に見劣りする日本の賃金水準を中期的に引き上げていくことをめざしてきたが、この4年間、名目賃金は伸びたものの、物価高によって実質賃金は低下し、日本の賃金の相対的位置も低いまま」だと指摘し、「主要国の賃金が年1~2%ずつ上昇していることを踏まえると、日本の実質賃金をわが国全体の生産性の伸びに応じて継続的に引き上げ、中期的には生産性自体を引き上げることで改善のスピードアップをはかる必要がある。2026年は日本の実質賃金を少なくとも1%程度改善し、賃金における国際的ポジション回復をめざす必要がある」とした。

また、「超少子・高齢化により生産年齢人口の減少が不可避である中、将来にわたり人材を確保・定着させ、わが国全体の生産性を高めていくには、継続的な『人への投資』が重要」だとし、地域別最低賃金の上昇や労働分配率の低下が続く状況も勘案しながら「今こそ未来を見据えて、傷んだ労働条件を回復させ『人への投資』を積極的に行うべき局面にある」と指摘した。

さらに方針は、「2025闘争では2年連続5%台の賃上げが実現したものの、生活が向上したと実感している人は少数にとどまり、個人消費は低迷している」とし、「多くの人が生活向上を実感し、将来への希望と安心感を持ててこそ、賃金、経済、物価を安定した巡航軌道に乗せることができる。そのためには、物価を安定させるとともに、2025闘争における賃上げの流れを定着させ、賃上げのすそ野を広げていく必要がある」と主張した。

今回の方針は5%以上の実現に「こだわる」と文言修正

賃金要求の各指標をみていくと、「底上げ」を図るための指標では、「賃上げがあたりまえの社会の実現に向け、全力で賃上げに取り組み、社会全体への波及をめざす」とし、「すべての働く人の生活を持続的に向上させるマクロの観点と各産業の『底上げ』『底支え』『格差是正』の取り組み強化を促す観点から、全体の賃上げの目安は、賃上げ分3%以上、定昇相当分(賃金カーブ維持相当分)を含め5%以上とし、その実現にこだわる。中小労組などは、この間の賃上げ結果や賃金水準を点検し、格差是正分を積極的に要求する」と掲げた。

「賃上げ分」が「3%以上」、全体の要求水準が「5%以上」という内容は2025方針と同じ。ただ、2025方針では「実現をめざす」としたが、2025闘争の最終結果では、定昇相当分込みの賃上げ率が5%に達しなかった組合の割合が57.3%と6割弱にのぼったこともあり、今回の方針は「実現にこだわる」と書きぶりを変えた。

有期・短時間・契約等労働者の時給引き上げは1,450円以上をめざす

「格差是正」を図るための指標では、規模間格差を是正するために30歳、35歳それぞれの年齢ポイントの「到達目標水準」と「最低到達水準」を示している。方針は、2025方針からすべてポイントで水準を増額し、「到達目標水準」の30歳を28万8,000円、35歳を31万2,000円、「最低到達水準」の30歳を24万5,000円、35歳を25万7,000円とした。

また、雇用形態間格差の是正に向けては、「有期・短時間・契約等で働く者の賃金を『働きの価値に見合った水準』に引き上げていくため、フルタイム労働者と同等に能力の高まりに応じた処遇の実現に取り組む。賃上げ・昇給等により、経験5年相当で時給1,450円以上をめざす」とし、2025方針から引き上げ水準を50円増額した。

「底支え」に向けた指標では、「企業内のすべての労働者を対象に協定を締結する」とし、「締結水準は、生活を賄う観点と初職に就く際の観点を重視し、時給1,300円以上をめざす」として、引き上げ水準を2025方針から50円引き上げた。

中小組合は過去3年分の物価上昇分を確保できているか点検

中小組合の取り組み(企業規模間格差是正の取り組み)については、「企業規模間格差は2023年より拡大に転じ、人手不足は大企業より深刻」だと指摘し、「とりわけ中小組合については格差是正分を積極的に要求する」と明記。

そのうえで要求水準の目安について、すべての中小組合は「賃金カーブ維持相当分(1年・1歳間差)を確保した上で、自組合の賃金と社会横断的水準を確保するための指標を比較し、その水準の到達に必要な額を加えた総額で賃金引き上げを求める。また、3年前の賃金水準と比べ9%以上(過去 3 年分の物価上昇率)増えていない場合は、その回復についても求めていく。獲得した賃金改善原資の各賃金項目への配分等にも積極的に関与する」とした。また、賃金実態が把握できないなどの事情がある場合は、2025方針と同様、「賃金指標パッケージの目標値に格差是正分1%以上を加えた1万8,000円以上・6%以上を目安とする」と掲げた。

今回の方針では、2025方針にはなかった「3年前の賃金水準と比べ9%以上(過去3年分の物価上昇率)増えていない場合は、その回復についても求めていく」との文言が加わった。連合では「物価上昇分を取り直していくということだけでなく、組合員1人ひとりの生活がこの3年間で良くなったのかといったことも点検してほしい」(仁平章・総合政策推進局長)としている。

企業内最低賃金協定の締結水準は時給1,300円以上をめざす

一方、雇用形態間格差是正の取り組みについては、2025年度地域別最低賃金の引き上げが6.3%となったことを意識し、「7%を目安に少なくとも地域別最低賃金の引き上げ率を上回る賃金引き上げに取り組む」と明記するとともに、「有期・短時間・契約等で働く者の労働諸条件の向上と均等待遇・均衡待遇確保の観点から、企業内のすべての労働者を対象とした企業内最低賃金協定の締結をめざす。締結水準については、時給1,300円以上をめざす」とした。時給の引き上げ水準は2025方針より50円高い。

さらに、賃上げの結果と企業内最低賃金協定を「法定最低賃金引き上げに結びつける」として、「地域別最低賃金については、1,500円を通過点として一般労働者の賃金中央値の6割水準をめざす」ことも盛り込んだ。

「私たちのくらしは、ゆとりを感じるような状況にはいたっていない」と芳野会長

あいさつした芳野会長は、2026春季生活闘争に向けて、「私たちのくらしは、ゆとりを感じるような状況にはいたっていない。良くなってはいない」と強調したうえで、「とりわけ、中小企業や労働組合のない職場で働く仲間への賃上げの波及は濃淡があり、この間も課題としてきた。2026闘争では格差是正に向けた取り組みを強化していく。そのための基盤整備として、サプライチェーン全体で生み出した付加価値の適正分配、適切な価格転嫁・適正取引の推進を今次闘争でもしっかりと訴えていく」と述べた。

また、企業規模間格差の是正に向け、「格差是正分1%以上を加えた6%以上、額にして1万8,000円以上を目安に取り組む。中小組合においては、この間の賃上げ結果や賃金水準を点検し、格差是正分の積極的な要求をお願いする。構成組織においては、すべての加盟組合の要求・解決状況を把握し、取りこぼしのないよう取り組みをお願いする」とし、雇用形態間格差の是正に向けては、「7%を目安に、少なくとも地域別最低賃金の引き上げ率を上回る賃金引き上げに取り組む。これによって、雇用形態間の格差是正をさらに前進させたい」と話した。

地方版政労使会議は複数回の開催を検討

方針は、闘争の進め方については、連合本部、構成組織、単組、地方連合会、地域協議会が力を合わせ、「3年連続の5%以上の賃上げ実現と積極的な格差是正にこだわりを持って全力で取り組みを進める」とし、「中央と地方における政労使会議の開催を求め、問題意識の共有と社会的機運醸成をはかる」とした。地方版政労使会議については、「地域における賃上げ等の波及効果を高めるため」複数回の開催についても検討するとしている。

要求提出は「原則として2月末まで」。「新年度の労働条件は年度内に確立させることを基本」とし、「賃上げのすそ野を広げ、格差是正を強化する観点から、3月月内の回答引き出しゾーンへの結集度を高める」としている。

ヤマ場や回答引き出しのゾーン設定の具体的設定などについては、例年どおり、共闘連絡会議全体代表者会議、戦術委員会などで協議する。今次闘争でも5つの部門別共闘連絡会議(金属、化学・食品・製造等、流通・サービス・金融、インフラ・公益、交通・運輸)を設置する。

組織拡大プランフェーズⅡでは各組織が組織拡大・強化を最重点に位置づけ

中央委員会ではこのほか、2020年10月~2030年9月までの10年間の組織化プランである「組織拡大プラン2030」の後半期、フェーズⅡ(2025年10月~2030年9月)の内容を確認した。

フェーズⅠ(2020年10月~2025年9月)では拡大目標数を97万912人に設定したものの、拡大実績は67万7,941人(うちパート等20万7,709人)にとどまった。この結果をふまえ、フェーズⅡでは、構成組織・地方連合会それぞれが自らの目標を設定し、「その必達に向けて全力で取り組む」とし、組織拡大・強化を最重点に位置づけながら、① 拡大実績の上積み ② 組合員の減少に歯止めをかける ③ 人財を含む体制の強化――の3つを展開するとしている。

芳野会長は、「今後、さらに組織拡大を進め、同時に組合員の減少に歯止めをかけるためには、私たち自身の『自覚』が大事だ。ズバリ、連合は、若者と女性に人気がない。まずは、そのことを改めて自覚しなければならない。魅力のない組織に、人は集まってこない」と指摘。

「フェーズⅡでは、同じ職場で働く未組織・未加入者の組織化をより一層強化していく。連合が行った加盟組合調査でも、民間・公務ともに、同じ職場に未組織の正社員・パート・有期契約・再雇用などの従業員が大勢いることがわかった。組織拡大の一歩は、隣で働く仲間との連帯にある。同じ職場という共通のフィールドで、働くことを軸としてつながる一人ひとりと連携して、より良い職場を実現し、より良い職業人生を共に歩む、そんな仲間づくりを進めていきたい」などと述べた。