社会的役割に見合う労働環境の実現に向けた取り組みを推進
/交運労協定期総会

2025年10月17日 調査部

交通運輸関係の産業別労組で構成する交運労協(池之谷潤議長、56万7,000人)は10月9日、都内で定期総会を開き、2026年の活動方針を決めた。活動方針は、物流産業を取り巻く環境整備や持続可能な地域公共交通の確保、交通運輸・観光サービス産業の人材不足への対応などに関する取り組みの方向性を明示。25春闘の総括では、「『人への投資』の重要性を労使で一定確認することができた」と評価する一方で、産業間格差の是正や実質賃金の確保、価格転嫁の推進などの視点で課題が残ったことも示し、26春闘でも「賃上げの流れを途切れさせることなく、本年を上回る回答を引き出していかなければならない」として、「社会的役割に見合う労働環境の実現に向けた取り組みを進める」姿勢を改めて訴えた。

活動方針は、政策課題の実現に向けた取り組みとして、① 持続可能な物流の確立 ② 第3次交通政策基本計画策定への対応と地域公共交通確保 ③ 人材の確保・育成・定着 ④ カスタマーハラスメント防止 ⑤ ライドシェア新法制定反対と日本版ライドシェアへの対応 ⑥ 自動車自動運転の課題解決 ⑦ 観光立国推進――の7つの柱を掲げている。

改正下請法とトラック適正化二法を活かした取り組みを

わが国の物流の持続可能性を確保するために、サプライチェーン全体で適切な価格転嫁を図っていくことや、トラックドライバーの適切な賃金の確保とトラック運送業の質の向上が求められている。

今年の通常国会では、5月に「下請代金支払遅延等防止法(下請法)の改正法」、6月には「貨物自動車運送事業法改正法および貨物自動車運送事業適正化推進法(トラック適正化二法)」が成立した。下請法の主な改正事項は、① 協議を適切に行わない代金額の決定の禁止 ② 手形払等の禁止 ③ 運送委託の対象取引への追加 ④ 従業員基準の追加 ⑤ 面的執行の強化――など。とりわけ、従来、下請法の対象外だった「発荷主から元請運送事業者への委託」については、発荷主が運送業者に対して物品の運送を委託する取引が対象として追加されたことで、【低価格での運賃の据え置き=買いたたき】【契約にない附帯業務の強要=不当な経済上の利益の提供要請】【荷主都合による荷待ち行為=不当な給付内容の変更・やり直し】として、それぞれ禁じられることになる。また、貨物自動車運送事業法の主な改正事項は、① 許可の更新制度の導入 ② 「適正原価」を下回る運賃・料金の制限 ③ 委託次数の制限 ④ 違法な「白トラ」に係る荷主等の取り締まり――などとなっている。

こうした動向を踏まえ、活動方針は、「協議に応じない一方的な価格決定行為など、価格転嫁を阻害し、受注者に負担を押し付ける商慣習を一掃していかなければならない」などと主張。「『適正原価』を義務化することで、規制緩和政策により破壊されたトラック運送業の秩序を正常化していかなければならない」などと訴えている。

サプライチェーン全体の担い手確保・処遇改善の視点を一丁目一番地として対応

一方、政府が物流施策の指針として策定する現在の「総合物流施策大綱(2021年度~2025年度)」は、2025年度が計画期間の最終年度。このため、国土交通省は、わが国の物流を取り巻く諸課題への対応を検討する「2030年度に向けた物流施策大綱に関する検討会」を設置して、年末頃に提言をとりまとめる予定で議論を進めている。

活動方針は、同検討会が2030年度に想定される輸送力不足への対応として、「持続可能な物流サービスの提供に向けたサプライチェーン全体の担い手確保・処遇改善」を示したことに言及。この視点を「一丁目一番地として、対応していく」とし、「そのために、トラックドライバーの処遇改善はもとより、サプライチェーンを構成する港湾および貨物鉄道における課題解決に向け、取り組んでいく」姿勢を強調している。

また、政府が交通に関する施策を総合的・計画的に定める「交通政策基本計画」についても、活動方針は、2026年度が始期となっている「第3次交通政策基本計画」の骨子案で、「人口減少に負けない、一人ひとりが豊かさと安心を実感できる持続可能な経済・社会の実現」を基本認識としているものの、現行の「第2次交通政策基本計画」の下で、「人口減少に伴う人材不足問題はさらに深刻化し、地域公共交通の利用者減少という需要の側面のみならず、担い手減少という供給制約の課題が顕在化している」ことを明記。同計画の策定に加え、持続可能な交通ネットワークを実現するための施策に係る検討を行っている国土交通省の交通政策審議会地域公共交通部会の最終とりまとめもあわせて、交運労協としての意見集約を図り、反映に努めていく考えを示している。

賃金・労働条件向上の原資となる価格転嫁の推進と運賃・料金制度の見直しを

人材の確保・育成・定着に関しては、交通運輸・観光サービス産業が社会に不可欠な産業であるにもかかわらず、「人手不足に苦しみ担い手を確保することが困難な状況にある」ことを指摘したうえで、「第一義的な解決策は、賃金・労働条件の向上であり、その原資となる価格転嫁の推進と運賃・料金制度の見直し」の必要性を説いている。

トラックドライバーについては、前述の改正下請法や改正貨物自動車運送事業法の内容を活かして、「トラックドライバーの仕事の価値とその評価としての賃金の乖離を埋めていくことこそが時代の要請」だと説明。港湾労働者も、改正下請法を踏まえた「協議を適切に行わない代金額の決定の禁止」の周知徹底と運賃・料金の届け出に際する厳格な審査と監査の実施を求める。運賃が総括原価方式に基づく認可制に置かれる鉄道・バス・タクシーなどの公共交通では、「人件費の算定方法など運賃・料金制度の柔軟な見直しを図る必要がある」ことを指摘。さらに、鉄道運賃・料金制度の課題として「通学定期券の割引制度」にも踏み込み、「同制度が、家計負担への配慮いう社会政策として実施されている以上、割引分については文教予算など公費負担とすべきだ」と主張している。

また、国土交通省が促進を図るとしている「モビリティ・パートナーシップ・プログラム(事業者・産業・自治体の壁を越えた連携・協働)」にも触れ、「既存のリソースをフル活用することにより、深刻な人材不足に対応していくということだが、人材不足問題の根本的解決には迫力不足と言わざるを得ない」としたうえで、「求めているのは、その場しのぎの対処療法策ではなく、産業の持続可能性を担保しうる人材確保に向けた支援策」だとして、初任給の引き上げや賃上げ原資に対する助成などの国によるさらなる支援の必要性をアピールしている。

カスハラやライドシェア、自動運転への対応も明記

このほか、活動方針は、カスタマーハラスメント防止に向けて、ハラスメント対策の強化等を内容とする改正労働施策総合推進法を踏まえた実効性ある施策の展開や、ライドシェア新法の制定反対に向けた世論喚起、バス・タクシー自動運転の社会実装への対応、コロナ禍で生じた観光サービス産業の人材流出による人手不足の解消などの取り組みに力を注ぐことも示している。

労働条件の向上こそが持続可能な産業の人材確保に不可欠

一方、活動方針は「労働条件改善」の取り組みも柱立てしている。

交運労協は25春闘の賃上げ要求で、「交通運輸・観光サービス産業における深刻な人材不足の現状を踏まえ、賃上げをはじめとする労働条件の向上こそが、持続可能な産業の基盤たる人材確保にとって不可欠」なことを基本スタンスに据えたうえで、「すべての構成組織は、定期昇給および定期昇給相当分(一人平均基本給の2%)を確保」することを前提に、「実質賃金の確保と産業間格差の是正を図る観点から、4%を中心とする賃上げを掲げる」とした。さらに、「離職防止や採用競争力強化を念頭に置いた中期的な視点に立ち、『手当偏重の賃金体系』を改善し、基本給を主軸に据えた賃金制度の確立」も要求。ミニマム賃金水準として、「30歳:18万8,600円」「35歳:27万3,000円」「40歳:30万1,200円」「45歳:31万9,600円」「50歳:39万6,400円」も明示して、「賃金水準の絶対値」にこだわる取り組みを進めた。

なお、賃金制度に関しては、① 賃金制度が未整備の組合については、現行の賃金水準を基本とした定期昇給制度の確立を図る ② 歩合制度が採用されている自動車運転業務においては、各運転者の労働時間に応じ、各人の通常賃金の6割以上の賃金保障を求める――とした。

産業間格差の是正は来春闘の宿題に

活動方針は、25春闘の総括として「熾烈な人材獲得競争を背景に、前年を上回る賃上げや満額回答、過去最高の妥結額などを勝ち取ることができ、『人への投資』の重要性を労使で一定確認することができた」と評価する一方で、他産業が前年に引き続き、より高い水準の賃上げ結果を出したことから「『拡大する産業間格差の是正』は2026春季生活闘争への宿題として持ち越された」とした。

賃上げと物価高騰の相殺は打破できず

物価高騰に対する実質賃金確保の観点では、厚生労働省の毎月勤労統計調査で実質賃金が8カ月続けてマイナスとなっている状況を踏まえ、「賃上げの成果が物価高騰に相殺される現実を2025春季生活闘争においても打破することはできなかった」と断じ、「2026春季生活闘争においても、賃上げの流れを途切れさせることなく、本年を上回る回答を引き出していかなければならない」とした。あわせて、「物価高騰の本質は円安によるコストプッシュ型インフレにあるのであり、実質賃金のマイナスという購買力の減少につながっている」などと分析して、政府に「過度な円安の是正に向けた金融政策の実行を求めていく」意向も示している。

運賃改定実施事業者の多くが昨年を上回るベア・賃金改善を実施

賃上げの原資となる価格転嫁に関しても、鉄道・バス・タクシー等では、「各事業者において上限運賃の変更認可申請が行われ、変更理由として人材確保を挙げる事業者も出てきている」としたうえで、「結果として、運賃改定が行われた多くの事業者において、昨年を上回るベースアップ・賃金改善を勝ち取ることができた」などと説明。「『有為な人材を確保するためには賃上げは必須』という方向性について労使のベクトルは一致しつつある」と評価した。そして、「この流れを止めることなく、2026春季生活闘争に向けても人件費・燃料費等増加分の価格転嫁を推進していく必要がある」ことを訴えている。なお、運賃・料金の適正収受が必要なトラック運送も「価格転嫁を着実に進め、適正取引を推進する」必要があるとして、前述の改正下請法およびトラック適正化二法の成立を活かした取り組みを展開していく方向性を打ち出した。

産業内の規模間格差の是正については、「本体会社の水準を上回る賃上げを勝ちとるグループ会社が現れる一方、サプライチェーンの一翼をなすグループ会社の価格転嫁が進まない実態も散見される」現状を指摘して、「産業内における適正取引と価格転嫁の推進を継続する」としている。

「運賃料金制度見直しや法改正を活かしながら他産業に劣後しない賃金労働条件を」(池之谷議長)

池之谷議長はあいさつのなかで、「25春闘では、34年ぶりとなる高水準の賃上げ率となり、2年連続で定昇込み5%台の賃上げが実現したが、中小組合の最終集計では5%には届かなかった」などと報告。26春闘では「人への投資の重要性を念頭に、運賃料金制度の見直しや法改正の成果を活かしながら他産業に劣後することのない賃金労働条件を獲得するため、粘り強く真摯に労使交渉に挑む」考えを強調した。

役員改選では、池之谷潤議長(私鉄総連)を再選。慶島譲治事務局長(JR連合)は退任し、新事務局長には事務局次長の蒔田純司氏(運輸労連)が選ばれた。