賃上げが2年続けて5%台に/フード連合大会
2025年10月1日 調査部
食品関連産業で働く労働者を組織するフード連合(11万6,000人、伊藤敏行会長)は15、16の両日、東京都内で定期大会を開き、向こう2年間の運動方針を決めた。大会では、2025春季生活闘争まとめも確認。「経済の自律的成長」と「食品関連産業で働く労働者の相対的地位向上」を実現するとして、定昇込みの総額要求基準「1万8,000円以上」を掲げて臨んだ賃上げ交渉は、加重平均で額が1万6,296円、率は5.21%となり、前年(5.23%)に続いて5%台に乗せた。まとめは、「個別企業の業績や事情を乗り越え、方針に基づく粘り強い交渉が展開された結果」だと評価している。役員改選が行われ、退任した伊藤会長の後任に津崎暁洋副会長(キッコーマン)を新会長に選んだ。
定昇込みの総額で「1万8,000円以上」の要求基準を設定
今春の賃上げ方針は、「『経済の自律的成長』と『食品関連産業で働く労働者の相対的地位向上』を実現するために、すべての働く者の立場にたって、『賃金の引き上げ』と『働き方の見直し』を同時に推し進める」ことを基本スタンスに設定。賃金引き上げにあたっては、① 賃金・物価が安定的に上昇する持続的な経済成長を促進する ② 食品関連産業の賃金相場の「底上げ」につなげ、エッセンシャルワーカーとして働く食品関連産業労働者の処遇を働きの価値に見合った水準へ引き上げる――ことを目指す2つの観点を踏まえ、産業間・企業規模間・雇用形態間などの「格差是正」の実現に取り組む考えを示した。具体的には、① 定期昇給が確立している組合はベースアップ1万3,000円程度 ② 定昇額が5,000円に満たない組合は定昇+ベアの総額で1万8,000円以上 ③ 定期昇給制度未確立の組合は、定期昇給制度の確立に取り組むとともに、総額で1万8,000円以上(定期昇給相当額5,000円を含む)――を要求基準に据えた。
賃上げは加重平均で1万6,296円、5.21%に
6月30日時点の賃上げ集計によれば、賃上げ結果は加重平均で1万6,296円、5.21%。昨年実績を額で418円上回ったものの、率では0.02ポイント下がった。規模別にみると、300人以上規模は額で1万6,922円(昨年実績比476円増)、率で5.25%(同0.04ポイントマイナス)、300人未満規模では額で1万3,138円(同651円増)、率で4.94%(同0.08ポイントプラス)となっている。また、ベア分のみの集計は、全体で1万1,417円(同548円増)、3.63%(同0.06ポイントプラス)、300人以上規模は1万1,863円(同640円増)、3.68%(同0.07ポイントプラス)、300人未満規模では8,824円(同338円増)、率で4.94%(同0.02ポイントマイナス)。額では、各集計区分で結成以来最高水準だった24春闘を上回った。
なお、有期・短時間・契約等労働者の賃上げについては、時給制では37組合が要求し、19組合が改善回答を獲得。回答額の集計は12組合の加重平均が47円(前年実績比4円増)、平均時給(同)は1,254円(同77円増)となり、ともに前年を上回った。月給制は、47組合が要求して改善回答を得たのは30組合。平均賃上げ方式での回答額は26組合で1万1,197円(加重平均)となり、こちらも前年より2,314円高い。
企業規模を問わず幅広い組合で賃金の底上げが
妥結結果についてまとめは、「総額回答・収拾集計の全体(加重平均)は連合集計と同水準の成果を得ることができ、300人未満の中小組合では連合集計を大きく上回る結果となり、企業規模を問わず幅広い組合において賃金の底上げが進んだ」などと評価。その背景には、「個別企業の業績や事情を乗り越え、方針に基づく粘り強い交渉が各組合で展開された」ことを指摘した。とりわけ、多くの加盟組合が「ベア1万3,000円程度」の要求水準に結集したことが「全体の相場を押し上げる原動力になった」ことに加え、「産業全体として妥当性のある水準であることを示す根拠になり、個別組合の交渉を後押しする支えになった」などと分析している。
その一方で、「価格転嫁の困難さ、適正取引の未徹底、業種特有の課題などにより、従前の賃上げ水準から抜け出せなかった組合も多く存在する」ことを明記して、個別組合が抱える課題への支援を継続する必要性を強調。雇用形態間の格差是正にも触れ、「前年を大きく上回る水準で有期・短時間・契約等労働者の賃上げが実現したものの、実際に処遇改善に取り組めている組合は依然として限定的」だとして、多様な雇用形態を含めた処遇改善の取り組みの拡大を求めた。
合理性ある要求設計と労使交渉を行う体制整備を
さらに、「物価上昇を上回る水準での賃上げを今後も確保していくことが不可欠」だとしたうえで、「最低賃金の上昇により社内最低賃金との逆転や、最低賃金に張り付く処遇が固定化しやすくなっている」ことを取り上げて、企業内最低賃金の明確化と同一労働同一賃金を軸とした取り組みの重要性を主張。「2年連続の賃上げによって初任給や若年層の処遇が大幅に引き上げられたことなどにより、(高齢者や中堅層の)企業内の賃金カーブの配分構造の見直しが求められている」ことにも言及して、「定昇・ベアの両面で合理性ある要求設計および労使交渉を行う体制の整備」を訴えている。
伊藤会長はあいさつで、今春の賃上げ結果について「総額回答は結成以来最も高い水準となり、300人未満の中小組合も連合集計を上回った」と評価する一方、「2年連続で5%を超える賃上げが実現したものの、働く者の相対的な地位向上はまだ道半ばだ」などと述べ「産業間、企業規模間、雇用形態間などのあらゆる格差是正に向けて、さらなる取り組みが必要だ」と訴えた。
組合活動への参加減少や役員のなり手不在に危機感
大会では、2025~2026年度の運動方針も確認した。新方針は、労働組合の役割が近年、「組合員の労働条件改善にとどまらず、社会課題の解決にも範囲が広がりつつある」にもかかわらず、「組合員の労働運動への理解や共感は必ずしも高くは無く、組合活動への参加者数の減少、組合役員のなり手不在、といった問題のほか、組合役員においては任期の短期化が進み、知識と経験が蓄積されず、十分な引継ぎも行われない状況が生じている」などと危機感を表明。そのうえで、フード連合が「これまで以上に身近で頼りになる存在になる必要がある」とともに、「多くの者が産別運動に参画できるよう、時間的な制約を緩和する方向に既存の活動スタイルを進化させ、労働運動の価値を高めていく」方向性を提示した。具体的な運動の展開に向けて、① 食品関係労働者の総結集 ② 組織力の向上・連帯の強化③総合的な生活改善、雇用・労働環境の整備 ④ 産業政策の確立・実現 ⑤ ジェンダー平等をはじめとした多様性推進、及び社会性をもった労働運動の実現――の5つを重点課題に設定している。
組合運営の困りごとの解決に繋がる「オンライン相談コミュニティ」の設置を
食品関係労働者の総結集では、必達目標として掲げている「2030年9月までに13万フード連合」が「現状のペースでは達成が難しい」として、加盟組合の取り組みの強化を要請。「マイルストーン必達に向け、総掛かりの体制で取り組む」とした。特にこの2年間は、組織内(パート・無期・有期・再雇用等のあらゆる雇用形態の労働者)および関連グループ(産別未加盟・未組織)の組織化に注力するとともに、未加盟組織・未組織企業に対し、「相手の状況に応じた具体的な戦略をもって」組織化に取り組む構え。
組織力の向上・連帯の強化については、フード連合の「業種別部会」と「地区協議会」の活性化を図るとともに、中小組合への支援を強化。中小組合が抱える活動課題を効果的に把握する調査方法の確立や、人的・時間的に限られた状況下で組合活動が行われている組合役員への支援策を検討する。また、組合運営等の困りごとに対し、解決に繋がる情報や事例を共有・波及できる「オンライン相談コミュニティ」の設置に向けた検討にも着手する。
そのほか、労働政策に関しては、時限的な「春季生活闘争」の通り組みに加え、「通年で進める『総合労働条件改善共通課題』の体系化」を推進。また、「すべての労働者が安心して働き続けるには、職場における安全と健康の確保が大前提であり、最優先事項である」との認識のもと、労働安全衛生の活動充実に取り組むなどとしている。
新会長に津崎暁洋氏を選出
役員改選では、退任した伊藤会長の後任として、津崎暁洋副会長(キッコーマン)を新会長に選出。千葉淳一事務局長(雪印メグミルク)は再選された。


