2027年度から取り組む新たな中期ビジョン案を提起/UAゼンセンの定期大会

2025年9月26日 調査部

わが国最大の産業別労働組合であるUAゼンセン(永島智子会長、193万6,000人)は10、11の両日、都内で定期大会を開催した。2027年度~2032年度を取り組み期間とする「新中期ビジョン」の案を提起。新ビジョンは、「社会の課題解決・発展に向けた取り組み」として、エッセンシャルワーカーの労働条件の改善を盛り込み、労働条件の「社会水準の到達を目指す」として、連合春闘でエッセンシャルワーカー共闘をつくることなどを示している。

「2025中期ビジョン」では「4つの挑戦」と「6つの求められる組織の姿」を示す

新中期ビジョン案の本部提案では、まず現行の「2025中期ビジョン」の振り返りを報告した。現ビジョンは「10年後(2025年)の目指すべき社会像」と「UAゼンセンのあるべき姿」の共有化を目的として2016年に決定されたもので、UAゼンセンでは同ビジョンをもとに2016年から、2年ごとに運動方針を作成し、具体的な運動を展開している。現ビジョンでは、「一人ひとりが人間らしく、心豊かに生きていく持続可能な社会」を掲げ、目指す社会の実現に向けた「4つの挑戦」と「6つの求められる組織の姿」を明確にしている。

「4つの挑戦」とは、「希望する働き方の選択や能力が発揮でき、十分な生活を営める雇用づくり」「持続的で魅力ある産業づくり」「心豊かに生きていくための安心づくり」「持続可能で安心できる地域社会づくり」――の4本。このうち雇用づくりでは、短時間組合員の組織拡大や労働条件の引き上げに向けて取り組んでいる。産業づくりでは、デジタル化に対応する能力開発やカスタマーハラスメント対策などに向けて取り組んでいる。安心づくりでは、介護報酬、診療報酬、薬価についての公定価格の改定等の政策要請や、介護離職ゼロに向けた介護共済の新設などを行っている。地域社会づくりでは、都道府県支部まちづくり委員会を中心とした地域における政策提言や政策要請活動などを実施している。

一方、「6つの求められる組織の姿」としては、「労働運動を牽引する」「産業(業種・業態)単位の運動を中心におく」「地域の課題を解決する」「多様な雇用形態の労働者の課題を解決する」「男女共同参画社会の実現を強力に推進する」「中小規模加盟組合の課題に沿ったフォローができる」――を掲げる。具体的には、連合をリードする組織拡大や、部門別共闘の強化、加盟組合の基本情報・目標達成運動の進捗・労働条件闘争の妥結申請などを一元管理するシステムの構築、短時間組合員総合局の設置などが主な内容となっている。

「2025中期ビジョン」を継承しつつ新中期ビジョンは期間を短縮

提案では、現ビジョンを掲げたことによる成果として、「ビジョンにもとづき運動方針を策定するサイクルが確立した」「方向性として示された全ての取り組みを実施した」「部門における政策活動・労働条件闘争、支部の政策要請活動が充実してきた」ことをあげた。一方、反省点として、「社会像に焦点を当てたことから議論が幅広になり、特徴的な打ち出しが弱くなった」「『4つの挑戦』『6つの求められる組織の姿』の議論に重複があり、運動方針との接続の面で課題が残った」「10年というレンジの長さ」をあげた。

こうした振り返りを踏まえ、新ビジョン案については、運動の継続性の観点から現ビジョンの基本的議論を継承しつつ、レンジを6年間(2027年度から2032年度まで)に短縮。現ビジョンで進展が十分でなかった取り組みを継続することとした。なお、2026年度は新ビジョンの準備期間と位置づけている 。

「雇用・労働分野」「産業・社会分野」といった4つの課題認識を提示

新ビジョン案の具体的な内容をみていくと、はじめに課題認識として、現ビジョンの「4つの挑戦」を引き継ぎ、「雇用・労働分野」「暮らし・生活分野」「産業・社会分野」「組織」――の4分野に関する課題を示している。

「雇用・労働分野」に関しては、新卒入社・定年退職が当たり前ではなくなってきた現代において、組合員の職業人生をいかに支えるか、「暮らし・生活分野」に関しては、現役世代人口が減少していくなか、安心して暮らしていくためのセーフティネットや社会保障をいかに持続可能にしていくかといったことをあげた。一方、「産業・社会分野」に関しては、産業民主主義を基盤に、産業政策を推進するとともに、いかに持続的賃上げを実現するかをあげ、「組織」に関しては、組織を拡大し、集団的労使関係を広げていくにはどうすべきかを課題視している。

生涯教育の仕組みの強化・整備や「エッセンシャルワーカー共闘」を提起

そのうえで、取り組みの方向性を、① 社会の課題解決・発展に向けた取り組み ② 組織の課題解決・発展に向けた取り組み――の2項目に分けて整理。

1つめの「社会の課題解決・発展に向けた取り組み」では、職業人生の長期化に対応するため、「組合員が生涯にわたって能力を開発・発揮できるよう、生涯教育の仕組みを強化・整備し、労働組合がサポートする」と強調。具体的には、キャリアコンサルタントのネットワークを構築し、加盟組合や組合員への支援を行うことなどを提起した。

また、エッセンシャルワーカーの労働条件の改善に向けて、「実態と課題を明らかにし、成長産業に位置づけたうえで社会水準の到達を目指す」と言及。連合春闘でエッセンシャルワーカー共闘をつくることを提起している。

報告した本部の波岸孝典・副書記長は、エッセンシャルワーカーが具体的にどの職種をさすのかについて、「具体的業種は今後議論していきたいが、想定しているのは、医療・福祉、物流・運輸、公共生活インフラ、教育・保育関連など」と説明。そのうえで、「UAゼンセンには社会生活の維持に不可欠でありながら、労働条件が他の産業より比較的低位にある業種で働く組合員が多く加入している。そのような業種の労働条件向上について重点的かつ優先的にこの6年間で取り組みを進めていきたいと考える」と話した。

雇用形態間格差の解消については、「パートタイマー、派遣、業務委託などの働き方について、いわゆる正社員との処遇差を解消する」として、具体的には、短時間就労のあり方を研究して人事・労務・賃金制度を提案することや、最低賃金の適正な引き上げモデルの提起・実現を目指すことなどを示した。

そのほか、誰もが能力を発揮できる環境づくりに向け、「様々な属性や困難な課題を持つ組合員の参画、課題解決を強化する」として、女性役員の拡大・機会創出の強化などを掲げている。

組織拡大・強化に向けた取り組みやガバナンス体制の検討・導入も明示

もう1つの「組織の課題解決・発展に向けた取り組み」では、組織拡大について、産業業種別の組織率を高めることや、全加盟組合の企業内過半数組織化、新たな業界横断的組合の設立の検討を提示。組織強化については、加盟組合のITインフラ整備の支援や、自立的な運営が困難な加盟組合への具体的な支援体制を構想することを示した。

また、企業の枠組みを超えて組合員を支えるため、「持続的・構造的賃上げを実現する社会システムを構築する」と言及。具体的には、実質賃金の持続的向上のための社会システム構築などを示している。

そのほか、組合民主主業の深化に向けて「UAゼンセンのガバナンス体制の検討・導入」を掲げ、多様な属性の組合員が参画できる場を設定して運動を進めることや、加盟組合が産別運動をより身近に感じられるよう決議機関のあり方を再検討することなどを示した。

民主的労働運動の拡大・発展に向けては、「連合や国際労働運動を主導する組織として体制を構築する」として、経済的・社会的地位向上のため産別間連携や将来的な産別再編を展望することや、国際労働運動の関係機関への戦略的な人材派遣の実施などを掲げている。

永島会長はあいさつで、新ビジョン案について、「変化の激しい時代において、新たな課題として、職業人生の長期化に産別としていかに対応するか、いかにエッセンシャルワーカーの処遇改善を進めるか、いかに持続的・構造的賃上げを実現する社会システムを構築するかといった、企業別労働組合では解決を図ることが難しい課題解決に向けて総力をあげて取り組んでいきたい」と意気込みを語った。

賃上げは最高水準だった前年と同等の水準を獲得

大会ではまた、2025労働条件闘争における賃上げ状況も確認した。UAゼンセンは2025労働条件闘争で、賃金については制度昇給等の賃金体系維持分に加えて4%基準の賃金引き上げに取り組んだ(総合計で6%基準)。定期大会報告書に盛り込まれた「2025労働条件闘争の取り組み」によると、正社員(フルタイム)組合員の妥結集計では、総合計の引き上げ額は1万4,000円以上(1万4,571円・4.81%)となり、「UAゼンセン結成以降最高水準での妥結となった前年と同等の水準」となった。ただ、連合の2025春季生活闘争最終集計と比べると、額・率ともに「300人以上」「300人未満」ともに、UAゼンセンのほうが低かった。

部門別にみると、総合サービス部門の賃上げ率(総合計)が5%超の水準を達成した。規模別にみると、「300人未満」の引き上げ率(総合計)は「300人以上」を下回ったものの、前年差でみれば「300人未満」が「300人以上」を上回った。

短時間(パートタイム)組合員については、引き上げ率(総合計)は加重平均で5.82%となり、前年同時期比、前年同組合比ともにプラスとなった。また、満額以上を獲得した組合の割合が34.1%と3割以上に及んだ。パート・正社員とも妥結している組合では、72%の組合でパートタイマーの妥結率が正社員を上回るとともに、6月末時点では10年連続でパートタイマーの妥結率が正社員を上回った。

「一定の生活向上分を確保できた」などと評価

これらの結果について、定期大会報告書の「2025労働条件闘争のまとめ」は、「2年連続実質賃金を維持して一定の生活向上分を確保できた」などと評価。「3年連続3%台の物価上昇、人材不足の持続や企業の増益基調という背景もあるが、加盟組合が統一闘争を組み、経済社会状況を踏まえつつ組合員の生活向上のため高い要求を掲げ、社会的な賃上げ交渉を行ったことの成果が出たと言える」と総括した。

ただ、その一方で、連合の最終集計での妥結結果を2年連続で下回ったことに触れながら、「UAゼンセンの内部でも相対的に低い妥結水準の部会は前年と変わっていない。産業間格差を縮小できたとは言えない結果となった」と、課題点も指摘した。

中小組合の賃上げ妥結結果については、「300人未満の組合が前年同時期に比べ賃上げ率が上回る結果となる一方で、300人以上の組合の賃上げ率が減少したこともあり、賃上げ率の格差は縮小した」と評価したものの、「(300人未満の)半数程度の組合が妥結総合計率4%を下回っている」「他産別より低い水準」とも言及。全体的な評価として、「中小組合の底上げは着実に進展しているものの、規模間格差縮小には至っていないと言える」とした。

短時間組合員が10年連続で正社員組合員を上回り、雇用形態間の格差是正が進展

短時間組合員の妥結結果については、「妥結の分布をみると総合計率7%近辺の妥結組合が増えたことに加え、前年4~5%にあった山が5~6%になった」ことも紹介しながら、「10年連続で正社員組合員を上回る賃上げ率を獲得し、雇用形態間の格差是正が進展していると言える」と評価。ただ、「制度昇給分の有無による妥結額の差が拡大しており、さらなる実態の分析が必要」だと付け加えた。

永島会長は、2025労働条件闘争における賃上げについて、最終妥結結果を評価した一方で、「いくつか課題を共有しなければならない」と言及。1つめとして、総合計の妥結率が連合の最終集計結果を2年連続で下回ったこと、2つめとして、価格転嫁が十分に進んでいるとは言えない業種など、業種間格差が埋まらない状況をあげ、「これらの課題をいかに克服するか、当該部会のみならず、UAゼンセン全体で解決を図る必要がある」と述べた。

新しい賃金の底上げの社会システムの構築も提起

また永島会長は、今年度の地域別最低賃金の大幅な引き上げ改定に触れたうえで、「私たちが闘争方針で示した賃金の底上げの加速が法的にも進められている状況にある。現在、政府は経済政策として最低賃金引き上げが必須であると認識している。最低賃金は、厚労省の3者構成の審議会で、一定のエビデンスに基づいて引き上げ水準を示すという枠組みが有効に機能して、毎年の引き上げが実現している。いわゆる春闘においても、最低賃金の仕組みのように、一定の法的な縛りを設けた上で、さらにそれを上回る処遇改善を個別企業の労使が交渉で決めることができれば、実質賃金の持続的向上が可能になる」と強調。

そのうえで、「例えば、欧州やシンガポールでは3者構成で決める仕組みがある。日本では中央・地方で政労使会議を開き、賃上げ機運の醸成を図っているが、この枠組みをベースに一定の法的拘束力を持たせて社会システムとして機能させることを構想すべきと考える」と話し、新たな賃金底上げの社会システムの構築を提起した。

未組織労働者も含めて実質賃金を確保し賃上げできる枠組みの構築を検討

大会ではまた、今年は2年間の運動期の中間年にあたるため、後半年である2026年度の活動計画を確認した。

重点活動では、「200万UAゼンセン」を展望した仲間づくり・つながり強化の取り組みについて、引き続き2年間で8万人を目標に、オルガナイザーの育成や加盟組合・連合との連携・情報共有を強化するとしている。持続的な賃上げについては、引き続き「持続的で拡がりのある賃上げに向けた要求を策定し、情報発信を強化して世論喚起に取り組む」として、賃上げにつながる環境整備を掲げつつ、「賃上げの恩恵が行き渡らない未組織労働者も含めて、実質賃金を確保して賃上げできるよう、社会的な枠組み構築を検討し働きかけを行う」としている。

短時間組合員に関わる運動面・政策面の取り組みの推進については、現在、UAゼンセンには110万人超の短時間組合員が結集しており、「短時間組合員に関わる政策・運動をUAゼンセン運動の主要な1つの柱としてきた」ことから、引き続き短時間組合員の処遇改善への取り組み体制を強化・充実するなどとしている。