「近年にない極めて大きな賃上げを果たし、大変大きな成果をあげた」と今春の賃上げ交渉を総括/自動車総連の定期大会
2025年9月19日 調査部
自動車総連(金子晃浩会長、78万1,000人)は4、5の両日、都内で定期大会を開催し、2025年春季生活闘争(「2025年総合生活改善の取り組み」)の総括を確認した。今春の取り組みでは、賃金の制度維持分と改善分を合わせた平均獲得額が1万2,886円で、1976年以降の最高水準を記録。金子会長はあいさつで、「近年にない極めて大きな賃上げを果たし、全体としては大変大きな成果をあげることができた」などと評価した。来春闘に向けては、取引の適正化に向けた取り組みである「グッドサイクル(好循環)運動」をさらにティア全域へ浸透させ、「着実に深化させていかなければならない」との考えを示した。
積極的な賃上げや力強い要求構築などを通じて自社・産業の永続的な発展を目指す
自動車総連は今春の総合生活改善の取り組み方針で、「自動車産業は我が国の基幹産業であり、総合生活改善の取り組み結果が日本経済に与える影響は大きい」と指摘。「自動車産業に集う全ての組合が積極的な賃金引き上げや総合的な生活改善に向けた力強い要求構築を通じ、日本経済の転換期を確実なものにするとともに、自社・産業の永続的な発展を目指すこと」を方向性として掲げた。
「絶対額を重視した取り組み」に加えて賃金改善分「1万2,000円」の目安を示す
そのうえで、方針は各項目における取り組み基準を設定。賃上げの取り組みについては、各組合の自ら取り組むべき賃金水準の実現に向けて、引き続き「個別ポイント賃金の取り組み」と「平均賃金の取り組み」を併せ持つ「絶対額を重視した取り組み」を進める考え方を提示した。
月例賃金では、技能職若手労働者(若手技能職)と技能職中堅労働者(中堅技能職)について、各組合の目指すべき賃金水準に向けてそれぞれの状況を踏まえて要求するための個別ポイント賃金を設定している。
平均賃金では、賃金カーブ維持分を含めた絶対額を意識して取り組むことに加えて、中小組合の底上げや全年代での実質賃金の低下を防止するため、「賃金改善分として1万2,000円の水準を踏まえた上で要求の構築を行う」として、具体的な目安の金額を示した。
そのほか、年間一時金「5カ月基準」や企業内最低賃金の18歳の締結額「20万円以上」(20万円以上の要求が困難な場合は、「19万円以上」)とする目標設定に加え、ワーク・ライフ・バランスの実現に向けて総労働時間の短縮に取り組むことなども明記した。
また、基盤整備に向けた取り組みとして、受発注双方が本音で困りごとを話し合える環境の整備や取引課題の解決に向け、「グッドサイクル運動」の方針に基づき、総連・労連・各組合がそれぞれの立場で取り組みを推進することを示した。
「絶対額」重視の取り組みは「着実に定着」と評価も継続する必要性を提示
大会では、藤川大輔・副事務局長が、今春の取り組み総括を報告した。「絶対額」を重視した取り組みでは、自動車総連が定める、① 賃金データの把握 ② 賃金実態の分析・課題の検証 ③ 賃金カーブ維持分の算出・労使確認 ④ 賃金課題の明確化・目指す水準の設定・改善計画の立案 ⑤ 具体的な取り組み ⑥ 配分への関与・検証――の6つのステップの進捗状況を確認。具体的な進捗状況をみると、ステップ5「具体的な取り組みの実施」まで進んでいる組合の割合は64.1%、ステップ6「配分への関与・検証」まで進んでいる組合の割合は79.8%にのぼっている。
こうした結果から、自動車総連は「取り組みは着実に定着している」と評価。一方で「取り組みの進展は横ばいの傾向となっており、規模間や業種間の十分な賃金格差是正には至っておらず、継続した取り組みが必要」と課題を指摘した。
個別賃金の要求・回答状況をみると、要求単組数は509組合で昨年の603組合から94組合減少。回答単組数は281組合と、昨年(281組合)と比べ横ばいだった。回答単組数のうち、若手技能職については54組合、中堅技能職については174組合で回答があり、どちらも昨年(それぞれ52組合、146組合)から増加している。
賃金の改善分のみの平均獲得額は9,520円に
平均賃金の賃上げの最終結果をみると、賃金の維持分と改善分を合わせた平均獲得額は1万2,886円で、第一次オイルショック後の1976年以降最も高い水準となった。改善分のみの平均獲得額は9,520円で、昨年の7,696円から大幅に増加。獲得した組合の割合は94.9%で、昨年の93.1%から1.8ポイント増加している。
これについては「最後の最後まで粘り強く交渉を進められた」と評価。また、報告によると、前年の要求額が1万円に満たなかった組合においても、今年は賃金改善分要求額が増加しており、藤川副事務局長は「各組合が1万2,000円を意識して要求を行った結果」とコメントした。
「299人以下」の賃金改善分は全体の平均獲得額を下回る
賃金改善分の平均獲得額を組合規模別にみると、「3,000人以上」では1万2,831円、「1,000人~2,999人」では1万1,292円、「500人~999人」では1万1,003円、「300人~499人」では1万26円にのぼっている。一方、「299人以下」については8,688円と、全体の平均獲得額を800円強下回っており、賃金改善分の未獲得組合の割合も6.51%で最も高くなっている。
業種別にみると、「メーカー部門」が1万2,482円で最も高く、次いで「車体・部品部門」(1万26円)、「一般部門」(9,974円)、「販売部門」(9,001円)、「輸送部門」(8,920円)の順になった。報告によると、特に「車体・部品部門」「一般部門」「輸送部門」は過去2年間で大きく伸びており、藤川副事務局長は「この2年間の価格転嫁の取り組みが着実に進んでいる結果」と述べている。
企業内最低賃金の平均締結額は18万5,000円台に
企業内最低賃金協定締結の取り組みをみると、締結割合は68.8%で、平均締結額は18万5,739円と昨年の17万7,892円から大幅に増加し、18万円台にのった。自動車総連では前述の通り、締結目標額を「20万円以上」として取り組みを進めていたことから、「締結額が大幅に引き上がり、取り組みを前進させることができた」と評価。一方、要求・回答に至らない組合や未締結の組合、特定最低賃金の優位性確保につながるような十分な水準引き上げに至らなかった組合もあり、継続した取り組みの必要性を訴えた。
年間一時金は、平均獲得月数が4.62カ月となり、昨年の4.57カ月から0.05カ月アップ。非正規雇用で働く労働者の取り組みについても、有額回答を引き出した80単組の時給引き上げ額の平均が54.8円となり、昨年の51.9円(同81単組)を上回った。
年間休日増における平均回答日数は3.1日に
2027年までに一律5日増の実現を掲げた年間休日増の取り組みでは、取り組みを実施した419組合のうち281組合で、日数の獲得や特別委員会の設置など、進展に向けた何かしらの回答を引き出した。平均の回答日数は3.1日となっており、「今後3年かけて実現に向けた取り組みを進めていく上で、大きな一歩を踏み出すことができた」とする一方、「個別労使で取り組みを進めていくことに難しさがあり、具体的な要求に至った組合は一部に留まった」として、引き続き取り組みを推進していく考えを示した。
産業の魅力向上の取り組みを一定程度進められた
全体の総括では、大幅な賃上げの実現や、企業内最低賃金・価格転嫁の取り組みも前進できたことで、「方針で掲げた『自動車産業の魅力向上に向けた取り組み』を一定程度進めることができた」と言及。一方、課題では「中小組合のさらなる底上げに資する取り組みをさらに検討していく必要がある」として、「グッドサイクル運動」を展開し、年間を通じて労使で課題解決に向けた取り組みを進めていく必要性を訴えた。
2026年の取り組みに向けては、「組合員の生活や産業の発展のために立ち止まっていることは許されない」として、産業の魅力向上、中小組合の底上げ、取り組みの最大化に向けて今後も論議を進めることを強調した。
年間休日増の施策は「産業の魅力向上への十分条件」と金子会長
金子会長はあいさつで、今春の取り組み結果について、「近年にない極めて高い大幅な賃上げを果たした」と評価する一方で、実質賃金を上回る賃上げ水準の獲得などにはまだ至っていないことを課題視。「来春に向けた方針検討はこれから」としつつ、3年間で定着してきた賃上げの流れを今後も持続可能なものにするために「これまで進めてきた『グッドサイクル運動』をさらにティアの全域に浸透させていく必要がある。新しい取り組みではないが、着実に深化させていかなければならない」と述べた。
さらに、年間休日増の取り組みについては、「足元の生産負荷の解消や生産性の向上策、サプライチェーン内でのしわ寄せ懸念等、課題は山積している」と述べつつも、「この施策が産業の魅力向上への十分条件である以上、自動車総連として旗を振り続けていきたい」と実現に向け最大限の取り組みをしていくことを訴えた。
走行距離課税等の導入に断固反対を表明
大会ではまた、第31期(2026~2027年度の2年間)の運動方針を決定。主な内容をみると、方針の「持続可能な魅力ある自動車産業の実現」の項目では、自動車関係諸税の取り組みにおいて、2025年6月に重点政策要望として掲げた「自動車関係諸税などに関する要望書」の要望内容は継続しつつ、「走行距離課税や電動車普及の足かせとなる税制等の導入に断固反対」することを表明。また、中小企業を含めた産業全体の環境改善・競争力維持向上の取り組みでは、「中小企業がカーボンニュートラルや各種デジタル化を推進し、産業構造の変化に応じて、これまで以上に生産性向上と競争力強化を図るための環境整備を推進する」とした。
「安心して活躍できる職場づくり」の項目では、ジェンダー共同・多様性に対する取り組みにおいて、女性をはじめ誰もが組合活動に参画しやすい環境整備と、女性組合役員の拡大・研修に取り組むことなどを提起。また、賃金政策ビジョンの実現に向けて、「2035年頃を見据えた中長期的な賃金のあり方や考え方を指し示す、『賃金政策ビジョン』を第31期前半期までに策定を行う」などとしている。
「第8次組織拡大中期計画」で6万人超の拡大目標を掲げる
「産別機能の強化と組織の基盤づくり」の項目では、組織力向上と組織拡大の推進において、「各労連と連携を強化し、『第8次組織拡大中期計画』の確実な取り組みを通じて、各単組における組織拡大活動の底上げ・向上を図る」としている。
なお、大会ではあわせてこの「第8次組織拡大中期計画」の内容を報告。同計画は2025年9月から2030年8月まで取り組むこととし、2025年8月まで実施していた第7次計画の内容をベースに、役員改選に伴うノウハウ継承に資する教育体制を構築することなどを追加項目として加えた。そのうえで、目標として拡大件数435件(再雇用者63件、パート有期等19件を含む)、拡大人数6万3,726人(再雇用者1,475人、パート有期等1,476人を含む)の達成を目指すことを掲げている。
役員改選を行い、金子会長(全トヨタ労連)と並木泰宗・事務局長(日産労連)は再選された。