AP25での賃金の「格差改善」は大手追従・準拠の転換への大きな一歩と評価/基幹労連の定期大会
2025年9月12日 調査部
鉄鋼、造船重機、非鉄などの業界の労働組合でつくる基幹労連(津村正男委員長、27万1,000 人)は4、5の両日、静岡県浜松市で定期大会を開催した。今春闘の最終総括である「AP(アクティブ・プラン)25春季取り組みの評価と課題」を確認するとともに、向こう2年間の新運動方針を決定した。AP25春季取り組みの評価と課題では、AP方針のなかで初めて具体的な改善額を示して取り組んだ賃金の「格差改善」の取り組みについて、40組合で前進回答を獲得したことなどから、「これまでの大手追従・大手準拠の構造の転換に向けた大きな一歩である」と評価した。
AP25では産別全体で賃金改善を単年度要求
基幹労連は、春の労使交渉について、2年間を1サイクルとして考える「2年サイクル」方式をとっている。1年目は「総合改善年度」と位置づけ、産別全体として賃金改善に中心的に取り組む(基本的には2年分の賃金改善を交渉する)。2年目は「個別改善年度」と位置づけ、「年間一時金」や賃金・退職金などの「格差改善」を中心に取り組む。
AP25はもともと「個別改善年度」だが、前年のAP24で、賃金改善について産別全体で「2024年度のみの要求とする」と決めて取り組んだことから、AP25でも産別全体として単年度の賃金改善に取り組んだ。
AP25では、賃金改善の要求基準は、産別統一方針として1万5,000円を掲げた。グループ関連や中小労組を中心とする「業種別組合」が賃金改善に上乗せして要求する、賃金の「格差改善」の取り組みについては、基幹労連として初めて具体的な改善額を明示し、「平均賃金の1%」と設定した。
約7割の組合が賃金の「格差改善」を要求
「AP25春季取り組みの評価と課題」によると、賃金の「格差改善」では、すべての業種別部会で賃金の格差改善に具体的な要求額を掲げて取り組み、業種別組合の交渉単位である267組合中、187組合(70.0%)が要求した。評価と課題は、約7割の業種別組合が格差改善に取り組んだことについて、「基幹労連が具体的な改善額の目安を設定したことによって、各業種別部会で優秀な人材の確保・定着等に向けた議論が進み、各組合の要求の後押しになったと受け止める」と総括した。
最終的な回答結果をみると(全回答組合数283)、賃金改善では279組合で前進回答を引き出し(前進回答率98.6%)、回答額の平均は1万3,087円となった。評価と課題は、「過去最高の平均獲得額となった昨年に引き続き、物価上昇を超える獲得額となったことは、基幹労連全体で要求を統一し、格差改善に積極的に取り組んだこと、労使で共通の課題を認識・共有できたこと、要求貫徹に向け全力を傾注し、要求に込めた思いを最後まで粘り強く主張し、取り組んだことによる成果と受け止める」と評価した。
一方、賃金の格差改善については、189組合が回答を受け(組合は要求しなかったものの、会社側が改善額を提示した結果を含む)、40組合(前進回答率21.2%)で前進回答を受けた。回答額の平均は3,444円となった(要求額の平均は3,711円)。評価と課題は、「これまでの大手追従・大手準拠の構造の転換に向けた大きな一歩であると受け止める」と評価するとともに、「業種別部会でまとまって要求を掲げたことが、前進回答を得られた組織の後押しにつながったと受け止める」と、その要因を分析した。
総合組合と業種別組合の回答額格差も縮小
大手の総合組合と業種別組合の平均回答額の差をみると、AP24では3,345円だったが、AP25では1,907円となり、格差は縮小した。この点についても評価と課題はプラスの評価を下しており、「統一要求としたことに加え、格差改善の目安を提示したうえで、各部会・各組織で具体的金額を設定し取り組み、格差改善に資する考え方を粘り強く主張し、会社と認識の共有をはかることができた成果と受け止める」などとしている。
年間一時金の回答平均は143万6,923円
年間一時金については、回答を受けた組合の平均額は143万6,923円となった。基幹労連が「生活を考慮して確保する分」と位置付ける4カ月以上を確保したのは224組合で、そのうち5カ月以上を確保したのが143組合、4カ月未満が41組合となっている。昨年に比べ増えた組合数が145組合、同水準が36組合、減った組合が77組合となった。
このほかの主な取り組み項目の結果をみると、2,600万円(60歳・勤続42年/高卒技能労働者)への到達をめざして取り組んでいる退職金では、53組合が要求し、13組合が前進回答を得た(前進回答率27.1%)。労働時間・休日増の取り組みでは、鉄鋼部門を中心に118組合が要求し、63組合が前進回答を得た(同61.2%)。定年延長については、76組合が要求し、61組合が前進回答を得た(同76.3%)。主な内訳は、65歳定年の制度導入が6組合、労使話し合いの場が12組合、65歳定年の制度改善が17組合、再雇用制度の改善が12組合となっている。
総合組合と業種別組合の格差は引き続きの課題
今後の課題について評価と課題は、まず賃金改善について、「総合改善年度となるAP26春季取り組みにおいて、賃金改善の要求方法については、経済情勢や物価動向など取り巻く情勢をふまえ、検討していく必要がある」と指摘。
一方、賃金の格差改善については、「要求したものの格差改善まで至らなかった組合もあり、総合組合と業種別組合の格差は引き続きの課題である」とした。AP26は「総合改善年度」となるが、今回の取り組み結果などをふまえ、「今後の格差改善の取り組み方について検討する必要がある」としている。
来年以降の取り組みについては、世界経済での貿易戦争の激化や貿易政策の不確実性の高まり、物価の動向など、「経済情勢を注視していく必要」がある状況のなかで、「基幹労連の一体感に加え、部門・部会の連携をこれまで以上に強化し取り組むことが重要」だと明記。賃金については、「継続的な取り組みはもとより、産別方針策定に際して前広かつ慎重な議論を行い、時々の環境や産業・企業の状況をふまえ、基幹労連でまとまりを持って取り組む必要がある」とした。賃金の格差改善については「この大きな一歩を契機に格差改善が着実に前進していくよう、今後の取り組み方を検討していく」とした。
統一の要求額は「相乗効果を発揮した」と津村委員長
津村委員長はあいさつで、AP25について「基幹労連全体で統一の要求額を掲げ取り組んだことが相乗効果を発揮し、継続した賃金改善、全体の底上げにつながったと受け止めている」と述べる一方、「統計における実質賃金はマイナス傾向から脱却できておらず、物価を上回る賃金の引き上げが、社会全体として引き続き求められている状況にある」と指摘。
そのうえで、AP26について、「AP25春季取り組みの評価と課題、取り巻く環境、物価などの各指標の動向をふまえたうえで、総合改善年度であることに加え、月例賃金における格差改善の取り組み方も含め、最も効果的で相乗効果が発揮できる取り組みとなる議論を進める」と述べた。
新たな組織拡大計画の目標は1万人に設定
大会の報告事項では、AP25春季取り組みの評価と課題のほかに、向こう5年間にわたる組織化計画である「第4次中期組織拡大計画」を報告し、確認した。
これまでの5年間の「第3次中期組織拡大計画」では、3万人増をめざす目標を設定して取り組んだものの、新規加盟が12件2,296人、人員増が21件1,649人で、合計3,945人が新たに組合員に加わったものの、基幹労連としての組織人員は減少(7,553人減)する結果に終わった。
基幹労連では、組織化のターゲットを困難度でレベル分けしており、「S、A、Bプラス、B、C、D」の6段階で区分している。例えば、Sは「組織化や産別加盟に意志があり、産別加盟に向けて具体的に取り組んでいる」で、Cは「当面、組織化または産別加盟の可能性が低い組織」、Dが「オルグ未実施、面識のない組織」などとしている。
第4次計画は、第3次計画で目標と実績に乖離が生じた要因の1つとして、「拡大目標にC・D評価の対象人員を含めていたものの、実際に組織化に至った事例が無かったことが挙げられる」とし、新型コロナウイルス感染症の影響で「対面でのオルグを断念したケースもあり、それが進捗に影響を与えた」と分析した。
そのため第4次計画では、拡大目標を、A、Bプラス、B評価の組織人員をベースに新たな組織拡大対象組織の掘り起こしを進めていくことも加味して設定し直し、「1万人」とした。組織化対象はこれまでどおり、グループ企業、関連企業とする。
WEBを活用した情報共有や意見交換も
主な取り組み内容は、加盟組合では、組織拡大担当者の配置、組織化対象組織の掘り起こし、オルグの実施などを行い、県本部は、加盟組合からの要請に応じてのオルグ帯同などを行う。
中央本部では、「加盟組合、県本部の取り組みを積極的に支援」し、加盟組合に対して、オルガナイザー育成研修会への受講を促したり、必要な資料・機材の作成・提供や、加盟組合・県本部へのオルグなどを行う。加盟組合・県本部の取り組み強化を目的に、WEBを活用した情報共有や意見交換も実施する。組織拡大センターの機能強化を図るため、同センターの体制を検討し、必要な対応を図るほか、通年でオルグを実施するために業種別事務局長と連携する。
AP26・27での賃金改善については取り巻く情勢を注視して議論
新たな運動方針では、① 安全衛生活動の取り組み ② 組織強化と組織拡大の取り組み ③ 労働政策の推進 ④ 基幹労連政策の推進とその実現に向けた機能強化⑤産業別組織としての運動の推進と強化――の5項目を重点項目に設定した。このうち労働政策の推進では、AP26・27春季取り組み、特定(産業別)最低賃金の取り組み、65歳現役社会の実現に向けた取り組み、「働きたい」「働き続けたい」と思える労働条件の構築などが主な柱。
AP26・27春季取り組みでの賃金改善について方針は、「中期ビジョンで掲げている『実質賃金の維持』『経済の成長成果の分配』『相場賃金の確保』という3つの原則を念頭におき、継続的な『人への投資』に向けて、連合・金属労協の方針もふまえ検討していく」とし、取り組み方については「取り巻く情勢を注視しながら、各種会議体で前広に議論し、検討を進めていく」とした。格差改善の取り組みについては「AP25春季取り組みの結果もふまえ、格差改善を着実に進めていくために、今後検討していく」とした。
次期APも賃金の単年度要求を要望する意見も
運動方針の討議では、AP26に向けて、加盟組織から「賃金改善については大変厳しい交渉が予想されるが、職場組合員が納得できる要求の組み立てをお願いする」(特殊鋼部会)、「AP26についても2年サイクル方針を堅持したうえで、賃金改善のみ単年度要求とすることを視野に入れた検討が必要」(JFEスチール労連)、「各組織で慎重かつ早期の議論を行う必要があると考えており、例年より早く、方針案を掲げてほしい」(住鉱連)などの意見が出された。賃金の格差改善の取り組みでは、総合組合のグループに属さない企業労組への支援体制強化を要望するコメントも出た。
大会では役員改選を行い、津村正男委員長、石橋学事務局長はそれぞれ再選された。