26春闘も物価上昇を超える賃上げを/JAMの定期大会

2025年9月12日 調査部

金属、機械関連の中小の労働組合を多く抱えるJAM(安河内賢弘会長、36万7,000人)は8月28日から2日間、岐阜市で第27回定期大会を開き、2025年春季生活闘争総括を確認するとともに、「2026・2027年度運動方針」を決定した。今春闘の賃金改善分の単純平均額は9,370円、平均賃上げ妥結額は1万2,888円で、ともに過去最高を記録。闘争総括は、2023年から続く賃上げの流れを「今後も継続していかなければならない」と強調している。安河内会長はあいさつで2026年春闘について、トランプ関税の影響も「それほど悲観的になる必要もない」などと述べ、物価上昇を超える賃上げを目指していく姿勢を明らかにした。新運動方針では、組織拡大に力を入れて取り組むとしている。役員改選では安河内会長(本部)が再選された。中井寛哉書記長は退任し、新書記長には岩崎和人氏(JAM山陽)が就任した。

過去最高の賃上げを獲得するものの、規模間格差に改善はみられず

2025年春季生活闘争総括によると、賃金構造維持分を明示している906組合のうち897組合が賃金改善分を要求(6月20日時点、以下同じ)。賃金改善分ありの回答を得た841組合の改善分の単純平均額は9,370円となり、JAM結成(1999年)以来での最高を記録した。平均方式での平均賃上げでの妥結額は1万2,888円(4.71%)で、こちらも過去最高となった。

賃金改善分の額を規模別にみると、300人未満が8,581円となっているのに対して、300人以上は1万1,850円となっており、全体では規模間格差は拡大する結果となった。

闘争総括は、価格転嫁と今回の闘争での賃上げ結果の関係を示している。それをみると、労務費だけではなく、原材料費・部品価格、エネルギー価格のいずれかで「価格転嫁できた」(「ほぼ全額転嫁」もしくは「半分程度転嫁」と回答)組合の平均賃上げ額が1万3,198円だったのに対し、「価格転嫁できていない」(「3分の1未満」もしくは「価格転嫁できなかった」と回答)組合の平均賃上げ額は1万1,052円。価格転嫁できていない組合のほうが2,146円低い結果となり、闘争総括は「価格転嫁できている単組に優位性がみられる」と分析している。

今後の課題について闘争総括は、2023年から「積極的な賃上げを継続することができた」としつつも、「今後も積極的な賃上げを継続していかなければならない」と強調。規模間格差については、格差拡大を許さない取り組みを展開したことで、要求額の結集率は高かったものの、要求を断念した単組もあったことや、回答額についても「企業規模間に加え、同一規模内でのばらつきは大きく実質賃金を維持できなかった単組も多く存在している」点を課題にあげた。

また、「物価上昇局面では、個別企業の業績に関わらず賃上げを実現する必要がある」とし、物価上昇局面の実質賃金を維持するための賃上げの必要性について、「労使の認識をさらに一致させていく必要がある」とした。さらに、拡大した規模間格差に歯止めをかけるため、賃金のあるべき水準を重視し個別賃金要求に転換していくことや、「賃金要求の考え方、組み立て方についても検討していく」とした。

2026春闘については、「労働組合が主体的に、実質生活の維持・向上と格差是正に向けた力強い賃上げを継続していくことにより、内需主導の安定的な経済成長の実現につなげていく必要がある」と強調。そのためにも、「2025年の春季生活闘争の結果を踏まえ、あるべき賃金の水準の実現に向け、賃金や労働条件実施や価格転嫁の状況などを含めた企業状況の実態把握など、春季生活闘争の準備段階の取り組みを早期に開始する」とし、組合員と単組、単組と地方JAMの対話活動を重視して連携し、取り組み体制を強化していくとした。

サプライチェーン全体で賃上げを実現していく

あいさつした安河内会長は2025年春季生活闘争について、「少なくともJAMの平均よりも上のベースアップを獲得できた組合に関しては、物価上昇を超える賃金上昇が確認できた」と評価する一方、「大きな格差が開いてしまった」と発言。「この格差を何とかして縮めていかなければならない」と強調した。

そのうえで安河内会長は、2026年春闘について、2%の物価上昇を上回る3%の賃金上昇が緩やかに続く社会を目指し、「しっかりと作業していく」と訴えた。26春闘はトランプ関税の影響などが懸念されるが、これについて安河内会長は、「楽観的になるべきではないが、同時にそれほど悲観的になる必要もない」との見方を示した。また、3%を超えるベースアップを獲得するのが組合の社会的な使命であると述べ、「1企業だけではなくて、サプライチェーン全体で実現するにはどうしたらいいのか」という議論を早い段階で労使で始めてほしい」と指摘し、今後も単組の交渉をバックアップしていく姿勢を強調した。

M&A対策などを盛り込む

2026・2027年度の取り組みを定めた新運動方針では、「職場に関する取り組み」「組織に関する取り組み」「社会に関する取り組み」の3つを運動の柱に据えている。

まず、「職場に関する取り組み」のうち、雇用確保の取り組みの内容をみると、集団的労使関係強化を掲げ、労働協約の点検と整備・拡充、雇用の維持・確保および企業・経営問題に取り組むとしている。

企業組織再編とM&Aへの対応の取り組みについては、「企業組織再編で影響を受ける当事者としても、労使対等性を担保しつつ主体性を持ちながら協議する必要がある」とし、JAMは中小の労組を多く抱えることから、これらの事象を「今後避けて通ることの出来ない大きな課題となる可能性がある」と強調。

実際にJAM加盟組織の企業で、「事前同意なき買収(敵対的TOB)」が散見されていることにも触れ、「労働者を無視した、事前同意なき買収が跋扈すれば、日本の製造業の基盤が脆弱となり、製造業を軸とした日本経済の発展は、ますます困難になる」というJAMとしての立場を示したうえで、準組織内議員と連携し各省庁に要請行動を行ったことも説明している。

なお、大会で確認した一般活動報告では、株式会社牧野フライス製作所が、ニデック株式会社から「事前同意なき買収(敵対的TOB)」が公示されたとし、これに反対の立場であるJAM傘下の加盟組織であるマキノ労働組合(JAM神奈川)とともに対策を講じ、今年5月に本買収が撤回されたことで、「マキノ労働組合組合員の92.1%が反対している本件を防ぐことができた」と総括している。

運動方針では、雇用と労働条件に影響を及ぼしかねない企業組織再編等について、日頃から経営者と情報交換できる労使関係を築き、早期に対応が講じることができるよう労使協議会等を定期的に開催することや事前協議を徹底していくことの重要性をあらためて明記した。また、これに対峙するためにも、JAM本部・地方JAMにおける研修会の開催や事例報告等による対応策強化に取り組んでいくとした。

このほか、ワーク・ライフ・バランス、高齢者雇用、メンタルヘルスケアの取り組みなども盛り込んでいる。

30人未満規模単組の2割が定期大会未開催

「組織に関する取り組み」では、組織の強化や組織拡大に重点を置く。大会で紹介した昨年11月~今年2月にかけて実施した「第5回単組活動実態ヒアリング調査結果」(1,610単組について集約)によると、定期大会を開催していない組合が101組合(6.5%)あり、2021年の前回調査結果の6.0%から0.5ポイント上昇した。単組規模でみると、「1~29人」が20.1%となり最も高かった。

さらに、未開催のうち、執行委員会を月1回以上で開催している単組が22単組(23.0%)、JAMの機関紙を配布していない単組が46組合(44.7%)で4割以上に及ぶなど、規模の小さい組合を中心に組合活動が停滞していることが明らかとなった。

次期JAM運動の最大の課題は「組織拡大」

運動方針は、JAMの2025年度の組織拡大実績は7月時点で拡大数よりも解散・離脱した単組数及び組員数が上回っていることにも言及し、組織拡大は「喫緊の課題」と強調。安河内会長もあいさつの中で、次期JAM運動の最大の課題は「組織拡大」であるとし、「一刻も早く組織拡大を行っていかなければならない」と指摘した。

具体的な取り組みとして、運動方針は、地協担当のオルガナイザーによるサポート活動や定年再雇用後、非組合員となった従業員の正社員化・組合員化を足がかりとしながら、パートなどの有期契約労働者の組合加盟を促すことや、産別未加盟組織や業種別共闘に結集する中立組合に対して産別加盟に向けた取り組みを強化していくなどとしている。

2030年度までに女性参画率30%達成を目指す

組織に関する取り組みではまた、男女平等参画の推進も盛り込んでいる。大会では、運動方針とともに、「2030新男女平等参画アクションプラン~総行動プラン~」についても報告した。それによると、JAMではこれまでも、2025年度までに各級会議における女性参画率30%を目指して組織全体で取り組んでいたが、進捗状況をみると、2022年度~2025年度における本部の三役・中央執行委員会の女性参画率は24.32%となり、特に中央委員会委員における女性参画率は一桁台となっている。

これを受け、「2030新男女平等参画アクションプラン~総行動プラン~」では、今までの取り組み内容を継続する形で、① 男女平等参画に関わる運動方針 ② 男女平等参画アクションプランの策定 ③ トップリーダーから男女平等参画実現のメッセージを発信 ④ 機関会議・行事等に必ず女性が参画――の4つの全体目標を設定し、本部・地方・単組の全組織が100%実施率で取り組む。そのうえで、2030年度までに各級会議における女性参画率30%を目指していくこととしている。

運動方針では、同プランに基づき、全ての組織が女性参画の重要性を理解し、現状と課題の共有が可能となる女性参画率30%達成にむけたアクションプランを設定し、単組・地協・地方JAM・JAM本部が連携し取り組みを加速させていくとしている。

「社会に関する取り組み」では、「価値を認め合う社会へ」の実現に向けた取り組みを掲げ、価格転嫁に関する諸施策について、JAM構成単組・企業における調査やヒアリング調査を通じて実態把握などに力を入れるとしている。

7人の副会長のうち3人は女性

役員改選では、安河内会長(本部)が再選され、7名いる副会長のうち3名を女性が占めた。書記長は中井寛哉氏が退任し、新たに岩崎和人氏(JAM山陽)が就任した。なお副会長の顔ぶれは以下のとおり(以下敬称略)。上野都砂子(CKD)、中庭隆弘(ヤンマー)、平山純子(コイト電工)、乾昭太郎(ダイキン工業)、越後屋一彦(NOKグループ)、河野由香里(全矢崎)、若林宏樹(日本精工)。