賃上げ獲得組合の平均賃上げ獲得額は1万円超で2014年以降最高水準に/金属労協の定期大会

2025年9月12日 調査部

自動車総連、電機連合、JAM、基幹労連、全電線の5産別でつくる金属労協(JCM、議長:金子晃浩自動車総連会長)は2日、都内で定期大会を開催し、今春闘の総括となる「2025年闘争の評価と課題」を確認した。賃上げ獲得組合の平均賃上げ獲得額は1万169円で、昨年を上回り2014年以降で最高水準となったことから、「評価と課題」では春闘全体の機運醸成などにつながり「JC共闘の社会的な役割を果たすことができた」と総括。金子議長は2026年闘争に向けて、「この3年間で定着してきた賃上げの流れを今後も持続可能なものにしていかなければならない」と強調し、消費マインドを喚起するための十分な賃上げの必要性などを訴えた。

8割を上回る組合が賃上げを獲得

2025年闘争の最終結果をみると、賃金については、回答を引き出した2,676組合のうち、「賃上げ(賃金改善分)」を獲得したのは2,237組合。賃上げ獲得組合の比率は83.6%と、昨年(84.8%)から1.2ポイント減となるも、8割を上回る組合が賃上げを獲得している。

組合規模別にみると、「1,000人以上」が94.4%(昨年96.7%)、「300~999人」は93.8%(同94.1%)、「299人以下」は79.2%(同80.6%)となっている。

また、賃上げ獲得組合の賃上げ額の平均は1万169円で、昨年(9,055円)を上回り、賃上げが復活した2014年以降での最高となった。規模別にみると、「1,000人以上」が1万2,855円(同1万2,319円)、「300~999人」が1万1,673円(同1万756円)、「299人以下」が9,160円(同7,949円)で、「299人以下」は昨年より1,200円超の増加となった。

継続的な賃上げや底上げ・格差是正は課題に

これらの結果から、「評価と課題」では、まず闘争全体の評価について、JC共闘での賃上げの要求基準を「すべての組合で『1万2,000円以上』」と示し、各組合がさらに積極的な要求を行い、JC共闘として緊密に連携して相乗効果を発揮したことで「大きな成果を上げることができた」と指摘。春闘全体の機運醸成や高い金額での相場形成などにつながり「JC共闘の社会的な役割を果たすことができた」と総括している。

一方、課題については、「299人以下の組合では2割程度が賃上げを獲得できていないなど、実質賃金の確保に至らなかった組合もある」と指摘。また、長期的な労働分配率の低下や国際的に低い賃金水準の改善、日本経済の好循環の実現にむけて、「継続して賃上げに取り組んでいくことは不可欠」と強調している。

そのほか、賃金の底上げ・格差是正にむけて、闘争の環境整備として価格転嫁を含む適正取引の取り組みを引き続き強化してすべての働く者の実質賃金向上につなげていくことや、賃上げの社会的な相場形成と波及を意識して発信力を強化することなどを明記。賃上げの配分についても、「組合員の納得感が得られる公正な分配が行われるよう、関与していくことが重要」と指摘して、初任給の引き上げや若年層に焦点を当てた分配が行われる傾向が強まるなか、職場全体のモチベーション向上や技術・技能の育成など、「中長期的な観点から労使で議論を深めていく」ことを提示している。

18歳最低賃金協定は平均で月額18万円超に

一時金については、2,152組合が回答を引き出し、平均月数は年間4.65カ月で、昨年を0.02カ月下回った。最低獲得水準の年間4カ月以上を確保した組合比率は、昨年比0.2ポイント減の77.7%となっている。これに対し、「評価と課題」における評価では、「半数以上の組合が昨年と同水準もしくは上回る回答を引き出した」と説明し、「組合員の生活の安定を図り、その努力や成果に報いる適正な配分を求めて取り組んだ結果と受け止める」と総括。一方、課題では、人材獲得の観点や外資の流入により、年収ベースで賃金の比率を高める企業が出てきていることについて、「労働組合として関与していくことが重要」としている。

また、企業内最低賃金の状況をみると、企業内最低賃金協定を締結していることが把握できる組合は1,611組合(締結率52.8%)で、18歳最低賃金協定は平均で月額18万7,941円、引き上げ額の平均は1万1,089円となっている。「評価と課題」では「多くの組合で大幅な引き上げを獲得することができた」と評価する一方、企業内最低賃金の意義・役割について労使で共通認識を持てるよう議論を深めていくことなどを課題とした。

「賃上げの流れを今後も持続可能なものに」(金子議長)

2026年闘争に向けては、「内需主導の安定的・持続的な経済成長を実現していく必要がある」と指摘。「成果の公正な分配」と実質賃金の向上を基本に、「日本の基幹産業にふさわしい賃金水準の確立や、中期的課題の解決につなげていく」としている。

また、企業内最低賃金協定を特定最低賃金の引き上げに波及させる取り組みの推進や、休日増を含む年間総実労働時間の短縮など、多様な人材が活躍できる職場環境の整備のさらなる前進を図る取り組みの検討を提示している。

金子議長も冒頭のあいさつで、2026年闘争にむけて、「この3年間で定着してきた賃上げの流れを今後も持続可能なものにしていかなければならない」と強調。消費マインドを喚起するための十分な賃上げや、価格転嫁を含む適正取引の取り組みをさらにティアの全域に浸透させていく必要性などを示した上で、「金属労協が日本経済を牽引していくという気概を持って引き続き取り組んでいきたい」と訴えた。

インダストリオール運動への主体的な参画や人権デュー・ディリジェンスの適切な実施を

大会ではまた、向こう2年間の新運動方針を決定。主な内容をみると、国際連帯活動については、2025年11月に開催されるインダストリオールの世界大会にむけて、主要加盟組織との連携をさらに強化して各種取り組みや議論へ主体的に参画することなどを提示している。金子議長も冒頭のあいさつで、「自ら強く団結している姿を国内外に示すとともに、インダストリオールの運動に積極的に貢献することで存在感を示していくということは金属労協だけではなく、ひいては日本のプレゼンスを維持することにつながる」と強調している。

なお、金属労協では、財政状況の悪化を契機に2021年度から、活動分野を ① 国際労働運動 ② 人材育成――の2分野に重点化する方向で、組織と活動のあり方を見直してきた。大会では、これからの持続可能な財政運営にむけた施策を提起。インダストリオールに対し、登録人数の見直しと規約改正(急激な為替変動に対する緩和措置等)の働きかけを行うなどとしている。

さらに、人権デュー・ディリジェンスの取り組みに関しても、「企業が人権デュー・ディリジェンスを適切に実施することにより、グローバル・バリューチェーン全体での労働基本権を含む人権侵害撲滅と企業の持続可能性確保をめざす」姿勢を明示。具体的には、その「実施プロセスや苦情処理・救済システムの設置状況を企業に確認するとともに、労働組合としてそれらに参画すべく取り組む」ことや、「取り組みの環境整備のため、政府や経営側、国際機関、NGO等に対して労組参画の必要性を訴求する」などの対応を図る。

新運動方針では多様性の推進にむけた取り組みを新項目に追加

また、新方針から、項目に新たに追加された、多様性の推進にむけた取り組みについては、① 女性参画の継続的推進 ② 若年層の運動参画にむけた議論――の2点を提示。① 女性参画の継続的推進については、2026年8月が期限となっている第4次「男女共同参画推進中期目標・行動計画」に基づいて女性役員の登用促進やネットワーク強化などを実施するとともに、次期目標・計画を2026年度中に定めることなどを示した。

② 若年層の運動参画にむけた議論については、今後2年間を、「若年層の運動参画について、まずはその意義やあり方について、金属労協としての基本的な考え方を明確にする期間と位置づける」などとしている。

産業政策にむけて提言の策定や省庁等との意見交換などに取り組む

産業政策にむけた取り組みについては、金属産業の命運を決する課題とその解決にむけた施策を検討し、「産業政策提言」の策定や、実現にむけた省庁・政党等との意見交換や要請活動を展開することなどを掲げている。

金属共闘にむけた取り組みについては、「生活の安定と向上、現場力・競争力の強化、経済の持続的成長を達成するため、継続的な賃上げによる『人への投資』を追求していく」として、「闘争推進集会」の開催や、2016年に策定した「第3次賃金・労働政策」を、足元までの環境変化を踏まえ、関連する論点を整理した上で改定することとしている。

特定最低賃金の推進については、課題と取り組み方針を共有するため、地域の最低賃金担当者の参加のもと「最低賃金連絡会議」を開催することや、特定最低賃金の意義・役割への理解を広げ、強化する機運を醸成するため、経営者団体や有識者等に対する働きかけを強化することを示した。

なお、役員改選を行い、金子会長(自動車総連)、梅田利也事務局長(電機連合)は再選された。