すべての仲間の結集と単組活動の活性化を目指す向こう2年間の運動方針を提示/自治労の定期大会

2025年9月3日 調査部

地方自治体の職員などを抱える自治労(石上千博委員長、70万6,000人)は8月25~27日まで、栃木県宇都宮市で定期大会を開催した。向こう2年間の運動方針では、組織強化・拡大にむけて職場のすべての仲間の自治労結集と単組活動の活性化を目指すことなどの重点課題を提示。当面の闘争方針では、秋季・自治体確定闘争の取り組みとして、人事院勧告を踏まえた給与の引き上げや運用改善にむけた「1単組・1要求」などを掲げた。役員改選ではこれまで1期(2年)、中央執行委員長を務めてきた石上氏(北海道本部)が再選された。

歯止めのかからない組合員の減少等を問題視し、重点課題を提示

新運動方針の提案に際し、はじめとして、自治労は現状の問題意識について言及。組合員の減少に歯止めがかからず、日常的な組合活動をはじめとする運動力量の低下や活動の二極化が顕在化しており、どのように引き上げていくかが課題と説明している。また、自治体等を取り巻く社会的な課題に対し、地域公共サービスを担う労働組合としてどのように向き合い、掲げる政策の実現にむけて取り組むべきかが重要と指摘した。

こうした問題意識のもと策定した2026-2027年の運動方針では、重点課題として、① 組織強化・拡大と単組活動の活性化 ② 賃金・労働条件、職場環境改善にむけたすべての単組での要求・交渉の徹底 ③ 公共サービスの充実などにむけた政治の取り組み強化――の3点を掲げた。

組合員の声に基づく要求・交渉や職場点検などの取り組みを積極的に展開

① 組織強化・拡大と単組活動の活性化については、労働組合の力の源泉を「多くの組合員の結集による組織の強さ」とするも、現状では組合員数が毎年1万人を超えて減少していることや、中途脱退者や組織脱退単組も増加傾向にあることなどを指摘。「自治労の存続すら危ぶまれる状況にある」ことから、2023年9月から開始し、2027年8月まで取り組む「第6次組織強化・拡大のための推進計画」(以下、「第6次組強計画」)を基軸に、新規採用者や再任用・再雇用者、会計年度任用職員など、職場のすべての仲間の自治労結集を追求するとしている。

また、日常的なコミュニケーションを通じて組合員からの理解・共感・信頼を高め、多くの組合員の声に基づく要求・交渉の実施、職場環境改善や職場点検といった取り組みを積極的に展開するなど「単組活動の活性化を進める」と指摘。合わせて、県本部に本部と単組をつなぐ「要」としての役割を果たす体制を整備することや、本部に単組の賃金・労働条件に関する課題解決などを求め、産別体制・財政の確立にむけた組織討議を進めるとした。

石上委員長は冒頭あいさつで、「日頃から組合員の声に耳を傾け、職場課題を丁寧に点検し、出てきた課題や要望を形にし、要求・交渉によって一歩でも前進改善を図るという積み重ねが、組合員の信頼を勝ち取り、組合の結集力を高めていくことにつながる」と強調。単組が組合員と真摯に向き合い、県本部や本部がこうした活動を全面的にサポートして支え合うことを重要視し、「第6次組強計画の前期の取り組みとして確認してきたことの実行が今こそ求められる」と訴えた。

全単組で「要求―交渉―妥結(書面化・協約化)」の交渉サイクルを徹底・強化

② 賃金・労働条件、職場環境改善にむけたすべての単組での要求・交渉の徹底については、労使交渉や要求書の提出を行わない単組も多くある一方で、2024自治体確定闘争では労使の自主決着による給与改定の実現などを勝ち取った単組もあることなどから、主体的な労使交渉を展開していく必要性に言及。「全国的な目標を設定し、産別一丸となって目標達成を目指すという到達闘争を産別統一闘争と位置付け、取り組みを強化していかなければならない」として、すべての単組での「要求―交渉―妥結(書面化・協約化)」の交渉サイクルの徹底・強化を追求するとしている。

③ 公共サービスの充実などにむけた政治の取り組み強化については、自治労組合員の賃金・労働条件や業務などの多くは政治と密接に関わっており、「組合員のニーズや組合の要求・政策の実現、自治体施策に対する現場の意見を反映していくためには、首長や議会対策も欠かすことのできない重要な組合活動の一つ」と指摘。組織内・政策協力議員と日頃から情報・意見交換を行い、連携を強化するなど、自治労の政策実現と公共サービス充実にむけて、政治の取り組みを強化するとしている。

人事院勧告に基づく給与引き上げの確実な実施にむけて政府と交渉・協議

当面の闘争方針では、秋季・自治体確定闘争の推進についてはじめに、8月7日の人事院勧告の内容に言及。勧告では、行政職の月例給について、大卒初任給を1万2,000円、高卒初任給を1万2,300円増額するなどして平均1万5,014円(3.62%)引き上げ、一時金についても0.05月分引き上げるとしている。月例給は若年層に重点を置きつつ、順次改定率を逓減させる形で俸給表全体を引き上げることとなっている。

また、自動車等使用者の通勤手当における65km以上から100km以上までの区分(5km刻み)の新設(上限6万6,400円)や、現行距離区分の支給額引き上げ、駐車場等利用の通勤手当の新設(1カ月5,000円上限)なども盛り込まれた。

なお、今般の勧告は人事行政諮問会議が今年3月にまとめた最終提言を踏まえた措置として、① 官民給与の比較方法の見直しとして、現行50人以上とされている比較企業規模を100人以上とするとともに、本府省職員については東京23区の企業規模1,000人以上の本店事業所の従業員と対応させること ② 対応関係の見直しによって生じた較差を原資として、(ア)本府省業務調整手当について支給対象への幹部・管理職員の追加と課長補佐級以下の手当額の引き上げ、(イ)較差の一部を俸給表の改定に用いること、(ウ)在級期間にかかる制度の廃止――などが示されている。

地方自治体の職員の賃金改定は、国の人事院勧告の取り扱いに対する閣議決定等を受けて、具体的な内容が決定される。こうしたことから方針では、「今後は政府による勧告の取り扱い方針の決定および給与法等の審議が焦点となる」として、① 俸給表の引き上げと一時金を含めた給与引き上げを確実に実施すること ② 閣議決定後に示される、「地方公務員の給与改定等に関する取り扱いについて」の総務副大臣通知については、公務労協地方公務員部会と十分交渉すること――の2点の考えを基本に、政府と交渉・協議を進めるとしている。

中途採用者の賃金改善や会計年度任用職員の処遇改善など5点の重点課題を提示

また、方針では、2025自治体確定闘争にあたって、公務員採用試験の応募者減少や民間の初任給引き上げの状況を踏まえ、「初任給を中心とした若年層の賃金引き上げは引き続きの課題」とする一方、「組合員のモチベーション向上につながる処遇改善が重要」として、中高齢層職員および再任用職員を含めた賃金水準の積極的な引き上げを求めることを提示。

そのうえで、確定闘争では、① 給与の引き上げ改定 ② 交通用具利用者の通勤手当と駐車場代に関する対応 ③ 運用改善にむけた「1単組・1要求」 ④ 中途採用者の賃金改善⑤会計年度任用職員の処遇改善――の5点の重点課題を掲げた。

① 給与の引き上げ改定では、人事院勧告を踏まえ、全世代の職員の賃金を引き上げることや、一時金の支給月数の引き上げと引き上げ分の配分にあたり期末手当に重点を置くことを求める。

② 交通用具利用者の通勤手当と駐車場代に関する対応では、交通用具利用者の通勤手当について国以上の改善を行い、すでに国以上の支給を勝ち取っている単組では燃料費の高騰を踏まえた引き上げや、少なくとも国基準への引き下げを行わないことを提示。また、駐車場代について国以上の支給を行うこととしている。

③ 運用改善にむけた「1単組・1要求」では、とりわけ中堅層の改善のため、引き続きすべての自治体単組で38歳での等級4級への到達(達成済みの単組は45歳での5級到達)を目指すなどの昇格目標を明記。目標達成のために、在級期間の短縮を求めることとした。単組の到達目標として、「30歳・28万4,200円(3級9号水準)、35歳・31万1,600円(3級33号水準)、40歳・35万100円(4級27号水準)」といったポイント賃金などを設定し、賃金水準の改善を訴えることとしている。

④ 中途採用者の賃金改善では、同学年の新卒採用者の給与を基本として、初任給、昇格の改善を求めることを提示。自治体においても国と同様に経験年数換算表を改正することや、民間経験等のある中途採用者への2級以上の初任給格付けを可能とすることなどを示している。

⑤会計年度任用職員の処遇改善では、給料(報酬)における昇給上限を撤廃して2級以上の格付けを可能とすることや、期末・勤勉手当の支給月数を常勤職員と同月数とすること、給与改定にあたり常勤職員と同様に4月に遡って改定を行うことなどを求めている。

このほか、重点課題以外の個別賃金課題では、50歳台後半層職員に対し昇給停止・抑制を行わず、少なくとも標準で2号以上の昇給や号給の延長をすることや、再任用者の賃金改善として一時金の支給月数を常勤職員と同様に引き上げることなどを示した。

「すべての公共サービス職場で賃上げを波及させていく決意を」(石上委員長)

石上委員長は冒頭のあいさつで、月例給の引き上げ水準が1991年以来34年ぶりに3%を超えたことなどについて、「残された課題もあるものの、勧告全体を見れば、懸命に職務に従事する組合員の期待にも一定応える内容」と評価。早期の給与法改正等に向け、公務員連絡会に結集して取り組むとともに、各自治体における労使交渉を尊重するよう総務省、国会対策を強化していく決意を示した。

そのうえで、秋の自治体確定闘争について、「勧告の内容を職場地域に反映させ、現場で奮闘する組合員の期待に応え、さらに賃金労働条件の改善・底上げを勝ち取っていくことに尽きる」と指摘。2024自治体確定闘争において単組間の取り組みの格差が広がっていること、加えて経営難を理由に人勧未実施や賃金カットが続く病院・医療職場などがあることから「すべての公共サービス職場で賃上げを波及させていく決意を持ち、単組、県本部、本部が一体となって産別闘争である自治体確定闘争に全力で取り組む」と訴えた。

人件費重視の地方一般財源総額の充実や処遇改善実現にむけた財源対策を

方針は、地方自治の確立と質の高い公共サービスの推進についても言及。2026年度政府予算編成や諸政策について、「地方一般財源総額の確保にとどまらず、拡充する方向へと踏み出すことこそ重要」と強調し、今まで以上に人件費を重視した地方一般財源総額となるよう充実をはかることや、公共サービス分野全般で処遇改善が実現するよう必要な財源対策を行うことを目指している。

要求実現にむけた具体的な取り組みでは、本部で11月を目途に、政府・地方三団体(全国知事会、全国市長会、全国町村会)・政党に対する要請行動に取り組むことなどを示した。

2026年診療報酬改定にむけた要請も実施

方針はほかにも、安心・安全・信頼の社会保障制度の推進にむけた取り組みを提示。持続可能な社会保障制度の実現にむけては、次期国会において、継続審議となっている地域医療構想の見直し等に関わる医療法の改正案などの議論が見込まれることから、「動向に注視しつつ、地域医療と社会的セーフティネットの確保にむけて、連合や協力国会議員を通じた対策に取り組む」としている。

また、2026年診療報酬改定については、「地域医療の確保や医療機関の経営安定、人員確保と処遇改善につながるよう、連合と連携して取り組むとともに、厚労省への要請を行う」と提示。医療・保健労働者の労働条件・環境改善にむけて、2025年度人事院勧告や、国の補正予算による医療機関への財政支援の動向を注視しつつ、「本部および単組は医療現場の賃上げにむけて引き続き取り組む」としている。

石上千博委員長体制が2期目へ

役員改選では、1期(2年間)委員長を務めた石上氏(北海道本部)が再選された。書記長は伊藤功氏(山形県本部)、副委員長は木村ひとみ氏(大阪府本部)、山﨑幸治氏(広島県本部)、書記次長は榎本朋子氏(新潟県本部)をそれぞれ再選した。