26春闘の基本的な考え方や取り組み課題を含めた「総合生活改善闘争・基本方針」を提起/生保労連定期大会
2025年8月27日 調査部
生命保険会社の労働組合で構成する生保労連(勝田年彦委員長、約23万人)は8月20日、都内で定期大会を開き、2025年度の運動方針を決めた。大会では「2025春闘の成果と課題」を確認。「成果と課題」は、賃金改善に関して、出来高給体系を基本とする営業職員が「2023春闘以降、連続して複数の組合で固定的給与の引上げを含むベアを獲得した」ことや、約30年ぶりに要求目安を掲げた内勤職員で「9組合が3%以上の引上げに資する成果を獲得した」ことなどを評価した。また、春闘の取り組みも包含する方針の柱となる「総合的な労働条件の改善・向上」では、2026春闘で賃金改善をはじめとした全組合が統一して行う「賃金・制度関係の取組み」の基本的な考え方や課題を盛り込んだ「総合生活改善闘争・基本方針」を提起している。役員改選では、退いた勝田委員長に代わり、堀義行副委員長(第一生命)が新委員長に就任した。
統一闘争を通じた組合員の総合的な労働条件の改善・向上を
新運動方針の柱は、 ① 生保産業の社会的使命の達成 ② 総合的な労働条件の改善・向上 ③ 組織の強化・拡大 ④ 生保産業と営業職員の社会的理解の拡大――の4本。このうち、春闘の取り組みも含む「総合的な労働条件の改善・向上」については、「組合員の意識や取り巻く環境が変化していく中、『人への投資』を通じて安心と働きがいのもてる職場・ルールをつくることが一層求められている」との認識のもとで、「統一闘争を通じた共闘効果の発揮や相場形成、各組合の取組みに資する情報交換・情報提供等を通じて、組合員の総合的な労働条件の改善・向上をはかる」構え。統一闘争の推進にあたっては、「2025春闘の成果と課題を十分に踏まえ、2026春闘の効果的な進め方に関する検討を行う」などとしている。
約30年ぶりに内勤職員の賃金改善の引き上げ水準を提示
生保労連では2004年度から、春闘を「労働諸条件全般を見据えた総合的な生活改善闘争」と位置付け、「総合生活改善闘争」として年間を通じた統一闘争を推進してきている。その後、統一取り組み課題の枠組みの構築・見直しや「賃金改善」の考え方を整理。ワーク・ライフ・バランスの実現に向けた取り組みを「総合生活改善闘争」の大きな柱に位置づけるなどの改善・充実を図ってきた。
2025春闘では、「近年、社会全体で賃上げの流れが加速し、『賃金改善』に対する組合員の期待が一層高まっている状況」などを踏まえ、「約30年ぶりに内勤職員関係の統一要求基準として引上げ水準(目安)を掲げて取り組む等、統一闘争をより積極的に推進」した。
全組合が「さらなる収入の向上」に最大限取り組む
具体的には、組合員一人ひとりが「働きがい・生きがい」を実感できるように、全組合が取り組む「統一取組み課題」と各組合の課題認識に基づき取り組む「主体的取組み課題」を設定して、総合的な労働条件の改善・向上に向けた統一闘争を展開。「統一取組み課題」では、「賃金・制度関係の取組み(営業支援策の充実、賃金改善)」について、「業界情勢、一般情勢、労働界の動向、組合員の期待・納得感等を十分に踏まえ、『統一要求基準』の策定に向けた検討」を進めた。
統一要求基準の策定にあたっては、「従来にも増して『賃金改善』の機運を産業全体で高めていく必要がある」との認識のもと、「全組合が創意工夫をもって『さらなる収入の向上』に最大限取り組む」方向性を決定。2025春闘の基本スタンスを労使協議会で生保協会会長に申し入れたほか、諸会議や単位組合オルグ等で共通認識の醸成をはかった。
複数の組合で固定的給与の引き上げを含むベアを獲得/営業職員
大会で報告された「2025春闘の成果と課題」をみると、賃金の比例給要素が大きい営業職員については、コロナ禍以降の状況や人口減少等の社会構造の変化のなかで、厳しい活動を余儀なくされていることを踏まえ、「営業職員が募集活動を中心とした活動量を確保し、生産性を高められる環境を整備することで、営業活動に専心して取り組むことができるよう、『営業支援策の充実』と『賃金改善』により『実質的な収入の向上』をはかる」こととした。
各組合は、これまでに導入された営業支援策の実効性・利便性の向上を中心に要求を行うこととし、月例給与では「日々の活動・努力が反映される労働評価をめざして」全10組合が取り組み、「支給規定上の改善」に関わる回答を5組合が獲得したほか、「新契約活動に対する労働評価」(8組合)、「お客さまサービス活動に対する労働評価」(5組合)、「採用・育成に対する評価」(3組合)、「資格査定への対応」(2組合)「臨時・特別措置の実施」(6組合)の回答を得た。
新契約活動に励む組合員の労働評価の観点から、成果配分機能を高めつつ「現行水準の確保・向上」をめざした臨時給与でも、各組合が現行水準を確保しつつ、3組合で「支給規定上の改善」を引き出している。
こうした結果について「成果と課題」は、「各組合がそれぞれの課題認識に基づき積極的な取組みを展開」したことで、「実質的な収入の向上につながる幅広い内容の回答を引き出すことができた」と評価。とりわけ、賃金改善では、「2023春闘以降、連続して複数の組合で固定的給与の引上げを含むベアを獲得した」ことを明記した。そのうえで、今後の課題として、引き上げが続く最低賃金の動向や他産業の賃上げなどの動向を注視しつつ、「各社の資格・給与制度の改正等を踏まえ、労働条件等のさらなる魅力度向上に向けた取組みをより一層強化していく必要がある」ことなどを指摘している。
月例給与で5%以上、年間総収入で3%程度の引き上げ率を要求基準に設定/内勤職員
内勤職員の賃金改善は、統一要求基準として「年間総収入の向上に取り組む」ことを確認したうえで、「月例給与で取り組む場合は5%以上、年間総収入ベースでは3%程度」を引き上げ率の目安に設定。各組合はそれぞれの課題認識に応じた取り組みを行うことこととし、その際の参考として「賃金改善要求」の取り組みメニューを示した。
具体的には、月例給与について、 ① 狭義ベア(全層一律の引上げ) ② 広義ベア(特定層の引上げ、特定層へのファンドの重点配分) ③ 生活関連手当等――の項目でのメニューを列記。ファンドの配分等が行われる場合は、「組合員の納得感を高める観点から、労働組合として積極的に関与する」とした。臨時給与では、 ① 規定対応または規定上の引上げ ② 特別対応――の取り組みを提示。そのほか、各種一時金や各種費用補助のメニューも記述している。
月例給・臨時給ともに多かった「全層に対する引き上げ」
こうした「統一要求基準」を踏まえ、月例給与の引き上げに関する要求を13組合、臨時給与で10組合、その他と年収制ではそれぞれ3組合が要求を掲げて交渉に臨んだ結果、月例給与では狭義ベアの「全層一律の引上げ」を6組合が獲得。広義ベアでも「初任給水準の引上げ」(3組合)、「特定の職種・職位への重点配分」(8組合)、「特定業務手当の創設・拡充」(2組合)、「パート・契約社員の処遇改善」(2組合)、「60歳以降の就労者の処遇改善」(1組合)の回答を得た。生活関連手当等についても、「単身赴任手当・帰省手当等の拡充・支給基準の見直し」の回答を3組合が得たほか、「住宅手当の拡充」(1組合)、「健康増進関連手当の創設・拡充」(2組合)、「生活維持・向上手当の創設・拡充」(1組合)といった回答を引き出した。
また、臨時給与については、規定対応または規定上の引き上げの区分で「全層に対する規定上の引上げ」を6組合、「特定層に対する規定上の引上げ」を2組合が獲得。それ以外に「現行水準の維持」の回答も4組合が引き出した。特別対応でも、3組合が「特別対応分の確保・向上」の回答を得ている。月例給・臨時給ともに、全層への引き上げが多かったことが目を引く。
その他、各種一時金で「テレワーク、健康増進関連、生活維持・向上に対する一時金の創設・拡充」(2組合)や「各種資格取得一時金の創設・拡充」(1組合)の回答を得たほか、各種費用補助でも「保育料補助の創設・拡充」(1組合)、「『学び・学び直し』に向けた各種資格取得費用、各種教育・研修費用補助の創設・拡充(2組合)の回答があった。
なお、年収制では、「特別対応分を含めた現行水準の引上げ」、「昨年を上回る水準の昇給原資獲得」、「現行水準の昇給原資獲得」の回答をそれぞれ1組合が引き出している。
9組合が3%以上の引き上げに資する成果を獲得
こうした結果に対し、「成果と課題」は、「精力的な交渉が展開された結果、組合員の頑張りに応えるとともに、引き続き消費者物価が上昇傾向にある中で、組合員の生活の維持・向上をはかるため最大限の対応が示された」と評価する一方、今後の課題として「賃金改善をめぐる各組合の課題認識にきめ細かく応えていくため、賃金改善の考え方(狭義ベア、広義ベア、生活関連手当等)について一層の定着・浸透をはかる」ことや、統一要求基準の策定にあたり、「業界情勢や一般情勢、労働界の動向等の精微な把握に努める」必要があることなどをあげている。なお、年間総収入ベースで3%程度を目安とする統一要求基準を掲げた結果、「引上げ率を確認できた9組合が3%以上の引上げに資する成果を獲得した」という。
26春闘も全組合が統一して賃金改善などの「賃金・制度関係の取組み」を展開
こうした結果を踏まえ、大会では2026春闘の基本的な考え方や取り組み課題を含めた「総合生活改善闘争・基本方針」を確認した。
基本方針は、2026春闘の取り組み課題について、「『賃金改善』をはじめとした『賃金・制度関係の取組み』を全組合が統一して取り組む『統一取組み課題』」に設定。「『誰もが安心と働きがい・生きがいをもてる職場の実現に向けた取組み』等を各組合の課題認識に基づき取り組む『主体的取組み課題』」に位置づける。
そのうえで、「賃金・制度関係の取組み」に関しては、「業界情勢、一般情勢、労働界の動向、組合員の期待・納得感等を十分に踏まえ、営業職員・内勤職員委員会を中心に検討を行い、(来年1月予定の)中央委員会において『統一要求基準』を決定する」とした。
従来の延長線上ではない取り組みで「3年連続の賃上げを実現」(勝田委員長)
勝田委員長はあいさつで、従来の延長線上ではない取り組みを展開した25春闘の対応について「内勤職員について約30年ぶりに引き上げ水準の目安を掲げて生保協会との協議に臨み、各経営に対し真摯な対応を強く要望した結果、内勤職・外勤職ともに多くの組合が収入の向上につながる成果を獲得し、全体として3年連続の賃上げが実現できた」と評価した。
役員改選が行われ、3年間委員長を務めた勝田年彦氏が退任し、新委員長に堀義行副委員長(第一生命)を選んだ。松田惣佑書記長(日本生命)は再選された。