60歳超え雇用・処遇の在り方に関する検討論議を推進/NTT労組定期大会
2025年8月8日 調査部
NTT東西やドコモ、データなどNTTグループ企業の労組で構成する、NTT労働組合(鈴木克彦委員長、約14万1,000人)は7月29~30日、都内で定期大会を開き、向こう2年間の中期運動方針を決定した。新方針は、「60歳超え雇用・処遇の在り方」について、取り巻く環境や組合員意識実態調査の結果に基づく働き方の変化等を踏まえ、定年制を含めた働き方・専門性等に着目した処遇に向けた検討・論議を行っていく考え方を提示。審議でも、60歳以降の雇用・処遇に関する検討論議の早期実施を求める意見が相次いだ。役員改選では、新委員長に前事務局長の十川雅之氏、新事務局長には前情報労連書記長の水野和人氏を選んだ。
大会では、2025~26年度の中期運動方針として、① NTTグループ事業および雇用の安心・安定と労働条件の維持・向上に向けた取り組み ② 組織強化・組織改革の取り組み ③ 福祉活動の充実・強化 ④ 政治活動の推進――を重点に据えることなどを決めた。
「中期経営戦略」の具体化と実現に向けた会社対応を実施
方針は、NTTグループ事業に対する取り組みについて、「中期経営戦略」の具体化と実現に向けて人財の確保・配置・育成の充実を含めた会社対応を行うほか、「安全労働は事業運営のすべてに優先する」との基本認識の下で労働安全衛生を徹底・強化することを記載。情報通信・情報サービス政策については、総務省の審議会・研究会等の論議動向を注視し、必要な対応を行うとしている。
「人事・人材育成・処遇等の見直し」の運用に対するチェック機能の発揮を
また、雇用の安心・安定と労働条件の維持・向上に向けた取り組みでは、社員の自律的なキャリア形成とエンプロイアビリティを高める専門性の獲得が実現できる処遇へ転換することなどを目的に、2023年4月から導入された「人事・人材育成・処遇等の見直し」の制度運用に対する労働組合としてのチェック機能の発揮や、組合員のモチベーション・エンゲージメントの向上につながる労働時間適正化の取り組みを推進。さらに、「60歳超え雇用・処遇の在り方に関するNTT労組の政策」に基づく検討・議論を進める考えを打ち出している。
60歳超え組合員の8割が「定年時と同じ仕事に就いている」
NTT労組は、「60歳超え雇用・処遇の在り方」について、取り巻く環境や組合員意識実態調査の結果に基づく働き方の変化等を踏まえた政策を検討してきた。「政策」は、基本的な考え方として「継続雇用スキームを導入した当初とは、労働市場や物価、NTTグループの事業運営、現役時代の人事・賃金制度が大きく変化していることから、制度設計の基本スタンス(年収ベース)を含め、見直す時期にきている」との認識を示している。そのうえで、60歳定年退職以降の生活費の変化や高年齢雇用継続給付の給付率の見直し、法定最低賃金の引き上げ動向などを意識しながら、① あらゆる産業・分野で人材獲得競争が激化している ② NTTグループにおいても、現役時代の人事・賃金制度を「専門性に着目し、分野ごとに求められる専門性を軸とした社員資格制度」へと見直し、専門性の高い組合員・社員を処遇している ③「組合員意識実態調査」の結果から、60歳超え組合員の約8割が「定年時と同じ仕事に就いている」としている――ことを踏まえた対処の必要性を指摘。公的年金や高年齢者雇用安定法の動向等を見極めつつ、「定年制を含めた政策検討」の必要性も付け加えた。
定年制を含め働き方・専門性等に着目した処遇・環境整備の検討を
具体的な取り組みとしては、まず、組合員が安心して働き続けられる環境整備を図る観点から、春季生活闘争等を通じて「60歳定年退職以降の生活水準を意識し、引き続き、月例賃金改善による『底上げ』に向けて継続的に取り組む」スタンスを明記。そのうえで、NTTグループを取り巻く環境や働き方が変化するなか、人財の確保・定着とモチベーションの維持・向上を図るために、「現行60歳超え継続雇用スキームの運用状況についてチェック機能を発揮する」とともに、「定年制を含め、働き方・専門性等に着目した処遇・環境整備に向け、検討・論議を行っていく」としている。
働き方やライフスタイルの実態に即した制度設計が必要
方針の審議では、60歳以降の雇用や処遇の在り方について、検討論議を早期に進めることを求める意見が相次いだ。東日本本部は、「これまでの採用や体制見直しなどの経過から、60歳を超える組合員が約5,900人・約20%、現役のなかでも今後5年間で60歳超えの組合員が約4,500人・約15%を占めている」なかで、今後60歳超えを迎える現役組合員から「賃金低下に見合った働き方を望む一方で、現役時代と変わらない働き方に見合う賃金や定年延長を望む声がある」ことを報告。「働き方やライフスタイルの実態に即した制度設計が必要だ」などと述べた。
65歳以降の雇用継続を確実なものとする政策の確立も
西日本本部は、「定年延長や廃止を望む声が存在する一方、引き続き60歳定年制を希望する声も一定数ある」として、定年制のあり方も含めたビジョンの策定・提示を要望。さらに、65歳超えの雇用についても触れ、「今後、65歳以降の就労ニーズが高まっていくことが想定される。65歳以降も就労を希望する全ての組合員・社員の雇用継続を確実なものとすべく、労組としての政策を確立していくことが重要だ」などと話した。このほか、ドコモ本部も、「60歳超えの組合員からは、賃金水準を引き上げてほしいとの切実な声が上がっていることに加え、現役時代と変わらない仕事内容と責任を求められるなかで、それに見合った処遇を検討してほしいとの声もある。定年退職を迎えるタイミングで他企業に転職する組合員も出ており、人材確保の観点からも対応が急務だ」などと訴えた。
25春闘は月例賃金改善で初の満額回答
一方、大会では、2025春闘の最終総括も確認した。NTT労組は、23春闘で「月例賃金で2%の引き上げと、生活防衛への措置として年間10万円」を要求し、正社員の月例賃金を一人平均3,300円(資格賃金700円、成果手当2,600円)引き出して決着する一方、生活防衛のための「年間10万円」の特別一時金はゼロ回答。24春闘では、月例賃金5%の引き上げを要求して、「3%以上(同1万円相当:グレード賃金700円、成果手当9,300円)の改善」で会社側と妥結した経緯がある。
そこで25春闘では、① 分配と成長の好循環につながる持続的な賃上げ ② 組合員への適正な分配と「中期経営戦略」の着実な実行によるNTTグループ事業の持続的な成長・発展 ③ 人財の確保・定着④すべての組合員の生活向上――等を総合的に勘案し、月例賃金・特別手当等の改善による年間収入の引き上げに取り組んだ。月例賃金改善の要求水準は、「過去2年間の厳しい労使交渉と春闘総括をふまえた」うえで、① 経済・労働情勢等を勘案した連合・情報労連方針 ② 特に、物価上昇に負けない賃上げによる組合員の生活向上 ③ 分配と成長の好循環につながる持続的な賃上げの必要性――等を総合的に勘案するとともに、処遇見直しに伴い、新賃金制度での要求となること等を加味して、「月例賃金(グレード賃金および成果手当)3%(主要会社正社員一人平均1万2,000円相当)の改善」を要求した。
交渉では、NTT労組が「『底上げ』の観点等からグレード賃金への配分増を強く求めた」ものの、会社側は「社員の高いパフォーマンスの発揮を促す等の観点から、『成果手当』への配分を重視したい」との主張を崩さず、最終的にグループ各社が「月例賃金一人平均1万2,000円改定(改定率3.08%)」を回答。NTT労組は、その後の交渉で① 主要会社の正社員の月例賃金改善については、「満額回答」を引き出すことができた ② 総じて、すべての雇用形態の「月例賃金の3%改善」を実現するとともに、特別手当(一時金)についても、「妥結・決着に値する水準」を引き出した――として、妥結・決着を図っている。
決着内容は「組合員の期待に応え労使の社会的役割・責任を一定果たしたもの」と評価
決着内容について、経過報告では「物価上昇への対応とともに、組合員のモチベーション向上等につながるものであり、組合員の期待に応え、労使の社会的役割・責任を一定果たしたもの」との認識を示した。配分増に至らなかった「グレード賃金」に関しては、「すべての雇用形態の『月例賃金の3%改善』の実現を重視し、受け止めざるを得なかった」としたうえで、26春闘に向けて「配分についての政策検討と組織的な認識合わせ」の必要性を訴えている。
鈴木委員長はあいさつで、「『何としても満額回答を勝ち取る』との決意と覚悟を持って団体交渉を徹底・強化した結果、月例賃金改善についてはNTT労組結成以来初となる『満額回答』かつ過去最高の1万2,000円での改定を引き出すことができた」などと評価して、25春闘の総括を26春闘方針の策定につなげていく姿勢を示した。
新委員長に十川雅之氏、新事務局長には水野和人氏を選出
役員改選では、2021年から委員長を務めた鈴木克彦氏が退任して新委員長に前事務局長の十川雅之氏を選出。新事務局長には前情報労連書記長の水野和人氏を選んだ。