ベアなどの実質的な賃金改善額は加重平均1万918円・3.54%/サービス連合
2025年8月1日 調査部
旅行会社や宿泊業、航空貨物運送業などの労働組合が加盟するサービス連合(櫻田あすか会長、4万人)は7月24日に記者会見を開き、2025年春闘の結果を発表した。6月19日現在で集計した34組合のベアなどの実質的な賃金改善額は、加重平均で1万918円、3.54%となり、賃金改善額、改善率ともに2001年の結成以来、最高の水準となった。サービス・ツーリズム産業の人手不足に加え、インバウンドの伸びや価格転嫁の進展などが交渉を後押しした格好。櫻田会長は会見で、「産業間格差を埋めていかなくては人手不足の解消にはつながらないとの危機感から、賃金改善だけではなく、労働時間やハラスメントなどでも改善が進められた」などと説明したうえで、「人手不足の解消はまだまだ道半ば。さらなる労働条件改善の交渉を進めていく必要がある」との考えを示した。
定期昇給込みの賃金改善は加重平均1万6,351円・5.32%
2025年春季生活闘争でサービス連合は、賃金要求について「とりわけ生活の基礎となる月例賃金にこわだり、地域別最低賃金の上昇率を意識し、物価上昇に生活向上分を加えた6%(1万9,910円)の改善に取り組む」としていた。
6月19日までに要求書を提出した組合は105組合。そのうち、賃金改善など何らかの項目で合意したのは85組合となった。賃金改善については、同日現在で集計できた34組合の定期昇給込みの賃金改善額は加重平均で1万6,351円、改善率は5.32%とそれぞれ過去最高だった24春闘(26組合で1万5,469円・5.28%)を上回った。これを業種別にみると、賃金改善額はホテル・レジャー(15組合)が1万3,964円・5.34%(24春闘は10組合で1万3,588円・5.30%)。ツーリズム・国際航空貨物(19組合)が1万7,244円・5.31%(同16組合で1万6,135円・5.27%)となっている。
夏期一時金は前年同期比0.02カ月アップの1.59カ月に
サービス連合では、「実質的な賃金改善額」を「ベースアップ、または賃金カーブを維持したうえで賃金制度に定められた改定以上に賃金を引き上げること」と定義している。この「実質的な賃金改善額」についてみると、全体の改善額は加重平均で1万918円、率は3.54%で、前年(9,714円・3.37%)より高い。業種別の改善額はホテル・レジャーが9,141円・3.49%(24春闘は9,143円・3.55%)、ツーリズム・国際航空貨物は1万1,583円・3.56%(同9,916円・3.31%)だった。
夏期一時金の平均支給月数は、6月19日現在集計できている75組合で、前年同期比0.02カ月増の1.59カ月。業種別では、ホテル・レジャー(39組合)は同0.06カ月増の1.42カ月、国際空港貨物(7組合)も同0.24カ月増の1.92カ月となったが、ツーリズム(29組合)は前年同期より0.16カ月減の1.74カ月だった。サービス連合は「円安で海外旅行の伸び悩みや、コロナ禍で拡大したBPO事業の縮小などが影響した」とみている。
中堅層以上の改善抑制につながる一律金額での賃金改善
こうした結果をふまえ、「まとめ」は賃金改善について「2024春季生活闘争の課題であった大幅な初任給の改善による偏重した賃金改善については、多くの加盟組合で一律定額の賃金改善となったため、改善がはかられた」と評価する一方で、「一律定額の改善では、若年層の改善率が高く中堅層以上の改善率が抑制されることとなるため、均等での改善が重要」だとして、一律金額での賃金改善が中堅層以上の改善の抑制につながることを課題にあげた。
一時金についても、「支給水準は回復傾向にあるものの、他産業との支給水準には未だ大きな開きがある」として、日常の労使関係を強化するなどの考えを示している。
産業別最低保障賃金は37組合で合意
また、契約社員やパートタイマー等の待遇改善については、43組合が実質的な賃金改善に合意。産業別最低保障賃金も、地域別最低賃金を上回る企業内最低保障賃金を締結した組合も含めて37組合が回答を得た。そのほか、年間総実労働時間1800時間の実現に向けて、8組合が年次有給休暇の取得促進や半日・時間単位年休の制度拡充などの回答を獲得。カスタマーハラスメントなどへの対応でも、4組合が合意している。
なお、組合員範囲の見直しや契約社員の組織化などの組織拡大については、「多くの加盟組合では合意には至らなかったものの、会社と継続して協議していく結果となった」という。
櫻田会長は、「人材獲得競争が激しくなっているなか、産業間格差を埋めていかなくては人手不足の解消にはつながらないとの危機感から、賃金改善だけではなく労働時間やハラスメントなどでも改善が進められた」などと評価したうえで、今後に向けて「人手不足の解消はまだまだ道半ば。さらなる労働条件改善の交渉を進めていく必要がある」などと話した。
向こう2年間は組織の拡大・強化に注力/新運動方針
記者会見に先立って、サービス連合は7月16日に定期大会を開き、「誰もが働きたい、働き続けたいと思えるような持続可能なサービス・ツーリズム産業の実現」を目指して、中期的な賃金目標「35歳550万円」「年間総実労働時間1800時間」といった労働環境の向上や、組織の拡大・強化などを柱とする向こう2年間の運動方針を決めた。
組織拡大については、① 加盟組合の状況に応じた企業内組織拡大の徹底 ② 加盟組合の関連企業の組織化 ③ 未組織・未加盟企業の組織化 ④ オルガナイザーの育成――の運動に取り組む。組織強化では、加盟組合に対し専従担当者を複数名体制で配置するとともに、地域間・業種間での連携強化をはかり、組合活動の活性化を推進する。役員研修や学習会、研修会、情報交換会などを通じて組合役員の育成を行い、全体の底上げを図るとしている。
「労働条件改善を行っていくためにより多くの声を集める必要がある」(櫻田会長)
櫻田会長は会見で、新方針について「春闘で大きな成果を得たが、今後も労働条件改善を行っていくためには、より多くの声を産業全体として集める必要がある」と指摘。「そのためには組織拡大が喫緊の課題であり、各加盟組合の組織強化が全体の組織強化につながっていく」などと語り、コロナ禍で組織人員が減少し組織の足腰が弱まった状態を回復させる運動に傾注する姿勢を明らかにしている。
26春闘は25春闘の要求水準を継続した要求基準の策定を
また、大会では「2025秋闘方針・2026春季生活闘争方針策定にむけて」も確認した。25春闘の賃上げの結果を「他産業との格差是正を目指して6%の賃金改善要求を掲げたものの、他産業においても24春季生活闘争の結果を上回る状況となった」などと概観。さらに、一時金についても「夏期、冬期ともにそれぞれ1カ月程度の支給水準の差がある」などとして、産業間格差の解消に向けて賃金と一時金を合わせた年収水準の向上に取り組む必要性を強調している。
そのうえで、26春闘にむけては、「他産業との産業間格差の是正を意識し、2025春季生活闘争の要求水準を継続し、生活の基礎となる月例賃金の改善、一時金水準の向上を中心として、要求基準策定に取り組む必要がある」などと明記した。
なお、大会では役員改選が行われ、櫻田会長(帝国ホテル)と石川聡一郎事務局長 (JTBグループ)が再選された。