回答額は定昇込みの加重平均2万819円(6.17%)に
/JEC連合定期大会

2025年7月25日 調査部

化学・エネルギー関連産業の組合でつくるJEC連合(堀谷俊志会長、12万5,000人)は7月17、18の両日、宮城県仙台市で定期大会を開き、前回の方針に引き続き「すべての働く仲間の立場に立った能動的運動」を展開していくことなどを柱とする向こう2年間の新運動方針を決めた。堀谷会長はあいさつで25春闘について、「業績の良い組合や先行労組が牽引し全体へ波及させる共闘の意義を感じることができた組合も多かった」などと述べたうえで、直近(7月8日時点)の集計結果が定昇込み加重平均2万819円(6.17%)で、対前年同時期比2,021円(0.65%)プラスになっている状況を紹介。その一方で、格差是正については「労務費を含めた適正な価格転嫁の取り組みを行ったが、歯止めをかけることはできなかった」などと述べて、引き続き課題となっていることを指摘した。格差是正に関しては、大会で確認した「2025春季生活闘争まとめ」でも、持続的な賃上げと格差是正が実現できる環境づくりの必要性を強調している。

様々な組織が何故大きな組織になったかの再認識を

新運動方針は、スローガンを「JEC連合に集う仲間の連帯と実行力で更なる飛躍!」とした。JEC連合は、① 石油 ② 化学 ③ セメント ④ 医薬化粧品⑤塗料⑥一般――の6つの業種別部会が、それぞれの取り組みを運動の柱にして活動している。方針は、各業種別部会の活動が「独自色が強いが故に、シナジーが生み出せていない現状がある」と指摘。「結成時に様々な組織が何故JEC連合として大きな組織になったかを今一度認識し、連帯と実行力で更に飛躍する必要がある」などとして、複数の業種が集うことで業種の垣根を超えた取り組みを展開することの重要性を改めて明記した。

そのうえで、① すべての働く仲間の立場に立った能動的運動 ② 思いを共にする仲間と共に行動し仲間を増やし、減らさない運動 ③ それぞれの主体性を尊重した多様性のある組織 ④ 国内外の働く仲間と手を結び、社会から信頼される組織 ⑤ 社会と共存し持続可能で健全な産業の発展――の5つの柱を示し、それぞれについて、2026~27年度の具体的な取り組み内容を列記している。

職場や労働組合でのジェンダー平等やワーク・ライフ・バランスを推進

すべての働く仲間の立場に立った能動的運動については、「労働組合の社会的役割と責任を常に考え、すべての働く仲間の立場に立った運動を能動的に展開し、自由、平等、公正、包摂的な社会の実現をはかる」考え。「誰もが各職場で安心・安全・快適に働くことができる環境をつくることは重要」だとして安全衛生活動を前面に打ち出したほか、雇用問題が発生した場合の情報収集と課題解決を図るなどの雇用を守る取り組みの推進、春闘や格差是正の継続的な取り組みによる労働条件・処遇の維持向上、定年延長を基軸とした60歳以降の雇用安定と働きの価値にふさわしい処遇の実現、職場や労働組合でのジェンダー平等とワーク・ライフ・バランスの取り組みなどを進める。

浸透し始めている組織拡大の取り組みや意義

共に行動し仲間を増やし減らさない運動では、組織拡大を「労働組合の社会的役割と自組織の強化であるとの認識のもと、最重要課題の一つ」と位置付け、「業種別部会・地方連絡会・加盟組合の取り組みを全体で支援しながら推進する」とした。

JEC連合では、連合が2021年度から展開している「組織拡大2030プラン」に沿った形で、「JEC連合組織拡大2030」プロジェクトを策定し、前半5年間の活動を進めてきた。その結果、「組織人員だけを見ると(10年間で1万8,000人増やして組織人員12万人を目指すとする)目標を上回る結果になっているほか、JEC連合全体の組織拡大に対する取り組みや意義が浸透し始めている」という。そこで方針は、「今後はプロジェクトという形ではなく、通常の業務として取り組みを進めていく」とした。具体的には、「更新したターゲットリストを基に、進ちょく状況を確認し実行する」こととし、特に前半5年間で取り組めていなかったターゲット組合や再雇用者の組合員化に力を入れる。同時に、減らさない取り組みも展開。中小規模の加盟組合に対するフォローアップなど、組合員減少の歯止めになる対応を図る。

堀谷会長はあいさつで、これまでの組織拡大の取り組みについて、「5年経過した現時点で既に(プロジェクトの)目標は達成しているが、大部分は別の組織化案件によって達成した。ターゲットリストへの対応をもう少し丁寧に進めていたら、もっと大きな組織になっていた可能性がある」などと主張。今後は加盟組合へのヒアリングを基に更新した新たなリストを中心に、「ターゲット組合や再雇用者の組合員化を進めていきたい」などと述べた。

中小組合へのサポート強化も

産別組織としての基本機能も強化。中小規模の加盟組合に組織局が中心となってサポートする。「目指す姿」として、「JEC連合の役職員が専門性を含めたスキルを習得することにより、加盟組合のサポートができるように取り組む」ほか、平日に仕事が抜けられなかったり賃金補償が捻出できないなどの事情で組合活動への参加が難しい中小組合向けに、交通費補助やPCの貸与などのサポートも検討していく。さらに、加盟組合・組合員に産業別組織の運動をわかりやすく迅速に情報伝達することや調査活動・各種教育研修の充実、ITシステムを活用した各種会議の効率化・省力化も進める。

業種別部会の垣根を越えた活動で全体最適を目指す

主体性を尊重した多様性のある組織に関しては、先述の6業種別部会の活動を、「JEC連合全体の活動を補完する観点から重要」だと指摘。それぞれの産業の特徴を網羅した、① 賃金などの労働条件に関する取り組み ② 産業政策活動 ③ 加盟組合との連携・支援 ④ 組織拡大の推進――等のさまざまな取り組みを実施する。

その一方で、「各業種別部会が今まで以上に部会の垣根を越えて協力し合うことが求められる」として、今後は「業種の独自性が大切な領域を除き、研修会活動や交流などを本部や地連に集約・移管することで全体最適を目指す」ことも明記している。

化学・医薬化粧品産業の発展に向けた取り組みを継続

社会から信頼される組織では、「化学ならびに医薬化粧品産業の発展に向けた取り組み」を推進する。化学産業については、「化学産業における課題解決や産業の発展には、より多くの働く者の声を社会に発信していかなければならない」として、今後もUAゼンセン製造産業部門化学部会との連携を継続する考え。さらに、JEC連合との連携協定を解消し、連合を離脱した化学総連(大手化学メーカーの労組で構成、4万9,000人)も交えた三者の連携にも触れ、「引き続き信頼関係の構築に向け協議を進めていく」としている。

一方、医薬化粧品産業における連携についても、2019年にUAゼンセンと共同で設立した産別横断的組織「ヘルスケア産業プラットフォーム」に参画して、「ヘルスケア産業の発展とそこに働く労働者の雇用と生活の安定に寄与していく」とする。

このほか、方針は持続可能で健全な産業の発展についても、「『雇用の安定確保』『職場の安全・衛生の確保』『総合労働条件の維持・向上』をはかるためには、『産業の活性化』『企業の健全な発展』が必須」だとして、政策の実現に向けて「行政・政党・議員・業界団体・他組織への積極的な働きかけをおこなう」ことなどを明記。さらに、JEC連合としてのエネルギー政策の方針(草案)について、「意見を集約するとともに、組織内議論を深め、その内容を確定させていく」考えを打ち出している。

ベア回答額は石油部会が加重平均2万5,418円(6.28%)に

大会では、「2025春季生活闘争まとめ」も確認した。今春の賃上げ交渉の回答結果(5月末集計)をみると、回答を引き出したのは、昨年同時期より21組合多い188組合。そのうち、賃上げを獲得したのは、前年同時期より6組合多い149組合だった。回答額は、定期昇給相当分を含めた加重平均で2万808円(5.94%)、ベースアップ額は同1万5,212円(4.28%)で、それぞれ前年を2,141円、1,621円上回った。

部会ごとにベースアップの回答状況(加重平均)をみると、石油部会(有額回答7組合)が2万5,418円(6.28%)、化学部会(同65組合)が1万4,806円(4.24%)、セメント部会(同13組合)が1万7,311円(5.80%)、医薬化粧品部会(同16組合)が1万685円(3.47%)、塗料部会(同16組合)が1万2,878円(3.47%)、一般部会(同47組合)が9,155円(3.02%)。こうした状況について、「まとめ」は「石油部会大手組合の大幅なベースアップにより石油部会が最も高い。化学・セメント部会では大手組合を中心に高い水準で妥結しているが、一部で満額回答を得られなかった組合もある。医薬化粧品部会でも満額回答を得た組合はあるが全体と比べると低い水準。塗料部会では大手組合と中小組合の妥結金額に差が生じ格差が広がる結果となった。一般部会では多岐にわたる業種があり、一概には言えないが全体と比べると低い水準となっている」などと解説している。

年間一時金は加重平均で184万2,487円(5.52カ月)

また、規模別では、300人以上の大手組合(有額回答65組合)の加重平均が1万5,722円(4.37%)だったのに対し、299人以下の中小組合(同99組合)は1万588円(3.53%)にとどまり、5,000円以上の差が付いた。

年間一時金は、加重平均で184万2,487円(5.52カ月)。額で昨年(169万3,903円)を14万8,584円、月数も昨年(5.25カ月)を0.27カ月上回った。

このほか、初任給については、報告があった102組合中64組合が前進回答を獲得。引き上げ幅(単純平均)は、高卒1万3,956円、大卒1万5,433円、大学院卒1万5,629円となった。企業内最低賃金でも、報告があった73組合中18組合で前進回答があり、引き上げ幅は74円。取引適正化に関する要求を行った組合は15組合で、4組合から前進回答があったほか、10組合が春闘交渉以外の場でも取引適正化を進めるために取り組んでいるという。

持続的な賃上げと格差是正を実現できる環境づくりが必要

「まとめ」は25春闘で大手組合を中心に大幅な賃上げが実現したことを「加盟組合が一斉に春闘に取り組むことにより、相乗効果をもたらし、相場を引上げることによって、全体としては昨年以上の結果に繋げることができた。その結果が後に続く中小組合の交渉にも波及する中で、大手以上のベースアップを勝ち取った中小組合もあった」などと評価。その一方で、「満額回答を得られなかった組合や、2年連続の大幅な賃上げに追いつけなかった組合もあり、格差が拡大する結果となった」ことを課題にあげ、「持続的な賃上げと格差是正が実現できる環境をつくっていくために適切な価格転嫁・適正取引の取り組みを強化する必要がある」と強調している。

価格転嫁に取り組んだが格差是正に歯止めはかけられなかった

2025春闘の賃上げ状況について、堀谷会長はあいさつで「前年度の2024年に引き続き、物価高や多くの産業・企業で人手不足が加速し人材の確保・定着を意識した企業間の競争が強まるなかでの取り組みとなった」ことを指摘。「企業は競合他社を意識した回答を行い、初任給引き上げや若年層への配分を厚くするという現象が顕著に表れ、業績の良い組合や先行労組が牽引し全体へ波及させるという、まさに共闘の意義を感じることができた組合も多かった」として、直近(7月8日時点)の数字を紹介した。それによると、妥結した199組合の定昇込み加重平均は2万819円(6.17%)で、対前年同時期比2,021円(0.65%)プラスになっているという。

また、堀谷会長は「ヤマ場から時間が経つにつれ、『世間の高水準の賃上げについていけない』という声が聞こえるようになり、また、企業の業績悪化、あるいは体力的に厳しい企業において人材の流出を防ぐためのいわゆる『防衛的賃上げ』という言葉も聞こえてくるようになった」とも説明。格差是正に関して、「政労使をあげて賃上げ原資を捻出すべく労務費を含めた適正な価格転嫁の取り組みを行ったが、結果として歯止めをかけることはできなかった」ことを吐露した。

「26春闘も物価上昇分と生活向上分を要求していく考え方を変える状況にはない」(堀谷会長)

さらに、2026春闘については、「連合においてこれから議論がスタートする」としながらも、物価上昇が続いている状況を踏まえて、「先行き不透明感があろうとも、労働側のスタンスとしては物価上昇分と生活向上分を要求していくというこれまでの考え方を変える状況にはない」と断言した。ただし、「大幅な賃上げが続くことについて行けない企業が増えてくる懸念がある」ことが次年度以降の大きな課題との認識を示したうえで、「現状の率での要求や、格差是正を求めるプラスαの要求方式に問題はないのか、我々自身の取り組み方法に対する検証も必要。それと並行して、今一度政労使が一体となって、労務費を含めた適正価格転嫁政策を推し進める。『体力のない企業は仕方ない』で済ます問題ではなく、産別間の連携や連合等を通じて何ができるのか議論していきたい」などと述べ、格差是正に焦点をあてた取り組みを強化していく姿勢を強調した

なお、役員改選では、堀谷俊志会長(三菱ケミカル)を再選。寺田正人事務局長は退任し、新事務局長には森裕樹氏(三菱ガス化学)が選ばれた。