全世代のバランスのとれた賃金体系の確立を/自治労中央委員会
2025年6月6日 調査部
地方自治体の職員などを組織する自治労(石上千博委員長、70万6,000人)は5月29、30の両日、都内で中央委員会を開催し、2024自治体確定闘争総括を確認するとともに、当面の闘争方針を決定した。2024人事院勧告では、月例給・一時金ともに若年層を中心に大幅な引き上げが勧告されたが、方針は、中高年層への配分に不満が残ると指摘。物価の高騰による実質賃金のマイナスが続く中、2025人勧期に向けた取り組みとして、「若年層~中堅層~高齢層のバランスのとれた賃金体系の確立」を求める考えを強調した。石上委員長はあいさつで、「公務労働者としても賃上げを強く求めることは当然」だと述べ、2年連続での大幅な賃上げの実現に向けて取り組む必要性を訴えた。
2年連続で大幅賃上げを勝ち取る
中央委員会では、賃金・労働条件改善をめぐる人勧期を中心とした取り組みをはじめ、職場の権利と勤務条件を確立する取り組み、地方自治・財政の確立と質の高い公共サービス改革の推進――などを柱とする当面の闘争方針を決定した。
闘争方針は、上部団体である連合が2025春闘で「先行大手組合の要求に対する満額回答などが相次ぎ、第5回回答集計(5月2日)時点で賃上げ率5.32%と2年連続5%を超える結果となっている」ことを紹介。そのうえで、賃金・労働条件改善をめぐる人勧期を中心とした取り組みでは、「多くの組合が賃上げを勝ち取っているが、中小への波及は限定的ともいわれており、月例給および一時金に関する民調(民間給与実態調査)結果への影響を注視する必要がある」として、賃金をはじめ公務員の労働条件について、「交渉・合意によって決定されるべきものとの基本的な考え方に立ち、給与改定にあたっては、精確な調査による公平・公正な官民比較を求める」スタンスを強調している。
さらに、2024人事院勧告が若年層に特に重点を置いた改定となり、中高齢層を中心に組合員の不満感が増している課題を指摘して、2025年度賃金については、「好調な民間春闘の妥結状況をふまえつつ、『若年層~中堅層~高齢層のバランスのとれた賃金体系の確立』」を目指すこととしている。
石上委員長は冒頭のあいさつで、約30年ぶりに2%を超える水準となった2024年の人事院勧告について、「民間と比べれば十分とは言えない」とコメント。そのうえで、物価高による実質賃金のマイナスが続いている現状をふまえ、「公務労働者としても賃上げを強く求めることは当然」だと述べ、2年連続での大幅な賃上げを勝ち取ることや、組合員のモチベーションを維持向上していくために、全世代での賃上げに向けて取り組んでいく必要性を訴えた。
自動車等の交通用具使用者の通勤手当の改善も要求
2025人事院勧告に向けた人事院への要求事項では、賃金について、① 給与勧告に際しては、全世代の職員の月例給について十分な水準の引き上げ勧告を行うこと ② 一時金については、支給月数を引き上げるとともに、期末・勤勉の適正な配分を行うこと―――の2点を昨年と同様に提示した。
そのうえで、自動車等で通勤している労働者の通勤手当についても言及し、「2025年民間給与実態調査を基礎とし、ガソリン価格の高騰をふまえた改善を行うこと」を新たに盛り込んだ。
また、中長期的な賃金課題では、60歳前後の給与カーブのあり方について、「定年を延長した職員のみならず、定年前の職員や再任用職員を含めた高齢層職員全体の給与水準の改善を行うこと」なども掲げている。
最終提言による地方公務員へのマイナスの影響を懸念
国家公務員の人事管理のあり方について議論してきた人事院の人事行政諮問会議が3月24日に公表した「最終提言」についても、自治労としての見解を明らかにしている。提言が官民給与の比較企業規模について、現在の「50人以上」とする比較対象を「少なくとも従前の100人以上に戻すべき」だとしたことについては「妥当なもの」と評価。その一方で、外部労働市場と見劣りしない報酬水準とするため、政策の企画立案等に関わる職員の比較対象を「1,000人以上」の規模に見直すとの内容は、「一部の職員の処遇改善のために、拙速に官民比較のあり方を大きく見直すものであり、地方公務員の給与水準にマイナスの影響を与える可能性を含めて重大な懸念を持っている」との考えを示した。
石上委員長は最終提言について、「現時点では具体的な措置内容は明らかになっていない」としながらも、「私たちにも広く影響する可能性があることから、引き続き危機感をもって、全力で人事院との交渉に臨んでいく」姿勢を明らかにした。
最重点課題の「人員確保」では、4月以降の欠員状況の再点検も
自治労は、すべての単組の共通課題である「人員確保」を2025春闘の最重点課題と位置づけて取り組みを進めている。闘争方針は、人員要求が職員の労働条件に関わる重要な要求であることを再確認したうえで、「職場単位の欠員や減員の状況、安全衛生委員会で報告された年間の時間外労働、年休・代休の取得状況に加え、4月以降に生じた長期休職者の状況を再点検し、2025人員確保闘争に取り組む」としている。
「要求交渉を積み上げれば、成果を勝ち取ることができる」(石上委員長)
この点について石上委員長は、「2025春闘では組合員の要求ニーズが高く、喫緊の課題である人員確保を全単組が取り組む最重点課題に掲げて取り組んだが、要求書提出が全体の6割にも満たなかったことは厳しく受け止める必要がある」と危機感を表明。一方で、「自主的・主体的な賃金決定の機運が高まった2024確定闘争からの交渉強化によって、手当の獲得や人員の増員を勝ち取った単組も一定数報告されている」ことから、「要求・交渉を積み上げれば、成果を勝ち取ることができることは明らか」だと述べ、交渉ができなかった原因を検証して「次に繋げていこう」と強く訴えた。
消防職員の処遇改善にむけた取り組みでは、全国の消防職員でつくる全消協(全国消防職員協議会)と連携して大規模災害時における「災害派遣手当」の増額(最低目標:日額2,160円)や時間外勤務手当の支払いなどの処遇改善を求めて、消防職員委員会に意見を提出する取り組みを進める考え。これにより、派遣元の消防本部によって特殊勤務手当の額等に違いがある等の消防本部間の格差解消に取り組んでいく。
カスハラ防止に向けた措置や地方公務員の副業・兼業についても議論
労働安全衛生の確立と快適職場づくりについては、7月の安全衛生月間を中心に全単組で安全衛生活動に取り組む方針。特にカスタマーハラスメントを重点目標に設定し、自治労が作成したマニュアルを活用して、「防止にむけた具体的な措置を当局に求める」としている。
また、ハラスメント防止の取り組みでは、カスタマーハラスメント対策を企業の雇用管理上の措置に義務づけることを柱とした労働施策総合推進法改正案の可決・成立に向けて国会・省庁対策を進めてきた。そのほか、首長や議員から職員へのハラスメントを防止するため、議会での条例制定を求めるなどとしている。
地方公務員の兼業・副業については、総務省の「社会の変革に対応した地方公務員制度のあり方に関する検討会・地方公務員の働き方に関する分科会」が地方公務員の兼業許可基準のあり方に対する報告書をとりまとめ、自治体にむけて通知が発出される見込みとなっていることから、通知発出まで総務省と折衝を重ねるとともに、単組における取り組みの方向性や考え方を示すとしている。
公立・公的医療機関への財政支援や医療・保健労働者の処遇改善も盛り込む
2026年度政府予算における地方財政の確保と公共サービス改革に対する取り組みでは、「地方財政の確立にむけた、より抜本的な対応を求める」構え。特に、少子高齢化の進展に伴う社会保障経費の増大が、自治体の一般行政経費を圧迫していることから、地方単独事業分も含めて社会保障経費を拡充することや、公立病院の経営支援策の充実を図ることを盛り込んでいる。
地域医療提供体制確立の取り組みでは、公立・公的医療機関の経営悪化について、現状を検証し、物価・人件費高騰や不採算・政策医療に対する財政支援など有効な対策を関係省庁などに求める取り組みを展開する。
医療・保健労働者の労働条件・環境改善については、「医療現場で経営悪化を理由に人勧実施見送りや一部未実施、給与カット提案を受けている単組があった」ことを説明。「2024年度補正予算で医療機関に対する財政支援が一定措置されることをふまえ、単組は医療現場の賃上げにむけ引き続き取り組みを行う」とした。医療現場の給与改定に関しては、「2024自治体確定闘争総括」にも、「一部では、給与改定の凍結や一部未実施を提案され、交渉が年明けまで続くことになった」などと明記。「結果としてほとんどの自治体病院では給与改定がされない事態は避けられた」としながらも、「厳しい経営状況にある独法病院などでは改定見送りや一部未実施が見られた」ことを指摘した。そのうえで、「2025年度も同様の事態が想定される」として、「公立・公的病院への財政支援を求めつつ、警戒を強める」姿勢を鮮明にしている。