「新たなステージの定着に向け前進」と2025春季生活闘争を中間総括/連合の中央委員会

2025年5月30日 調査部

連合(芳野友子会長)は5月28日、都内で中央委員会を開催し、「2025春季生活闘争中間まとめ」を確認した。直近の回答集計では、2年連続で定期昇給相当込みの賃上げ率が5%台となっており、また、定昇相当を除く賃上げ分は過年度物価上昇率を上回っていることから、中間まとめは、これまでの闘争全体の評価について「新たなステージの定着に向け前進した」と総括。一方、格差是正の取り組みについては、「格差拡大に歯止めをかけるには至らなかった」とした。

直近の回答集計で賃上げ率は5.32%

中間まとめは、5月8日に発表した第5回回答集計までの状況をふまえたもの。連合は7月17日に開く第7回中央闘争委員会で最終まとめを確認する。

第5回回答集計では、平均賃金方式での定昇相当込みの賃上げ額の加重平均は昨年同期を1,133円上回る1万6,749円で、率は同0.15ポイント増の5.32%となっている。300人未満の中小組合については、1万3,097円・4.93%と昨年同期を上回る水準となっているものの、300人以上が1万7,145円・5.36%となっており、額・率ともに大手のほうが高い結果となった。

ベアなどの「賃上げ分」が明確にわかる組合で集計した「賃上げ分」の加重平均をみると、額は昨年同期を1,159円上回る1万1,937円、率は同0.18ポイント増の3.75%。規模別にみると、300人未満が昨年同期比1,308円・0.39ポイント増の9,769円・3.61%、300人以上が同1,135円・0.15ポイント増の1万2,121円・3.76%となっている。「賃上げ分」を過去の最終結果と比べると、集計を開始した2015年以降で、額・率ともに最も高い結果となった。

有期・短時間・契約等労働者の賃上げ額(加重平均)は、時給では昨年同期を2.76円上回る68.48円(5.93%)となっている。

中長期的視点を持って粘り強く真摯に交渉した結果

中間まとめは、ここまでの回答結果に対する全体的な受け止めについて、「2年連続で定昇込み5%台の賃上げが実現した。定昇除く賃上げ分は過年度物価上昇率を上回った。労使が、賃金・経済・物価を安定した巡航軌道に乗せる正念場であるとの共通認識のもと、企業の持続的成長、日本全体の生産性向上につながる『人への投資』の重要性について、中長期的視点を持って粘り強く真摯に交渉した結果」だとし、「新たなステージの定着に向け前進した」と総括した。

賃上げと「価格転嫁・適正取引における格差解消」をセットで進めた格差是正の取り組みについては、「多くの中小組合で格差是正を含めた積極的な要求が提出され、価格転嫁・適正取引の取り組みについてもすそ野が広がり、産業特性などを踏まえ様々な取り組みが展開されている」とし、中小組合の賃上げについても「昨年より0.27%ポイント上昇し、金額 でも全体平均を超える組合が着実に増加するなど健闘している」と評価する一方、引き上げ額・率ともに全体平均を下回ったことから「格差拡大に歯止めをかけるには至らなかった」とした。

有期・短時間等労働者の引き上げ額は2000年代中盤以降で最大に

有期・短時間・契約等労働者の時給引き上げについては、「フルタイム組合員の平均賃金方式の賃上げ率5.32%を上回り、連合が時給の集計を開始した2000年代中盤以降では最大の引き上げ額となった」と評価した。

働き方の改善については、「産業・企業の特性を踏まえた要求と交渉が展開された」とし、休日数の増加や所定労働時間の短縮などの長時間労働の是正や、全従業員を対象とした企業内最低賃金の引き上げなど有期・短時間・契約等労働者の雇用安定と処遇改善が「着実に前進している」とした。

賃上げの流れの継続と格差是正のうねりの創出が重要

一方、課題について中間まとめは、賃上げに関しては、「物価を安定させ、積極的な人への投資によって実質賃金が継続的に上昇し経済が安定的に上昇する新たなステージをしっかりと社会に定着させるには、この賃上げの流れを中期的に継続することに加えて、格差是正の大きなうねりを創り出していくことが重要」だと指摘。政府にも政策対応を要望し、「変動の激しい国内外情勢に対応した適切なマクロの経済社会運営を求める」と述べた。

また、今後の国民所得の分配についても意見し、「物価を上回る賃上げにとどまらず、社会全体の生産性の伸びに応じて日本全体の賃金の中央値を引き上げるとともに賃金の底上げ・格差是正をはかり、分厚い中間層の復活と働く貧困層の解消をめざすべき」だと主張した。

適切な価格転嫁・適正取引は道半ばの状況

付加価値の適正配分や、格差是正に向けた取り組みにおける課題では、「適切な価格転嫁・適正取引は道半ば」だとの見方を示し、「公的分野を含めた『サプライチェーン全体で生み出した付加価値の適正分配、適切な価格転嫁・適正取引』の取り組みをさらに強化し、中小企業や有期・短時間・契約等で働く者の賃金を『働きの価値に見合った水準』に引き上げることをめざす」と強調。

政府には、公正取引委員会や中小企業庁の実態調査などを踏まえた、適切な価格転嫁・適正取引の取り組みの徹底や、官公需における価格転嫁の取り組み強化を求めるとともに、5月16日に成立した「下請代金支払遅延等防止法及び下請中小企業振興法の一部を改正する法律」などの周知・活用を通じて取り組みを強化するとした。

社会対話や闘争の進め方における課題では、「政労使の社会対話を通じて、中期的・マクロ的な視点から問題意識を共有することは重要」だとして、今後も経済団体との意見交換や政府会議体への参画、政労会見などを通じて「働くことを軸とする安心社会」の実現に取り組むとしている。地方版政労使会議については、地方連合会のアンケート調査結果などを踏まえた改善をはかるとともに、波及効果を高めるために複数回の開催を検討するとした。

下請法の改正効果を2026闘争に生かすよう要望

中間まとめに関する討議では、中小組合を多く抱える産業別労組のJAMが発言。事業者間における価格転嫁や取引の適正化を図る内容が盛り込まれている「下請代金支払遅延等防止法及び下請中小企業振興法の一部を改正する法律」は2026年1月1日の施行となっているが、2026闘争での改正効果に向けて、「同法の執行強化と『中小企業憲章』の理念をふまえた公正な市場とセーフティネットの整備に向けた実効性の担保を、国や行政団体に強力に要請してほしい」と要望した。

また、事業者が「代表権のある者の名前」で下請企業との望ましい取引慣行などの遵守を宣言する「パートナーシップ構築宣言」について、JAMも自動車総連に続いて今年1月に産別組織として登録を行ったことを紹介しながら、連合本部、各地方連合会が宣言に登録するとともに、すべての構成組織に登録を働きかけることを要望した。

「確実に新たなステージの定着に向け前進している」(芳野会長)

中央委員会であいさつした芳野会長は2025春季生活闘争について、「現時点での状況は、基本方針に掲げた『5%以上の賃上げ』という目標を達成し、さらには33年ぶりに『5%以上』を実現した昨年を上回る賃上げ率となっている。ここまでの取り組みを踏まえると、確実に新たなステージの定着に向け前進していると受け止めて良いと考えている。これは、幅広い産業で積極的な賃上げ要求を掲げ、粘り強く交渉を積み重ねてきた結果だ」と話した。