過去最高の賃金改善を獲得も規模間格差は拡大/JAM中央委員会

2025年5月28日 調査部

金属、機械関連の中小労組を多く抱える産業別労働組合のJAM(安河内賢弘会長、36万9,000人)は5月23日、都内で中央委員会を開催し、2025年春季生活闘争中間総括を確認した。賃金改善額、平均賃上げ額ともに結成(1999年)以降での最高水準となった5月中旬までの闘争結果について中間総括は、「2023年を起点とした高い水準の賃上げを継続した」と評価。その一方で、賃上げ額の規模間格差が拡大した点を課題にあげ、安河内会長は「中小労働運動を標榜しているJAMとしては痛恨の極み」と話した。

組合員との対話にこだわり、賃上げ定着に取り組んだ

中間総括は、2025年春季生活闘争の概要・特徴点について、「組合員との対話にこだわり、生活の向上を実感でき、格差拡大を許さない賃上げを定着させる取り組みを展開した。また、『価格転嫁』を進め、『持続可能なものづくりへ』の実現に向けて、『ブレずに是正』に取り組んだ」とし、「結果として、賃金改善額、平均賃上げ額ともに過去最高となり、2023年を起点とした高い水準の賃上げを継続した」と振り返った。

賃金改善分の平均要求額は過去最高に

今回の闘争の経過と結果について、具体的にみていくと、要求状況では、賃金構造維持分を把握できる単組の5割以上が要求基準に則った賃金改善を要求。賃金改善分の平均要求額は1万3,995円となっている(5月13日集計、以降同様)。

今次方針での賃金改善分の要求基準である1万5,000円は1,000円程度下回ったが、JAM結成以降での最高の要求額となった。なお、JAMは今回の闘争では、賃金改善分の要求基準を2024年方針の「1万2,000円基準」から引き上げ、「1万5,000円以上」とした。

賃金改善分の平均要求額を規模別にみると、300人未満でも昨年の最終集計(1万1,302円)を2,000円以上上回る1万3,837円となっており、1万4,000円に迫る要求額となった。300人以上は1万4,358円となっている。

賃金改善分の平均回答額も過去最高

回答状況をみると、賃金改善分を獲得した単組数は、賃金構造維持分を明示した796組合のうち765組合。改善分の平均額は9,475円で過去最高となっている。

規模別にみると、300人未満は8,643円で、平均要求額に比べ4,000円以上低く、要求水準の高さが回答につながらない結果となった。300人以上は1万1,921円となっている。

個別賃金の取り組みでは、水準開示件数は、30歳、35歳ともに、昨年同期に比べ、回答・確定水準については上回ったが、現行水準と要求水準については下回った。回答・確定水準の開示件数は、30歳が209、35歳が208、現行水準の開示件数は同順で458、458、要求水準の開示件数は同順で304、300となっている。

現行水準の開示件数は2020年から、また、要求水準と回答・確定水準の開示件数は2021年から、「伸び悩んでいる」としている。

回答水準については、30歳は水準が26万8,404円で、改善額が1万1,324円、35歳は水準が29万6,736円で、改善額が1万1,304円となっており、改善額は「平均賃上げの賃金改善額を上回って」おり、個別賃金方式の優位性がみられている。

平均賃上げでの回答額・妥結額は4年連続で過去最高に

平均賃上げでの要求・回答・妥結の状況をみると、賃金構造維持分を含む要求額は1万7,684答額が1万2,919円(4.71%)、妥結額が1万3,075円(4.75%)となり、要求額については3年連続、回答額・妥結額については4年連続で過去最高となった。

過年度物価上昇分に対する賃上げの状況についての記述をみると、4月中旬時点では、物価上昇が「3.0%に対し4.85%で賃金構造維持分を除いても、全体では、概ね実質賃金を確保している」としたが、「規模、業種にかかわらず、平均賃上げ妥結率のばらつきは大きく、実質賃金が維持できなかった単組も多い」としている。

一時金の回答額は微増で、月数では微減

一時金については、「回答額は微増、回答月数は微減で、前年並み」だったとし、規模別にみると、「規模300人未満は横ばい、規模300人以上は微減」となったとしている。

企業内最低賃金については、回答額と未回答単組の現行額の平均額は18万4,806円で、昨年の最終結果の17万4,480円より1万円以上高くなっている。

今後も積極的な賃上げの継続が必要

こうした結果をふまえ、中間総括は、今後の課題について、「2023年を起点とする積極的な賃上げを継続することができた」としたものの、「今後も積極的な賃上げを継続していかなければならない」と強調した。

また、「ばらつきは大きく実質賃金を維持できなかった単組も多く存在する」として、「誰一人取り残すことのないよう交渉や取り組みの状況を把握しつつ共闘体制を強化していく必要がある」と明記した。

さらに、「実質賃金の低下は、すべての働く仲間の生活を圧迫する」として、「物価上昇局面では、個別企業の業績だけにこだわらず賃上げを実現する必要がある」と指摘。実質賃金を維持させるための賃上げの必要性について、「労使の認識をさらに一致させていく必要がある」とした。

労働組合が配分や制度設計にも関与を

個別賃金要求推進の強化に向けては、「格差是正の核となる賃金のあるべき水準を重視し個別賃金要求に転換することが求められる」などとし、「中期的な賃金のあり方をふまえて、労働組合が主体的に配分や制度設計へ関与しなければならない。賃金改善額が高い現在、重要性は増している」とした。

価格転嫁の取り組みについては、「価格転嫁を促進する社会的な環境整備に取り組まれているが実施状況は十分とはいえない」とし、政府の「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」の周知・徹底、実施や、実態・阻害要因の把握、サプライヤーへの波及などを進めるとした。

賃上げの継続で内需主導の経済成長を

2026年春季生活闘争に向けては、「今後は、トランプ関税の影響などグローバル経済の先行きな不透明感が増す懸念があるが、労働組合が主体的に、実質生活の維持・向上と格差是正に向けた賃上げを継続していくことにより、内需主導の安定的な経済成長の実現につなげていく必要がある」とした。

規模間格差の拡大は「痛恨の極み」

あいさつした安河内会長は2025年闘争について、結成以来、最高の賃金改善獲得となったことについて「組合員の団結の成果」と評価した一方で、昨年に引き続き企業規模間格差が広がった結果について、「中小労働運動を標榜しているJAMとしては痛恨の極みと言わざるを得ない」とコメント。

「なかには、これだけ高い水準での要求と回答になっているのだから、中小が(大手に)ついてくることができないのは仕方がないのではないかと思われる人もいるかもしれないが、私は決してそうは思わない」と述べるとともに、「過去を振り返れば、この2年間は異常なことなんだと思う。そしてその責任の一端はわれわれ労働組合にもあるというふうに考えなければならない。しっかりと力強い春闘を行って、この規模間格差の是正にもう一度力強く取り組んでいかなければならない」と呼びかけた。

中央委員会ではこのほか、2026年度・2027年度の運動方針の骨子案や、第27回参議院議員選挙に向けた取り組みなどを確認した。