正規雇用看護職員の離職率は11.3%に/日本看護協会調査
2025年4月16日 調査部
日本看護協会(高橋弘枝会長)は先ごろ、「2024年病院看護実態調査」結果を公表した。それによると、看護職員の離職率は11.3%で前年度から微減。新卒採用看護職員の離職率は、過去2年は10%台だったが、今回は8%台に改善した。看護職員の給与(平均)は、税込で「高卒+3年課程」の新卒が前年より9,569円増えて27万6,127円、「大卒」の新卒も同9,311円増の28万4,063円、勤続10年(31、32歳)の非管理職は同7,650円増の33万4,325円と、いずれも上昇。労働環境については、薬剤師・理学療法士・臨床検査技師などへのタスク・シフト/シェアやICTの利活用が一定程度進んでいることがわかった。
調査は、病院看護職員の需給動向や労働状況、看護業務の実態などの把握を目的に毎年、実施。調査期間は2024年10月1日~11月15日。全国の病院8,079施設の看護部長に回答を依頼し、3,417施設からの有効回答をまとめた(有効回収率42.3%)。
新卒採用看護職員の離職割合は8.8%に改善
調査結果によると、2023年度の正規雇用看護職員の離職率は前年度比0.5ポイント減の11.3%。新卒採用看護職員が8.8%(同1.4ポイント低下)、既卒採用看護職員は16.1%(同0.5ポイント低下)で、いずれも前年度から改善した。特に、新卒採用看護職員の離職割合は、2021年度(10.3%)と2022年度(10.2%)の2年は10%台となっていたが、今回は1桁台に下がり、コロナ禍前の2019年度(8.6%)と近似した格好となった。
なお、2023 年度の総退職者数が増加した(「とても増加した」と「やや増加した」の合計)と答えた病院は30.8%で、こちらも前年度に比べ 4.1ポイント減少している。
管理者が考える新卒看護師の離職理由は精神的疾患がトップ
こうした状況のなか、2023年度に年度内離職した新卒看護師がいた病院の看護管理者に、退職の主な理由と考えていること(上位5つ選択)を聞くと、「健康上の理由(精神的疾患)」が52.5%でトップ。以下、「自分の看護職員としての適性への不安」(47.4%)、「自分の看護実践能力への不安」(41.6%)、「上司・同僚との人間関係」(29.8%)、「他施設への関心・転職」(21.8%)、「健康上の理由(身体的疾患)」(15.8%)、「他分野(看護以外)への関心・転職」(14.6%)が続いており、これら7項目が10%を超える回答率となっている。
退職理由の最上位の「健康上の理由(精神的疾患)」を病床規模別でみると、「500床以上」が71.6%と突出しており、病床数が少なくなるにつれて割合も下がる傾向にあるものの「99床以下」でも34.9%が選択しており、病床規模に関わらず高い割合を示している。「新卒看護師のメンタルヘルスへの支援は大きな課題になるといえる」(日本看護協会)。
なお、2023年度に病気で1カ月以上の連続休暇を取得した正規雇用看護職員がいた病院は70.0%で、そのうちメンタルヘルス不調者がいた病院は80.7%と8割を占めた。「メンタルヘルス不調者がいた」病院の平均人数は、2022年度と同じ5.4人。ちなみに、2023年度に産休・育休で1カ月以上の連続休暇を取得した正規雇用看護職員がいた病院は80.5%、介護で1カ月以上の連続休暇を取得した正規雇用看護職員がいた病院は17.5%だった。
正規雇用看護職員の給与は新卒・勤続10年ともに増加
次に、看護職員の給与をみていく。2024年度採用の新卒看護師(高卒+3年課程卒)の初任給は、基本給が平均20万9,697円(前年度比4,747円増)、税込給与が平均27万6,127円(同9,569円増)。大卒の新卒看護師は、基本給が平均21万5,614円(同4,651円増)、税込給与は平均で28万4,063円(同9,311円増)だった。これが勤続10年の看護師(31~32歳・非管理職)になると、基本給は平均25万380円(同2,751円増)、税込給与は平均33万4,325円(同7,650円増)となる。看護師の平均基本給与額および平均税込給与額は、新卒看護師、勤続10年の看護師ともに前年度より増加していたが、増加幅は新卒の方が大きい。
なお、調査における「税込給与額」は、通勤手当・住居手当・家族手当・夜勤手当・当直手当等を含むが、時間外手当・新型コロナウイルス感染症に係る危険手当等は除いている。ただし、新卒者には家族手当は含まれず、単身・民間アパート居住とする。また、夜勤をした場合には、当該の月に3交代で8回(2交代で4回)の夜勤をしたものとする。
「夜勤時間72時間を超える夜勤者」の割合が34.3%に
一方、調査は、夜勤について「夜勤者の確保が厳しくなっているとの課題認識がある」として、看護職員の夜勤の状況と夜勤者の確保策について実態を調べている。それによると、2024年9月の1カ月間の一般病棟に勤務する看護職員のうち、回答病院全体の「夜勤時間0時間の夜勤者」の割合は全体の6.4%。「夜勤時間1~16時間未満の夜勤者」の割合は8.8%だった。その一方で、「夜勤時間72時間を超える夜勤者」の割合は34.3%に達している。
「夜勤時間が0時間の看護職員がいた」と回答した病院に、その理由(上位3つ選択)を尋ねると、「子どもの世話」が 74.8%で最も高く、次いで「身体的疾患による健康上の理由」(33.0%)、「夜勤勤務を遂行するための知識や技術の不足」(27.7%)などが続く。
夜勤者の確保策は「夜勤専従者の導入」と「多様な夜勤の導入」が効果的
一方、直近3年以内に実施した看護職員の夜勤者の確保策(複数回答)としては、「夜勤専従の導入」(45.1%)と「多様な夜勤の導入(回数・時間・曜日)」(37.2%)が多かった半面、「確保策はしていない」(22.0%)も2割強あった。なんらかの確保策を講じている病院に確保状況の改善程度を聞くと、「どちらともいえない」が50.0%を占め、「改善した」とする回答は28.6%(「とても改善した」と「やや改善した」の合計)に留まっている。
ワーク・ライフ・バランスや退職者減につながる柔軟な働き方の推進
そこで、正規雇用の看護職員に対する ① 短時間勤務正職員(育児・介護休業法に定める場合を除く)② 職務限定正職員 ③ 勤務地限定正職員―といった柔軟な働き方の導入状況(複数回答)をみると、「短時間勤務正職員」が31.9%、「職務限定正職員」が7.4%、「勤務地限定正職員」が2.0%で、62.0%は「いずれも導入していない」との回答だった。看護管理者が考える柔軟な働き方の導入による効果では、「短時間勤務正職員」「職務限定正職員」「勤務地限定正職員」のいずれも「看護職員のワーク・ライフ・バランスが確保しやすくなった」と「個々の生活事情を理由とした退職者数が減少した」と答えた割合が高い。なお、個別事情で夜勤免除や回数制限が必要となった正規雇用の看護職員に対する主な対応は、「個別に柔軟な対応をとり、正規雇用のまま雇用している」が 85.5%を占めている。
7割の病院で看護師から医療関係職種へのタスク・シフト/シェアを実施
看護師から医師以外への医療関係職種へのタスク・シフト/シェアの実施状況は、「実施している」と回答した病院が70.6%と、看護師から医師以外の医療関係職種へのタスク・シフト/シェアは相当程度進んでいる様子がうかがえる。
タスク・シフト/シェアを実施した「医師以外の医療関係職種」は、「薬剤師」(59.5%)や「理学療法士」(44.6%)、「臨床検査技師」(41.5%)が多く、タスク・シフト/シェアが看護師業務の充実につながったかは、「そう思う」と「ややそう思う」を合わせて「そう思う」が 69.6%と約7割を占めた。「そう思う」と回答した病院が充実したと思う業務(複数回答)は、「多職種カンファレンスの実施」が48.8%で最も高く、次いで「多職種との協働(計画作成・介入・評価)の充実」(41.6%)や「退院に向けた支援の充実」(38.4%)も高い。こうした結果から、日本看護協会は「さらなるタスク・シフト/シェアを推進する必要性が示唆された」とみている。
ⅠC T を用いた看護師による療養支援を4.7%が実施
調査は、「医療アクセスが難しい患者が一定数いることを鑑み、看護師による ICT(情報通信技術)の活用状況やICTを活用した患者ケア等の実態を把握」している。
看護に関して活用されている ICTは、「電子カルテシステム(看護記録)」(76.8%)、「院内コミュニケーションツール」(59.4%)、「医療スタッフの教育プラットフォーム」(56.3%)が多い。その一方で、「患者モニタリングシステム」は27.1%に過ぎなかった。同協会は「院内コミュニケーションツール等の看護業務効率化に向けたICT 活用に比べて、個々の患者のケアに関わる ICT の活用は進んでいないことが示唆された」としている。
また、通院患者に対するICTを用いた療養支援を「行っている」のは4.7%。「行っている」病院が療養支援を実施する際の手段は、「ビデオ通話」(42.8%)と「遠隔モニタリング機器」(40.3%)が多い。ICTを用いた療養支援を実施している患者は、「疾患や障害などの身体的要因で通院が困難な患者」(25.2%)や「通院するための交通手段の確保が困難な患者」(19.5%)など。調査からは、通院困難な患者に対し、一定程度の療養支援がなされていたこともわかった。
通院患者に対してICTを用いた看護師による療養支援を「行っていない」病院の回答では、ICT を用いた療養支援が有用と考えられる外来患者は「独居の患者」が60.5%と、独居の患者へのICTを活用した療養支援の必要性が示されている。
日本看護協会「2024年 病院看護実態調査」結果
新卒看護職員の離職率は2年ぶりに10%台から8%台へ改善 約4割の病院で多様な働き方を導入/公益社団法人 日本看護協会 広報部 2025年3月31日(PDF)