スズキ労組が要求を上回る回答を獲得、半数以上が満額回答を引き出す/自動車総連のヤマ場回答
2025年3月26日 調査部
自動車総連(金子晃浩会長)に加盟するメーカー部会の大手12組合が12日に公表した先行回答では、スズキ労組が要求を上回る「総額2万1,600円」を獲得したほか、半数以上が賃金引き上げについて要求満額を獲得した。一時金でも要求満額を獲得する組合が多く、金子会長は「高い賃金獲得水準は、労使の密度の濃い話し合いのたまもの」と評価した。
「メーカー部会」12組合の平均回答額は1975年以降での最高額(1万8,882円)を記録
トヨタ労組、日産労組などの大手自動車メーカー11労組に、部品メーカーの日本特殊陶業労組を加えた「メーカー部会」12組合が、金属労協の集中回答日までの回答引き出しを求めた結果、賃上げについては、スズキ労組が要求を上回る回答を獲得するほか、マツダ、ダイハツ、いすゞ、日野、日本特殊陶業の5労組で要求どおりの回答を経営側から受けた。
SUBARU労組は「総額一人平均2万1,000円」の要求に対して、幅のある金額での回答となったが、自動車総連は「満額の水準にあたる回答」と説明。平均賃金での要求内容を公式的に非公開とするトヨタ労組についても「満額回答を獲得している」としており、半数以上が賃金引き上げについて要求満額を獲得する結果となった。
「メーカー部会」12組合における賃金カーブ維持分と賃金改善分を合わせた平均回答額(単純平均)は1万8,882円で、昨年を1,800円上回り、比較できる1975年以降最も高い水準となっている。
日産労組は1万6,500円、本田技研労組は1万5,000円で決着
平均賃金の回答状況をみると、日産労組では、組合側が、昨年要求と同水準の「平均賃金改定原資1万8,000円」を要求するも、満額とならず「総額1万6,500円」で決着。本田技研労組でも、組合側が昨年要求を500円下回る「総額一人平均1万9.500円」を要求したが、満額には至らず「総額一人平均1万5,000円」で交渉を終えた。ほかにも、三菱自工労組では組合側の要求額「総額一人平均1万9,000円」に対し「総額一人平均1万7,000円」で決着。ヤマハ発動機労組では組合側の要求額「総額一人平均2万円」に対し「総額1万9,400円」で決着している。
一方、スズキ労組では、経営側が「総額2万1,600円」と回答。組合側の「賃金制度維持分(昇給制度維持)に人への投資を加えた賃金引き上げとして、組合員一人平均1万9,000円」という要求を大きく上回る金額での妥結となった。
要求どおりとなったメーカー組合の要求額をみると、マツダ労組が「人への投資の原資として総額1万8,000円」、ダイハツ労組が「総額一人平均2万1,200円+賃金課題解決原資」、いすゞ労組が「賃金カーブ維持分+人への投資で一人平均1万9,000円」、日野労組が「総額一人平均1万8,000円」、日本特殊陶業労組が「一人あたり総額1万9,000円」となっている。
SUBARU労組では、組合側の要求「2万1,000円」に対し、「専任職で6,000円から3万3,100円、基幹職で3,300円から3万9,900円」と金額幅はあるものの、前述のとおり「満額の水準にあたる回答」。
トヨタ労組についても前述のとおり、平均賃金での要求内容は公式的に非公開であるものの「満額回答を獲得」となっている。なお、個別賃金での要求水準は、「若手技能職」が35万2,540円、「中堅技能職」が42万6,000円で、「技能職EX級 技能3等級」が45万5,670円としていたが、いずれも満額回答を獲得している。
年間一時金は9組合で満額回答に
一時金の回答状況をみると、12組合中、9組合が要求満額を獲得している。満額を獲得したのはトヨタ(7.6カ月)、日産(5.2カ月)、本田技研(5.0+1.9カ月)、マツダ(5.4カ月)、スズキ(6.6カ月)、SUBARU(6.3カ月)、ダイハツ(5.4カ月)、いすゞ(5.8+0.2カ月)、日本特殊陶業(業績連動)。
満額に至らなかった労組の妥結結果は、三菱自工労組が5.0カ月(要求は5.7カ月)、日野労組が4.5カ月(同5.0カ月)、ヤマハ発動機労組が6.0カ月(同6.2カ月)となっている。なお、12組合における平均回答月数(単純平均)は5.8カ月で、昨年を0.06カ月下回った。
こうした回答状況を踏まえて、自動車総連は同日、「組合員の一年間の努力・頑張り・成果などに報いるとともに、生活の安心・安定感を踏まえた力強い回答となった」との談話を発表した。
日本特殊陶業で年間休日数1日増を獲得
非正規雇用で働く仲間に関する取り組みでは、三菱自工労組が「シニア・パートナー社員について時給80円、月給1万3,000円」と「非正規労働者について時給80円」で決着するなど、各労組で処遇改善に向けた回答を引き出している。談話では「一般組合員同等の回答を引き出しており、目指すべき賃金水準の実現や足下の物価上昇を踏まえた賃金等の処遇改善に繋げることができた」とコメントしている。
年間休日数の引き上げについては、日本特殊陶業労組で「2026年度より休日を1日増加し、121日とする」と具体的な日数に対する回答を引き出したほか、2027年度までの実現に向け、各労組で労使検討委員会等における議論が続けられており、自動車総連は「大きな一歩を踏み出すことができたと受け止めている」と評価した。
労使での密度の濃い話し合いの結果、高水準の賃金獲得に(金子会長)
金子会長は先行するメーカー主要組合の結果について、「極めて厳しい交渉であった」としつつも、「労使それぞれが社会的責任を強く意識するとともに、自動車産業を取り巻く不透明かつ競争環境の激しいなか、なんとしても生き残りをかけて難局を突破しないといけないという経営側の強い意思と、それに応えるための組合員の懸命な努力や覚悟が労使で十分に共有できた。今回の高い賃金獲得水準は、労使の密度の濃い話し合いのたまものである」と述べた。
また、基盤整備に向けた取り組みとして方針に掲げた価格転嫁を含む企業間取引の適正化について、「課題は残っているものの、メーカーだけでなくティア1、ティア2などでも昨年より積極的に価格転嫁の取り組みが進められている」と評価し、産業全体の賃上げに波及していくことを期待した。
19日時点での回答集計で300人未満の中小労組の引き上げ幅が全体平均を上回る
その後、自動車総連は20日に2025年の総合生活改善の取り組みについて、19日17時時点での回答状況を集計し発表した。全1,055組合の21.6%に当たる228組合で労使交渉が解決し、賃金カーブ維持分と賃金改善分を合わせた賃上げ額は前年同時期比1,889円増の1万5,785円で、昨年に続いて1975年以降で最高額となった。賃金改善分も前年同時期より1,824円高い1万1,272円。
組合員300人未満の中小労組の賃上げ総額は1万4,313円(昨年同時期比2,102 円プラス)、賃金改善分は昨年同時期を1,911円上回る1万525円で、引き上げ幅は総額・改善分とも昨年同時期比で全体平均を上回っている。自動車総連によると、中小労組の賃金改善分の引き上げ率は3.8%になるという。同日、記者会見した金子会長は「大手組合の好調な流れが継続されている。とりわけ中小の頑張りが顕著という印象。絶対額は大手に及ばないが、その差はだいぶ縮まってきている」と強調した。