公立・公的病院で働く医療従事者の77%が離職を検討/自治労調査
2025年3月12日 調査部
公立・公的病院で働く医療従事者のうち、8割近くが現在の職場を「辞めたいと思っている」――。自治労(石上千博委員長、70万6,000人)の専門組織として、病院や保健所などで働く組合員で構成されている衛生医療評議会がこのほど発表した「公立・公的医療機関で働く医療従事者の意識・影響調査結果」で、こんな実態がわかった。調査結果からは、7割弱の医療従事者が収入に不満を持っていることや、4人に1人がカスタマーハラスメント(カスハラ)を経験しているなど、医療現場の深刻な状況も明らかになっている。自治労は、「このままでは地域医療が維持できず、医療提供体制の崩壊につながる」などと指摘して、地域医療を守るための財源確保と医療従事者への賃上げの必要性を強調している。
調査は、自治労加盟の公立・公的医療機関で働く組合員を対象に、2024年11月26日~2025年1月22日の期間、WEBアンケートを活用して実施。47都道府県、1万434人からの回答をまとめた。
助産師と看護師の84%が「仕事を辞めたいと思う」ことが
2024年11月から25年1月の間に、職場を辞めたいと思ったかを聞いたところ、「常に思う」(13%)と「しばしば思う」(22%)、「たまに思う」(42%)をあわせて77%が離職を考えることがあった。前回調査(2023年11月~24年1月)の79%より2ポイント減ったものの、3年前(2021年11月~22年1月)の69%より8ポイント増えている。
これを職種別にみると、助産師(「常に辞めたいと思っている」16%、「しばしば辞めたいと思うことがある」27%、「たまに辞めたいと思う」41%の合計)と看護師(「常に辞めたいと思っている」16%、「しばしば辞めたいと思うことがある」26%、「たまに辞めたいと思う」42%の合計)が84%でツートップ。次いで割合の高かった看護補助者(「常に辞めたいと思っている」8%、「しばしば辞めたいと思うことがある」13%、「たまに辞めたいと思う」50%の合計)は72%だった。
辞めたいと思う理由(複数回答)では、「業務が多忙」が3,726件で最多。以下、「賃金に不満」(2,291件)、「業務の責任が重い」(2,134件)、「人員不足」(2,031件)、「人間関係がよくない」(1,467件)、「夜勤の負担」(1,386件)などが続く。自治労によると、「昨年度に比べ『賃金に不満』が増加している」という。
3分の2が今の収入に不満
そこで、現在の収入の満足度を尋ねると、「不満」(20%)と「やや不満」(47%)をあわせて67%と、全体の3分の2が不満感を示した。職種別では、臨床工学技士(74%)、看護師(73%)、助産師(71%)が7割台で高い。
不満の理由(複数回答)は、「物価上昇に比べ賃金が上がっていないから」が5,705件で突出していたほか、「業務量に見合っていないから」(3,827件)や「業務の責任に見合っていないから」(3,687件)も多かった。自由回答でも「物価高騰に見合った賃上げになっていない」「業務は過酷になる一方、経営不振で給与は上がらない」「専門性の高い業務で、夜勤などの身体的負担があるのに低賃金」といった賃金面や業務増などへの不満の声が寄せられたほか、「若年者の給料は上げるのに、中堅以上の職員はあまり上がらず不満」との記載もみられた。
4人に1人がカスハラを経験
一方、医療現場のカスハラについては、「日常的にある」(2%)と「時々ある」(24%)の合計が26%と、4人に1人が被害にあっていた。「自分はないが職場にある」の34%をあわせると、6割の職場でカスハラが存在していることになる。その内容(複数回答)は、「暴言や説教」(3,787件)がトップ。以下、「大声・罵声・脅迫(土下座の強要)」(2,763件)、「長時間のクレームや居座り」(1,585件)「複数回に及ぶクレーム」(1,515件)、「暴力行為」(1,262件)、「セクハラ行為」(861件)の順。職種別では、看護師が32.7%で最も多く、次いで医療ソーシャルワーカー(31.3%)、理学療法士(18.3%)と続く。
地域医療を守るために財源の確保と医療従事者の処遇改善を
自治労は今回の調査結果から、地域医療の現場が ① 業務多忙や人員不足、収入への不満を理由に離職を検討する職員が高水準 ② 収入に対する不満が増加 ③ カスハラが深刻化――の実態にあることを指摘。「病院経営の悪化や人材流出により、診療体制の縮小や救急対応の困難が懸念される。このままでは地域医療が維持できず、医療提供体制の崩壊につながる」として、医療に対する財源の確保や、医療従事者の人員確保・処遇改善、カスハラ対策強化の必要性を訴えている。