賃金改善の要求額を1万5,000円に設定/基幹労連の中央委員会
2025年2月14日 調査部
鉄鋼、造船重機、非鉄などの業界の労働組合でつくる基幹労連(津村正男委員長、27万1,000人)は5日、都内で中央委員会を開き、今春の労使交渉に向けたAP25春季取り組み方針を決定した。賃金改善の要求額については1万5,000円に設定。主にグループ関連組合や中小組合が取り組む「格差改善」のうち、月例賃金の取り組みでは、初めて産別方針として改善額の目安を示し、「平均賃金の1%」と明記した。
2024年度の単年度要求をうけ、25年度も単年度の取り組みに
基幹労連は、労働条件の向上と産業・企業の競争力向上の好循環を実現させるとして、活動のエネルギーを効果的に配分し、最大成果を発揮するとの考え方から、産別全体として賃上げに取り組むのは2年に1度とする「2年サイクル」方式をとっている。
2年間の前半にあたる年を「総合改善年度」と位置づけ、基本的には、加盟組合はこの年に2年分の賃上げ(賃金改善)を交渉する。一方、後半年度は「個別改善年度」とし、「年間一時金」や、グループ関連・中堅・中小企業による賃金や退職金などの「格差改善」が取り組みの中心となる。
今春のAP(Active Plan)25は「個別改善年度」だが、前回のAP24の方針で、賃金改善について産別全体で「2024年度のみの要求とする」と決めたことから、今回は通常の「年間一時金」「格差改善」などの取り組みと並行して、賃金改善にも全体で取り組む形となる。
方針はAP25の基本的な考え方について、「日本経済の好循環を実現させるためには、サプライチェーンの大部分を支える中小企業の賃金をはじめとした労働条件の底上げが必要不可欠となっている」とし、「基幹労連全体で魅力ある産業・企業を実現させていくためにも、賃金をはじめとした格差の改善、労働条件の底上げの取り組みを協力に推し進めなければならない」と強調した。
また、「企業規模によって労働条件に格差が存在しているのが現状であるが、このような格差はやりがいや採用力に影響を及ぼしており、優秀な人材の確保・定着の大きな課題となっている。そのため、格差改善の取り組みは、職場活力の維持・向上、現場力の強化や採用力の強化という観点からも、これまで以上に注力していく必要がある」とした。
今回の要求額は幅を持たせずに1万5,000円に統一
方針の具体的な内容をみていくと、賃金改善については、「基幹産業にふさわしい労働条件の確保と優秀な人材の確保・定着」「生産性の向上と働きに見合った成果の配分」「生活の安心・安定に向けた実質賃金の維持・向上」「65歳現役社会の実現と職場全体の活力発揮」「日本経済の好循環」を要求根拠の基礎とするとし、要求額について、1万5,000円と設定した。
定期昇給制度が確立されていない組合は定期昇給額または相当額・率について、「標準労働者(35歳・勤続17年)を基準とする場合は3,700円(年功的要素のみ)」「平均方式の場合は、平均基準内賃金の2%相当を目安」として交渉する。
AP24方針では、部会間でのAP23の賃金改善額の違いをふまえ、賃金改善の要求額を「1万2,000円以上」とゾーンで設定。その結果、日本製鉄など鉄鋼大手の3組合が3万円、三菱重工など重工大手の7組合が1万8,000円、三菱マテリアルなど非鉄大手の5組合が1万5,000円~1万5,500円の幅で要求することとなったが、今年は、産別全体のまとまりを強く意識し、1万5,000円で統一した。
津村委員長はあいさつで、「AP24では、AP22・23における取り組み経過もふまえ、産別方針を1万2,000円以上とし、具体水準は部門・部会のまとまりをもって設定し取り組んでもらった。その結果は、一定の成果があったと認識している。一方で、規模間の格差が拡大したことも事実であり、AP25においては、基幹労連全体で統一の要求額を掲げ取り組むことがより相乗効果を発揮し、継続した賃金改善、全体の底上げにつながるものと判断した」と述べた。
企業内最低賃金の協定締結額は時間額で最賃プラス70円以上が基本
企業内最低賃金については、目標額を金属労協(JCM)が設定する最低到達目標の月額21万4,000円(時間あたり1,330円)と、最低到達目標を達成した組合が中期でめざす到達目標である月額24万3,000円(時間あたり1,500円)に設定し、その達成に向けて取り組むのが基本的な考え。
具体的には、未締結組合は協定化、締結組合は全従業員への協定範囲の拡大などに取り組む。締結水準の基準も示し、AP24よりも20円高い「法定最低賃金(時間額)+70円以上を基本」とした。70円は、今年の法定最低賃金の上昇率が5%以上となる可能性があることを考慮したものとなっている。
年間一時金については、中期ビジョンで定める「基幹産業にふさわしい水準として5カ月(160万円程度)以上の確保」「生活を考慮した要素としての4カ月(120~130万円)確保」との考え方をふまえ、金額を要求する方式で「160万円を基本に設定」するとし、厳しい状況にあったとしても「生活を考慮した要素としての120~130万円を確保する」とした。
一方、「金額+月数」を要求する方式では「40万円+4カ月を基本」とし、月数要求方式では、5カ月を基本とする。業績連動型決定方式の場合は、中期ビジョンの考え方をふまえるとしている。
格差是正の改善額の水準を方針で示すのは今回が初めて
本来、「個別改善年度」で中心的な取り組みとなる「格差改善」の取り組みでは、月例賃金については、業種別部会ごとに定めている「当面の目標」をふまえながら、各業種別部会の改善額を設定して、各組合が要求するとしている。改善額は、賃金改善の要求(1万5,000円以上)に上乗せして要求し、平均賃金の1%を目安とする。
方針のなかで、改善額の水準を提示したのは今回が初めて。3日に行われた記者会見で基幹労連の石橋学事務局長はその狙いについて、「これまでも取り組んできたものの、大手準拠や親会社を超えられないとの暗黙の了解などもあって、なかなか進んでいない」「数字を示すことで取り組みを強化したい」と説明した。
津村委員長はあいさつで、賃金の格差改善について、「業種別で取り組みをお願いする格差改善分を合わせれば、近年にない水準となる組合もあるとは思うが、取り巻く情勢やAP24春季取り組みの結果、検討の経過などをふまえれば、必要かつ確保すべき水準であることを理解してほしい」と話した。
月例賃金以外の格差改善では、退職金、労働時間・休日・休暇、諸割増率、労災通災付加補償に取り組む。退職金については、中期ビジョンで定めた2,600万円(60歳・勤続42年/高卒技能労働者)に向けて取り組む。労働時間・休日・休暇では、年間所定労働時間1,800時間台や年間休日125日以上の実現に向けて、「休日増」「1日の労働時間短縮」などを部門・部会ごとの判断に基づき要求設定する。
AP18から取り組んでいる「65歳現役社会の実現」に向けた環境整備では、全加盟組合で65歳定年制度導入をめざす。基幹労連によると、現在、何らかの定年延長が図れている組合は全体の約6割だという。
格差改善の要求ができるように本部、大手組合が支援を
方針の討議では、賃金の格差改善の取り組みで改善額を初めて提示したことについて、いくつかの業種別部会から発言があった。
機器部会は「産別本部として、格差をこれ以上広げない取り組みとして、今までにない方針を考えたことは大きな決断であり、強い決意をもって取り組む方針だと思っている」と評価する一方、「AP25において、業種別部会で賃金改善に加えて格差改善分を要求するとなると、大手や親組合を超える要求額となる。組織によっては、交渉は非常に難航することが容易に想定される。また、AP23・24の交渉結果をふまえると、『賃金改善さえも要求どおりの獲得が厳しいのに、格差改善は到底困難である。まずは賃金改善をしっかり獲得したい』との思いで、格差改善の要求をちゅうちょする組織もあり、実情をふまえると個別判断に委ねるしかないというのが実態だ」と話し、産別本部の力強い指導の下での総合組合(鉄鋼、重工、非鉄の各大手組合)の強力な支援体制を要請した。
フェロアロイ部会は「AP25に対する組合員の期待はAP24よりも大きい。組合員と家族の生活の安心・安定、さらには人材の確保に向けて、何として継続した賃金改善を行わなくてはならない」と述べたうえで、部会として改善額3,000円以上を要求すると表明。鉄鋼関連部会からも、改善額を3,000円以上にするとの報告があった。
一方、日本製鉄などの総合組合からは、総合組合の役割として、自分たちの賃金改善の取り組みと並行して、業種別部会の格差改善の取り組みも積極的に支援していくとの表明があった。
方針は、要求提出日について2月7日を集中要求提出日に設定。21日までを要求提出ゾーンとした。