2025春闘の最重点課題は「人員確保」/自治労の中央委員会
2025年2月5日 調査部
地方自治体の職員などを抱える自治労(石上千博委員長、70万6,000人)は1月28日、29日の両日、都内で中央委員会を開き、「2025春闘方針」を決めた。自治体の人員不足が常態化していることを踏まえ、方針は、2025春闘の最重点課題を「人員確保」とした。また、「賃金の運用改善や働き続けられる職場の実現」「ジェンダー平等」「労務費の適切な価格転嫁を推進」を重点課題の柱として掲げている。石上委員長はあいさつで、「すべての単組が取り組む課題として人員確保を前面に掲げる」と宣言し、「春闘期から各職場の実態を把握・点検して要求し、6月の人員確保闘争期につなげていく」と強く訴えた。
「中高年層を含めた全職員の賃上げが不可欠」(石上委員長)
地方自治体の職員の賃金改定は、人事院勧告を踏まえて行われる都道府県や政令市での人事委員会の勧告などをもとに、年度後半期に決定される。2024年は人事院が8月8日に、官民格差に基づき、月例給の引き上げを30代後半までの若年層に重点を置きつつ、全職員を対象に平均1万1,183円(2.76%)、一時金の支給額を0.10カ月分増とすることを勧告。特に初任給については、総合職試験(大卒程度)で採用される職員で23万円(引き上げ額2万9,300円、引き上げ率14.6%)とするなど、総合職(大卒程度)、一般職(大卒程度)、一般職(高卒程度)のいずれも引き上げ率が12%を超える大幅な引き上げを勧告した。
石上委員長はあいさつで連合が25春闘での重点課題に賃金の底上げと格差是正に加えて、中高年齢層の配分をあげていることを指摘。「近年、初任給が大幅に引き上げられている一方で、中高年層への配分が抑制的となり、世代間の歪みが生じている」などと述べ、賃上げを全世代につなげる必要性を強調した。そのうえで、2024年人事院勧告について「32年ぶりに2%を超える水準の賃金改定となったが、民間同様、初任給など若年層に手厚く配分される結果になった」と言及。若年層と中高年層の改定率に大きな格差が生じていることを踏まえ、「物価高がすべての世代に負担となっていること、職員のモチベーションの維持・向上の観点に立てば、中高年層を含めたすべての職員の賃上げが不可欠」だとして、春闘期から職場点検を通じた実態把握・分析や職場討論、到達目標の設定、(後述する)運用改善の具体策の検討などを実施し、すべての単組で要求書の提出・交渉を行っていく重要性を訴えた。
なお、自治労では、「あなたの声ではじまる春闘」をキーワードに、組合員が普段から課題と感じることの聞き取りなどを通じて、課題や声を要求書としてまとめ、「1年の取り組みのスタートである春闘から要求して課題の前進をはかる」としている。
「人員確保」を全単組の必須要求項目に
方針は、最重点課題に「人員確保」を掲げ、全単組の必須要求項目に設定。そのうえで、ほかの重点課題として、「賃金の運用改善や働き続けられる職場の実現」「ジェンダー平等」「労務費の適切な価格転嫁の推進」――を2025春闘の柱に据えた。
人員確保については、まず、公共サービス労働者を取り巻く情勢において、さまざまな行政ニーズが増え続けることで対応する人員が不足し、離職・休職の増加が懸念されていることや、自治体職員の採用試験応募者が減少する状況が続くことなど、人手不足が深刻化している状況を指摘。
基本的な考え方では、「賃金改善と同等、あるいはそれ以上に組合員ニーズの高い課題」として、組織力の維持・向上に向けて「必要不可欠な闘争に位置づけて取り組む」と掲げ、職場の人員配置の実態を踏まえ、すべての単組が春闘期から要求し、6月の人員確保闘争期につなげていくとしている。
具体的な取り組みでは、「部課ごとの年間の時間外労働時間数や休暇取得状況を把握し、欠員の現状、職場ごとの業務の実態と不足人員数について必ず職場討議を行う」ことや、「恒常的に欠員となる休業者(産休・育休者、病休者等)や新規事業、自然災害等突発的対応が必要な人員等を把握し、労働組合としての必要な人員数を確立する」ことなどを盛り込んだ。
基本的な要求事項では、人員配置、採用計画(具体的な採用職種・採用人数)、人員確保のための実効ある対策の具体化、緊急時・災害時の必要な人員の確保などを要求するとしている。
石上委員長はあいさつで、「職場の人員不足が常態化するなか、全国各地で自然災害が頻発し、その度に自治体職員は通常業務を行いながら、現場の最前線で復旧作業の対応を求められる」などと自治体職員が厳しい環境下に置かれている状況を説明し、人員確保への対応が必要不可欠との考えを示した。そのうえで、「すべての単組が取り組む課題として人員確保を前面に掲げる」方針を強調。「春闘期から各職場の実態を把握・点検して要求し、6月の人員確保闘争期につなげていく」などと訴えた。
賃金の運用改善に向けて、近隣自治体・同規模自治体との昇給・昇格ラインの比較を
一方、方針は賃金の運用改善や働き続けられる職場の実現について、人材が集まる魅力ある職場づくりのための重点課題として、「各単組が実態を踏まえて、1単組1要求の上、交渉に取り組む」こととしている。
賃金の運用改善に向けた基本的な考え方では、自治労がこれまでも賃金の地域間格差の是正に向けて、到達目標(ポイント賃金)に遠く及ばない単組に国家公務員の給料を100とした場合の「ラスパイレス指数100を最低水準」としてラス逆数から算出した率を運用改善の具体的目標とする方針を掲げていたことに言及したうえで、現状はラス指数95未満の自治体が2割程度存在するなど目標との乖離が看過できない状況であることから、「すべての単組でラス100以上を目指すことを改めて打ち出す」としている。
また、初任給や地域手当を中心に人材確保に向けた処遇改善や、中堅層が昇格の停滞や賃金の伸び悩みを感じることなく働き続けられる運用改善の重要性も強調している。
こうしたことから方針では、「初任給基準の引き上げ、到達級の改善と昇格の確保、昇格期間の短縮、上位昇給の活用などを通じ、賃金水準の改善をはかる」ことや「中堅層の賃金改善のため、38歳4級到達を目指して取り組む」ことを明示。また、組合員の賃金実態を把握して「近隣自治体・同規模自治体との昇給・昇格ラインを比較し、具体的な目標を設定する」ことを重要視した。
そのほか、再任用者の賃金改善についても、「60歳超の職員と同様に、退職時の職務での任用・級の格付けを継続することを基本とする」ことや「一時金の支給月数を常勤職員と同月数となるよう引き上げを求める」ことを盛り込んだ。
法改正を受け、部分休業の法定通りの整備や取得可能期間の拡大を求める
働き続けられる職場の実現に向けた基本的な考え方では、自治体現場で人員不足による長時間労働やメンタル不調による休職者の増加、パワーハラスメント、カスタマーハラスメントへの対応など課題が山積していることから「職場環境整備の必要性を認識させるとともに、改善を求める」と強調。
方針では、長時間労働の是正や不払い残業の撲滅などのほか、「地方公務員の育児休業等に関する法律」の改正により部分休業について、現行制度(1日につき2時間以内)に加え、1年につき条例で定める時間(10日相当)以内で勤務しない選択が可能となったことから、「法定通りの制度整備を求めるとともに、取得可能期間の拡大を求める」などとしている。
また、ハラスメント対策として、県本部・単組が本部の作成した対策マニュアルを参考に実態調査などカスタマーハラスメント対策の具体化を求めること、パワーハラスメント等の防止のための必要な措置の点検・対応を求めることなどを提示。メンタルヘルス対策では、ストレスチェックが義務化されている単組について、検査結果から医師による面接指導を受ける必要があると認められた高ストレス職員への面接指導が行われているか確認することなどを盛り込んだ。
労務費の適切な価格転嫁や増額分の財源確保の取り組みを推進
労務費の適切な価格転嫁の推進については、公共サービスに携わる民間労働者の賃上げ原資の確保、物価高による行政運営に係る経費の増大への対応として、内閣官房と公正取引委員会が連名で策定した「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」に基づいた適切な価格転嫁や増額分の財源の確保を求めていくことを提示している。
石上委員長は、「自治体の委託発注などにおいて、労務費をはじめとする適正かつ必要な予算が十分確保されているかチェックをし、不足している場合はしっかり増額を求めていく取り組みを、自治体単組と公共民間単組が連携して進めていかなければならない」とあらためて自治労のスタンスを表明した。
公共民間単組は平均6%もしくは2万円以上の要求を目安に
公共民間単組の春闘では、連合の春闘方針を踏まえた賃上げ要求として、「平均賃上げ要求6%(定昇相当分2%+賃金改善分4%)もしくは2万円(賃金カーブ維持分4,500円+格差是正分1万5,500円)」以上の要求を目安とした。
要求書の提出ゾーンについては2月7日~14日と設定。遅くとも2月末日までに全単組が要求書を提出する。