ベア・賃金改善分として1万5,000円以上を要求する2025年春季生活闘争方針を決定――JAMの中央委員会
2025年1月31日 調査部
機械・金属関連の中小労組を多く抱える産別労組のJAM(安河内賢弘会長、36万9,000人)は21日、都内で中央委員会を開催し、2025年春季生活闘争方針を決定した。方針は、賃金引き上げについて、「賃金構造維持分を確保した上で、直近に拡大した格差や企業内賃金格差など単組の課題を積み上げて、所定内賃金の引き上げを中心に1万5,000円以上の『人への投資』を要求する」とした。安河内会長は、国際的に見劣りする賃金水準などを指摘し、「日本の賃金はまだ伸びしろがある」などと強調した。
格差拡大を許さない賃上げを定着させる
方針は、2025年春季生活闘争の役割について、「すべての単組がJAM方針に基づいた要求を提出し、物価上昇に負けず生活向上を実感でき、格差拡大を許さない賃上げを定着させることである。この取り組みにより『底上げ』『企業規模間及び企業内の格差是正』『底支え』を進め分配構造の転換を図る」と強調。
「今次闘争は、物価上昇による実質賃金の低下と格差の拡大という直近の課題に加え、生産年齢人口の減少による人材不足、デフレ期に起こった賃金水準の低下と国際的に見劣りする賃金、格差拡大、分配構造のひずみなど中長期的な課題を解決しなければならない」とし、加盟組合は「あるべき賃金水準にこだわり、物価上昇に負けず生活向上を実感でき格差拡大を許さない要求を徹底する」と記述した。
格差拡大についてはさらに、「直近の2年間で企業規模間の格差は大幅に拡大している」とし、「JAMの組合員賃金全数調査によると、規模1,000人以上と300人未満の所定内賃金の格差は、全体平均で4万6,000円台から5万6,000円台となり1万円程度拡大しており、各年齢階層を見ても1万円以上拡大している。この直近に起こった格差拡大に歯止めをかけ、格差是正を進めるためには、あるべき水準にこだわった賃金要求に加えて、『価値を認め合う社会へ』の実現に向けた環境整備が欠かせない」とした。
すべての単組が賃金の絶対額を重視して要求する
賃金要求の考え方については、JAMでは大企業と中小企業との間の賃金水準の格差是正を効果的に進めるために、個別賃金で目指すべき水準を要求する取り組みに重点を置いており、例年どおり、「すべての単組は、賃金の絶対額を重視し賃金水準にこだわった要求を追求する」と掲げた。
各単組は、自らの賃金水準のポジションを確認したうえで、方針が示す「JAM一人前ミニマム基準」「標準労働者の要求基準」(それぞれ内容後述)に基づき、あるべき水準を設定し要求することになる。
平均賃上げ要求に取り組まざるを得ない単組については、「30歳または35歳の賃金実態把握を進め、あるべき水準を議論し、配分交渉や賃金水準の参考値の検討など個別賃金要求に向け段階的な取り組みを進める」とした。
方針はまた、「過年度物価上昇に対する実質生活の維持・向上、中長期的に低下し世界に見劣りする日本の賃金の回復、あるべき水準との乖離の是正をめざす」とし、「具体的には、賃金構造維持分を確保した上で、直近に拡大した格差や企業内賃金格差など単組の課題を積み上げて、所定内賃金の引き上げを中心に1万5,000円以上の『人への投資』を要求する」と掲げた。
2024方針では、賃金構造維持分を確保した上で、所定内賃金の引き上げを中心に、単組の課題を積み上げ 1万2,000 円を基準とするとの内容だった。今年は、引き上げ額を3,000円積み増すとともに、「基準」の文言を「以上」に変更した。
一人前ミニマム基準は18歳から35歳までの指標を昨年から増額
具体的な賃上げの要求基準を個別賃金要求からみていくと、単組が各年齢のポイントでの賃金の是正の目安とする指標で、組合員の賃金全数調査の結果をもとに設定している「JAM一人前ミニマム基準」は、所定内賃金で18歳:18万5,000円、20歳:19万7,500円、25歳22万8,500円、30歳:25万9,000円、35歳28万5,000円、40歳:30万3,000円、45歳:31万9,000円、50歳:33万5,000円とした。
各単組は、部下を指導できる一人前の労働者がこの水準に達しているか確認し、達していなければその是正を求める。なお、昨年方針と比べると、18歳~35歳までが1万円増、40歳が8,000円増、45歳が4,000円増となっており、50歳は同額となっている。
30歳と35歳の標準労働者の要求基準(高卒直入者の所定内賃金)も設定している。「JAM一人前ミニマム基準」をクリアしている労働者は、この水準への到達をめざす。指標は全単組が到達すべき水準である「到達基準」と、到達基準に達している単組が目標とすべき水準である「目標基準」とがあり、「到達基準」については、30歳で29万9,000円(昨年比1万5,000円増)、35歳で33万9,000円(同1万5,000円増)と設定。「目標基準」は、30歳を31万3,000円(同1万2,000円増)、35歳を36万3,000円(同1万4,000円増)と設定した。
有期雇用労働者が無期転換した場合や中途採用者の採用賃金の最低規制としても位置づける年齢別最低賃金基準については、昨年方針と同様、「35歳まで、各単組の年齢ポイントの1人前労働者賃金水準の80%を原則とし、高卒初任給を勘案して決定する」とし、最低水準を18歳:18万5,000円(昨年比1万増)、25歳:19万8,000円(同9,000円増)、30歳:20万7,000円(同7,500円増)、35歳:23万円(同1万円増)とした。
平均方式では4,500円+1万5,000円で計1万9,500円以上が基準
平均賃上げ要求に取り組まざるを得ない単組のための平均賃上げ要求基準は、「賃金構造維持分4,500円に1万5,000円以上を加え『人への投資』として1万9,500円以上とする」とした。なお、方針によると、2024年賃金全数調査の全体計・所定内賃金平均額が32万6,497円となっており、1万5,000円はこの金額のほぼ5%に相当する。
このほか、労働時間に関する取り組みでは、年間の所定労働時間について、1,800時間台を到達目標基準に掲げた。高齢者雇用の取り組みでは、引き続き、地方JAMは賃金・労働条件調査、賃金全数調査を通じて取り組みの基礎となる60歳超えの賃金データの集約を行うとしている。
あいさつした安河内会長は、日本のエンゲル係数が海外の先進国よりも高い水準にあることを指摘しながら、「日本の物価が高すぎるのではなく、日本の賃金が低すぎる」と強調。「日本の賃金の伸びしろはまだある」と述べて、賃金が上がるから物価が上がり、また、物価が上がるから賃金が上がるという「健全」な経済の構築を求めた。
すべての労使が適切な価格転嫁に全力で取り組む
春季生活闘争と並行して展開する政策・制度要求の取り組みでは、中小企業が賃上げできる環境を整備するための価格転嫁の取り組みが柱。方針は「JAMは2025年春季生活闘争において、すべての労使が適切な価格転嫁・適正な取引に向けて全力で取り組むとともに、拡大する格差、相対的低位な賃金水準、サプライチェーンの分配構造のひずみを改善し、『持続可能なものづくりへ』に向けて、あらゆる是正課題をブレずに取り組む」と強調した。
具体的には、すべての組合で、政府による「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」など諸施策について理解・遵守するように企業経営者に対して要請する。
また、企業規模の大小に関わらず、企業が「発注者」の立場で自社の取引方針を宣言する取り組みである「パートナーシップ構築宣言」の登録について、「自社だけでなく、サプライチェーン全体のパートナーシップ構築に向けて取引関係企業の双方に登録するよう会社に要請・協議する」と掲げ、今年は「自社だけでなく」という点を強調した。
JAMは、前日の20日に行われた中央執行委員会で、組織として「パートナーシップ構築宣言」を申請する方針を固め、今後、この「パートナーシップ構築宣言」に基づいて運営していくことを傘下の組合に向けて発信した。
「経営者のなかにまだ古い慣習にとらわれている人が」(安河内会長)
安河内会長は価格転嫁の取り組みについて、価格転嫁に関する政府方針が発出されたことや、今後下請法の改正が議論されようとしていることに触れたうえで、「組合員が勇気を持って現場の実態を告発してくれたおかげ」で状況が進んだと発言。また、「ゲームのルールが変わった。価格を転嫁できる世の中に変わったと理解すべきだが、残念ながら経営者のなかには古い慣習にとらわれてゲームのルールが変わったことを信じられない人がいる。目を覚ましてほしい」と訴えた。
方針の討議では、この「パートナーシップ構築宣言」の取り組みについて、「中小である自分たちがパートナーシップ構築宣言について、取引先の大手企業にもちかけることを自社の役員に説得・説明するのはハードルが高い。自社の役員に働きかけをしていくうえでのポイントなどをまとめた資料を本部から各単組に提供してほしい」(北陸)との要望があった。
闘争の日程については、統一要求日を2月18日(火)とし、統一回答指定日は、金属労協の集中回答日が、3月12日(水)に設定される見通しであることから、3月11日(火)、3月12日(水)に設定した。