「開発・設計職基幹労働者」の賃金水準を1万7,000円以上引き上げることを統一要求基準に設定/電機連合の中央委員会
2025年1月31日 調査部
電機連合(神保政史会長、56万3,000人)は1月23日、都内で中央委員会を開催し、2025年総合労働条件改善闘争方針を決定した。大手電機メーカーで構成する中闘組合の賃金の統一要求基準について、「開発・設計職基幹労働者」(30歳相当)の賃金水準を現行水準から1万7,000円以上引き上げると設定。比較可能な1998年以降でみると、最も高い要求水準となっている。
引き続き「産別統一闘争」を展開
電機連合では、大手で構成する中闘組合が、闘争行動を背景に、要求から交渉日程、妥結まで足並みを揃えて経営側と交渉・協議する「産別統一闘争」方式を採用しており、今次闘争も引き続き同様の闘争を展開する。「産別統一闘争」の対象とする労働条件項目は「統一要求基準」、闘争行動を背景としない労働条件項目は「統一目標基準」として設定する。
なお、中闘組合は、パナソニックグループ労連、日立グループ連合、全富士通労連、東芝グループ連合、三菱電機労連、NECグループ連合、村田製作所グループ労連、シャープグループ労連、富士電機グループ連合、OKIグループ連合、安川グループユニオン、明電舎の12組織となっている。
2024年度の実質GDPや消費者物価指数などを踏まえて分析
方針でははじめに、2025年闘争を取り巻く情勢の要点として、国内経済の動向や加盟組合企業の業績動向、組合員の生活実態などを確認している。
国内経済の動向では、電機連合が賃金を決定する際に重視する「生産性」「労働力市場」「生計費」の3つの要素からみたポイントをまとめている。それによると、「生産性」については、2024年度の実質GDPが2024年7月の見通しから上方修正しプラス0.6%となっており、先行きについても「一部に弱めの動きもみられるが、総じてみれば緩やかな成長を続ける」などと考えられていることを指摘している。
「労働力市場」については、直近の完全失業率は横ばい傾向で、有効求人倍率は頭打ちの状況である一方、人材の不足感は継続していることに言及。OECD加盟国の平均賃金(実質)においても、「OECD平均が20年間にわたり概ね順調に上昇している状況に対し、日本はほぼ横ばいであり、額もOECD平均を下回っている状況」と評価している。
「生計費」については、消費者物価指数が2024年度に2%台半ばとなり、2025年度と2026年度は概ね2%程度で推移すると予想されており、「政府によるガソリン・電気・ガス料金の負担緩和策の段階的な縮小・終了が(消費者物価の)前年比を押し下げる方向に作用することが懸念される」との見方を示した。
中闘組合の中間決算期時点の営業利益は前年度と比べ17%超増加
加盟組合企業の業績動向では、中闘組合企業の2024年度通期の業績見通しを紹介。中闘組合企業12社のうち非上場の株式会社東芝を除く11社合計の中間決算期時点の売上高は36兆4,970億円と、前年度実績を1.5%下回るものの、11社合計の営業利益は2兆7,575億円で、前年度実績を17.3%上回るなど、「2023年度実績と比較して、多くの企業で増益を見込んでいる」と指摘している。
組合員の生活実態では、電機連合が組合員を対象に行った「2024年生活実態調査」の結果を公表。月例賃金の増減について、前年と比べ月例賃金(時間外手当を除く)が「増えた」と回答した割合は67.8%で、2023年調査(60.6%)から約7ポイント増加するも、賃上げ額の生活水準に関する評価は、「生活水準維持にはやや不十分」が21.4%、「生活水準維持にはかなり不十分」が11.2%にのぼり、両者を合わせた、不十分と考えている人の割合が32.6%と、2023年調査(34.3%)に引き続き3割を超える結果となった。
継続的な実質賃金向上や価格転嫁・適正取引の一層の徹底を訴える
こうした国内経済の動向や加盟組合企業の業績動向、組合員の生活実態などをふまえ、2025年闘争では「積極的な『人への投資』により継続的に実質賃金を向上させ、経済の好循環を確かなものとする」ことを基本方針として提示。「『人への投資』を一層強化し、モチベーションを維持・向上させる」ことや、「適正な価格転嫁・適正取引をより一層徹底するとともに、生産性向上や企業の体質強化による付加価値の拡大に取り組む」ことなどを掲げており、「組合員の大きな期待に応えるとともに、日本を牽引するリーディング産業としての役割を果たし、すべての労働者への社会的な波及と経済への好循環を確かなものとするため、積極的な賃金水準の引き上げに取り組む」としている。
神保会長は挨拶で、「2023年、2024年の交渉では、高水準の賃金水準の改善を獲得することができたが、近年の物価上昇により賃上げが追いつかず、実質賃金が再びマイナスに転じるのが実態」とし、「私たちの生活を向上させて、日本経済を持続的に成長させるためには、『賃金や物価は上がらない』という固定観念やノルムを払拭させて継続的に賃上げを実行していかなければならない」と訴えた。また、賃金水準の引き上げと波及効果を最大化していくための環境の整備として、「価格転嫁が進んではいるものの未だに十分ではなく、適正取引においてもいまだに課題が散見されているのが実態」だとして、価格転嫁・適正取引の周知徹底に向けた取り組みを一層強化することを述べた。
産業別最低賃金(18歳見合い)は20万円以上の改善を目指す
具体的な要求基準をみると、賃金では産別統一闘争の統一要求基準として、「開発・設計職基幹労働者」(年齢要素としては30歳相当)の個別ポイントの賃金における水準改善額(引き上げ額)を1万7,000円以上と設定した。電機連合によると、中闘組合の賃金体系維持分の平均は7,000円~8,000円程度であることから、賃金体系維持分も含めると2万4,000円~2万5,000円以上の要求となる。なお、率に換算すると、1万7,000円は「おおよそ5%」、7,000円~8,000円は「おおよそ2%」に相当するとのこと。
水準改善額1万7,000円は、水準改善のみの個別要求方式を取り入れた1998年以降でみると、最も高い要求水準となっている(なお、導入時は個別要求ポイントは35歳技能職の標準労働者だった)。
また、統一要求基準である産業別最低賃金(18歳見合い)については、20万円以上に改善することを掲げた。これは現行水準に対して、1万5,500円の引き上げを念頭に設定している。なお、電機連合では電経連との労使共有事項として、2023年闘争以降、おおむね3年かけて産業別最低賃金(18歳見合い)の水準を高校初任給の水準に準拠させていくことを確認しており、今次闘争は3年目の取り組みの位置づけとなる。
25歳最低賃金は20万8,000円、40歳最低賃金は25万5,000円以上を目標に
産別統一闘争の対象とはならないが、統一的な達成をめざす統一目標基準の項目では、「製品組立職基幹労働者」の賃金水準改善、年齢別最低賃金、高卒初任給、大卒初任給、技能職群(35歳相当)ミニマム基準などを設定している。
「製品組立職基幹労働者」の賃金水準改善については、「開発・設計職基幹労働者賃金」の水準改善額に見合った額にすることを提示。年齢別最低賃金については、25歳最低賃金と40歳最低賃金の2つの年齢ポイントで要求基準を設定し、25歳最低賃金については20万8,000円以上の水準に、40歳最低賃金については25万5,000円以上の水準に改善するとした。いずれの年齢ポイントも、現行水準に対して1万5,500円の引き上げを念頭に置いている。
高卒初任給については、現行水準に対して1万3,000円引き上げることを念頭に、20万円以上の水準に改善することを掲げ、大卒初任給についても現行水準に対して1万3,000円引き上げることを念頭に、26万3,000円以上の水準に改善するとした。技能職群(35歳相当)ミニマム基準は23万円に設定している。
また、一時金については、統一要求基準として「平均で年間5カ月分を中心とし、『産別ミニマム基準』として年間4カ月分を確保する」としている。
年間総実労働時間1,800時間程度に向けて所定外労働時間の短縮などに取り組む
方針は賃金・一時金以外では、総実労働時間の短縮や、労働協約関連項目の取り組みなどを盛り込んだ。
総実労働時間の短縮では、労働時間の実態や年次有給休暇の取得実績などの検証を行い、電機連合「労働時間対策指針」(2019年)に基づき、年間総実労働時間1,800時間程度の実現を目指した、所定外労働時間等のさらなる短縮と労働者の健康を守る取り組みを行うことを明示。統一目標基準として、「労働者の健康を守る取り組み」と「総実労働時間の短縮に向けた取り組み」を設定した。ちなみに、2023年度の電機連合直加盟組合(一括加盟構成組合を含む)における年間総実労働時間の平均は1,968.6時間となっている。
「労働者の健康を守る取り組み」では、 ① 36協定特別条項限度時間の引き下げ ② 勤務間における休息時間の確保 ③ 産業医等による面接指導の徹底 ④ 労働時間管理の徹底――の4点に取り組む。「総実労働時間の短縮に向けた取り組み」では ① 所定労働時間の適正化 ② 年休取得の促進――の2点に取り組むこととしている。
障がい児等を家族に持つなど個別事情を踏まえた対応の拡大を
労働協約関連項目の取り組みでは、今次春闘が2年ごとに改定に向けて労働協約改定交渉・協議を行う年にはあたらないものの、同日開催された記者会見において橋本修平・事務局長が、「電機連合が掲げる政策指標に記載の目標に達していない組合については達成するよう取り組んでいく」ことを説明している。
方針では、誰もが活躍できる職場環境の実現に向けて、主に ① リスキリングを含むキャリア形成支援の取り組み ② ジェンダー平等の実現 ③ 60歳以降の雇用安定・処遇改善に向けた取り組み ④ 障がい者の雇用促進と職場環境整備 ⑤ 仕事と育児・介護との両立支援と、障がい児等を家族に持つなど個別事情を踏まえた取り組み ⑥ ヘルスリテラシー向上の取り組み⑦定年後再雇用者、無期契約労働者、パートタイム・有期契約労働者の労働条件の改善と組織化の推進――の7点を提示。記者会見では「特に昨年の春闘から重点的に取り組む『障がい児等を家族に持つなど個別事情を踏まえた制度の柔軟な適用・運用などの配慮』について、大きな成果が上がってきたと思っているので、継続的に取り組みながら拡大を図っていきたい」とした。
なお、要求提出日ついては2月13日(木)までとし、回答指定日は連合・金属労協の方針をふまえて決定するとしている。