賃金体系維持分を含めて6%基準、格差是正に向けて額では1万7,000円要求をめざす/UAゼンセンの中央委員会
2025年1月22日 調査部
流通、サービス、繊維、化学、医薬など幅広い産業をカバーし、パートタイム労働者も多く組合員とするUAゼンセン(永島智子会長、193万6,000人)は16日、大阪府大阪市で中央委員会を開き、2025労働条件闘争方針を決定した。正社員組合員の賃上げ要求基準は、賃金体系が維持されている場合は「賃金体系維持分に加え4%基準」とし、賃金体系が維持されていない場合は「6%基準」と設定。また、中小組合の格差是正を効果的に進めるため、額での要求基準も示し、「格差是正分を含めて、賃金体系が維持されている組合は賃金体系維持分に加え、1万2,500円、賃金体系が維持されていない組合は1万7,000円に達するよう積極的に取り組む」ことも明記した。
規模間格差の歯止めなどを基本姿勢に掲げる
2025労働条件闘争方針は、① 実質賃金の上昇を定着させ日本経済を持続的な成長軌道に乗せる ② 中小組合の賃金水準を底上げし格差拡大に歯止めをかける取り組みを強化する ③ 短時間組合員の労働条件改善を加速させる ④ 働き方改革と人材投資に労使で取り組み生産性向上をはかる ⑤ すべての加盟組合の共闘への参加を促進し、闘争への個別的な支援を強化する――の5点を基本姿勢に掲げた。
特に中小組合の取り組みでは、「この2年間、(UAゼンセン全体としては)大幅な賃金引き上げを獲得することができたが、中小ではなかなか賃上げが難しいところも多かった」(西尾多聞書記長)こともあり、「中小企業の賃金水準を底上げし、この2年で拡大した格差に歯止めをかけることに最優先で取り組む」と強調している。
生活向上を実感できる実質賃金の上昇を目指す
労働条件闘争のうち、賃上げの取り組みなどの賃金闘争では、要求の考え方として、① 生活向上を実感できる実質賃金の上昇を定着させる ② 規模間格差是正へ向けた具体的取り組みを進める ③ すべての組合員が安心して暮らせるような短時間組合員の賃上げを目ざす ④ 全組合員への物価上昇分以上の配分を基本とする――の4点を提示。
実質賃金の上昇に向けては「実質賃金の引き上げがあってはじめて組合員の生活が向上する。物価上昇を上回り、生産性向上に見合った生活向上分を獲得し、実質賃金の上昇を定着させる賃上げの実現を目ざす」と明記。一方、規模間格差是正に向けては「支援を強化する加盟組合を定め、賃金水準確認、賃金体系維持原資の確認、交渉時期の前倒しへ向けて、調査をもとに個々の組合ごとの状況に応じた支援を進める」などとした。
短時間組合員の賃上げについては「2024年秋の最低賃金引き上げに伴う既存組合員の賃金引き上げ結果を『過年度引き上げ分』として明確にし、闘争方針に反映させる」と記した。
額としては、引き上げ分で1万2,500円、総額で1万7,000円
要求基準(平均賃金引き上げ)を正社員(フルタイム)組合員からみていくと、定期昇給制度が確立されているなど賃金体系が維持されている組合については「賃金体系維持分に加え4%基準」とし、賃金体系が維持されていない組合については「6%基準で賃金を引き上げる」と掲げた。さらに、「ただし、要求額としては、格差是正分を含めて、賃金体系が維持されている組合は賃金体系維持分に加え、1万2,500円、賃金体系が維持されていない組合は1万7,000円に達するよう積極的に取り組む」とも明記し、格差是正を目指す組合が要求額を設定しやすいように配慮する内容とした。
昨年の2024方針では、「賃金体系維持分に加え、4%基準で賃金を引き上げる。賃金体系が維持されていない組合は、賃金体系維持分を含め1万4,500円または6%基準で賃金を引き上げる」との内容だった。
また、UAゼンセンがミニマム水準(基本賃金)に設定する「高卒35歳・勤続17年:25万円」「大卒30歳・勤続8年:25万円」をすでに超えている組合の場合は、賃金体系が維持されている組合については「賃金体系維持分に加え4%基準」とし、賃金体系が維持されていない組合は「6%基準に賃金を引き上げる」ことを基本に、「部門ごとに実質賃金の向上と格差是正の必要性をふまえ、各部会・業種の置かれた環境に応じた要求基準を設定する」とした。
さらに到達水準(「高卒35歳・勤続17年:26万5,000円」「大卒30歳・勤続8年:27万円」)以上の組合の場合は、「部門の決定にもとづき、要求基準のうち、一定部分については総合的な労働条件の改善として要求できるものとする。具体的な対応については本部と部門で確認を行う」としている。
短時間組合員の要求基準は制度昇給に加え5%基準
短時間(パートタイム)組合員の要求基準については、「制度昇給分に加え、時間額を60円、5%基準で引き上げる」とし、制度昇給分が明確でない場合は「制度昇給分を含めて時間額を80円、7%基準で引き上げる」とした。2024方針で設定した「制度昇給分に加え、時間額を4%基準で引き上げる。制度昇給分が明確でない場合は、制度昇給分を含めた総率として時間額を6%基準、総額として70円を目安に引き上げる」を上回る要求水準となっている。
企業内最低賃金(18歳以上)の要求基準については、「地域別最低賃金の全国平均が早期に1,500円(月額24万7,500円)となることを意識して、月額19万5,000円、時間額1,180円をもとに、消費者物価の地域差を勘案して各都道府県別に算出した金額以上とする」とした。また、正社員組合員の初任賃金要求基準を、「高卒19万5,000円基準、大卒23万4,000円基準」と設定し、これを上回る場合は「平均賃金引き上げと均衡ある引き上げを行う」としている。
一時金は年間5カ月が基準
2025年期末一時金闘争の要求基準は、「年間5カ月を基準に各部門で決定する」とし、短時間組合員については「年間2カ月以上とし各部門で決定する」とした。
労働時間の短縮・改善では、「所定労働時間」の到達基準を「2,000時間、年間休日115日以上」、目標基準を「1,900時間未満、年間休日120日以上」と設定した。
総合的な労働条件の改善では、例年どおり、退職金、労災付加給付改定、定年制度改定(65歳への延長)、均等・均衡処遇の取り組み、職場のジェンダー平等、職場のハラスメント対策など、幅広い項目で要求事項を掲げている。
闘争の進め方では、加盟組合は原則として、妥結権などを中央闘争委員会(UAゼンセン会長が委員長)に集約する「統一賃上げ闘争」(統一闘争)に参加する。要求書の提出は原則2月20日(木)とした。
製造産業部門はUAゼンセン方針と同等の要求水準
UAゼンセンの労働条件闘争では、「製造産業部門」「流通部門」「総合サービス部門」の各部門でも、本部の全体方針をふまえて、闘争方針を策定する。
各部門の方針の内容をみていくと、化学、繊維、化繊、医薬などの業界の組合が集う「製造産業部門」では、賃金体系維持分が明確でベアなどの賃金引き上げ分だけを要求する組合の場合は「賃金引き上げ4%基準+格差是正 格差是正については金額を意識する」とし、賃金体系維持分が明確でない組合の場合は「6%基準(賃金体系維持相当分+4%基準)+格差是正 格差是正については金額を意識する」を要求基準とした。
さらに、賃金水準を把握していなかったり、ミニマム水準に達していない組合については、賃金引き上げ分だけを要求する組合の場合は「賃金引き上げ4%基準+格差是正1%程度 要求額としては1万2,500円をめざす」とし、賃金体系維持分が明確でない組合の場合は「6%基準(賃金体系維持相当分+4%基準)+格差是正1%程度 要求額としては1万7,000円をめざす」とした。
所属組合の状況をみると、製造産業部門では企業業績のばらつきが大きく、化学・スポーツなどは比較的好調の一方、繊維関連などは厳しい状況が続いているという。価格転嫁については、特に労務費が他要素に比べて転嫁が進んでいない状況にあるとしている。
流通部門では制度がないパートの場合、7.0%(80円)以上が基準
スーパーマーケットや百貨店、ドラッグストアなどの組合が集う「流通部門」では、賃金体系維持分が明確な組合については賃金体系維持に加え5%以上、明確でないところについては総額7%以上という全体方針の下、ミニマム水準に達していない組合の要求基準は「賃金体系維持分とベースアップ含む賃金引き上げ1人平均1万7,000円以上」とした。同部門では、人手不足への対応や産業間格差の是正などを主な課題として捉えている。
短時間組合員については、「正社員組合員の要求水準同等もしくは、それ以上を要求する」ことを前提に、正社員と職務の内容が異なる・職務の内容が同じ組合員では、昇給制度がある場合は「制度に基づく昇給・昇格分に加え5.0%(60円)以上の賃金引き上げ」、昇給制度がない場合は「7.0%(総額80円)以上の賃金引き上げ」を要求基準とした。さらに、雇用区分格差是正が必要な場合は、さらに上積みを図るとしている。
正社員と同視すべき短時間組合員については「正社員の賃金水準と均等になるよう、賃金引き上げを要求する」とした。同部門では、短時間組合員については10年連続で正社員組合員を上回る賃上げ率を獲得している。
賃金以外では、特に年間休日増を中心とした総実労働時間の短縮などに力を入れる。
総合サービス部門はUAゼンセン方針よりも1%上乗せした方針に
食品製造、飲食サービス、レジャー、医療・介護などの組合が集う「総合サービス部門」では、正社員組合員については、「賃金体系維持分に加え5.0%基準で賃金を引き上げることを基本」に、「昨年の要求を上回るよう積極的に上積み要求に取り組む」とした。同部門では、「中小組合を中心にこの2年間、思うような賃上げができなかったことから、それを取り返すためにUAゼンセン方針の要求基準からさらに1%高い要求とした」と説明している。
賃金水準がミニマム水準に達しない組合や、水準が不明の組合は「4,500円(賃金体系維持相当分)に加え賃金引き上げ5.0%基準、または1人平均7.0%基準を要求する。ただし、金額については1人平均1万7,000円以上を要求することとし、格差是正に向けて、積極的な上積み要求に取り組む」とした。
短時間組合員の要求基準については、「制度昇給分に加え、時間額を60円、5%基準で引き上げる」など、UAゼンセン方針と同水準としている。
総合労働条件闘争では「労働時間の短縮・改善」などを要求の「必須項目」に掲げており、総実労働時間についてはすべての部会で、2025年をめどに実現する時間数の目標を設定した。目標とする時間数は、フード部会やフードサービス部会などは2,000時間、生活サービス部会は1,900時間などとなっている。