定昇相当分含め6%以上の賃上げに取り組む/JEC連合闘争方針

2025年1月17日 調査部

化学・エネルギー関連産業の労組でつくるJEC連合(堀谷俊志会長、12万5,000人)は9日、都内で中央委員会を開き、2025春季生活闘争方針を決めた。闘争方針は、25春闘も引き続き賃上げに取り組む必要性を明記したうえで、定期昇給相当分(JEC連合では約2%)の確保を大前提に、平均所定内賃金4%以上のベア要求を提示した。堀谷会長は、中小の賃金引き上げに向けて「大手労組や業績の良いところが率先して世間相場を引き上げ、中小労組も積極的な賃上げに取り組む環境を構築する」ことや「大手労組が要求書や交渉の場で経営側に適正価格の取引の要請を行い、中小労組も働く仲間の賃金を上げていくことを訴えていく」取り組みの必要性を強調した。

中小組合の格差是正に向けた取り組みを推進

方針は、2025春季生活闘争の考え方を、「動き始めた賃金、経済、物価を安定した巡航軌道に乗せる年とすべく、引き続き賃上げに全力で取り組む」と指摘したうえで、「物価上昇分はもちろんのこと、生活向上分も踏まえ、『底上げ』に重点をおいた交渉を行う」考えを示した。24春闘で、獲得した賃上げ額に大手と中小の間で差が生じたことから「JEC連合全体として、加盟する中小組合の格差是正に向けた取り組みを行う」姿勢を強調している。

具体的な賃上げ要求について方針は、「社会全体の賃金の底上げを行う観点から、定期昇給相当分(JEC連合では約2%)の確保を大前提とし、平均所定内賃金の4%以上のベースアップ要求とする」ことを掲げた。賃金全体では「6%以上」の要求になる。ベア要求を4%以上とした根拠は、① 名目賃金は伸びたものの、物価高によって実質賃金は低下 ② 賃金における国際的ポジション回復が必要 ③ 経済の好循環には物価上昇分を上回るベアが必要 ④ 労働市場における募集賃金は上昇が続く ⑤ 中小の引き上げ――を示している。

堀谷会長は冒頭のあいさつでこれらの根拠に触れたうえで、特に中小の引き上げの重要性について、「JEC連合の75%は300人未満。中小労組の引き上げのために、大手労組や業績の良いところが率先して世間相場の引き上げをする。中小労組も積極的な賃上げに取り組む環境を構築し、全体の底上げに取り組んでいく」などと述べた。

定昇制度のない組合は1万8,500円以上を要求

また、方針は「底上げ」の取り組みとして、JEC連合の水準に照らして「ミニマム水準(第1四分位)」に達していない組合が、「賃金カーブ維持相当分を確保した上で、その水準の到達に必要な額を加えた総額で賃金引き上げを求める」ことも明記した。これは賃金全体で「6%+格差是正分」の要求。なお、賃金実態がわからない組合は、「格差是正分として1%を上乗せ」して要求する。こちらは、賃金全体では「7%」の要求になる。

定期昇給制度を持たない加盟組合は、「平均定期昇給額の5,500円を定期昇給相当分、賃上げ要求額は平均所定内賃金の4%分にあたる1万3,000円の合計1万8,500円以上を要求し取り組む」としている。

初任給や企業内最賃も目指すべき水準を提示

「底上げ」の取り組みでは、関連・グループ会社も含めた初任給の点検も実施する。各社の初任給が、① 高校(18歳):18万5,000円 ② 大学(22歳):22万円 ③ 修士(24歳):24万5,000円――の水準を下回る場合は、その到達を目指し、要求として取り組む。

「底支え」についても、「企業内のすべての労働者を対象とした企業内最低賃金協定の締結を行う」こととし、締結水準は生活を賄う観点と初職に就く際の観点を重視し、「時給1,250円以上」を目指す。なお、時給1,250円以上が難しい場合は、「最低でも2024年連合都道府県別リビングウェイジの最低賃金を下回らないように努める」ことも明記している。

基本給の年齢別要求水準クリアで格差縮小をはかる

方針は、「格差是正」の取り組みとして、加盟組合が関連・グループ会社も含めた企業の賃金を点検することも求めている。具体的には、25~55歳までの5歳刻みでの基本賃金の「年齢別要求水準」を提示。実態調査のモデル賃金における基本賃金水準を、ミニマム水準(第1四分位)→到達水準(中位数)→目標水準(第3四分位)のステップでクリアしていくことで格差を縮めていく考えだ。

なお、方針はいわゆる「ジョブ型雇用(職務主義型)制度」を導入している加盟組合の対応についても触れ、「賃金カーブがない等の制度の性質を十分に理解したうえで、生計費としての必要水準を意識した職務給設定や職務につけるための教育を労使で検討する」としている。

「取引の適正化」を進めて企業規模間の格差是正を

中小企業の格差是正では、「取引の適正化」の取り組みに力点を置く構え。大手を中心とする加盟組合が関連子会社や業務委託等で関係する企業の労働組合などと連携し、サプライチェーン全体で生み出した付加価値の適正配分に向け、2025春季生活闘争で、① 労使において「パートナーシップ構築宣言」の意義の共有化および取り組み推進 ② 「パートナーシップ構築宣言」の定期的な見直し ③ 社内担当者・取引先への浸透の確認 ④ 「価格交渉促進月間(例年9月・3月)」における価格協議の実施の確認 ⑤ 下請事業者からの価格交渉の申出があった場合は、真摯に協議に応じるように会社に申し入れる ⑥ 下請事業者における賃金の引上げが可能となるよう、取引価格の十分な協議の場を設定するように会社に申し入れる――取り組みを要求に掲げている。

「大手労組は、要求書や交渉の場で経営側に適正価格の取引の要請を」(堀谷会長)

中小労組への支援について堀谷会長は、「ベースアップをするにも格差是正に取り組むにも、企業にとってはその原資が必要になる。われわれは常に生産性向上に取り組むが、中小企業は日々の生産性向上の取り組みだけで十分な原資を確保することは、もしかするとできないかもしれない」などと指摘したうえで、賃上げ原資の確保について「春闘の短い期間で何ができるかといえば、やはり労務費を含めた適正価格の取り引きに取り組んでいくことだ」と強調。「大手労組は、要求書や交渉の場で経営側にしっかり要請してほしい。そして中小労組も、働く仲間の賃金を上げていくことが消費につながり、結果として企業の成長につながり、それが経済の好循環になることを経営者にしっかり訴えてほしい」と呼び掛けた。

組合員ニーズや環境の変化に応じた賃金制度の見直しも

男女間の格差是正に関しても、「男女の賃金の差異」の把握の重要性や男女別賃金調査結果を踏まえ、① 基本給ベースでの各人賃金 ② 手当付与状況 ③ 産休・育休の取得状況及び取得後の賃金――に注意しながら、「男女別賃金実態の把握と分析を行うとともに、不合理な格差がある場合は、改善・格差是正に向けた取り組みを進める」。なお、企業の賃金制度によっては、一時金や時間外労働等の割増率の算定などに属人手当が含まれるケースがあり、男女の賃金差を拡げる一因になっていることが考えられる。方針は、こうした点も指摘して、「組合員ニーズの変化や企業を取り巻く環境の変化に応じた制度の見直しの必要性も考査する」ことを促している。

一時金は年間4カ月をミニマム基準に

一時金は、「生活に必要な年収確保の観点」から、ミニマム基準を年間4カ月に設定。業績連動型一時金制度が導入されている組合は、算定式の下限月数を4カ月以上へ引き上げることを目指す。また、「企業業績や付加価値が適正に分配されている制度設計になっているか点検・検証し必要に応じて改善を求める」としている。

全組合員が年間総実労働時間を2000時間未満に

一方、25春闘では、仕事と生活の調和の実現に向けて「年間所定内労働時間・年間総実労働時間1800時間」を目指す取り組みも継続する。1800時間の実現に向けて「各事業所の労使で十分な話し合いのできる場を設置」。そのうえで、現時点では「1800時間の水準と乖離する単組が多い」ことから、「まずは段階的に労働時間の短縮を目指し、全組合員が2025年度年間総実労働時間を2000時間未満となるように労使で取り組む」ことを掲げている。

年次有給休暇は初年度付与日数が15日以上となるよう取り組むとともに、「完全取得を目指し、1人当たりの取得日数が10日未満とならないよう」にする。あわせて、取得日数5日未満の従業員がいないことも確認する。

時間外労働割増率の引き上げでは、企業規模にかかわらず、全ての加盟組合で、① 1カ月45時間未満の時間外労働割増率35% ② 特別条項付き協定の締結を前提に45時間超の時間外労働割増率50% ③ 深夜および休日労働の割増率50%――などの実現に努める。

労使でテレワーク制度の導入・再点検の協議を

25春闘では、テレワークの導入と制度の再点検も行う方針。その際には、① 実施の目的・手続き、対象者、労働諸条件の変更等、労使協議を行い、労使協定を締結したうえで就業規則に規定する ② 情報セキュリティ対策や費用負担のルールなどについても明確に規定する ③ 作業環境管理や健康管理を適切に行うための方策を労使で検討する ④ メンタルヘルスを含めた健康管理について労使で協議する――などの視点を示した。

このほか、長時間労働の是正に関しては、長時間の時間外労働が常態化しないよう求めるとともに、36協定の運用徹底も要求。11時間の勤務間インターバルの導入や、「つながらない権利」を意識した就業時間外の連絡ルールの整備などにも取り組むとしている。

65歳定年延長基軸の取り組みを継続

60歳以降の雇用に向けた取り組みにも言及。65歳定年延長を取り組みの基軸とした「60歳以降の雇用に関する基本方針」(2022年1月の中央委員会で確認)に則った対応を図る。具体的には、60~65歳までの雇用確保について、「希望者全員が65歳まで安心して働き続けることができるよう取り組む」としたうえで、「賃金、一時金、福利厚生等の労働条件が60歳以前よりも大幅に落ち込む状況、また雇用と年金の接続を確実に行う観点から、65歳定年延長に取り組む」方向性を提示。多くの企業で導入されている再雇用制度についても、「実質的に定年延長と同様の効果が得られるような制度の検討を行い、将来的な65歳定年延長に向けた検討を行う」としている。

さらに、65歳以降の雇用(就労)確保に関しても、改正高年齢者雇用安定法を踏まえ、原則、「希望者全員が『雇用されて就労』できるように取り組む」とした。ただし、労働者の体力や健康状態などの課題も出てくることから、「個々の労働者の意思が反映されるよう、働き方の選択肢を整備する」ことも付け加えている。

このほか、方針はジェンダー平等・多様性の推進に向けた取り組みや、労災付加給付の要求水準なども示している。

共闘強化で組合員の期待に応える最大限の結果を

闘争の進め方については、連合の共闘連絡会議に参加・連携するとともに、JEC連合として業種別部会間の情報共有のための「共闘会議」も開催する。

要求書は原則、2月28日までに提出。連合方針に基づき、3月10日~14日を「先行組合回答ゾーン」とし、3月11日~13日を「回答ゾーンの山場」とする。そのうえで、交渉が難航する場合でも、4月内での決着を目指す。

堀谷会長はあいさつのなかで、共闘の強化についても説明。「春闘は皆が一斉に取り組む相乗効果で世間相場を引き上げ、組合員の期待に対する最大限の結果を出すために行っているもの。『要求を2月中に出す』『回答ゾーンを同じ時期にする』ことも世間相場を引き上げていくための戦術で、皆が一斉に同時期にベースアップ4%の要求をすれば、それだけでも相場観は引き上がる。会社は、できるものなら賃上げをしたくないが、周りで賃金が上がりそうな雰囲気をつくっていけば、人材確保の意味でも上げざるをえなくなる」などと述べた。そのうえで、「組合員にとって最大限のメリットを考えることが、組合役員のミッションだ」として、共闘が中小支援にもつながる考えを強調した。